モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第2話

 「で、ウチの船長は」

 舵輪を握るケインが百目に尋ねる。

 「いま調査船キュリオシティに、先代部長ジェニー・ドリトル嬢と一緒に乗り込んでる」

 「ジェニーといえば、あの宇宙大学に進学したんだよな」

 ケインは目の前の巡洋艦と距離を取りつつ、操舵を握りながら言った。

 百目は相手の動きをレーダーから目を離さず空域モニターしている。

 「相手が宇宙大学の調査船だったとはいえ、船種は巡洋戦艦。しかも一二〇年後の弁天丸の探査能力を再三逃れ得て来た強者だ。それに船長が乗り込んでいる。これまで敵意を感じなかったとはいえ、どんな不測の事態が発生するか判らない」

 「ええ、いま会ってるアテナ・サキュラーは、未来では彼女の担当教授だそうよ。未来でも過去でも同じ教官に出会うなんて、何の因果かしらね」

 船長の椅子に座った弁天丸船長代理のミーサが、思いがけない事態にため息をついた。三代目が縮体炉のコンソール席から声をかける。

 「でも、なに話すんだ」

 「私たちの素性を伝えるんだって」

 「おいおい、それって、タイムパラドックスやらなんやら、色々ヤバイんじゃないか」

 「『歴史学者に歴史改変をけしかける』なんて。茉莉香も思い切った策に出たものだわ」

 「見えない」

 三代目の心配をよそに、いつも通りのルカ。

 「話すだけだ。さしたる障りはない」

 「いつものことだ。今更騒ぐ程のことでもあるまい」

 相手の射撃管制の動きに注意を払いつつ、事もなげに切って捨てるシュニッツァー。

 そんなクルーたちに微笑みながらミーサは言った。

 「海賊稼業は結果オーライってね」

 

 

 「たう星系海明星所属、白鳳女学院練習帆船オデットⅡ世。船長の加藤茉莉香です。急な申し出に応えて下さり有難うございます」

 すらりとした長命種を前に、茉莉香は挨拶を交わす。

 「宇宙大学調査船キュリオシティ、調査員のアテナ・サキュラーです。本当は現地人との接触は禁止されているのだけれど、捕捉され会話してしまった以上、お互いの立場と事態を整理するため会談を持つことにしました」

 濃紺の髪をショートカットにした彼女は、服装も実用性重視のTシャツにパンツといういで立ちで、長命種が持つ落ち着きや優雅さよりも若々しい快活さを感じさせた。

 「女子高生の船長だなんて、あなた本当に船長さん? それに会見相手がキャプテンじゃなくて調査員の私を指名して来た理由は何かしら」

 再びキュリオシティと回線を開いた茉莉香は、お互いが抱える問題点を整理するためにと、会見を申し入れた。はじめこの会談に難色を示した調査船側だったが、現地人との接触、介入には当たらないという茉莉香の言葉と、実際直面している未接触の文明人との接触という現実とを擦り合わせるため、会談に応じたのだった。

 

 キュリオシティに乗り込んだのは、茉莉香とジェニー、そしてグリューエル。帝国側にすれば、茉莉香たちは初接触の文明圏人であり、それとの会談はたとえ相手が女子高生であっても外交事例となる。外交に明るいグリューエルはそのオブザーバーとして同行した。当然相手の思考を読み解く彼女の聡明さも期待できる。

 「紹介します。セレニティー星王家第七皇女グリューエル・セレニティー。銀河帝国との初会談ということで、外交のオブザーバーをお願いしました。」

 「そして私の先輩に当たるジェニー・ドリトル。彼女は宇宙大学の一年生です」

 「え、ちょっと待って。セレニティー星王家に第七皇女は居ないはずです。それに私は全ての学生を見知っている訳ではないけれど、宇宙大学に、まだ接触のないこの文明圏からの学生はいないわ」

 茉莉香の紹介に、アテナは訝しげな表情で二人を見遣った。

 「それも併せて、まず、あなた方にとって私たちとの出会いが現地人との接触には当たらないことを説明します。」

 茉莉香からの紹介を受けて、ジェニーが前に進み説明を始めた。

 自分たちがこの世界から一二〇年後の未来からやってきたこと。

 キュリオシティを捕捉したのも未来の技術によって出来たこと。

 また、未来でのオリオンの腕文明圏は銀河帝国に所属しており、その併合は今から一週間後のことで、銀河帝国はとっくにこの文明を監視していた筈であることを付け加えた。

 

