モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第23話

 核恒星系第五星系のユニバニティー校に戻った二人はこれからの戦略について話し合った。

 空間ディスプレイにはサロンで出会った男の顔が映し出されている。

 「パク・リー元老院議員、二六歳。父親の後を襲って元老院議員になったのは二年前。」

 「まあ親の七光りですか」

 かつての婚約者、ジュナイ・クールフの微妙な顔が浮かんだ。でもこの男はクールフと違って底の知れない印象を受けた。

 「文字通り襲ったってこと。父親が疑獄事件で告発されて議員の職を離れざる負えなくなったんだけど、それを陰で仕切ったのが息子であるパク・リーって噂だわ。元々政治路線や事業方針で父親とは反目してたそうだけど、邪魔な父親を追い落としてその地盤を丸々引き継いでる。――利権もね。」

 「単なるお家騒動なら、議席がそのまま息子にスライドされることも無かったんでしょうけど、父親のパイプが帝国中枢部まで及んでいて断ち切ることが出来なかった。火の粉が元老院自体に降りかかって来そうになって目を瞑った。結局パク・リーの筋書き通りになったんだけど、そこまで読んでのクーデターなら大したものよ。まだ大学を卒業して間が無い頃よ」

 怪しいというだけで何ら証拠は無くそれ以上の有力な情報も無い。相手は帝国の元老院議員、当たって砕けろ式に直接乗り込める相手じゃないし、切れるカードが無い。恐らく叩けば何かは出る御仁だろうが何より自分たちには時間が無い。

 「裏口から叩くしかないわね、金の流れとか通信記録とか・・。でもそんなツールは無いし、元老院議員ともなればその辺のセキュリティーはしっかりしている。恐らく帝国情報部でもおいそれと手が出せない」

 諦め顔のアテナをよそに、ジェニーは自信たっぷりで言った。

 「でも統合司令部ほどじゃないでしょう?」

 ジェニーはオデットⅡと連絡を取った。一般回線を使って帝国のお膝元からである。帝国艦隊は白鳳海賊団の動向を必死になって追いかけている筈で、すべての通信を傍受とまではいかないが、怪しい相手同士のやり取りは調査している。そんな中での通信。だが帝国は通信の有った事実すらつかめない。リンから手渡された妨害チップによるものだが、百二十年の差はそこまである。

 「ジェニ~大丈夫かい。寂しくないかい。慣れない水でおなか壊してないかい」

モニターにちぢれっ毛のショートカットのリンが映る。通信に出てすぐ立て続けの質問に軽くこめかみの辺りを抑えるジェニー。

 「植民星連合は無事に銀河帝国への降伏が成ったよ。まだ未公認だけどね」

 「未公認って、どういうこと?」

 リンが、ハッタリで第七艦隊を演出し、ご同行頂いた帝国士官三人に降伏文書を手渡した経緯を説明する。

 「御同行って、それ誘拐じゃないの! あなたたち絶賛全国指名手配中よ」

 「いやあ、照れるなぁ」

 あくまで呑気な白鳳海賊団である。

 「核恒星系に乗り込んだって言ってたけど、ジェニーこそ危ないことに巻き込まれてないかい」

 「こちらは大丈夫よ。白鳳海賊団はお尋ね者だけど誘拐の事までは知られてないみたい。密輸業者を捕まえたってことだけど、頼みたいことがあるの。」

 「ジャッキー・温の取引先と金の流れだろ。帝国情報部のナッシュフォールさんと奴を追っていた銀九龍さんが調査してる。辺境海賊ギルドとの繋がりは出てきたみたいだ。」

 「ジャッキーって、あの時のジャッキーさんの御先祖だったんでしょ。因果ね。」

 「全くだ。部員たちは『ご先祖さまのカタキだった~』とか『ここで会ったが百年目?』とか呆れてたけどな」

 「そおねぇ。」

 ジャッキー・ケルビンが狙っていたのもオデットⅡ世の衝角に取り付けられていた単結晶だった。それはステラ・スレイヤーに使われていた核心部品、いま現在進行している戦争をプロデュースする勢力の鍵となる証拠物件。あの時もそんな勢力が暗躍していた。七つ星共和連邦や企業連合体ラキオン。あのときの種はこの時代に撒かれたものだったのかも知れない。

 「ジャッキーの線もあるけれど、調べて欲しいのは黒幕の件。それらしい怪しい人物が浮かんだのだけれど、こちらではガードが固くて。それでオデットと弁天丸の方で探ってみて欲しいの」

