モーレツ併合海賊   作:ノナノナ

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第7話

 

 白鳳女学院ヨット部は、スズカを招待した。

 表向きはお互いの表敬。

 どこの誰なのか判らない相手から、いきなり「パーティーしよ♡」では警戒しない訳がない。ましてや白鳥号は緊急事態の中だ。怪我人もいる。ヨット部員たちはまどろっこしいと言っていたが、軍務に準ずる海賊船白鳥号に対しグリューエルが定型な外交文書で送信した。

 父のことが心配で、スズカは気乗りしなかったが、船を助けてくれた相手からのお誘いとなれば無下にも出来ない。船長の名代としてロック爺を伴いオデットⅡ世を訪問した。

 弁天丸と白鳥号のクルーたちによる懸命の復旧作業で、何とか近距離センサーと補助動力が使用できるようになった。まだ作業は続けられている。

 近距離センサーが使えるようになって、モニターを見たロックは訝しんだ。助けてくれた相手の艦が自分とそっくりだったからだ。オデットⅡ世と名乗る艦は白鳥号と同じ太陽帆船どころか細部のディテールまで一致。姉妹艦と言ってもいい。でも白鳥号に同型艦は無く、太陽帆船で海賊しているというのも自分達以外心当たりがなかった。正体不明の海賊ほど危険なものはない。

 ロック爺は助けてくれた相手とはいえ、警戒を怠らなかった。

 

 しかし、

 

 ブリッジに入った途端、周りから「ようこそ」「スズカちゃ――ん」の歓声が巻き起こる。

 「ようこそ。船長の加藤茉莉香です」

 突然のことに言葉を失い、ただ目を丸くする二人。

 目の前に繰り広げられたのは、思い思いのコスプレをした少女たち。見覚えのある海賊船長の格好をした少女と、プリンセスのドレスを纏った小柄な子、王子様の姿をしたボーイッシュな少女が二人を出迎える。それにしても、プリンセスの少女の輝きが凄い。

 

 「驚かせてご免なさい。ご紹介します。私たち白鳳女学院ヨット部部長のリン・ランブレッタ。」

 「ようこそ~、ならず者揃いのヨット部へ~」

 芝居のような抑揚をつけて王子様が歌う。

 「そして、部員のプリンセス・グリューエル・セレニティー」

 「招待をお受け下さり、歓迎いたしますわ」

 プリンセスがドレスの裾を持ち上げ軽く会釈し、完璧な仕草で挨拶する。

 「そしてオデットⅡ世のクルー、白鳳女学院のヨット部員たちです」

 「いらっしゃーい」

 めいめい思い思いの格好をした少女たちが、手を振りつつ二人に声をかけてくる。

 「お招き下さり有難うございます。本来なら船長が挨拶に伺わなくてはならないところですが御無礼をお許し下さい。船長の名代として、副長のスズカお嬢さんをお連れしました」

 ロック爺が周囲に気圧されて後手に挨拶する。スズカは毒気を抜かれてぱくぱくするばかりだ。

 戸惑う二人に、茉莉香は頭を下る。

 「まず謝らなくてはいけません。オデットⅡ世は海賊船ではありません。私たちの学校の練習帆船なんです。で、私たちはそのヨット部員」

 いきなり予想外のことを告げられる。

 「茉莉香とチアキちゃんは本物の海賊だよ~」

 「私たちも海賊したことあるけどね~」

 「余計なこと言わんでいい!」

 仲間の言葉に眼を剝く巫女の格好をした黒髪のメガネ娘。

 「どういうことか、説明してもらえませんか」

 面食らうスズカをよそに、ロック爺は静かに言った。

 「実は、オデットⅡ世というのは、白鳥号なんです」

 茉莉香の言葉に、二人の眼に緊張が走る。

 「ああ、乗っ取りとか謀略とかそういう訳じゃなくて。オデットⅡ世はずっと未来の白鳥号なの」

 茉莉香は、自分たちが一二〇年後の未来からやってきたこと。その世界では白鳥号は白鳳女学院の練習帆船で、自分たちはそのヨット部員だということ。そして自分は未来の弁天丸で海賊船の船長をしていることを説明した。

