モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第4話

 

 白鳥号のブリッジは、まさに戦場だった。

 球状の大型空間ディスプレイを囲うように配置された各コンソール席は、あるところは崩れ落ち、天井から落ちて来たパイプ類に押し潰され、船体異常を警告するアラームが鳴り響いている。レイアウトはオデットⅡ世と同様なのだが、見慣れた長閑さはどこにもない。

 そして、そこかしこで倒れている傷ついたクルーたち。怪我の手当てに当たる者、ダウンした計器の修復を試みる者。ブリッジはごった返している。

 

 「大丈夫、船長」

 思わず立ち竦んでしまった茉莉香に、そっとミーサが寄り添った。

 海賊船ビッグチャッチの護衛任務の時など、それなりの修羅場は経験したことのある茉莉香だったが、場所がオデットⅡ世と同じでは流石にきついものがあった。悪夢のような既視感に囚われてしまう。

 もしオデットⅡ世が戦闘に巻き込まれたら・・・ここの怪我をしたクルーたちはヨット部員・・・。

白鳥号にはオデットⅡ世のヨット部員たちではなく、弁天丸のクルーで乗り込んだ。戦場の修羅場に女子高生を立ち会わせる訳にはいかない。本当は弁天丸のクルーたちも茉莉香を乗り込ませたくはなかったのだが、海賊船の船長という立場上そういう訳にもいかない。それは茉莉香も承知していた。白鳳女学院の制服でなく、仕事の正装である海賊船の船長服姿でやって来ている。

 「茉莉香。」

 蒼白な茉莉香の考えを読んで、ミーサは声をかける。

 「ここは白鳥号よ」

 「分かってる。――ありがと、」

 すうっと深呼吸し、茉莉香は心を落ち着かせた。

 

 「私たちは、海賊船オデットⅡ世の者です。白鳥号を助けに来ました。船長はどなたですか」

 まだ言葉を出せないでいる茉莉香に代わって、ミーサが年配のクルーに尋ねた。

 「おい、誰かアラームを止めろ。お客さんがおいでだ」

 作業服のツナギを着た初老の男が動ける仲間の一人に命令する。

 けたたましいアラーム音が消え静かになった船内に、怪我をした者たちの呻き声が聞こえてくる。

 「海賊船オデットⅡ世? 聞いたこともねえ名だが。俺は通信担当のロック、救助痛み入る。ご覧の通り取り込み中でね。船長は大怪我を負って動けないでいる。ご無礼をお許し願いたい。俺っちと同じ船が突然現れた時には、正直ビビったが。で、貴方がオデットⅡ世号の船長さまですかい? 随分とお若い船長さん・・・」

 と、自分に声をかけて来た白衣の女性と、隣りに立つ女の子の姿を見て、ロックと名乗る老船乗りは眼を剝いた。

 「お嬢、いったい何の冗談です。船は確かに大変だが、いまはお嬢さんがお父上についてなくっちゃ駄目でしょうが!」

 「え、え、え?」

 自分がお嬢と呼ばれて何のことか判らず、茉莉香は眼を白黒させる。

 「彼女は海賊船オデットⅡ世の船長、加藤茉莉香。あなたたちの知り合いに似ているのかも知れないけど、まったくの別人よ」

 「え、そ、そりゃ。失礼した。あまりに似ているもんだから、てっきり・・・。船長も不在でどうも気が動転してるようだ」

 老船乗りは白髪まじりの頭を掻き掻き、ばつが悪そうに言う。

 「私は海賊船弁天・・えと、オデットⅡ世の船長、加藤茉莉香です。この人は私の船の船医でミーサさん。怪我をしたクルーの皆さんは必ず助けて見せます」

 「有難い。なにしろ人手が足りなくてねえ。一番の重傷者が船長でね。マストの故障をなおそうと船外活動中に攻撃を受けて大怪我を負った。いま娘であるスズカさんが付きっきりで看病している」

 

