モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

30 / 31
第30話

 年老いた赤色巨星がぽつんと輝く孤独な空間に、青白くゆらめく時空の歪。その歪に突如爆発が起こり、宇宙船がタッチダウンしてくる。

 時空震の輪から抜け出て来るのは、細身の白い船体と寸胴な赤い戦闘艦。オデットⅡ世と弁天丸だ。

 「跳躍終了。現在位置確認ガーネットA星域、前回突入した同一地点。銀河ナビゲーションも戻ってる」

 「クロノメーター銀河標準時です。跳躍前との誤差プラス三分一二秒」

 跳躍から通常空間に復帰すると同時にサーシャとハラマキが報告する。

 「こちら弁天丸、こっちの計測でも同じだ。ただし時間はプラス三日。」

 「オリオンの腕統合戦争の十二日余りが、即席麺が出来る時間か・・・」

 二隻の背後では、いま出てきた時空の歪が徐々に弱まり消えようとしている。

 「スズカちゃん。これから大変だろうけど、私たちの未来のためにも頑張って」

 消えゆく時空の歪に茉莉香は言った。

 「船長、弁天丸のライブラリーを調べたけれど、特に目立った変更点は見当たらないようだわ。この時空で私たちがエイリアンでない限りはね」

 弁天丸のミーサから連絡が入る。この時空がパラレルワールドで自分たちがこの時空から隔絶された存在ならば、スタンドアローン(孤立)となりライブラリーに書き換えは起こらない。

「戻って確かめるしかないわね。海明星へ帰りましょう」

 最後の超光速跳躍を終え、たう星系外惑星領域に設けられている亜空間からのタッチダウンポイント、通称海明星インターに復帰すると、オデットⅡ世の航行システムは星系管制センターと通信を始めた。今のところエラーは確認されていない。星系内に流されているテレビ番組や情報サービスも旅立つ前と同じものが流されている。

 「事象改変もパラレルワールドもなさそうね」

 茉莉香がそう告げた時、オデットⅡ世のライブラリーを確認していたリンが叫んだ。

 「おいみんな、面白いもんが出てきたぞ!」

 「面白いものってなに、なに!」

 ヨット部の面々が食いつく。

 「オデットⅡ世のライブラリーって、色々不明なファイルがあるだろ。前回時間跳躍した時も幾つか開いたんだが、今回も新しいのが出てきたんだ」

 「ぶちょー、なに調べてるんです。事象の変更点が起きてないか確認してるんじゃないんですか」

 「いやあ、それはそれで。でも変更点と言えば変更点だぜ」

 さっと茉莉香が蒼くなる。あれだけの事をしでかしたのだ。歴史改変が起きていても不思議ではない。弁天丸からは見当たらないと来ていたが、歴史が得意な方でないリン部長のざっと見で解る位の変更点ならどんな影響が出ているか。

 「で、出て来たものがコレ。」

 リンが皆のコンソールに映像を送る。それぞれのサブモニターに映し出された画像を見て、驚きの声がブリッジに響き渡った。

 「ええええええ!!!」

 見覚えのあるものだった。

 「なんで帝国の私掠船免状が、まだここ(オデットⅡ世)にあるんですか!!」

 茉莉香が声を上げる。確かに白鳥号は私掠船免状を貰った。それは帝国が辺境海賊ギルドに介入するための苦肉の策だった。オデットⅡ世の前身は白鳥号。記録映像としてなら残されていても不思議ではない。しかし今映し出されているものには『Copy』の刻印がなく弁天丸のものと同じだった。

 「またまたぁ~部長、私達をかつごうとしてません?」

 「嘘だと思うのかい。だったらその私掠船免状で帝国公文書館にアクセス掛けてみろよ。偽物か本物かすぐ判るぜ」

 クラッキングが得意なリン部長の事だ。吃驚(ビックリ)映像などお手のもの。しかし一二〇年前ならいざ知らず、オデットⅡ世で現代の帝国に書き換えは通用しない。茉莉香は通信ディスプレイに私掠船免状を出し公文書館に繋いでみる。

