「コンサルティング会社サーティナイン。社屋は主星系連合の第四星系に構えているが、こりゃダミーだ」
弁天丸の通信席から百目が言った。
「実績あるように見せかけてはいるが、帳簿も出鱈目なら取引事実も裏は取れない。社員も本当に居るかも怪しい典型的な幽霊会社だな」
「代表者は?」
茉莉香の問いに、サイレントウィスパーのクーリエがコンソールを弾く。
「代表者はゲドー・アインザッツ。取引先は中堅どころの企業で事業拡大の経営プランニングやアドバイザーをやってる。きれいな素性に見えるけど実体がないわ。取引名簿にバックドアがあって、交流が無い筈の宗主星の貿易会社と、ジャッキー・温の名前がある。でも、もっと面白いもん見つけた。会社の創設履歴に精査掛けたんだけど、ゲドーってやつの名前と一緒に出てきたのが、これ」
「パク・リー、銀河帝国貴族、帝国元老院議員、それと辺境海賊ギルド! ビンゴって訳ね」
「でもパク・リーって名前、オデットⅡ世と弁天丸のライブラリーに載ってないの。素性も行末も不明。帝国士官さんと宇宙大学の学生さんに教えてあげて―」
ジャンクフードをぱくつきながらの、電脳魔女が間の抜けた声が飛ぶ。
「んで、お金の流れを追ってみたんだけど、この会社のメインバンクと宗主星側の貿易会社の名前がね・・・」
歯切れの悪さを感じさせつつリンからファイルが送られて来る。
「あちゃー。これ、先輩に伝えるの?」
困惑した茉莉香の声がブリッジに響いた。
「ヒュー星間運輸にドリトル商社ですってえ!」
オデットⅡ世を通じて送られてきたファイルにジェニーが声を上げた。ジェニーにアテナが尋ねる。
「知ってる会社?」
「知ってるも何も・・・ウチの実家です。」
トホホな顔のジェニー・ドリトル。
「私の家のヒュー&ドリトル星間運輸会社は、ヒュー星間運輸とドリトル商社が合併して出来た会社なんです。というよりドリトルがヒュー社を乗っ取ったんですが・・・」
この星間戦争でのステラ・スレイヤーの直接の送り手と受け手が、ヒュー&ドリトル星間運輸会社だったわけだ。ステラ・スレイヤーだけでなく、武器取引も宗主星側と植民星連合の両方にわたって行われている。
「んもー、ウチのご先祖様。何やってくれてるのよ!」
「何というか、御愁傷さま・・」
全体の流れはこうだった。
新興のコンサルティング会社が帝国きっての総合商社であるヒュー星間運輸会社に新規の事業展開を持ち掛ける。内容は辺境星域での経済活動。実体は国交がない宙域との密貿易。帝国クレジットが使えないので資源やらエネルギーでの支払いとなる。それを帝国通貨に変換させる窓口になってくれないかというもの。まあ一種の両替だ。密貿易だから大っぴらに大企業が出張る訳にはいかない。しかし新規にその宙域が帝国領となれば、先行資本投資の強みでその後の商活動でイニシアチブを握れるうま味がある。そのため零細の商社や密輸業者を手駒に使う。どうせ孫請け会社や胡散臭い連中だから、いざとなればすぐに手を切れる。雇われたのがジャッキーのヤークブ商会公司という訳だ。
只の平和な星域だったら問題は無かったのだが、請け負ったのが星間戦争真っ最中のオリオンの腕星域だった。密輸品も兵器となる。利益に比例してリスクも大きい。何しろ正式で無い武器の授受は帝国内で禁止されている。そこでヒュー社は自己の防衛を厚くするという名目で武器を扱い、便宜をはかった政治家にキックバックとして金品を渡す。その金は最終的にパク・リーの元に流れる。何だか既視感を覚える展開だ。
もう一つ問題は金品がパク・リーだけではなかったこと。辺境海賊ギルドにも流れていた点だ。海賊は帝国内では反逆者と同義語。もろに反体制勢力だという事で、ヒュー社としては事態が抜き差しならない関係となる。そこに辺境海賊ギルドとオリオンの腕の宗主星側との直接取引でステラ・スレイヤーの技術供与の話が持ち上がる。今更後に引けないヒュー社としては請け負わざる負えない。入手が困難な単結晶物質は意外と簡単に手に入った。それは、パク・リーが裏に手を廻して用意していた。それを辺境海賊ギルドに渡し、ジャッキー・温を使って宗主星に送り届けさせた。手駒に使っていた業者同様、ヒュー社もパク・リーの描いた筋書きに乗って手駒にされていた訳だ。
「武器の横流しやら政治家へのキックバックやら、非合法なことも平気でやってる会社だけど、叔父様の経営方針って結構ウチの家風だったのねえ」
同族会社で身内の悪口はあまり言いたくないが、スキャンダルのすっぱ抜き以来、フェアリー・ジェーンへの此の所の妨害はとみに酷くなっている。諦観にも似た思いがジェニーによぎった。
「で、どうするの」
「やっちゃいましょう。直接政治家を叩いてもトカゲのしっぽ切りに遭うだけです。搦め手から外堀を埋める。狙い目はイメージに敏感な民間企業です。まずはヒュー社を攻める!」
「ヒュー社をって、貴方の御先祖様でしょう」
「ご先祖様だからこそ、キッチリ落し前は着けてもらいます!」
相当頭に来ている様子のジェニー・ドリトルだった。
「じゃあ、相手の逃げ道を塞いでおくわ」
カードタイプの端末にオデットから送られてきたデータを移したアテナは、端末を操作して数カ所に転送する。
自身のメッセージはただ一言、『動け!』とだけ。
「どこに送ったんです? 暗号化されているとは言っても、ここからの通信は帝国政府に聞かれちゃうんじゃないですか?」
「だからよ。聞かれれば帝国の恥部が露見している事を知らせることになるし、送ったのは第三者宛て。メトセラにはメトセラのネットワークがあるのよ。辺境海賊ギルドには恥ずかしい事だけどメトセラが居るそうじゃない。敵味方同時に気付いている者がいるぞって宣言してあげる。これでよしっと」
平文でご丁寧に自分の署名付きである。送信を終えてアテナは端末を閉じた。
「随分大胆ですね。敵が狙って来る危険性があるのに」
「露見した後での口封じは意味ないわ。襲ってきたら、その時は――、その時よ」
メッセージを受け取ったのは、元老院をはじめとする各議会、帝国艦隊、星系王国に居る長命種たち。そして射貫く目を持つ若い海賊だった。
――事は露見した。