元踏み台ですが?   作:偶数

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アリサsp

 寄生という言葉がよく似合う人生を歩んでいた。

 無頼という言葉がよく似合う生き方を探している。

 折れた心は時間によって歪に修復される。

 消えた愛情はその意味を理解しても、絶対に戻ってこない。

 俺は忘れ去られた人形のような存在だ。そして、その人形は怨念のようなものに縋り付き、身体を動かす。生きる意味を持たない人形。生きた意味を含む屍よりも質が悪い。呪い、そう、例えるなら呪いのような存在。誰かを妬まなければ、誰かを恨まなければ、誰かを憎まなければ、動くことすら許されない存在だ。

 だからこそ、嫉妬の感情に頼らない生き方を探している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 街というものは変わらないものだ。

 もう、十四年もこの街で生活し、戦い、傷付き、逃げ出し、姿を晦ます生活を送ってきた。

 この街は俺に生きる意味を与え、そして、この街の人間が俺の生きる意味を奪い去った。

 街は人に優しくする。だが、その街に住まう人間は個体差があり、その殆どが冷徹で、親切なんていう言葉からかけ離れている。少なからず、俺に優しさなんてものを与えてくれた人は父親を除いたら両手の指で数えられるかどうかの瀬戸際だ。それくらい、人間という生き物は優しくない。そこら辺で寛いでいる野良猫の方がまだ優しいかもしれないな。

 

「優しい人間になりなさい。人を笑って助けられるくらいの優しい人間になりなさい」

 

 なれません、絶対に慣れません。

 下心が無ければ、人間は行動を起こしません。恋だって、思いだって、下心がついているだろう。

 所詮は、対価を求めるのが人間のあり方なのだから......。

 今も昔も、対価を求めている俺だから。

 まあ、誰も正当な対価なんて支払ってくれなかったが......。

 でも、対価に似合った働きはしてきたつもりなんだぜ?

 叫び声が聞こえた。路地裏の方からだ。

 

「美しい花に群がるのが虫けら共の性ってのは知ってるが、あまりにも群がり過ぎてないか?」

 

 路地裏で聖祥大附属中学校の女子生徒に群がるガラの悪い男達。

 にしても、この金髪のお嬢さんもどうして、こんな路地裏に来てしまうのかね、こういう輩の巣窟だってわからんのかね? まあ、中学生のお嬢さんなんてそんなものか。スリルを楽しんで、最終的には壊されるお年頃ってやつなんだろう。

 

「一つだけ言うが、俺はPTSDだから結構精神的に歯止めが効かないタイプの人間なんだ。前歯を二三本へし折る可能性があるから、その辺りはご了しょ――グフッ!?」

 

 うわ、久しぶりに鉄拳制裁を喰らいましたよ、痛いですわ。やっぱり人間って怖いですわ。

 

「口ほどでもない――ガハッ!?」

「舐めたこと言うなよ、カッコイイセリフを囁いた瞬間に鉄拳制裁とか頭おかしいだろ。おまえは変身中の魔法少女に攻撃を仕掛けるか? 仕掛けないだろうが、それくらいの配慮をしないと人間としての品格を疑われるぞ、霊長類の恥晒し、チンパンジー以下、二足歩行はレッサーパンダでも出来るんだよ」

「歯、歯が......」

「大丈夫、歯が二本抜けたくらいで物が噛めなくなるわけじゃない」

 

 黄色く変色した前歯二本を地面にポロポロと落とす。

 こんな黄ばんだ歯で女が寄ってくると思っているのか? 女ってのはな、白い歯の男に魅了されるんだよ。

 さて、ここで攻撃を仕掛けられるなら今時の若者にしたら根性があると評価してやるが、さて、他の奴らの表情を伺ってみる。ああ、怯えてますね、そら、一瞬で前歯を抜き取れるくらいの猛者とやりあう勇気なんて無いでしょう。正直、骨の無い奴らと喧嘩する気にもならんし、早く逃げてくれることを祈るわ。

 