 「ハッキングをしろってか。そりゃあこっちは色々と充実してるからな。で、誰なんだ?」

 「パク・リー元老院議員。彼の口座の金銭の流れから密輸業者を結びつける接点があれば、いい裏が取れるんじゃないかと。パク・リーはなかなかのやり手で社会的地位も高い。直接海賊ギルドと交渉を持つような証拠は残してないと思う。でも一見なんの繋がりも無い両者が関係を持っている線が出てくれば、少なくともやり取りの全体像は炙り出せるわ」

 「成程、裏口から叩くか。でもジェニー、一つ聞きたいんだが、うちらとしては今回の事は帝国艦隊を独立戦争に介入させることが出来て終了したんじゃないか。ここから先は帝国の領分だろ」

 「確かに降伏文書は帝国に渡った。でも正式に受理されたわけじゃないし、まだ事態は流動的なのよ。このまま無かったことにされてしまう可能性だってあるわ」

 「文明圏まるまるそっくり、無傷で手に入るってのにかい?」

 リンが驚いて問う。

 「戦争の終結を望まない者が居る。元々もっと大きな金儲けのために仕掛けた星間戦争。失敗を認めていったん手を引く選択肢もあるでしょうけど、揉み消すだけの実力があれば手段を変えて継続させようとするでしょうね。そしてパク・リーにはそれだけの力が有る。それに――」

 いったん言葉を切ってジェニーは続けた。

 「私、アテナ・サキュラーに言ったのよ。『これから引き起こされるであろう悲劇と混乱に対して、どう責任の結果を選択されるのですか』って」

 それは、アテナ・サキュラーとガーネットAで歴史介入について言い合った時の言葉だ。

 「ここで帝国にすべてを任せてしまって歴史の自己収束に委ねるって選択肢は、私たちの歴史に対して責任放棄だと思うの。七つ星共和連邦や企業連合体ラキオンのことがあったでしょ、あれは今回の事がきっかけよ。無事併合が成ったとしてもその後の歴史の動きは速くなって私たちが知ってる歴史とは違ったものになってしまう。たくさんの悲劇が生まれるでしょうね。それに、百二十年後まで白鳥号は残らない」

 「オデットⅡ世が私たちに届くように、きっちり後始末は付けておかないと?」

 うんと頷くジェニー。

 「ジェニーって、随分海賊的な考え方をするんだな」

 「あら、私達は白鳳海賊団じゃなくって」

 くすっと笑うリンにジェニーが返す。

 「解った、やってみる。じゃあ具体的にどういった線を洗っていくかだけど――」

 二人はハッキングに当たって調べる対象を打ち合わせて通信を終えた。

 スイッチを切るとアテナがジト目でこちらを見ている。

 「ねえ、それって歴史改変にならないでしょうね」

 「ならない為の手立てです。」

 ニコリと返すジェニーに、はあーとため息を吐くアテナ。そして俯いた。

 「そうね、これは本来帝国の領分だわね。いえ私達の時代の問題なのに、遠い未来の貴方たちに迷惑を掛けている。なのにこの時代人の帝国は何もしていない。そりゃ情報部や軍は、多少は動いているんでしょうけど、表だって対処しようとしていない。動けないって所が本当かしら、もろに帝国の恥部ですものね。本当なら事態がここまでになる前に対処すべきだったのよ。波風立てずに見て見ぬふりをしてきた最高機関、元老院の老害だわ。組織が保身に汲々として国が滅びた歴史は沢山あるのに・・・」

 「まだ手遅れじゃありません。」

 凛としたジェニーの言葉に振り向く。

 「まだ始まってもいません。確かにオリオンの腕にちょっかいを出してきましたが、目的は達成されていません。この先も達成させてはならない事です。周辺のためにも帝国のためにも」

 「――そうね。」

 「でも、先生の話を聞いていて思ったのですが、銀河元老院ってそんなに権限強いんですか? 最高機関だって言っておられたし・・」

 「え?」

 「へ?」

 ジェニーが言った言葉に、お互いの反応に戸惑う二人。

 ジェニーの知る元老院は、百二十年後にも元老院はあるが帝国の最高機関ではない。帝国の意思決定は帝国議会にあり、元老院は貴族院と同列で議会の輔弼にあたる機関だ。権威は有っても権限は無い。

 「え、いえあっと・・ご免なさい。これって歴史への干渉に当たります?」

 未来の情報を思わず口走ってしまったジェニーが恐る恐る質問する。相手は長命種の歴史学者だ、その言葉の意味するところは悟られてしまう。

 「そうね、明らかな未来人による先行情報の提供だわ。でもそれはガーネットA星で既にしちゃってるでしょ」

 「そうでした。」

 「けれど良かった。詳しくは聞かないけど、百二十年後には銀河帝国も今より良くなっているようだから。そのように、いまやらなくちゃいけないって事ね」

 さっぱりした表情でアテナは言った。

 

 

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