モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第17話

 

 白鳥号からの、第二次ガーネットA会戦が海賊側の勝利に終わった報告を受けて、植民星連合艦隊総司令部は、久しぶりに聞く朗報に沸き返った。敵戦力の漸減を計りありったけの兵力で当たっているが各戦線はボロボロ。それでも相手はまだ本気を出していないのだ。

 しかも最終兵器の核となる部品は海賊が奪取したという。少なくとも植民星連合にとって、故郷を丸ごと焼かれる最悪の事態は避けられたわけだ。

 「総司令部から白鳥号へ、ご苦労様でした。海賊の愛国心に満ちた英雄的勝利を讃えます」

 植民星連合海賊課のクリスティー・シャーウッド中佐から、白鳥号に連絡が入る。

 「しかし、戦いはこれからです。宗主星はステラ・スレイヤーを失ったことで、一気に片を付ける決心をしたようです。現在敵兵力の六割と見積もられる一五〇〇隻が総司令部のある海明星に向かって進撃中。こちらは迎撃すべく全兵力をたう星系に集結しつつあります。海賊たちは速やかにたう星系に戻り、この最終決戦に参加されることを期待します。」

 一五〇〇隻と聞いて、スズカは彼我の戦力比に圧倒された。輸送艦を含めての隻数だが戦闘艦は八〇〇を下るまい。かわってこちらは総数で六〇〇隻。会戦までに全部間に合ったとしても七〇〇あるかどうか――。戦力比となると、考えたくもない差だ。

 「それと確認します。ステラ・スレイヤーの核心的部分である照準器は、確かにそちらにあるのですか」

 「はい。プラント要塞の反応炉暴走でもびくともせず破壊が不可能のため、現在白鳥号の衝角にあります」

 海賊の戦利品は、その旗艦が務めたものの栄誉。船首衝角を失った代わりに、高々と掲げている。

 「あれをバウスプリットって・・・、まあいいわ。白鳥号だけでも速やかに帰還してください。たとえ決戦が敗北に終わっても、他の植民星に本拠を移してゲリラ戦を挑む時、照準器はこちらの大きな手駒になる」

 「・・・あの部品が何なのか、判って言っているのですか・・・」

 スズカは静かに尋ねた。

 「ええ、単結晶物質。私たちの文明ではまだ未知の技術よ」

 「それで――」

 と言いかけ、スズカは口を閉じた。自分の故郷が同じ思考だと言葉にすることが憚られたのだ。スズカは質問を変えた。

 「聞きたいことがあります。今回のステラ・スレイヤーについて、他の勢力から照会はありませんでしたか」

 「他の勢力って」

 「私たちの文明とは異なる、まだ外交関係にもない星系などです」

 スズカの問いかけに少しばかりの沈黙があってから、クリスティー・シャーウッドは応えた。

 「ええ、あったわ。貴方たちが第一次会戦を行った後、セレニティー連合王国とかいう所から。宗主星にも届いたようだけど、私たちの文明圏とは銀河帝国領を挟んでのお隣さんってところかしら。独立政府だけど帝国の保護国のようだから、まあ銀河帝国ね。――脅威と懸念を伝えてきたわ」

 「私たちに使う気はないわ。でも抑止力にはなれる。だから無事に照準器を送り届ける事。それに私たちの未来が掛かっている」

 交信終わり。とクリスティー・シャーウッドの言葉と共に通信は切れた。

 通信を終えて、しばらくスズカは言葉が無かった。

かわりに涙が浮かんできた。

 悔しさと、怒りと、悲しみが、ないまぜになってスズカの心を責め立てた。自分たちは何のためにガーネットAで戦ったんだ? 父はそのために瀕死の重傷を負った。何のために? 故郷を守るため。そう確かに灼かれることからは守られた。でも他者が灼かれる恐怖を求めて戦ったんじゃない。こんなの絶対正しくない!

 キャプテン・スズカは臨時の海賊会議を要求、白鳥号で開催した。

 開催に当たる前、スズカは病床の父に思いのたけを打ち明けた。

 「お前が白鳥号の船長だ。お前が望む通りに進みなさい。それだけの力が、お前にはもうある」

 そう父親はスズカに助言した。

 

 

 一大決戦を前にしての急な呼び出しに、海賊たちは何事だろうと集まった。第二次ガーネットA会戦で見せたスズカの鮮やかな采配ぶりに、また形勢逆転の奇策でも思い付いたのかと期待した者も多かった。実際それほどスズカの采配は水際立っていたのだ。しかし、そこで告げられた言葉は、大方の予想を裏切るものだった。