 ロック爺は二人を船長室に案内した。

 ベッドには包帯でぐるぐる巻きになった中年の男性が横たわり、ツナギの作業委を着た赤毛の少女が男のベッドに突っ伏している。

 「スズカさん。私たちを助けてくれた海賊船の船長、加藤茉莉香さんです」

 ロック爺が声をかけるが、少女からは何の反応もない。ロック爺は二人にぺこりとお辞儀をして、ブリッジへと戻っていった。

 ミーサがベッドに近寄り、男の容態を観る。

 「容態は決して良くないわね。でも必ず助けてみせる」

 ミーサの言葉に、少女はゆっくりと顔を上げた。

 「助かる、の」

 「ええ、大丈夫。ブラッディ・ミーサの名に懸けて、この船の誰も死なせはしないわ」

 言うが早いか、早速仕事の邪魔だと、ミーサは全員を部屋から追い出し、持参のカバンを持ち出して治療を始めた。

 

 

 扉の外に締め出された茉莉香と少女。

 「落ち着ける場所で待ちましょ」

 追い出された二人の足は、自然とラウンジに向かった。

 

 「ごめんなさい。まずお礼を言わなくてはいけないのに、自分のことだけしか見えてなくて」

 「ううん、お父さんが大変じゃ当り前よ」

 人気のないラウンジのテーブルについた二人は、ドリンクサーバーからコーヒーを注いで向かい合う。

「改めてお礼を言います船長。私は海賊船白鳥号船長の娘、シラトリ・スズカ。この船の副長をやっています。・・・副長なんて言ってるけど、まだお父さんの見習い。」

 「私は加藤茉莉香。海賊船の船長やってるけど、まだ新米のペーペーよ」

 自分のことをまだ新米だと言う船長にスズカは驚いた。確かに年恰好は自分とそう違わないようだが。目の前の少女は、自分に背伸びすることもなく、まっすぐ前を見る瞳の輝きを持っている。それは自分を信じる意志に裏打ちされたものだと思った。

 「戦艦同士が撃ちあう戦闘だって、今回が初めてなの。海賊はしたことはあるけど、砲撃戦なんて滅多にないことないし」

 「そうよねえ、戦闘には不向きな船だもんね」

 「電子戦が主なんだけど足が遅いからその分仕込みが大変で。今回だって後方支援の筈だったんだけど」

 「うんうん、太陽帆船だもんね。マストがアンテナ兼ねてるから壊れると身動き取れなくなっちゃう」

 「怪我人も大勢でて・・・」

 「うん大丈夫、うちのミーサの腕は折り紙付きよ。この船の医療施設もそれなりに充実してるし」

 「・・・ねえ、貴方・・・オデットⅡ世の船長さんなんですよね。なのに何でそんなに、この船に詳しいんですか。このラウンジも案内した訳でもないのに自然と足が向いてた」

 「え? ええ、まあ」

 茉莉香は曖昧に言葉を濁した。

 「お父さんのこと、大好きなんだね」

 「え、なによいきなり。一緒に仕事で乗り込んでるだけで、好きとかそんなんじゃ・・」

 なんだか、どこかで見たことのある返しに茉莉香は苦笑した。今頃オデットⅡ世のブリッジではバルバルーサの娘が盛大なくしゃみをしている事だろう。

 「わたし、お父さんの顔を知らないの。物心ついた頃からずっと梨理香さん――お母さんとの二人暮らしだったし、お父さんがいたことを知ったのも、お父さんが亡くなったことを聞いた時に初めて知った位だから」

えっ、という顔でスズカは茉莉香を見る。

 「だから、お父さんていうものがどういうものかは解らない。私のクラスメートで、同じ海賊をしている子がいるんだけど、お父さんの船に乗って一緒にお仕事してて。普段はいつも、あのクソオヤジーとか言ってるけど、お父さんから直接いろんなことを学べて羨ましいなーって」

 「ごめんなさい、お父様を亡くされてたなんて」

 「ううん、そんなんじゃないから。でも大切な人が自分から居なくなったら、私だって梨理香さんが居なくなるなんてこと思いたくもない。だから、お父さん、大丈夫だよ」

 うん、とスズカは頷く。

 「ありがとう」

 

 ミーサの治療でキャプテン・シラトリは小康を取り戻した。まだ意識はないが危篤状態の峠を超えて、ほっと安堵するスズカだった。

 

 

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