能天気ともいえるヨット部員たちの陽気に当てられて、スズカは少し疲れを覚えた。
ふうと息を吐き、喧騒から少し離れてテーブルに着く。自分とそう年の変わらない女の子たちが、ワイワイと本当に心の底から騒いでいる。自分があんなように騒げたのはいつだったかな。と、ふと思った。
自分が乗り込んでいる船の仲間たちも、みんないいヤツだし、陽気だし、海賊した後の打ち上げも、今のように飲んで騒いで楽しいものだ。騒がしさなら彼女たち以上だろう。あれはもう乱きち騒ぎだ。でも、何か違う。
――ああ、そうか――
彼女たちの顔を見ていて、ふと気づいた。
――いまの時間を、思いっきり楽しめるからだ――
そう、私たちの乱きち騒ぎには出口が見えない。お仕事が終わっても状況が変わるわけでもない。戦争にどっぷり嵌まっていて戦闘から戦闘のへの繰り返しなだけ。海賊は自由って言ってるけど、ぜんぜん自由じゃない。星とか総力戦とかに縛られて身動き取れなくなっている。
彼女たちには、そんなしがらみが無いから、あんなにのびのび楽しめるんだ。
「あなたたちの方が、よっぽど海賊らしいわ…」
ふと漏れた独り言に、茉莉香が「?」の顔を浮かべて、スズカの隣りに座った。
そんな茉莉香にスズカは尋ねた。
「いろんな奴からちょっかい出されてるって話してたけれど、聞けば結構危ない場面じゃない。宗主星の偵察艇を相手したのだって、向こうは本職の軍人よ。当然偵察艇だって武装してる。この船は昔――私の時代と違って丸腰なんでしょ。攻撃されるって心配しなかったわけ?」
「うーん、まあ心配しなかったって言えば嘘になるけど、あの場合私たちが撃退しなくっちゃ、余計ヤバイ事態だったことは確かな訳で。出来るのがオデットⅡ世しかいなかったからしただけよ」
「それと七つ星共和連邦と辺境海賊ギルドと一戦交えるって何。しかも先頭切って突っ込むなんて正気の沙汰じゃないわ!」
茉莉香とスズカの会話に、チアキ・クリハラがスズカの横に座って答えた。
「あれは梨理香さんが、敵が欲しがっているのは白鳥号だったオデットⅡ世だから攻撃は出来ないって踏んでいたから。最もリスクを冒さず敵の機先を制するには、それがベストだったわ」
………………。
「あなた、どうしてそんなに即決できるの。周囲の状況だって千差万別するでしょう」
二人の言葉を聞いて、まじまじと茉莉香とスズカを見詰めるスズカ。
「ううん、即決なんて出来てない。いつも悩んでばかり。でも悩んだって状況が変わるわけでもないし。決断は、自分の考えたベスト。って思うようにしてる。梨理香さんからの受け売りなんだけどね」
「私はともかく、茉莉香は判断が早いわね。経験もないのに大人達に舐められないようにって、いきなり電子戦始める位だから」
チアキの言葉に、面目ないと頭を掻く。
「梨理香さんて、あなたのお母さんなんでしょ」
「私を生む前海賊やってて、今は海の明け星ステーションの管制官してる。私は管制している梨理香さんしか知らないけど、海千山千の船乗り相手にバッサバッサと切り回してる」
「海千山千の女子高生を、艦隊行動取れる位に育て上げてるしね」
ツンとした顔で付け加えるチアキ。
「聞けば聞くほど、梨理香って人が凄い人だって思う。あこがれちゃうわ。茉莉香がお母さんのこと、梨理香さんって呼ぶのが判る気がする。きっとすべての目標とする人なんでしょうね。私にとってお父さんは教師、先輩。ロクデナシの親であって目標では無いかな」
うんうんと腕組みして頷くチアキ。ロクデナシの親というところが大いに賛同できるらしい。
茉莉香は、いま頃梨理香さん、盛大にくしゃみをしているだろうなと思った。
「わたしは学校生活って経験がないの。戦争がいよいよ激しくなって、中学を卒業すると同時にお父さんの船に乗り込んだから」
「周りは自分より経験豊かな大人たちばかり。副長なんて言ってるけど、実際はお父さんの見習い。だからそれに安住しきっていて、いざお父さんが倒れたら何にも出来なかった」
「本当のこと言うと、あなたがたが羨ましい。頼れる大人ばかりか、気の置けない仲間たちに囲まれてるんだもの」
「だから、あなたたちを見て思った。自分の孫や曾孫の世代たちに、笑顔で暮らしてもらいたい。そうすることが私たちの使命だって」
「ありきたりの言葉だけど、いま自分たちが出来ることをしなかったら、白鳥号も、海賊も、今のあなたたちも。みんな存在出来なくなっちゃうんでしょ。あんなの見せられちゃったら、出来る出来ないじゃない。するしかないじゃない」
「スズカちゃん!」
茉莉香はスズカの手を握った。
「それに、時間は私たちの味方よ。それと、ちゃんじゃない!」