モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第18話

 「宗主星第一六、一七、一八遠征艦隊。海果星防衛ラインに入ります。」

 「総司令部防衛艦隊が迎撃態勢に入りましたが、数が足りません。戦力比1対2」

 戦闘指揮所のオペレーター席に就く遠藤ミキが、空域状況を読み上げる。

 「たう星系外縁天体軌道上α領域に第二三、二四遠征艦隊、β領域には二一、二二遠征艦隊。いずれも重巡五、巡洋艦五、駆逐艦二〇!」

 「補給線破壊艦隊をそっちに回して。整備が多少間に合っていなくても向かってもらうわ。大至急!」

 「オールト雲領域に敵主力多数出現!!戦艦群です!!」

 敵戦艦群の到来に、総司令官が檄を飛ばす。

 「命令変更、全艦第四惑星輝青星まで後退し内惑星軌道の機雷を起動。そこに最終防衛ラインを敷く!」

 連合艦隊司令部は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。敵の本格的な攻撃が始まったのだ。敵総進撃開始の報を受けて、オリオン腕全域に展開していた全戦力を招集したが、

 数が足りない。三日前から急に始まった敵の大規模な動きに、招集に間に合っていない艦もいる。上陸作戦には敵の十倍の戦力で当たるというのがセオリーだが、彼我差はそれを優に超えている。

 敵情報を伝えるオペレーターの声も悲鳴に近い。

 

 「海賊たちは何やってるのよ。最優先でと言ったのに。交渉のタイミングを逸してしまう」

 クリスティ・シャーウッドが爪を噛みながらイライラしている所に、中継ステーション沖にタッチダウン反応が現れた。

 「何! 最終防衛ラインを超えて直接侵入をゆるしたの!」

 「いえ、違います。トランスポンダー・・白鳥号、弁天丸、デスシャドウ・・・海賊たちです!」

 時空を歪ませ、次々と海賊船が空間復帰する。

 「白鳥号より、植民星連合連合艦隊司令部へ。ただ今帰還しました。なんとか間に合ったみたいです」

 「ステラ・スレイヤーの破壊、ご苦労様でした。お陰で私たちの星が灼かれずに済んだわ」

 「ミキ、ありがとう」

 スズカと遠藤ミキが互いに交信を交わす。スズカとミキは同い年で幼馴染だ。この戦争でスズカは父の海賊船に、ミキは学徒動員で艦隊司令部のオペレーターをやっている。

 「お父さんの具合、どうなの」

 「うん、あんまり芳しくはないけど、命に別条はないわ」

 そこにクリスティ・シャーウッド中佐が割って入った。

 「二人とも私語は控えてください、今は喫緊の秋です。単結晶は無事持ち帰ってくれましたか」

 「はい。白鳥号の船首にあります。」

 スズカが答える。

 「よかった。本当にギリギリだけど間に合ったようね。すぐカーゴを差し向けます。単結晶を引き渡して下さい」

 「――その前に質問があります。」

 「なあに?」

 訝しげにシャーウッドが返す。

 「この戦争を、どう終結させるお積りですか」

 「それには私が答えよう」

 シャーウッド中佐から中年の男の声に変わった。

 「連合艦隊司令だ。諸君の健闘には感謝している。しかし戦争はもはや独立云々ではなく、どうより良く負けるかの問題なのだよ。」

 「宗主星は力を誇示するためにステラ・スレイヤーを使おうとしたが果たせなかった。我々が降伏すれば植民星連合に使う必要はない。他に対象を向けて誇示は出来るが、肝心の単結晶はこちらにある。今後の終戦交渉を有利に進めることが出来るというわけだ。単結晶と引き換えに、大幅な自治権の獲得とか宗主星を中心とした連合とか、所期の目標とは違うが、それに近いものは手に出来る可能性はある」

