モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第16話

 

 温大夫は焦っていた。

 最近勢力を伸ばしてきた辺境海賊ギルドというシンジケートに単結晶を注文したが、届いたのは役に立たない対物質の単結晶。

 「支払われたのが前金半分だから後金が無いとブツは渡せないよ」と来たもんだ。ふつう支払いは現物が届いた後だろうと粘ったが、それはおたくと注文主との交渉だと見透かすような顔で取り合わない。こちらの弱みを突いているのだ。

 注文主は銀河帝国外の文明。まだ帝国と外交が無いから銀河クレジットは使えない。支払いも対価為替となる。まあ見合うエネルギーや鉱物資源という物々交換だ。しかも闇ルートやダミー口座を介してとなるので面倒も多い。当然手間と時間がかかる。相手も海賊。こちらが後ろめたい商売だと知っているから簡単に横紙破りを仕掛けて来る。

 「契約が全うできない会社なんて、この業界、この先誰も相手してくれなくなるねえ」の言葉に、渋々後金肩代わりで品物を受け取り、相手側に納入した。無理をしてでもこの取引を受けたのは、契約金もだが、裏のシンジケートに繋がりが持てるようになることが魅力だった。零細のヤークブ商会が大きく飛躍できるチャンスになると思ったからだ。――それが半年前。

 ところが、三ヶ月経っても一向に支払いがされない。ダミーや闇会社を通してだから遅くなるのは織り込み済みだが、いくらなんでも遅すぎる。三ヶ月というのはショートタイマー(短命種)にとって年と同じ時間経過だ。料金未払いなら品物を返してもらうだけ。泣き寝入りはダークな業界では生き残れない。未開な僻地文明に舐められてたまるかってんだ。

 

 単結晶の行方を色々探ってみて(それだけで結構経費が嵩んだ)、どうやらオリオン腕のあんたれす座ガーネットA星系にあるらしいという所まで突き止めたのがつい最近。

 で、強制取り立てにやってきたわけだが、どうも余計な動きのために帝国軍に感付かれたらしい。自分の後々を第58突撃起動艦隊が嗅ぎまわっている。恨みを買うような覚えはないのだが、銀九龍の野郎は海賊ギルドを追うのに自分に目を付けたようだ。長命種どうしの争いに短命種を巻き込むなってんだ。

 メトセラは感覚時間が長い分とんでもなく時間をかけて事に当たって来る。ショートタイマーにとって実にやりにくい相手だが、フットワークの軽さはこちらに分がある。これまでもそれで擦り抜けて来た。今度もさっさと済ませて、相手が乗り込んでくる前に遁走するに限る。だが、今回は何だか真綿で首を絞められているような感じがある。じわじわと包囲の手が伸びて取り込もうとしているような。

 「くわばら、くわばら」

 温大夫は、思わず首を竦めてガーネットA星宙域に超光速跳躍した。

 

 

 年老いた赤色巨星が、ぽつんと虚空に輝いている。他に目ぼしい星々もない孤独な恒星。

 その軌道上に、破壊の後も生々しいプラントの残塊が浮かんでいる。大穴があいた要塞。そこに突っ込み大破している戦闘艦。宙域に散らばる船の破片。

 

 「なんだあ、こりゃ――」

 問題の品はこの恒星のプラント部品として使われたことを突き止めたが、やって来てみれば無人の廃墟があるだけ。ステルスの必要もないようだ。

 激しい戦闘が行われたようだが、大破して動けなくなったのはその攻撃艦だけのようだった。そして炭素体生物反応もない所を見ると戦死者は回収された様子。まあ死者が出なかったことは無いだろう。残骸の熱反応やエネルギー放射による空間の歪から見ると、戦闘はつい最近行われたようだった。

 温大夫は空域を丹念にサーチしてみたが、目的の単結晶は見当たらない。それらしい影がレーダーに掛かり回収してみたが、形が似ているだけの船の衝角だった。単結晶は同時に出来た反物質と対消滅させない限り破壊できない物質だ。ここにそれが無いという事は、誰かが持ち去ったという事。

 温は取引の時に調べた相手文明の星間情報をライブラリーから呼び出す。

 「宗主星と植民地とが星間戦争中、植民星側は戦力に不利があるため私掠船を動員し、独立戦争を継続している――。ってオイここでも海賊かよ!」

 「宗主星はあんたれす座ガーネットAにおいて戦略プラントを建造。植民星側は海賊を使ってそのプラントを攻略中。なおプラントは何に使われるものかは不明――。まあこうして、破壊されたところを見ると、海賊の勝利だったわけだ」

 そこまで読んで、待てよと思い当った。

 「プラントの使用目的は不明って、単結晶はこのプラントで使われたんだろ。単結晶を恒星軌道上で使うとしたら、膨大なエネルギーを集約するジェネレーターの照準器ぐらいなもんだ。エネルギー束をどっかに送るためとかの。だがここの文明はそんな水準には達していない。だとしたら使う方法は、エネルギーの暴発――」

 

 超新星爆弾。

 

 「冗談じゃないぜ! そんな後先考えない殲滅兵器。そんな取り引きしたとあっちゃあ」

 温の脳裏に、辺境海賊ギルドの若い代表ミューラ・グラントの顔が浮かんだ。

 「あんの小娘、俺を帝国を引っ掻き回すためのだしにしやがった!」

 まだ二十歳にも達していない(ように見える)少女の目を思い出した。取引の時のすべてを見透かすようなあの眼。

 辺境海賊ギルドに単結晶を造り出す技術は無い。とすれば出所は帝国内。

 「まったく冗談じゃないぜ。帝国の闇の部分がそっくり襲い掛かって来るようなもんだ」

 下手をすれば、反逆罪。帝国内乱陰謀罪ものだ。何としても単結晶は取り戻さなければならない。そうすれば、手元にある反物質と対消滅させて無かったことに出来る。いやそれしか身を守る方策が見当たらなかった。

 単結晶は、恐らくこの施設を破壊した海賊たちの手元にある。殲滅兵器の事を知って攻撃したのだ。兵器の基となる単結晶を相手に渡すようなことはしない。

 星間情報の更新では、殲滅兵器の事は相変わらず載っていなかったが、プラントの破壊と、最終決戦のために宗主星側が圧倒的戦力で敵の本拠地に集約しつつありと出ていた。

 場所は、くじら座宮たう星系。植民星連合艦隊司令部のある海明星。

 温大夫は焦った。

 

 

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