 「白鳥号は、今後戦線から離脱します。」

 「おいおい、何を言い出すんだ。植民星連合の命運をかけた決戦を前に敵前逃亡か。勝てない戦はしないのが海賊だが、時と場合によるだろう。」

 当然、海賊たちから非難が上がる。盛り上がった士気を冷やして何になるというのだ。

 「その、時と場合によるから白鳥号は尻尾を巻いて逃げ出します」

 困惑する海賊たちの中で、ちるそにあん加藤芳郎は、顎髭を扱きながらニヤニヤしていた。

 「なんでだ。白鳥号の衝角にはアレがあるだろう。アレを使えば、植民星連合にも勝ち目がある。少なくとも脅しには使えるぜ」

 ちるそにあん加藤の言葉に、一同が気付く。そうだ。宗主星にステラ・スレイヤーを仕掛ければ一気に挽回――。

 「だからよ。戦況報告の時も海賊課の課長さんから同じことを言われたわ。最優先で総司令部まで送り届けろって。それに植民星連合の未来が掛かってるんだって」

 「でも、そんなものに賭ける私たちの未来って何? あれは私たちの星を灼こうとした殲滅兵器よ。抑止力になると言った海賊課の言葉で、植民星政府も宗主星側とさして変わらない考えだと解ったわ」

 「使う使わないは、当事者の意志だろう?」

 「だけど、加藤船長の言葉通り「脅し」にはなる。実際使用しなくても脅しに使えば、周囲にとっては使われたと同じことよ。私たちは海賊よ。そりゃあ商売のために危ない橋も渡れば汚い手を使う事もある。でも同じ土俵に立っての話。女子供の命を握って脅迫するような真似はしない」

 「で、キャプテン・スズカの考えはどうなんだ」

 「宗主星にも植民星連合にも、この船首衝角は渡さない。殲滅兵器を持つ能力も意味もない海賊が持ってるのが一番。力ずくで海賊の戦利品を奪おうとするなら戦うまでよ。たとえ宗主星でも植民星でも」

 「それで、俺達を巻き込まないように戦線離脱するって訳かい」

 燃えるような目でちるそにあん加藤芳郎が睨む。他の船長たちもスズカを睨んでいる。

 「随分水臭いじゃねえか。船首衝角は確かに白鳥号の戦利品だ。どう使おうとキャプテンの自由。その海賊の上前を撥ねようとするようなコソ泥野郎を、俺達が放って置くとでも思ってるのか」

 「宗主星一五〇〇植民星七〇〇、合わせて二二〇〇余と喧嘩かい。豪気だねえ」

 海賊たちが笑って言う。しかし目は本気だ。

 「絶対勝てない。助かる見込みがない。このまま最終決戦に臨んでも結果は同じ。だが海賊を忘れて死にたくはないぜ。せっかく捨てた命だ」

 「で、このまま遁走しても面白くない。数に押されていずれは潰される。ここはひとつ俺達が居たことを世間に知らしめておいた方が良くないか」

 おうおうと頷く声。

 海賊らしからぬ玉砕の方向に話が向いているのにスズカは戸惑った。銀河帝国の事を伝えると一同意外な勢力の登場に驚いた。

 しかし古参の船長が腕を組みながら、スズカの話に疑義を挟む。

 「銀河帝国がウチらの星間戦争を知ってる? で介入させようって訳か。だが本当に介入する意思があるのかねえ。あんな兵器の事を知ってて未だに影も見せない。なにか裏があるんじゃないかい。俺が銀河帝国なら、そんな武器を弄ぶ勢力なんて危なっかしくて見ていらんねえがな」

 「あの単結晶は恐らく銀河帝国内で造られたもんだ。――撒き餌じゃないか」

 「撒き餌?」

 スズカが聞き返す。

 「ああ、俺達の文明がどう出るかを見るためのな」

 それは海千山千な海賊の深読みだったが、事態の推移を見ているのは事実。――まだ数名の帝国人と当事者のみだが。帝国政府は、この星間戦争を領外の部族間どうしの争い以上に評価しておらず、フィールドワークの研究対象でしかない。ステラ・スレイヤーが使われたなら慌てて乗り出すだろう。文明丸ごとの消滅でもって。

 「スズカ船長の話では他所様から苦情が来たそうじゃないか」

 「堅気の衆に迷惑を掛けたとあっちゃあ、黙っていられねえなあ」

 「ああ、自分とこ(文明)の不始末は、自分自身でカタを着けないとな」

 「スズカちゃん、済まねえが俺達に付き合ってもらうぜ。まだステラ・スレイヤーは終わっちゃいない」

 スズカの単独離脱の件はとっくに何処かへ行ってしまって、海賊たちは勝手に話を進めている。先日の海賊会議とは大違いだ。

 「それともう一つ」

 まだあるの!とスズカは思った。

 「これが一番肝心だ。俺達が銀河帝国のお尋ね者?上等じゃねえか!こんなブツを送り付けてきやがった銀河帝国に、きっちりオトシマエを付けてやらないとな」

 一同そうだそうだの声と、一斉の拍手。

 「だからみんな、決して死ぬんじゃねえぞ。あと一番の大仕事が残ってるんだ!!」

 おおう、と鬨が上がる。

 そうなのだ。海賊なのだ。みんな海賊たちだったのだ。

そんな場を見つつ、ちるそにあん加藤は、あっけにとられるスズカに振り向くと、パチンとウインクした。

 「こんなんで、どうだい。スズカちゃん」

 「え・・あ・・、こほん。――ちゃん、じゃない!」

 

 

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