「ひゃあー、カッコイイ!」
コックピットに流れるスズカの声に、加藤茉莉香以下ヨット部員たちが嬌声を上げる。
「まるで茉莉香さんを見ているようですわ」
グリューエルが両手を前に組んで惚れ惚れしている。
「無理無理。荒くれの海賊共を纏め上げて全方面に喧嘩売るなんて、私には出来ないわ」
ブンブンと手を振る茉莉香。
オデットⅡ世と弁天丸は、遠征艦隊のタッチダウンに紛れてたう星系に現れ、いま一二〇年後のアクティブ・ステルスを掛けて海賊たちの後衛にいる。
「船長、植民星連合艦隊が転進。海明星に向かっている。宗主星も距離を縮めて来ており、主力艦隊群は現在、海果星軌道を通過中。双方ともに発砲なし」
百目から報告が入る。
「目標は白鳳海賊団と思われる。最前線は輝青星と海明星の中間点を越え、もうすぐ射程圏内だ。オールト雲から外惑星軌道までいい具合に空いている。そろそろ始めるか?」
「やっちゃって、やっちゃって!」
射撃管制のシュニッツアーからの助言に茉莉香が応える。
無言のままコンソールのスイッチを押すと、宇宙が爆発した。
「オールト雲領域に多数のエネルギー反応!」
「外惑星外側にもタッチダウン反応有り。多い!」
「五百、六百・・せ、一〇〇〇!まだまだ増える!!」
空域監視モニターの白い輝点は、瞬く間に画面を埋め尽くす。
たう星系全域に渡って連鎖的に起こるタッチダウン反応から、大型の戦闘艦が次々と通常空間に姿を現してくる。
「いったい何? 宗主星の新手?」
「ち、違います。こちらの文明圏のものではありません!」
「・・エイリアン・・」
連合艦隊司令部だけでなく、宗主星側も驚愕した。後方にいきなり現れた大勢力に前進が止まる。
『こちらは銀河帝国第七艦隊。警告します。直ちに戦闘状態を解き停戦しなさい。現在、白鳳海賊団と帝国艦隊とは同盟関係にあります。白鳳海賊団への攻撃は当方への敵対とみなします。繰り返す――抵抗は無意味だ――』
強制チャンネルを使って、茉莉香が命令する。その間にも艦船は増えていき、完全に宗主星、植民星連合を合わせた艦船数を圧倒する。
驚いたのは、オデットⅡ世を追い掛けて来て、通常空間に復帰した第五八突撃起動艦隊もだった。いきなり自分の周りに友軍が出現したからだ。しかしそんな話は聞いていない。
「大丈夫なんですか。こんなもの実体弾を使われたらすぐバレテしまいますよ」
茉莉香の仕掛けた大芝居を見つつナッシュフォールが言う。
「大丈夫ですよ。銀河帝国に弓引こうなんて度胸ありません。それよりも突撃艦隊さんの方が心配、驚いてるだろうなあ」
「彼らには別命あるまで現状待機と、私のIDで連絡しときましょう」
「あ、親父さ・・じゃなかった。銀九龍さん、それなら空域サーチも一緒にお願いします。きっと、この様子を見ている特別ゲストさんが居るでしょうから」
発、銀九龍名義で、自分の部下に連絡を入れながら茉莉香に質問した。
「しかし、何をやったんです? 幻影とはいえ、第七艦隊の船体情報もエネルギー放射も質量係数も実体そのものではありませんか」
「――空蝉の術、なんちって。重力子爆雷とデコイを予め空域に展開しておき、時空震を演出させたと同時に、ポルト・セルーナに展開していた第七艦隊の情報をデコイに偽装させたんですよ」
「第7艦隊の船体情報って、いったい何時やったんです」
「ポルト・セルーナで、私たちにばんばんアクティブサーチ掛けてたでしょう。それを利用させてもらいました」
「――今更ですが、あなたはこの文明圏の人間ではないでしょう。統合総司令部への手際といい、いまの度外れたウィザードふりといい。私達とは異なる時空の方と思いますが」
「ははは・・・それについては、ノーコメントという事で。あなたと会っていたのは白鳳海賊団の仲間という事にしておいて下さい。そうじゃないと色々こんがらがっちゃうんで」
乾いた笑いを返す茉莉香。今度中継ステーションの中華料理屋に行ったとき、親父さんとどんな顔で会ったらいいのか考えていた。