 「なに、その話。私をかつぐの?何のために?」

 スズカは当然の反応を返してきた。ううんとかぶりを振って否定する茉莉香。

 ――しかし見回したところ船の中に大人の姿はなく、本当に自分と同じ年頃の女の子たちばかりだった。

 「本当に女の子ばかりなのね。でも戦闘空域に、なんで女子高生がいるのよ。助けてくれとのは感謝するけど、いくら仲間が護衛してるからといって戦争中の巡洋艦の前に出ていくなんてどうかしてる!」

 「いや、まあ・・・」

 茉莉香は以前にも、白鳳ヨット部が巡洋艦や戦艦がうじゃうじゃいる中に、単身突っ込んでいったことがあることを思い出した。

 そこで順を追って、前に一度時空振に巻き込まれてこの時代に来たことがあり、自分の時代の弁天丸がその時空震の調査中に行方不明となって、ここに飛ばされたこと。それを追って再びこの時代にタイムワープしてきたこと。そして銀河帝国の宇宙大学の調査船と遭遇した今までの顛末を順を追って話した。

 

 いきなりのぶっ飛んだ話にスズカはついていけない。ただロック爺は何事か考えながら話を聞いていた。

 「この時代に来なすったのは二回目だとおっしゃったが、前の時どこかと通信しましたかい」

 ロック爺が尋ねる。

 「ええ、宗主星の偵察艇が海の明星に近付いてるって、艦隊司令部に」

 「――お嬢、半年ほど前、白鳥号の通信ライブラリーに、打った覚えのない通信が記録されたことがあったでしょう」

 「私たちが外惑星系で通商破壊をやってた時ね」

 「いきなりライブラリーに現れたもんで変だと思ったんですよ。敵のブラフかと思ったんだが、クラッキングにしては痕跡がないし、過去の記録が混乱したには、内容が時間的におかしいし」

 「後で艦隊司令部から『その節はご苦労様でした。』って感謝されたしね」

 半年前、茉莉香たちにとってはそんなに経っていないが、宗主星の偵察艇を追い返したことが、白鳥号の戦歴として残ったわけだ。通信したことはオデットⅡ世に残っていたので艦隊司令部に知らせたわけだが、この時代の白鳥号には、した覚えがない記録がいきなり現れたようだった。

 「あなたたち、だったのね」

 半信半疑のスズカが、疑問の原因だった茉莉香を見る。

 「いえ、あ、あははは」

 「あのあと、どんな魔法を使ったんだって大変だったのよ。『ウィザードの白鳥』なんて変な二つ名を海賊仲間からは付けられるし」

 茉莉香は、頭を掻きながら愛想笑いをするしかなかった。あの時は海の明星を救おうと精いっぱいで、出来るだけパラドックスを生じさせないよう気を付けたつもりだったが、やっぱり影響は出ていたらしい。それが自分に返って来るなんて思わなかった。

 「てことは、本当に未来から来たのね」

 スズカはあらためてブリッジの様子と、その中に集まっている女子高生たちを見回した。

 屈託ない笑顔で、自分と同じ年頃の女の子たちが自分を見ている。そこにはなんの緊張感もない。

 自分とは違う違和感(疎外感)に何かしらを感じたが、自分が救助してくれた相手を表敬している立場を思い出したスズカは、あらたまって茉莉香に尋ねた。

 「改めてお伺いしますキャプテン茉莉香。私たちをこの船に呼んだ理由は、何ですか」

 そんなスズカに、リンが周囲と親指を立てて示し合せると、ヨット部員に檄を飛ばす。

 「とりあえず、スズカちゃんを励ます会、おっぱじめようぜ」

 「へ、励ます会?」

 おーという掛け声とともに、何のことか判らない二人の背中を押しつつ食堂へとなだれ込む。

 「船長これは――」

 「ゴメンね――、みんながスズカちゃんを励ましたいって、パーティーを考えてくれたもんだから――」

 「ちゃんじゃない」

 というスズカの言葉にならない声に、茉莉香は手を合わせながら二人を見送った。

 

 

