BEAST & GUNSLINGER -51番目の世界- 作:Colonel.大佐
閉じた瞼の向こうから、明かりが消えた瞬間、ガスの立っていた地面が一気に消失した。焦った瞬間、軍用ブーツの靴底が柔らかめの地面を踏む。
急いで目を開いたガスは、真っ暗闇の中で思わず声を上げそうになった。だが、気を取り直したガスは一息つくと、闇に慣れ始めた目で辺りを見回した。
ヘックスとライファの2人の姿も見える。ひんやりとした空気が辺りに満ち、微かな風がガスの毛並を撫でていた。
「ヘックス、ライファ、無事か?」
『ああ、特に問題はないよ』
「大丈夫です」
2人はすぐに返事を返した。
ガスは、後ろを振り向く。風が入り込んでいる方向を見ると、日の光が微かに流れ込んでいた。
恐らくは、今朝空けられた大穴だろう。そこへ向かって進んでいけば、封鎖している市警察から銃撃を浴びせられる事になるのは明白だった。
「とにかく全員無事で何よりだ……」
『移動魔法程度でビビっているようでは、まだまだ先が思いやられるな』
「そうですよ、魔法使いならこれぐらいはやれて当然です」
2人から完全にガスがビビっていた事を看破され、当人は思わず恥ずかしくなってしまった。
ガスは無言で手にしたAA-12散弾銃に取り付けた、フラッシュライトのスイッチをONにする。明白色のライトが、地面を照らし出した。
そこで、ガスはようやく足元に転がった骸骨たちと鎧や剣の残骸に気がついた。
「……何だこりゃ」
『今朝死んだにしては骨になるのが早すぎるかな』
ヘックスがとぼけて見せるが、ライファは興味深そうに白骨死体を眺めている。
「随分昔に空けられた坑道みたいですね……多分、ダンジョンで盗掘を働こうとした人たちの成れの果て……でしょうか」
「剣程度じゃたかが知れてるからな……よし、行くぞ」
3人は、ようやく前進を開始した。
暫く歩き続けると、今度は新しい白骨死体が現れた。
ガスは足を止めて、注意深く観察した。
先ほど見た死体と違い、何か違和感のようなものを纏ったそれを見たガスは、違和感の正体に気がつかないでいたが、すぐにある事に気がついた。
「この死体、鎧も何も持ってないな」
『本当だな』
ヘックスも興味深々で死体を見つめている。
ガスは頭蓋骨を手に取る。頭頂部を破壊されたそれに、小さな丸い穴が穿たれている事に気がついた。
そして、周辺の地面へライトの光を走らせて、ある事に気がついた。
「薬莢が落ちてる……」
『何だって?』
ガスは、屈んでから地面に転がった薬莢を手に取った。それは、ロシア製のカラシニコフ突撃銃の薬莢だった。地面には他にも拳銃弾や散弾銃のショットシェル、空になった弾倉なども転がっている。他はともかくとして、カラシニコフ突撃銃は市警察が使用していない武器のひとつだった。
嫌な予感が的中した、先客がいるのだ。
「……クソッ、先を越されたか」
『進んでみない事には分からない、行こう』
ヘックスはSCARを片手に持ちながら、歩き始めた。
「ライファ、ヘックスの前にいろ、前方は俺が守っとく」
「了解です」
ライファは、グロック26を両手に握りながらヘックスの前に立つ。ガスは、AA-12を構えながら、そのまま薄暗い坑道の中を進んで行った。
しばらく坑道を進むと、やがて切り崩された壁にぶち当たった。頑丈な石が積み上げられたその壁の向こうには、ぼんやりとした松明の光で薄暗く照らされた、紛れも無いダンジョンの一部が覗いていた。
『こいつは驚いたな』
「ま、ダンジョンにしちゃ鉱山みてえな場所だと思っていたが……これがあったとはな」
ガスが、穴を抜けてダンジョンの床へ立った。
すかさず、周囲に銃口を向けて敵がいないか確認する。が、あまりにも暗く、フラッシュライトの光も奥まで届かない。
ライファとヘックスが後に続く。2人も、だだっ広いダンジョンの通路へと躍り出て、感嘆の声を上げる。
一方で、ライファは何か思う事があったのか、腰のポーチから1枚の札を取り出すと、それをダンジョンの壁へと不意に押し付けた。
それを押し付けた瞬間、スパークのような音が鳴り響き、札がじりじりと燃えて行った。
「ひゃっ!?」
思わず手を離したライファは、すっかり真剣な面持ちを浮かべた。
『凄いな、今度は何の魔術だ』
ヘックスがその様子を見てライファに声をかけるが、ライファは先ほどよりも余裕の無さそうなトーンで話を始める。
「まずいです……魔術障壁がありますよ」
「魔術障壁?」
ガスは何の事だかさっぱり解らなかった。流石のヘックスも知らないのか、説明して欲しいとライファに詰め寄る。
「このダンジョン全体に魔術を阻害する障壁……バリアみたいな物が張られているんです。今のは設置型のトラップ魔法の札だったんですが……」
「小細工は通用しない場所、か。どうすれば解除できる?」
ガスの問いに、ライファは少し思案してから答える。
「魔術も機械と同じく、どこかで指令を出して動かさないといけないんです。その指令を出しているもの……例えば魔方陣とか、魔術具を破壊すれば、止まると思います」
『ちなみに移動魔法は?』
ヘックスの言葉に、ライファは首を横に振った。
「……出入り口はひとつだけ、か」
ガスは一瞬だけ頭を抱えた。だが、すぐに気持ちを切り替える。
「ま、奥までたどり着いてぶっ壊せばいいだけだろ。後はお宝を持って移動魔法で家まで帰ればいい、どうせ移動魔法がなくったって来た道戻ればいいだけだろ」
『また強がっちゃって』
ヘックスは呆れた口調だが、そのままガスの肩を叩いた。
『でも、強がりがいる方がチームとして有難いよ。私は乗った』
「行くぞ、こうしてるうちにも時間が……」
ガスが歩き始めようとした瞬間、闇の向こうからカタカタと音が聞こえてきた。
音の方向へガスが銃口を向ける、続いてヘックスが、SCARの銃口を向け、ライファも慌ててホルスターからグロックを引き抜く。だが、反対側からも同じ音が響きはじめる。
やがて、その音が1つ、また1つと重なり始めて数を増やし始めていた。ヘックスは、ガスと反対側の方向へ銃口を向ける。
『……ライファ、私の後ろに隠れて』
ヘックスが指示を飛ばす。ライファはすぐにヘックスの後ろへ隠れた。
少しの間の後、剣を持った動く骸骨が、暗闇の向こうから這いずり出た。
「マジかよ……!」
ガスはニヤリと笑いながら、AA-12の引き金を引き絞った。