 この期に及んでも交渉とか駆け引きとかに望みを託す司令官。まあ彼の立場からすればそうなのだろう。自滅覚悟で特攻を命じる司令官よりよっぽどましだ。

 「戦争終結の暁には、超新星爆弾を使う側に入るわけですか」

 改めてスズカは尋ねた。

 「使うかどうかは宗主星の判断だ。私たちに決定権はない。――それに、交渉決裂となった場合でも、今後のゲリラ戦に大きな抑止力となる。他星系からの問い合わせも来ている事実から見て、じゅうぶん脅威となり得る」

 「使う使わないの決定権は、いま私たちにあります。使う考えを持つ相手に渡すことは、加担したことと同じです」

 そしてスズカは、きっぱりと相手に伝えた。

 「この戦利品を、あなた方に譲渡することは出来ません。」

 

 「足元見て、値を釣り上げようってつもり?!」

 「まあ、これまでの戦闘の支払いもまだだけど、お金の問題じゃあ無いんで」

 目くじらを立てたシャーウッド中佐を押さえて、司令官は続けた。

 「それは裏切り行為と取るが、海賊の総意なのかね」

 「裏切り? 植民星連合の仕事は請け負ったけれど政府の手下じゃないわ。私は海賊、自由に宙を駆る者。いちいち行動に政府のお伺いを得る謂われはないわ。――力づくがお望みなら、受けて立ちます」

 スズカの啖呵が宇宙に流れる。

 「海賊に故郷はあっても、国家はありません。――ミキ、聞いてる?」

 オペレーター・コンソールで聞いているであろう、幼馴染の遠藤ミキに話しかけた。

 「小学校のとき、よく一緒に海に行ったよね。中学に上がる頃から戦争が激しくなって、戦争の影と不安ばっかりで、何処にも行かなくなった。

 中学時代は勤労奉仕隊で碌に学校も行ってない。形ばかりの卒業の後は、私は海賊。あなたは海賊課に勤務。あたしたちの少女時代は、そんな碌でもないものだったけど、私たちの次の世代にはそんな思いはさせたくない。私たちが出来なかった学生生活をきっちり送ってほしい。そう思うの」

 遠藤ミキは、黙って友達の声を聴いていた。聞きながら、彼女と最後に会ったのはいつだったろうと思い返していた。モニターを通してなら、ガーネットAに再出撃していったときに会っている。でもそれは業務連絡だけ。直接会って話をしたのは、

 「そっか、中学の卒業式以来か・・・」

 スズカの声は周囲に展開する海賊たちにも聞こえていた。そして思い出した。そうこの戦争は俺たち大人が大人の都合で始めたものだったことを。戦争に勝つこと以前に、次の世代のことを本当に思っていたのか。独立戦争は、次の世代が自由に発展できるために起こしたもの。それはお題目だ。何の算段もなく始めちまったのが実情だ。その時どんな政治的判断や取引があったかは知らない。それこそ大人の事情ってやつだろう。でも俺たちはそれに乗っかって海賊を始めたのだ。

 「私は船、あなたは港。ミキが港にいてくれたから私は安心して返って来れた。でもこのまま争いが続いていけば海も奥浜市も無くなってしまう。私は、ミキと遊んだあの海を失いたくない! なんでこんな戦争始めてしまったのよ!」

 そうなのだ、始めた以上は終わらせなくてはならない。しかし宗主星も植民星連合も、次の諍いしか考えていない。自分たち大人はそうだった。きっちり後始末をつけて終わらせなくてはならない。次の世代のためにも、この文明にステラ・スレイヤーを許さない勢力が居ることを知らしめなくてはいけない。――たとえ全滅となっても。

 「スズカちゃんだけでも助けないとな」

 インカムの、ちるそにあん加藤芳郎の呟きに、他の海賊たちは無言で頷いた。

 

 白鳥号は六本のマストを全開にして、高らかに宣言する。

 「白鳥号以下、私掠船免状を頂く海賊一同。ここに白鳳海賊団として独立を宣言し、殲滅兵器を弄ぶ宗主星及び植民星連合に対し、宣戦を通告します!」

 

 

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