 すると弁天丸の私掠船免状と同じように『公示』が出た。それはその私掠船免状の現状を示すものだ。ただ弁天丸と違うのは公文書館が帝国で、公示に『TOP SECRET』の刻印が押されてある。帝国公文書でトップシークレットが開けるのは現物のみ。つまり本物。

 「さらに重要なのは、ここ」

 と書類の下部を示すリン。

 「有効期限が、無い・・・」

 「そ、白鳥号に与えられた帝国お墨付きの海賊免状はいま現在も有効ってわけ。」

 口をあぐあぐさせる茉莉香。

 「つまりオデットⅡ世は、いまだに現役の海賊船だって事。銀河広しと云えども帝国の海賊船なんてうちだけじゃないか。だって公式では掃討作戦からこっち海賊は居ないことになってるんだから」

 「田舎の女子高の練習帆船が、現役の海賊船って何なんですかぁあ。」

 茉莉香の非難をよそに、白鳥号の私掠船免状が生きていると聞いてジェニーは目を輝かせた。

 「白鳳海賊団はアリってことね。わたし大学卒業したら白鳳女学院の教師になるわ!」

 「宇宙大学の学士様が、辺境惑星(田舎)の女学校の先生?」

 ジェニーの宣言にリンが返す。

 「そうよ。そしてヨット部の顧問になるの。そうすれば帝国お墨付きの海賊免状を持つオデットⅡ世で海賊営業ができる!」

 「フェアリージェーン星間旅行会社はどうするんだよ」

 「海賊をプロデュース出来るのよ。『海賊が体験できるのはフェアリージェーンだけ』――もう引く手あまただわ!!」

 「センパイ! それ乗った!」

 すかさず数人から手が上がる。

 「乗ったじゃありません! あり得ません! だいいち部活の顧問で営業なんて、教師に副業は認められてないですっ」

 「あら学校の経営権があれば何の問題も無いわ。現在でも白鳳女学院の資本率はフェアリージェーンが四〇パーセントだし」

 何気に母校の乗っ取りを宣言しているジェニー。新参でありながらヒュー星間運輸を乗っ取ったドリトル家の血は伊達じゃなかった。

 盛り上がるヨット部員を載せて、オデットⅡ世は海明星に還って来た。

 管制空域に入ると、懐かしい声がみんなを迎える。

 「お帰りオデットⅡ世、弁天丸。」

 計器上は大丈夫と出ていても、梨理香さんの肉声を耳にして安心する一同。

 「おいっ誰だ?『海賊船オデットⅡ世』なんてトランスポンダー載せたのは。とっとと戻しな!」

 鬼管制官の怒声が飛ぶ。

 「いけねファイル閉じるの忘れてた」

 私掠船免状を開示するという事は、その船が海賊船であることを宣言する事である。当然動いているときに開いていればトランスポンダーには「海賊船」と表記される。新たな発見に盛り上がってファイルをそのままにしていたリンは慌てて私掠船免状を閉じた。

「銀河帝国艦隊司令部からメールが入ってるよ。『ご苦労様でした。ご協力に感謝します』。お前たち一体なにやらかしてきたんだい」

 「いや、まあ色々と。ははは・・・」

 一二〇年後の帝国統合司令部のライブラリーに、色々と記録されていないことを願うばかりだった。

 

 海明星に帰還して、茉莉香とジェニーは新奥浜空港の最下層、港の最も古いブロックに降りて来た。この宇宙港の元締めがいる中華屋を尋ねるためだ。

 「この降伏文書。植民星連合が正式に併合された時に、銀九龍さんに手渡されたものなのですよね」

 厨房の壁に掛けられてある、古ぼけて煤けた何の変哲もない額を、感慨深げにジェニーが見つめる。

 「ああ、そうだ。俺の若い頃、帝国士官をやってた時にね」

 それこそ茉莉香の幼い頃からずっとそこにあった額。

 「なぜこのまま此処にあったのですか。」

 「何故って、使われなかったからさ。併合って一般には言われているが正確には合併だったんだよ。白鳳海賊団からあのままの流れで降伏を認めてしまうには、帝国政府も都合が悪かったんだろう」

