モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第14話

 『戦争がプロデュースされている可能性がある。』

 ユニバー星系の宇宙大学に到着したところで、ジェニーはポルト・セルーナで第七艦隊との接触を終えたオデットⅡ世からの通信を受けた。

 

 いまアテナ・サキュラーの居間にいる。書架に入りきらず、そこかしこにうず高く積まれた書籍やレポートの山。木調を主としたアテナの机。この時代でも恐らく年代物の調度品。シックにまとめられた室内は、雑然としながらも気品を感じさせる。

 先日訪れた、地獄の一丁目と呼ばれる勤務期間の長い教授陣らが住む区画とは異なるが、この時代の担当教官も、ユニバー星系第四惑星タニアの情報都市アカシアに居を構えている。違う家なのに、同じ雰囲気に懐かしさを覚えるジェニー・ドリトル。

 「あら、前にも一度いらして?」

 そんな様子に気付いたアテナが声を掛けた。

 「いえ、初めてです。――先程、オデットⅡ世から連絡が入りました」

 

 ジェニーから通信文を受け取ると、それに目を通した。

 「戦争をプロデュース。成程ね。それなら辻褄が合うわ。超新星化プラントを見てて疑問だったのよ。赤色巨星の超新星化はそれ程難しい技術じゃない。重力子弾か縮退炉でも放り込めば事足りる。でもあのプラントは、ただ超新星を起こすのでなく恒星のエネルギーを制御する物のようなの」

 「元々は、恒星から抽出したエネルギーを離れた場所に亜空間転送する計画だったようです。でも上手くいかず、それを恒星を暴走させる兵器に転用したもののようです」

 ジェニーが捕捉する。

 「上手くいかなかった、そうね基礎技術をすっ飛ばしてるのだもの。成功する訳ないわ。失礼だけど、あなた方の文明は恒星制御できるまでの技術水準には達していない。制御には恒星のエネルギーに耐えうる単結晶のジェネレーターが必要なのだけれど、まだ理論段階のレベル。単結晶物質なんてものは作り出せない。でも現実に単結晶はあり、プラントが組み立てられている。誰かが手配したんでしょうね。恒星制御に使える大きさの単結晶物質を作り出せるのは、銀河帝国でも限られるわ」

 文面に目を落としつつ、遠くを見る眼差しで長命種は続けた。

 「武器商人は、最初ゲリラに安価で銃火器を渡し火種を作る。当然政府は取り締まるために武器を買う。双方に商売して火種を育てれば紛争地域の出来上がり。どちらが勝利したって武器商人は構わない。興味は紛争地域がより大きくなる事に移っており、急激に軍事力を増した国に周辺は脅威を覚え、あとは不信と野心を吹き込むだけ。武器商人が企業の場合もあるし軍産複合体の国家であることもある。どの文明圏でも経験して来たことだわ。実際火の粉が武器商人自身に降りかかるほど紛争が大きくなっても、それでも負の連鎖は止められずに滅んでいった文明も沢山ある。」

 「だから、武器の取引は帝国内では厳しく制限されている。もちろん政治家が関係することは御法度。帝国自身の保身もあるけど、帝国版図とその周辺すべての文明圏に対する責任が銀河帝国にはあるのよ」

 武器商人。という言葉にジェニーは忸怩たる思いを感じた。自分の実家であるヒュー・アンド・ドリトル星間運輸会社は、宗主星に本社を置くドリトル運輸と帝国内で商社を営んでいたヒュー物産が独立戦争後に合併し、武器取引で急成長して来た会社なのだ。現に社長であるジェニーの叔父も闇取引の前科がある。

 「でも武器商人が悪という訳じゃないわ。法律を順守してるなら立派な経済活動よ。それに武器の発達が技術の発展と不可分なのは事実なのだし、結局は武器を持った当事者の責任。そりゃ大きな力は魅力だろうけど、使うかどうかは選択だわ。それよりも、どうして紛争が起こったのか。その原因を当事者が見つめないと解決には至らない」

