銀河帝国の中心、主星系連合。八〇〇光年の範囲の中にある五つの星系から成る。
行政機関が集中する第二星系。艦隊統合総司令部がある第三星系。帝国の経済金融機関の中心である第四星系。異文化交流や学芸の発信元で曙光の源といわれる第五星系。帝国の核であり、聖王家をいただく第一星系は銀河元老院と呼ばれる。その主星が惑星セナートだ。
超光速跳躍がまだなかった時代、この星系の一つから聖王家が生まれ、亜高速の世代間航行で五つの星系を一つ一つ征服していき銀河帝国の基礎を築いた。星系ごとに違う文明があり、狭い範囲での星間戦争の結果だが、聖王家は侵略に当たり元々の文化や行政権には干渉せず、ともに聖王家を戴く形の緩やかな連合を執った。その方が画一的な文化より多様性が生じ、お互いが影響し合う事で技術革新も進むからだ。いわば主星系連合は今につながる内政不干渉の元となったのである。
主星系連合統一で国力が充実して来た頃、そのころには核恒星系の独自性は薄れ同じ帝国民というアイデンティティが生まれていたが、大きく飛躍する発明が成された。
超光速跳躍である。
新たな船を手にした銀河帝国は、文字通り銀河に雄飛し今の版図を築いた。
銀河に乗り出して間もない頃、帝国は宇宙大学と出逢った。聖王家よりもはるかに古い歴史を刻む知性保管体である宇宙大学。その宇宙大学と銀河帝国とは同盟を結ぶ。その歴史と膨大な知性の蓄積に敬意を表してという理由だが、版図に取り込むのでは無く、同盟である訳は、聖王家に関わる重大な秘密を握っているからだとも言われている。例えば、聖王家の出自は、建国神話の中でも五つの星系の何処かというだけではっきりしていない。出自を知るのは聖王家の当主と宇宙大学のみという噂だ。
ともあれ宇宙大学が帝国の三権から独立しており独立国以上の高い自治が与えられているのには、こうした歴史的根拠があるからだった。
宇宙大学の姉妹校が第五星系にあり、帝国での出先機関となっている。宇宙大学は、たとえ帝国元老院の子弟といえども能力なき者は入学を認められない。それに代わるリップサービスとしての姉妹校だが、同時に帝国中枢部との外交窓口でもある。それでも入学基準はかなり厳しいものではあるのだが。
宇宙大学姉妹校ユニバニティーで、惑星セナートのある第一星系への立ち入り手続きを行う。本来帝国貴族であるアテナ・サキュラーにセナート上陸への制約はないのだが、宇宙大学に所属しているため外交手続きがいるのだった。
ネオクラシックな学舎が立ち並び、ハイソな雰囲気が漂うユニバニティー。キャンパスだけで優に新奥浜市が丸々収まる。流石姉妹校と言えども帝国のお膝元にある大学だ。規模が大きい。
「はい、身分証明書。一応、宇宙大学の学生って事で登録しといたから」
そう言ってジェニーにパスを手渡す。
渡されたパスには『ジェニー・ジェーン。宇宙大学経済学部一年』とあった。一応って、自分は正規の試験で宇宙大学に入学した現役学生なんですけど、と思わないこともなかったが。
「いま小耳に挟んだのだけれど、帝国艦隊が、白鳳海賊団を名乗る無法者に電子攻撃を掛けられ行動不能になった。それどころか、第三星系にある統合総司令部まで深刻なクラッキングを受けたって。当局は否定してるけど噂で持ち切りよ。――本当に、歴史改変はないんでしょうね。そうなら承服しかねるわ」
ジト目をジェニーに向ける。噂にまでなっているとなると、キュリオシティから大学に送られた『未接触の文明圏から来た異邦人』という肩書ではまずい。だいいちエイリアンでは主星系には立ち入れない。手を廻して情報を改竄してくれたようだった。
「お手間を掛けます」
パスを押し頂き、ぺこりとお辞儀をする。
ユニバニティーから宇宙港へ向かうため、市街に出るためのゲートをくぐる。ここから先は完全な帝国領。ゲートでは、生体走査で未接触生命体であることが露見しないかと心配したが、アテナは平然とジェニーを促す。意を決してゲートに立つと、あっけなくパスは通った。
「先生は、私の生体情報まで改竄したのですか」
「まさか、私がしたのは偽の学生証まで。バンクの改竄なんて重罪よ。そもそも現実的に無理だわ。アクセス権だってかなり高位でないと受け付けない」
「じゃ、何で未接触が誤魔化せたんですか」
「逆よ。生体情報が通ったって事は、バンクに貴方たちの文明圏情報がすでに登録されてるってこと」
ジェニーの危惧を察してアテナが言う。
「確かに、帝国は知っているわね」
相手はバンクを弄ることが出来るかなりの人物だ。しかも帝国中枢部に居る。
第五星系から銀河元老院がある第一星系へ飛ぶ。
惑星セナート。聖王家がある銀河の中心。銀河すべての国々の代表機関が集まる政治の舞台。
惑星軌道上から見るセナートは、青い海に五つの大陸が浮かぶ星だった。何となくジェニーの故郷である海の明星を彷彿とさせる。
銀河系を束ねる核なのだから、高度に機械化され地表全てが人工的な構造物で覆われているように思われるが、むしろ変り映えしない何処にでもある田舎星の姿だ。ここが銀河帝国の中心星とは見えない。修学旅行で軌道ステーション(帝国領内の修学旅行でも惑星への上陸は許されていない。そのための観光用ステーション)から見た時思ったが、百年前のセナートを改めて見ても同じ印象だ。
「意外?」
コミューターを運転しながらアテナは尋ねた。
「みんな、初めてセナートを訪れた人はそう思うわ。らしくないって。」
「この星の姿って、永い年月をかけて作り上げたものだそうですね」
「あら、知ってるの」
「ええ、修学旅行で来たときにそう聞きました。上陸はしませんでしたが」
意表を突かれたのはアテナの方だった。
「前に来たことがあるのね、でも修学旅行って・・・百年後には帝国も結構さばけている様ね。いまはこの星系に立ち寄るだけでも強い制限が掛かるわ。外交使節団とか元首とか、セナートの姿を見たことがある帝国人はほんの一握りよ」
「そう、この星はテラフォーミングで人工的に作られた惑星。なんでも聖王家が故郷の星から世代間宇宙船でやってきた時、故地に似せてデザインしたそうよ。まだ超光速跳躍も無い時代、聖王家がどこから来たのかは神話の世界になっているけどね」
インカムにセナートの管制官から確認が入る。
「こちらセナート宇宙港管制です。そちらの所属と許可証を提示して下さい。」
「銀河帝国貴族院議員、宇宙大学所属アテナ・サキュラー。大学と貴族院の許可証を送ります。ほか申請した随行員一名」
コンソール・パネルに手を当てて生体認証を送信する。
「・・・確認されました。宇宙港へはDの135進入路を進んでください。ポートはHL1099031です。」
「了解しました。惑星セナートへの降下を始めます」
通信を切り、ハンドルを切るアテナ。
「さあ、降りるわよ。」