 「俄かには信じられない話ね。なによりあなたの話が事実だと実証できるものを私は確認することが出来ない。たしかに貴方たちがこの文明の現地人でないことは理解できます。そうでなければこのキュリオシティを捕捉したことも銀河帝国の通信規格で連絡を取れたことも説明がつかないもの。とりあえず、私たちは現地人との接触や介入には当たらないという訳ね」

 アテナ・サキュラーはそう言って、ほっとした表情を見せた。

 「私たちが未来人である証拠に、私たちの船に今起こっている独立戦争の戦闘記録があります。時系列に沿って、どの船がどんな行動をしたか。その結果も併せ、航跡と一緒に通信記録も残されています。これから起きることと付き合わしてみてはどうでしょうか」

 これから起きることの記録と聞いて、アテナは興味を引かれた。

 「じゃあ、あなたたちは戦闘の結果を知っている訳ね」

 「知っています」

 「知っていて、どうするつもり? まさか歴史に介入しようとか考えているんじゃないでしょうね。戦闘がどういう結果に終わるか、大体予想はつくけど」

 ジェニーは、自分たちが何をすべきなのか。何が出来るのか。いま考えていることを告げた。

 「私たちの知っている歴史では、あと1週間で植民星連合も宗主星もまとめて銀河帝国に併合されて戦争が終わります。銀河帝国がこの戦争を知らない今のままでは、未来が変わってしまいます。未来が本来とは違った形にねじ曲がってしまいます。それこそ自己修復できないほどに。ですから帝国に知ってもらって介入して来て欲しいんです」

 「でもそれがこの世界の歴史に何の影響があるのかしら。あなたの話が本当だったとして、辺境の歴史が植民星側の敗北となるだけ。あなたたちにとっては大変なことでしょうけど、宇宙全体から見れば些細な変化の範中にすぎないわ。それよりあなたたちの帝国を巻き込んだ介入によって引き起こされる誤差の方が、私たちへのタイムパラドックスが心配よ。」

 

 「このままの推移で引き起こされる変革は、帝国をはじめとする周辺全体に及ぼす影響が深刻です」

 茉莉香は観察者として話すアテナに対し、真顔で返した。

 

 「セレニティー星系も、未来では海賊によってあり方が大きく変わりました」

 グリューエルは小さな拳を握りしめながら、震える声で言った。

 セレニティーだけではない。未来においてオデットⅡ世とステラ・スレイヤーに関わった辺境の海賊ギルドだって影響を受ける。しかしアテナ・サキュラーは静かに言った。

 「歴史の流れに、あるべき姿などというものはありません。歴史は厳然とした事実の積み重ねだけによるものよ」

 

 淡々と話す未来の担当教授に、ジェニー・ドリトルは尋ねた。

 「宗主星系軍が、あの空域で何をしようとしているか、御存知ですか」

 「超新星爆弾のこと?」

 アテナ・サキュラーは表情一つ変えず答える。

 「それが判っていて、なぜ傍観ができるのですか!」

 使用されればどんな非人道的な結果が展開されるのかが理解できていて、なを観察者であろうとする。

 「その星の歴史はその星が選択する。その結果は、その選択が責任を持つ。第三者が選択に介在していいものじゃない。現に植民星側は必死にそれを阻止しようとしているじゃない。もっとも主力は海賊船のようだけど」

 「植民星側の敗北によってステラ・スレイヤーが、ステラ・スレイヤーというのは超新星爆弾のことなのですが、この星系に保持され続けた場合、帝国に影響がないと思いますか」

 ジェニーは、若い自分の担当教授に向かって問いかけた。

 「当然、銀河帝国はその存在を許さないでしょうね。なお意志をもって保持し続けようとする文明は、銀河全体の秩序にとって害悪でしかない。」

 時の経過によるものなのか、自分の知っているアテナ・サキュラーは、もっと歴史に真摯だった気がした。この彼女は、モデルの経過観察にしか興味がない印象を受ける。

 

 「それも、選択による責任の結果よ」

 それは、若い歴史学者による一つの文明圏の死刑判決に他ならなかった。

 

 

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