 老コックは懐かしそうに答えて、ニッと茉莉香に微笑み返す。思わずどきまきする茉莉香。

 そう、それは数時間前に茉莉香たちが目にした光景。

 「ああ、植民星連合は銀河帝国に降伏していない。もっとも海賊には降伏したけどね。」

 あっと茉莉香は気付いた。

 スズカが植民星連合政府に宣戦布告して、(偽の)帝国艦隊が出現してあっけなく降伏。でも植民星政府が降伏文書を渡した相手はシラトリ・スズカ。そしてスズカは降伏文書を帝国側に渡した。あの時は帝国との連合勢力として。

 「そして署名が無いまま此処にあるのですね」

 「そうだ。伝説の海賊に託されたんでね。」

 以前ジャッキーが降伏文書を狙ったように、この空白に名前を書けば、かつて植民星連合政府にあった領域は書かれた名前の持ち主のものになる。正式な外交文書である以上、先行された文書の方が帝国の併合より効力を発する。もしそうなれば、なぜそんな事になったのかを詮索されて帝国も困ったことになる。

 託すときスズカが銀九龍に言った言葉の意味が解った。そして彼がこの宇宙港の真の顔役である訳も。食べ物は強いなんてものじゃない。彼は帝国とオリオンの腕の御目付で、これはまさしく今も爆弾なのだ。

 「あの、その・・・。親父さんは、私か小さい頃から知っていたんですよね?」

 茉莉香が思い切って質問した。

 「ああそうだよ。自転車が乗れるようになった時。泳げるようになった時。お前さんが梨理香に連れられてくる度にずっと見ていた――梨理香には内緒にしていたが。本当にこの子がと思っていたが、お前が海賊になるって訪れた時は内心ドキドキしたよ。でも史実通りよくやってくれた。――しかし、ずっと妙な気分だったよ」

 歴戦の戦士がとびっきりのウインクを返す。

 「そうですね、親父さんとは幼いころからの知り合いで、今回の事があって、私も妙な気分です。」

 

 バルバルーサ船長ケンジョー・クリハラが弁天丸の帰還を知ったのは、娘チアキ・クリハラからだった。そしてオデットⅡ世の私掠船免状の事も。

 「そうかい、ご苦労だったな。俺達の間に伝わっていた伝説は本当だったんだな。」

 「伝説?」

 チアキが父親に訊く。

 「旧植民星連合の海賊免状がなぜ今も更新され続けられているか。それは海賊艦隊の旗艦を務めた白鳥号が帝国の私掠船免状を持っていたから。白鳥号と行動を共にした船は、帝国公認と見なされ、だから併合後も星系政府は私掠船免状を更新し続けた。いわば俺達は帝国公認の海賊だ、てね。――私掠船免状は船に与えられる。白鳥号が海賊船籍を外した時、その免状は失効したと思われてたんだがなあ。そうか、まだ生きてたのか。」

 「ミューラ・グラントがオデットⅡ世を狙った理由も、その辺りだったかも知れませんね。」

 バルバルーサの副長ノーラが指摘する。

 「ファウンテンブロウでお嬢さんがブラスター梨理香――加藤梨理香さんと一緒に向かい合った時、ミューラは単結晶を奪うだけなら船を破壊すれば事足りたはずです。でも攻撃しなかった。あくまで白鳥号の船体に拘っていたのはそれが理由です。辺境海賊ギルドが帝国お墨付きの赦免状を手にすれば利益は計り知れません。一二〇年前の盟約を破棄しても余りあるものがあります。――白鳥号が田舎の女子高の練習船になっていると知って、与し易しと思ったのでしょう。しかしそうはならなかった。白鳥号だった時と同様に。」

 「ノーラは、髑髏星の時あそこにいたんでしょ」

 「・・・ええ、伝説の戦いでした。白鳥号が二隻もいたなんて。そのうちの一隻はその後忽然と姿を消した。あの時は弁天丸のゴーストも現れたとかなんとか。これも伝説に輪を掛けました。」