「こ、こんど見つけたら殺す......」

「最低でもヤドクガエルの毒を塗ったナイフくらいは用意しろよ、じゃないと――俺は殺せないぜ」

 

 いや、最低でも核兵器を用いないと殺せないかもな。

 まあ、そのうちに自殺するだろう人間を殺すなんて、無意味だろう。

 

「あ、あんた......」

「お嬢さん、こんな路地裏で何をしてたのかは知りませんがね、こういう場所はあんなのの巣ですから大通りを歩きましょうね。これ、優しい中学二年生の少年の助言ですわ」

「りゅ、龍崎?」

「......まさか、バニングスか?」

 

 無言でその場を去ろうとした。だが、お気に入りの人間性長袖Tシャツの襟を掴まれる。この人間性Tシャツは世界に一つだけの一品だから出来る限り大事に着たいと思ってるんですけど......。

 

「なあ、俺に何か用事があるのか? 一応はおまえの天敵の一人だろうが......」

「......た、助けてもらったんだからお礼くらい言わせないよ!」

「いらない。お礼なんて必要ない。優しい人間は対価を求めないんだ」

 

 下心が存在しない善行。案外、出来るもんだな......。

 でも、俺は優しい人になれそうにない。

 俺は、悲しい人か哀れな人にしかなれない。

 

「じゃあ、どうやったらお礼させてくれるの?」

「俺のお気に入りの人間性長袖Tシャツの襟を放してもらえますかね、話はそれからですよ」

「逃げるでしょ?」

「エスパー? フーディンの親戚だろ君」

「誰がポケモンの親戚ですって?」

 

 さて、本格的に俺を逃がす気は一切無いようだ。

 もう、勘弁してくれよ。

 俺は、もう、この世界の住人と深い関係になりたくないんだよ......。

 

 

 初恋は誰だっけ? 普通の青少年なら母親か自分の姉か妹くらいだろうが、俺の場合は目の前で優雅にアイスティーを飲んでいる少女と後二人だった。

 ホロ苦い青春の香りなんて漂わない。漂うのは、自分の愚かさと哀れな自分の過去だけだ。

 まあ、でも、彼女に恋心を抱いたのは間違えじゃない。

 

「アンタ、変わったわね」

「そうか?」

 

 変わった、変わるってなんだ? 俺は変わってないんていない。俺は変えられて、染められて、地に落ちて、思い切れる時を待っているだけの身、変わったと表現するには酷く滑稽で、やさぐれているだけだ。

 まあ、それでも、こいつの目から見て俺は酷く変わっただろう。あんなにギラついた目をしていた俺がこんなにも生気のない表情をして、そして、こんな変なTシャツを着ているんだ、変わったやつ、変態としか思わないだろう。

 ......にしても、こいつも酷く成長したもんだ。

 西洋の血を持っているだけあって金色の髪と欧米系に多い翠眼を持ち合わせている。それを例えるなら西洋人形、これに限るな。そう、上品で、品格がある西洋人形。俺のような呪われた日本人形のような奴とは違う。

 彼女の名前はアリサ・バニングス。なんというか、昔好きだったが、嫌われていた人だ。

 

「ええ、変わったわよ、だって、俺の嫁とか言わなくなったし」

「そら、おまえさん、約四年間も疎遠になったんだ。軽口を叩ける程、俺も失礼な人間じゃない」

「あら、自覚あるの」

「あるさ、元々は比較的に常識人なんだからさ」

 

 バニングスは悪戯っ子のような純粋無垢な表情になる。

 変わらないもんだな、こいつのこういう顔、よく見てた。まあ、俺に向かう顔は般若のような激怒の顔だけだったんだが、まあ、今となれは良い思い出だ。語り草ってやつさ。

 

「さっきはありがとう。感謝するわ」

「お礼はいらないと言っただろ。優しい人間は対価を求めないんだ。それに、感謝するなんて言われるほど、出来た人間じゃないしな」

 

 それに、一度だって感謝したことないだろ。感謝なんてするな、気が狂う。

 

「変わったわね......」

 

 窓の外を見て黄昏れていますね、黄昏が似合うような年頃でもないだろうに。

 ......でも、酷く悲しそうな表情だ。

 こんな表情を見ていたら言葉を大量に吐き出す気力が削がれる。本来なら、もう少し棘のある言葉を投げつけている筈なのに、何故だか強い言葉を使えない。これが、惚れた男の弱みというものなのだろうか......?