「では、降伏文書を、第七艦隊第58突撃機動艦隊司令に託します」
白鳥号のブリッジで、キャプテン・スズカが、植民星連合政府から届けられた降伏文書を銀九龍に手渡す。
中継ステーションの中華屋の壁に掛かっていた、あの降伏文書だ。茉莉香が見慣れたものは黒く煤けた額縁だったが、いまは真新しい。降伏文書には宛名が記載されていなかったが、これは相手が先に宣戦布告した白鳳海賊団か銀河帝国か判断が付かなかったからだ。ともあれ、同盟関係だという白鳥号を間に入れ銀河帝国に降伏が成された。
「やったね、スズカちゃん」
「ええ、ありがと。でも本当に銀河帝国を引っ張り出して来てくれるなんて。あなた白鳳海賊団は帝国のお尋ね者になったって言ってたじゃない?」
「へへへ、実はまだお尋ね者の身なの。同盟なんて嘘っぱち。あ、銀九龍さんは本物よ。でも大艦隊も嘘! だからこれから、同盟を本当にしなくっちゃならないの」
「嘘って、あなた大概ね」
呆れたようにスズカは言った。
「度胸とハッタリは海賊の愛嬌ってね。でもスズカちゃんも全世界を敵に回しての宣戦布告だったじゃない」
ちゃんじゃない。とスズカが突っ込んで二人は笑い合う。
「同盟を本当にって、どういう事」
「この戦争を裏で仕掛けた奴がいるのよ。それをこれから炙り出そうってわけ。じゃないとお尋ね者のままになっちゃう。帝国との共同作戦でしたって、するためにね」
「ふーん、じゃあそれが本当の黒幕って訳ね。私たちはステラ・スレイヤーの落とし前を着けに、これから銀河帝国へカチコミ掛けに行くところだったんだけど」
「カチコミって・・・」
「先般ぶりです。帝国情報部のジェームズ・ナッシュフォールです。あなた方の文明を銀河帝国にお迎え出来て光栄です。無差別な殺戮兵器を弄ぶだけではなく、それに反対し行動することの出来る文明だと帝国政府は評価するでしょう。ただ――」
少しばかり言葉を濁して続ける。
「この件は、我々帝国に預けて頂けませんか。帝国の恥を晒すようですが忸怩たる思いなのですが、これは高度に政治的な問題なのです。内政問題でかたが付くならいいのですが、既に外交問題となっているのです。――ここであなた達にカチコミを入れられると、事が公けになり複雑になりかねない」
「あなた方の事情はここでは分かりかねますが、事情によっては寸借の余地があります。しかし事が海賊の領分だったら、――よろしいか」
「解りました。その時はあなた方に託しましょう」
茉莉香は凄いと思った。帝国諜報員を前にして怯まない。それどころか、彼女には海賊ギルドのことは話していないのに、その匂いを感じ取っている。
その時、オデットⅡ世のリンから声が掛かった。
「茉莉香―、奴さん現れたぜー」
「さっきから空域に妙な反応が出てます。白鳥号のβ領域、距離〇,三天文単位」
レーダー担当のナタリアから報告。
「どーする、このまま白鳥号に居るかい。それとも弁天丸に戻るかい」
「あ、オデットⅡ世に戻ります。電子戦はそっちの方がしやすいし、戦闘は弁天丸クルーの方が詳しい」
「じゃ、早く戻れよー」
脱力したようなウルスラの声が混じる。
「御免―ん、待たせて。スズカちゃんと打ち合わせしてたら遅くなっちゃった」
「遅い!」
バタバタとオデットⅡ世のブリッジに戻って来た茉莉香に、チアキが怒鳴る。
気合を入れるように、ふうっと息を吐いて自分の席に戻る茉莉香。
「状況は?」
「変わらず。つかず離れず、距離を取ってる。こちらの様子を伺ってるみたい」
「しかし、よくこんな小さい反応を見つけたわね」
それは、前もって注意していなければ絶対気付けない、デフリくらいの反応だった。
「前にスパイ船やキュリオシティのお相手してなきゃ見落としてた。多分、ステルス掛けてる宇宙艇」
「九龍さんナッシュさん、ネズミが餌に掛かったようです」
ニヤリと茉莉香の口元に不敵な笑みが浮かんだ。