モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第13話

 

 一二月二八日、ガーネットA星系宙域。

 虚空に年老いた赤色巨星がぽつんと輝いている。何の変哲も無くわざわざ訪れる者のない孤独な宙域に、いきなり数十のタッチダウン反応が現れる。

 故郷の命運とリベンジを賭けた、植民星連合の海賊たちだ。迎えるは、宗主星特命プロジェクト防衛艦隊とステラスレイヤー要塞。

 船数でいえばほぼ互角。しかし戦闘力は、宗主星側が経験豊富な重武装の戦闘艦であるのに対し、海賊側は旧式の戦艦から改造作業船まで種々雑多な寄せ集め部隊。しかも艦隊戦は今回がまだ二回目という、まるで比較にならない戦力比。

 

 「やつらは遮二無二ステラスレイヤーに突っ込んでくるしか手が無い。第一線は敵を攪乱分断させ、周囲に展開している第二線で各個包囲し撃破。そのあと残存船には構わずステラスレイヤーに戦力を集中し、あえて特攻を仕掛けて来る部隊を要塞と共に叩く!」

 ステラスレイヤー防衛艦隊司令は、次々とタッチダウンしてくる海賊どもを見ながら、余裕で各艦に下命する。

 僅か四日前にあれだけこてんぱんに叩かれたにも関わらず、応急処置で再び向かって来ようとしている。まあ彼ら側にしてみれば、後が無いのだ。こんなオーバーキルな兵器を使わなくとも戦争は間違いなく勝利する。だが、主人に逆らった代償として彼らの故郷は我々が次に飛躍するための生贄となってもらおう。

 死兵。という言葉が司令官の頭をよぎったが、すぐに否定した。所詮寄せ集めの素人艦隊。何ほどの事が出来よう。ましてや奴らは海賊。勝てない戦をしない奴は最期の切所で腰が引けるものだ。玄人の格というものを思い知らせてやるだけだ。

 加えてこの宙域。寿命が近い主星は重元素の核融合が燃え尽きようとしており、重力が弱まってブヨブヨに膨らんでいる。重力と熱エネルギーのせめぎ合いが星を不安定にし、宙域は放出される太陽風と波打つ重力場で荒れている。船を通常航行させるだけなら問題ないが、精密な射撃管制と連携が取れた操舵が必要とされる艦隊戦には難所だ。

 しかし。

 

 

 「うわ、見事に荒れてるわね」

 タッチダウンと同時に鳴り出した各種警報にスズカは言った。この荒れた海と相手の連携に、前は散々翻弄されたのだ。

 「弁天丸から連絡」

 通信担当のロック爺が、いつもと同じ落ち着いた声で報告する。

 「各艦タッチダウンと共に予定宙域に展開完了。敵船団は三段階で主星黄道面に配置されている」

 「デコイは?」

 「タッチダウン位置に停止。各艦はステルスモード実施中」

 レーダー担当が答える。

 「予定通りね」

 意識不明の重傷を負った父親に代わって三日前に白鳥号の跡目を継いだばかりのキャプテン・スズカは、船長席のメインディスプレイに目を落とした。

 もう何度見直したか判らない高輝度ディスプレイには、ガーネットA周辺に展開する敵味方すべての艦艇の現在位置と航跡、そしてこれからの進路が映し出されている。

 

 「全船に暗号通信開いて。」

 ロック爺が回線を開く。

 「こちらシラトリ・スズカです。海賊会議時の打ち合わせ通りでお願いします。

 コーバック級護衛艦に対しては、軽巡洋艦クラスで対処。二隻一組のツーマンセルで。

 ビラコーチャとシャングリラ、サザンアイランドとダークスター。ロウ・オブ・ウォーとラブマシーン」

 おう、と返事が返る。

 「アグリーガート級打撃巡洋艦には重巡クラスのグラマラス・リディス、デスシャドウ、ビッグチャッチ、シルバーフォックス、エル・サント、シンドバット。これもツーマンセルで。」

 任せときな、の声。

 「グレンスミス級高速戦艦とタルボット級戦艦には、足回りの早い弁天丸、バルバルーサ。村上丸、白銀号、バックスラッシュ、迦陵頻伽。これはスリーマンセルで当たる。

 マラコット級戦艦にはこちらの戦艦クラスに火力の高い重巡クラスを加えたコンボイで当たりましょう。」

 よろんで、の言葉。

 「単艦では臨まず二隻ないし三隻一組となってこれに当たる。まず前衛の護衛艦を中心

 に叩き、敵艦隊の陣形を崩す。こちらの陣形は変則的な輪形陣。敵の機先を挫いたところでステラ・スレイヤーのコントロール要塞を一気に目指す。輪形陣の中心には黒鳥号と白鳥号が。――それと、本当に申し訳ないのですが・・・」

 スズカが言葉を濁すのを、黒鳥号から通信が入る。

 「おう、指を咥えて見てるしかないと思っていた黒鳥号に、一番の見せ場を用意してくれたんだ。見事、体当たりをかましてやるよ」

 黒鳥号は中破で装甲と機関は何とか間に合ったのだが、主砲と射撃管制系にダメージがひどく撃ち合いが出来なかった。海賊船の火力では要塞の厚い防壁を破れない。破壊にはただ一度の確実な攻撃しかない。そこで、海賊船の中で一番装甲の厚い黒鳥号を砲弾代わりに要塞に体当たりさせ、転換炉を暴走させてステラ・スレイヤーを道連れにする事にしたのだ。その間、要塞の集中砲火を浴びるため白鳥号は黒鳥号の後衛に付き電子妨害を行う。

 「黒鳥号のクルーは最終突撃前にバルバルーサに移乗して下さい。バルバルーサ、タイミングをお願いします。」

 作戦の最終確認を行うスズカ。

 「あ、それともう一つ最終確認」

 「一番若くて船長なりたての私が、艦隊指揮取っちゃって本当にいいんですか?」

 海賊会議の時、旗艦に白鳥号が選ばれ、その船長であるシラトリ・スズカが艦隊指揮を執ることになったのだ。

 「この作戦は電子戦がキモになる。白鳥号以外に旗艦はありえねえ」

 と、ビラコーチャから。

 「スズカちゃん、宜しくサポートお願いするぜ」

 弁天丸のちるそにあん文左衛門が、髭面でウインクする。

 「だから、ちゃん、じゃないって!」

 ビッグキャッチ、バルバルーサからも返事が来る。

 「デコイにフネの情報を全て渡したんだ。俺達の生殺与奪はアンタに預けたんだよ」

 「歳なんざ関係ねえ。経験の有る無しも問題ない。艦隊戦はみんなまだ二度目なんだからよ。それよりも、負けることしか考えられなかった俺らと違い、アンタは勝つことだけを思っていた。まったく大した海賊だ」

 

 スズカはみんなからの言葉に、ゆっくり目を閉じ覚悟した。

 ――今動き出せば、確実に先手を取れる――

 ――時間は、私たちの味方――

 ――決断は、自分が選んだベスト!――

 

 「では、そろそろ始めましょう」

 静かに言葉を継ぎ、号令する。

 「野郎ども、海賊の時間だ!!」

 

 『おおう!!!!』と、鬨の声が宙域に響き渡る。

 

 

「統合参謀司令部に打電。――『天気晴朗なれど、波高し!』――」

 宗主星特命プロジェクト防衛艦隊と海賊船白鳥号から、ほぼ同時に、同じ文面がそれぞれの統合参謀司令部へ送られた。これを、宗主星側は「我が方圧倒的優位」、植民星側は「極めて不利」、として受け取ったという。

 

 

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