 堅苦しい雰囲気に嫌気がさしたので、声を掛けてみる。

 

「何かあったのか?」

 

 数十秒の沈黙、重々しい沈黙だ。

 喋るつもりが無いのなら、早く帰らせてもらいたいものだ。

 もう、俺は報われない何かを感じたくないのだ。

 

「なのはと光が付き合うことになったのよ」

「アイツと高町がか?」

 

 ええ、と、心底暗い表情で、声色でそう告げる。

 そうか、あの野郎と高町がね。まあ、雰囲気と付き合いの長さを考えたらアイツと高町が付き合うのもわからなくはない。だが、目の前に存在している一人の少女にしてみたら死活問題ともとれる。人生を狂わせる可能性すら浮上する――死活問題。

 

「ねえ、愚痴を聞いてくれる?」

「いいよ、俺も暇だし」

 

 ありがとう、その言葉で少しだけ、いや、物凄く寂しい気持ちになった。別に、ありがとうの一言くらい聞いたことがある。多分。でも、心の底からのありがとうはこれがはじめてかもしれない。だからこそ、虚しく、悲しい気分になってしまう。

 ああ、気が狂う。

 ――これだから旧知の間柄の人間と話すのは嫌いなんだ。いや、元々から人と話すのは嫌いなんだが......。

 

「はじめて会ったときはあんまり良い印象じゃなかったけど、ひかると一緒にいるようになっていくうちにわたしの中に何か温かい感情が目覚めたの、多分、なのはやすずか、フェイトやはやて、この全員がこんな気持ちだったと思う。で、その気持ちが恋心ってわけ、少女漫画みたいでしょ?」

 

 少女漫画、ね、少女漫画と表現するには、あまりにもお下劣過ぎる。そう、例えるならライトノベル、一人の主人公に多くの少女が群がる、そんなお下品で、その後の事なんて何一つ考えていないストーリー、少し大人びた子供の餌だ。そうさ、奴はそういった物語の主人公に酷似している。だからこそ、目の前に存在している少女が悲しそうな表情をしている。そして、それを奴は知らない。――アイツは知る筈がない。アイツは――物語の主人公なのだから。ヒーローはそれ以外のオーバーの存在を理解していないんだ。そうさ、彼女のことだって理解していない。それがヒーローってやつだ。

 バニングスは溜息を吐き出した、そして、詰まった口をもう一度開く。

 

「でね、わたしがその気持ちが恋心だって一番最初に気が付いたのよ、だから、ひかるに好きになってもらおうと、ひかるに愛してもらおうと一生懸命努力したわ。例えば髪を切ったり、ひかるの前では優しい口調になったりして、でもね、ひかるは全然振り向いてくれなかった」

 

 表情が暗くなる。泣きそうだ。

 だが、俺は彼女に慰めの言葉をかけられる程、出来た人間でもなければ、そんな言葉を安易にかけられる立場の人間でもないのだ。だから、何も言わないで、ただ、彼女の言葉に耳を傾けることしか出来ない。してはいけない。もし、慰めるとしたならば、すべての話が終わった時だ。そう、聞き手に回る必要がある。......寡黙というわけじゃないんだがな。

 

「そしたらね、ひかるはなのはやフェイト、はやてと仲良くするようになったの。もちろん、わたしやすずかも仲良くしてたわよ、でもね、ひかるにとって大切な存在は三人、その中での一番はなのは、最初からわかってた。出来レースだったのよ、ってね」

 

 輝く雫が頬を伝って流れ落ちた。

 何も言えなかった。この瞬間に声をかけなければならない筈なのに、彼女の悲しみを理解してやらないといけないはずなのに、それなのに、それなのに、俺はたた、彼女の言葉に聞き入っていたのだ。何も言えないで、言いたくなくて、でも、彼女の言葉の意味を深く、誰よりも理解していたのだ。