 二の句のつけないチアキをよそにノーラが続けた。

「キャプテンだった加藤梨理香さんと、オデットⅡ世、当時と同様に僚艦だった弁天丸へギルドへの招待状を送ったのも、盟約破りに対する彼女なりのお詫びだったのではないでしょうか。もっとも一度ならず二度までもしてやられた恩讐も多分に含んでのものと思いますが」

 そんな招待状を持ってスカルスターに向かった茉莉香、よくまあ無事だったなと、今更ながら思うチアキだった。

 「でも、あまり公言されるべきではないと思いますよ。いまでも帝国にとっては最高機密に属する事柄ですから」

 二人のやりとりの傍らでケンジョーが言う。

 「だがチアキよ、大っ好きな船長との冒険はどうだった?」

 「ばっ、ばか親父! 何言って!!」

 にやける髭面に、顔を真っ赤にするチアキだった。

 

 姉妹が実家(王宮)へ帰省した際、枢密院侍従長ヨートフ・シフ・シドーは、いつものように恭しく皇女を迎えた。

 跪く老臣を前に、セレニティー連合王国第七正統皇女グリューエル・セレニティーが一言だけ言葉を掛けた。

 「あの折は、大儀ご苦労様でした。」

 彼女の言葉に「お傍に居れず、己の不明に恥じ入るばかりで御座います」と答えたという。

 それともうひとこと言い添えた。

 「ただ、今回の事が王宮の新たな火種とならないことを祈るばかりでございます。こればかりは私ごときで何ともなりませんので・・・」

 二人のやりとりに、今回も置いてけぼりを喰らったヒルデの冷たい視線があった。

 

 「ずるいです」

 「・・・・・・」

 「お姉様ばかり、ずるいです」

 「・・・・・・」

 「ヒルデだってお仕事(海賊)がしてみたいです。そりゃあお姉さまのようにいかないかもしれませんが、私だって茉莉香さんのお役に立ちたいんです」

 「あの~ヒルデ。ヒルデが居てとっても助かったのよ。オデットの出港準備の手配は、貴方で無かったらああはいかなかったわ」

 二人の間で茉莉香がとりなす。弁天丸の失踪を受けてオデットⅡ世が救援に向かうと決まった時、練習航海にかこつけたフライトプランの捏造や航星局への虚偽手続き、積荷その他の手配の差配一切を、グリュンヒルデが取り仕切ってくれた。時間が無いにも関わらずその手際の良さには部員一同讃嘆した。

 しかし一同が白鳳女学院に戻って来てみれば、ずっとこんな調子である。

 「茉莉香さんは黙っていてください。聞けばお姉さまは、白鳳海賊団の提督をなさったとか。いやしくも連合王国の皇女たるものが海賊の提督をするなどど、私もしたいですっ!」

 「ねえヒルデ落ち着いて。今度のオデット(海賊船)の練習航海(営業)には、きっと一緒に行けるから。ですわよね茉莉香(船長)さん。」

 「えええ!?」

 いきなり話を振られて、部員のみんなに助け船を求めるが、みんな「次の営業はなんだろうね」とか「今度は正調海賊コスプレで行こう」とか、茉莉香とは別の方向に盛り上がっている。

 そんな中でグリュンヒルデがとんでもないことを言い出した。

 「茉莉香さんが卒業なされてお姉さまが部長となった暁には、私が護衛をいたしますわ。オデットが海賊するのに弁天丸の代わりが居なくてはなりません。お姉さまが海賊衣でオデットに、私はクイーン・セレンディピティで後衛に就きます。王家に伝わるいにしえの戦衣でもって」

 「まあ」と、手を前に合わせ目を輝かせるグリューエル。

 「この際、王国の名前も変えましょう。セレニティー海賊連合王国! 海賊に和解の道を示されたセレニティーです。きっと解ってくれる筈です。それにオデットⅡ世の優美な姿を見れば国民は納得するでしょう。」

 「だとすれば、連合議会への根回しや国民世論作りなど、しなくてはならないことが一杯ありますね!」

 「時間はあるようで短いものです。まずはお姉さまが部長になりませんと」

 オデットⅡ世の私掠船免状を狙うものは、辺境宇宙だけではなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。