 「あなた方の独立戦争も、はじめこうやって焚き付けられたんでしょうね。それにあなた方は乗ってしまった。始めたのがあなた方の文明圏の武器商人か帝国の闇商人かは判らないけど、――おそらくその両方だとは思うけど、それを利用してもっと大きな紛争を仕掛けようとした者がいる。一介の闇商人では開発は無理。大きな軍産企業体か帝国以外の勢力が必要だけど、作ろうとすれば忽ち帝国政府に知られてしまう。知られても揉み消せるだけの権力を持った者がいる」

 「それが戦争をプロデュースしている黒幕」

 「そういう事。国家反逆罪ものね。――でも反逆と言えば、同盟が上手くいかなかったからって、いきなり銀河帝国に宣戦布告って何? あなたたち何考えてるの」

 

 銀九龍ら帝国士官の三人を交えたやり取りの最後に、「行きがかり上、銀河帝国に宣戦布告することになりました。」と短く付け加えられた一文を見て、アテナは呆れた。

 「ははは、何やってるんでしょうね。手っ取り早く帝国軍を引っ張り出すためなんでしょうけど」

 内心、大丈夫なのぉ、と思いつつ愛想笑いをするジェニーだった。

 「とりあえず、黒幕を炙り出すんでしょ。核恒星系に行きましょう」

 「核恒星系ですか?」

 「帝国艦隊や情報部に気とられず、武器取引が自由に出来、辺境勢力や密輸業者を動かせるなんて、中央によほど太いパイプを持っている人物よ。しかし自分は絶対に表には出ない。そんな人間が潜む穴倉には格好の場所で、帝国じゅうのあらゆる情報が集まり、しかも秘密裏に交渉が進められるのは、此処しかないわ」

 そう言って、ディスプレイに表示された星図の一点を指差す。

 「主星系連合の第一星系。銀河元老院、惑星セナート」

 

 

 見覚えのある、スポーツタイプのコミューターに乗り込むと、二人を乗せた低い車体は、前の時と同じく滑らかに走り出し急上昇する。あっという間に惑星タニアは点となり、惑星軌道上を離れ恒星間空間に出る。

 「凄いですね、やっぱり超光速跳躍出来るんですか」

 「凄いでしょ、最新式なのよ。まだ帝国内でも数十台しかないわ。やっぱりって事は、前にも乗ったことがあるの?」

 以前、アテナに乗せてもらったことがあるとは言えず、適当に誤魔化しながら、ジェニーはアテナに質問した。

 「なぜ、あなたは、私たちのためにここまでしてくれるのですか」

 「貴方たちのためじゃないわ。私たちのためよ。あなた言ったじゃない、事態の当事者としてどうするのかって。今回の事は自分達とは関係のない、未接触の文明圏でのことと思っていた。でも帝国は接触していて、戦争を引き起こした中心にいる。しかも事態は帝国の趨勢に係わるほど変化している。帝国貴族として、これはもう立派な当事者の懸案なのよ」

 「帝国の趨勢って」

 「もう外交レベルの問題になってるって事。銀河帝国と姉妹関係にあるセレニティー連合王国から、非公式に照会があったのよ」

 コンソールを操作して、気品のあるセレニティーの紋章が入った文書を映し出す。

 「当然、機密だから中身を確認することは出来ないけれども、おおよその見当はつくわ」

 あの聡明そうなプリンセスがセレニティー王宮にいる長命種に連絡したとすれば、当然こうなるだろう。恐らく、ステラ・スレイヤーの持ち主側にも揺さぶりをかけているに違いない。

 「ステラ・スレイヤーが使用された後も同じ展開だと思うけれど、あんな殲滅兵器の存在は周辺の星系にとっては脅威で大問題。使われたあと適当なところで銀河帝国の人間が関与していたことを匂わせれば、銀河帝国じゅうに不信と反目が広がり大混乱。より大きな戦争をプロデュース出来る。重要なのはそれが発動される前だったって事。あなたたちの歴史通りなら殲滅兵器は破壊されて使用不能。状況証拠となる下っ端の闇商人はあなた方に任せるとして、使われる前に露見したことは、戦争をプロデュースした側にとって計算外のはず。きっと足を出す」

 アテナはドライビング・スティックをぐっと握ると、一気に強加速を掛ける。

 「さあ跳ぶわよ!」

 フロントの前方に蒼い光の条が走り、コミューターは亜空間の中へと超光速跳躍した。

 

 

 

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