 

「でもね、わたしは絶対に諦めなかった。だって、出来レースでも本気でやるのがわたしだもの、だから、負けが見えてても、必至でひかるを追いかけて追いかけて、三人より好きになってもらおうと頑張った――でも、無理だったのよ」

 

 ポケットからハンカチを取り出して、静かに彼女に手渡した。

 気が利くじゃないと静かにそれを受け取り、溢れ出る雫を拭き取る。でも、止まる気配は感じられない。

 そうさ、彼女はアイツのことを愛している。だからこそ、アイツのことで泣けるのだ。俺は、泣けたかな? 他のことで泣いてたのような気がする。それでも、俺は......いや、やめておこう、未練たらたらの男なんて――女々しいだけだ。男は、前と左右だけを見るんだ。後ろは、見るもんじゃない。

 

「なのはとひかるが付き合って、わたしは喪失感に襲われたわ。で、フラフラと町を歩いていたら」

「ああいう奴らに絡まれて、俺に出会ったと?」

「運命、感じちゃうわよね」

「いや、ただの偶然だろう」

 

 そうさ、偶然という名の必然。運命とでも言えばいいのだろうか? 出来過ぎている。だからこそ、神様という存在は糞みたいに憎く、そして、優しい。だからこそ、俺は神という存在が司る、人間の運命という奴を嫌っている。もし、運命が本当に存在するのならば、それは、とても滑稽で、そして、虚しい物じゃないだろうか。

 口にお冷を含んで、息を吐き出す。

 

「なあ、おまえは本当に近藤を愛していたのか?」

「当り前よ!」

 

 怒声に近い声、それが響く。

 当たり前、その一言が心に突き刺さる。そうさ、そうだよな、そうなんだ。

 

「――じゃあ、今も近藤を愛しているのか?」

「えっ?」

 

 愛していたのかと愛しているのか、似ているようで全然違う言葉、彼女はその言葉の意味を理解しようと頭を回した。そして、数十秒間の沈黙の末に答えを見出した。

 

「――好きよ、大好き」

「それならそれを伝えればいいさ、昔の俺はそんな風な気持ちでバニングスに告白してた」

「それマジ?」

「大マジ」

 

 ごめん、という申し訳無さそうな言葉を投げてくれた。

 出来レース、そうさ、俺の戦いも出来レース。所詮はオーバー、つまりはその他の存在である俺には、アイツと勝負する土俵すら存在していなかったんだ。ああ、悔しい、悔しい、悔しい限りだ......ふっ。

 

「でも、ひかるはなのはと付き合ってるのよ」

「いいじゃないか、彼女が二人居ても、近藤は優柔不断な男だから案外受け入れてくれるかもしれないぜ」

「アンタだったら?」

「俺は案外一途だから、告白してOK貰えたら他の女の尻は見ないよ」

 

 投げやりで、あやふやで、匙を投げるような答えだ。でも、俺にはこの答えしか彼女に与えることができない。何故なら、彼女の心を癒せるのは――アイツだけだからだ。

 彼女はニヤリと笑って、それもそうね、と、告げた。

 そうさ、それでいいんだ。それが最高の選択肢なんだ。それが――一番、幸せに等しい選択肢なんだ。まあ、多分の段階だけどさ......。

 

「ほんと、アンタは変わったわね」

「人間は進化して何ぼさ、バニングスも昔と比べたらだいぶ変わってるよ」

「具体的に?」

「髪切った?」

「何で疑問形なのよ!? まあ、切ったけど」

 

 彼女は短くした髪を撫で下ろした。その髪は宣戦布告の証、一人の男を奪い合う女と女のキャットファイトに参戦するという証だ。ああ、妬ましい。そして、羨ましい。でも、俺にはその資格はない。あるのは、それを傍観するか、それを見る前にこの世界を去ることだけだ。

 