 「でね茉莉香ったらね、いきなり電子戦やっちゃったのよ。初めての航海なのにね」

 「そうそう、チアキちゃんとのツーマンセル。海賊って後先考えないタイプ?」

 「何言ってるのよ。錨泊空域でビーム砲ぶっ放したあなたに言われたくないわよ。それと、ちゃんじゃない」

 レースクイーンやシスターが、初めての練習航海での出来事をスズカに話している。それにツンとした表情で返す眼鏡の巫女。

 「でも営業の時、ブラスターぶっ放して一番ノリノリだった巫女さんは誰だったかな――」

 「うっさい!」

 真っ赤になりながら、むくれ顔でストローでジュースを飲むチアキ。

 「みなさん、ヨット部と言いましたよね。女子高のヨット部はいつもそんな恰好をしているの」

 「え、いやだあ。そんなわけないよ。これは営業用。海賊を迎えるんだもん。海賊の時の正装をしなくちゃね」

 「海賊?」

 きょとんとするスズカに、茉莉香は私掠船免状を守るためヨット部員たちに助けてもらった時のことを話した。

 へーという顔で聞くスズカ。海賊も時代を経て大分様変わりをしているようだが、やっている手順は自分たちとそれ程差はない。

 

 スズカを囲みヨット部談議に花を咲かせる一同。しかし武勇伝がジャッキー・ケルビンにまで進んだ時だった。

 「さっき敵の前に出ていくって言ってたけど、戦艦や巡洋艦が取り囲む艦隊の中に、単身突っ込んでいったこともあったよな」

 ぶうっと、リンの言葉に、飲みかけのジュースを吹く。

 「あなたたち女子高生でしょ。いったい何やってるの。私たちでもそんな無茶はしないわ」

 「まあ、梨理香さんだったから出来たんだろうな。死中に活を見出すてやつ? 状況判断と指揮がとにかく的確」

 「茉莉香のお母さんなんだけど、伝説の女海賊キャプテン・リリカ。ぜったい相手が攻撃できないって状況を上手く突く!」

 「あん時は、この船をなんとか守ろうと、俺たち必死だったもんな」

 腕を組み、遠くを思い返すように語るリン。それに頷くヨット部一同。

 海賊ギルドと辺境星域艦隊との攻防戦のことだが、そんなに決死戦の悲壮感あふれる雰囲気だったか、茉莉香は愛想笑いをするしかなかった。しかし、梨理香の判断は正確だったし、呑気気儘なヨット部員たちをあそこまで引っ張ったリーダーシップは本物だ。カリスマと言っていい。ヨット部員たちは口々に梨理香の凄さを騙っていた。茉莉香はこそばゆさを感じつつも、実際その評価は茉莉香自身も変わらない。改めて梨理香さんの凄さを思うのだった。

 スズカは梨理香のことを単純に凄い人だと思った。自分が目指す海賊として理想に近い。自分の力量と比べて雲の上の人という印象を受けた。一方で、この子たちは何なんだろうと思った。自分が物心ついた頃から独立戦争の匂いはしていて、それほど深刻ではなかったけれど平和という言葉は遠いものだった。少なくとも学校で海賊を語れるものではなかった。海賊行為は戦争そのものだったから。でも、ここにいるとそんな海賊行為も戦争も、なんだか遠くに感じられた。

 同じ年恰好の子たちに囲まれたスズカ。表情に、白鳥号での思い詰めたような険が取れるを見やり、ロック爺はほっとした。同時に、あの若さで全てを背負わなくてはならない彼女の不憫さを思った。同じ年頃で、戦時に出会ったばかりにこうも違うのか。自分があの年頃だった時はどうだったろう。

 「オデットⅡ世って、本当いろんな奴からちょっかい出されてるよね」

 「でも、とてもいい船です」

 「私たちの百年のちまで残してやらなくちゃ、いけませんものね」

 「茉莉香は、ほんとジェニーと同じことを言うんだな」

 自分の乗っている船が百二十年後まで伝えられてて、また次の百年まで伝えようとしている。そんなバトンの受け渡しにスズカは感動した。

 「で、お願いがあります」

 妖精の姿をしたアイ・ホシミヤの言葉に、みんな一斉にスズカを見詰める。

 「このオデットⅡ世を、白鳥号を私たちの時代まで伝えてください」

 ヨット部一同の視線にさらされ、たじろくスズカ。

 

 

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