「じゃあ、アンタはひかるが案外受け入れてくれると思うの?」

「ああ、アイツはそういう奴だろ? 他人の好意に一切気付かなくて、ようやく気付いても全然、そのうえ押しに弱い面もあるし、優柔不断だ。男の俺から見てみたら最低の男、なんであんな奴がバニングス達に好かれるのかがわからない、多分、死んでもわからない。俺は――馬鹿だからさ」

 

 バニングスは笑った。

 笑うなよ、悲しくなる。

 

「ご注文のいちごパフェとチョコレートパフェにございます」

 

 注文から十分程たってようやく注文した商品が届いた。因みに、俺がチョコレートパフェで、バニングスがいちごパフェである。

 

「あら、チェーン店のパフェにしたら美味しそうね」

「その分、量は並だがな」

 

 パフェ専用の長いスプーンを使いビターなチョコレートシロップのかかったソフトクリームを口の中に入れる。

 彼女の方も一度話を中断して赤く色付いたいちごをおいしそうに頬張る。

 

「でも、アンタに会えてよかったわ」

「おまえ、俺のこと嫌いだっただろ」

「昔の話よ、女の子は忘れやすいのよ」

「そんなもんなのか?」

 

 アリサはフフフと笑い、そういうものよと告げた。

 食べ進めるうちにバニングスの視線がパフェから俺の私服にシフトチェンジする。

 

「ねえ、今日は平日なのに何で制服着てないの? 市立でも、私立でも下校時間は大差ないんじゃないの」

「ああ、病院に行ってたんだよ......」

「病気? 持病とかあったかしら......」

 

 正直、これは話したくないが、まあ、隠しても仕方がない。

 まあ、当たり前なんだ。俺という個人が今の今まで存在している時点で、こういう病気になるのは。

 

「――PTSD、まあ、精神病の一種だよ」

「......それって、戦場帰りの兵士とかが――っ!?」

 

 処方されている精神安定剤と夢を見にくくなる睡眠導入剤を見せる。

 バニングスは申し訳無さそうな表情になり、下を向いてしまう。

 そらそうさ、俺がどういう立場だったのか、ある程度は理解している。いや、理解していなければ可笑しい。だからこそ、この病気を患っている俺のことを申し訳無さそうな顔でしか見ることが出来ない。いや、直視することすら出来ないかもしれない。

 ――それくらいの立場に、俺は存在していたんだ。

 

「まあ、色々と花火みたいにどっかん! って、やりまくったからさ、色々とツケが回ってきている。寝ると、まあ、救えなかった人達の顔が浮かんできたり、歩いてる途中で嫌な思い出がフラッシュバックしたり、散々だ。でも、俺は、今を生きてる。それだけで十分さ、まあ、いつ、いかなる時に尽きるかはわからないけどさ。花火みたいに......ってね」

「......ゆ......さな......わよ」

「ふぇ?」

「許さないわよ! 絶対に......死ぬのは許さないわよ!」

 

 真っ直ぐと透き通った瞳で俺のことを見つめる。

 そして、俺のデコにデコピンをする。

 

「アンタはわたしの結婚式に絶対に呼ぶって決めたんだから。結婚式が終わるまで、絶対に死なせはしない。お願いじゃないわ、命令よ!」

「......呆れる限りだ。俺は約束破りだぜ? 指切りしようが、命令されようが、期待を裏切る」

「それでも、アンタは――龍崎一人は今を生きてるんでしょ? 未来も生きなさいよ......」

 

 呆れる限りだ。俺の辛さ、なんて、知らないくせによぉ.......。

 俺が、自分勝手に生きて、そして、代償を求められてるってのによぉ......。

 この手で殺めた人間の血で体が、心が、汚れてるってこともわからないでよぉ......。

 でも、はじめてだ。

 ――未来を生きろなんて言われるのは!

 

「約束はしない。でも、頭の隅っこに置いておくぜ」

「アリサ様からの命令に逆らう気?」

「時が来たら逆らうさ、俺は――狂犬だからな」

「あら、偉く弱々しい狂犬だこと」

「違いない。でも、狂犬だからこそ、噛みつけないかもな......」


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