元踏み台ですが?   作:偶数

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 みんな大好き鬱展開! 多分、鬱を書かせたらハーメルン上位に浮上すると思う作者がお送りします!!


アイリス 上

 アイリスは液体の中で目を覚ました。ユニゾンデバイスとして作られた彼女は虐殺王デイヴィット・マーカスの恋人であったミリア・ヘイレーンのリンカーコアを使用して作られたデバイス。虐殺王が実際に使用していたデバイス。

 アイリスはペンダントの状態から人間の形、小人程度の大きさに変わり、自分が入れられている容器を何度も殴りつけて音を立てる。すると一人の女科学者が駆けつけてきた。急いで容器の中の液体を抜き、扉を開ける。胸に付けられている名札には、ベルカ語で近藤由紀子と書かれていた。

 

「ゲホッゲホッ......最悪の目覚めだわ......」

 

 アイリスは近藤博士を睨み付ける。が、近藤博士は酷く興奮した顔でぶつぶつと何かを呟いている。何を言っているのか理解出来ないアイリスは何を言っているのだろう、こいつは頭が可笑しいのではないだろうかと首を傾げる。

 

「失礼、興奮して日本語で話してしまったわ。どうもこんにちは義王のデバイス、アイリス、旧ミリア・ヘイレーンさん」

 

 ベルカ語で挨拶する近藤博士に少しだけ不信感を感じる。昔からあのクソ男に付き合って色々な人間と関わってきたが、こういう女が一番信用できない。それに加えて偏見かもしれないが、女のマットサイエンティストは基本的に信用できないのだ。

 

「貴方はわたし達、excavator(発掘者)に発掘され、過去の状態に復元させてもらいました」

「発掘者......死者を冒涜して何が楽しいのかしら? 呪いが使えたらわたしを起こした人間を全員呪い殺しているところよ」

 

 アイリスは敵意をむき出しにするが、それを笑って流すのが近藤由紀子という女だ。近藤博士は急いで携帯電話を取り出してどこかに連絡を付ける。ベルカ語しか理解出来ないアイリスには話の内容は理解出来ないが、彼女の表情を見る限り悪巧みか自分を利用しようとしているのだろうということが容易に察することが出来る。

 ようやく通話をやめた。その瞬間に白衣を着た男性が部屋の中に入ってくる。腕の中には一人の赤子が抱かれている。アイリスはその赤子に酷く親近感を抱いた。そして、

 

「ソリチュード......」

 

 と、誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 

「早速で悪いけど、その子にアイリスを預けるわ。ある程度のデータを入手したら私の個体にアイリスを返してもらう、それがその失敗作を引き取らせる条件よ」

「わかった......貴方がアイリスさんですね、すみません、永い眠りから起こしてしまって」

 

 男は非常に申し訳なさそうにそう頭を下げた。抱かれた赤子はアイリスのことを無表情で眺める。そして、笑った。アイリスは懐かしさを感じた。

 

 ◆◇◆◇

 

 アイリスは白衣の男、龍崎玄史に連れられて管理外世界の地球という場所、海鳴という町に連れて来られた。もちろん、あの赤子も一緒だ。

 

「名前、なんて言うの?」

 

 アイリスは自分と同じくらいの大きさの赤子のことを今にも泣きだしてしまいそうな顔で眺める。すると玄史が温かい声色で、

 

「一人、龍崎一人」

「カズト......良い名前ね」

 

 アイリスはカズトの頬を優しく撫でる。するとカズトはにこやかに笑ってとても嬉しそうに振る舞う。アイリスの頭の中に走馬灯が走る、走馬灯の中身は恋人のデイヴィットではなく、弟のソリチュードだった。

 

「本当、ソリチュードにそっくり......」

「貴方はソリチュードと何かあったのですか?」

 

 玄史が率直な質問を投げかける。するとアイリスはデイヴィットを崇拝しているのならショックを受けるわよと警告する。すると玄史は、デイヴィット・マーカスのことを虐殺王と呼んでいる私には、逆に真の情報が得られて嬉しいですよと皮肉を交えて返す。そう、確かにあの男は虐殺王と呼ばれて可笑しくないくらい人を殺しているわね、なんて言って真実を話しはじめる。

 自分は今の捻じ曲がった歴史とは違い、本当はソリチュードの婚約者だったという。が、美しかった自分は兄のデイヴィットに犯され、汚れてしまった自分ではソリチュードに顔向けできないと彼の元を去ろうとした。もちろん、ソリチュードは汚れてしまっても自分のことを愛している。汚れているというのなら、兄を殺す、そして、その汚れを浄化すると言い復縁を願った。でも、自分はソリチュードに顔向けできなかった。すべてを捧げるはずだった最愛の人ではなく、ただ自分の顔、体に欲情したに過ぎない男に穢され、それでも許してくれるというソリチュードの優しさが自分の心を痛めた。そして、彼の元から姿を消した。

 アイリス、旧ミリアは断崖から身投げを決意した。汚れた自分に意味はない。自分に愛される権利はない。身を投げた、が、自分の人生を壊したデイヴィットから邪魔された。そして、彼の家に軟禁されてソリチュードなんかより俺の方が強いし信頼性がある。出世だって俺の方が早いだろう。それに、俺には君のはじめてを奪った罪がある、俺が君の人生を貰い受けようとソリチュードをバカにし、自分の女になれと囁いた。

 そんな生活が一年も続いた。自分はもう耐えられなくなりデイヴィットの要望を受けた。

 毎日が地獄のようだった。自分を犯した男と毎日生活し夜になればあの日のように穢される。何度も自死の道を辿ろうとした、でも、不思議とデイヴィットは死のうとした瞬間に止めに入って、何年も死ぬことが出来なかった。

 ある日、ソリチュードが家を訪れた。そして、

 

『ミリア、君が僕のことをまだ愛しているのなら......僕と一緒に来てくれ......』

 

 穢された自分をソリチュードは救おうとした。自分は藁に縋る気持ちで彼に付いていき新しい人生をはじめようとした。だけど、嫉妬深いデイヴィットがそれを許す筈がない。ソリチュードはデイヴィットの不意打ちで倒れた。そして、彼の前であの日のように激しく犯された。泣くしかなかった。最愛の人に犯される姿を見られるなんて、死んでしまいたかった。でも、天は死なせなかった。

 あの日以来、自分は人形になった。デイヴィットの人形になった。彼が望むなら股を開くし、彼が望むなら人混みの中でさえ股を開いた。もう、心なんてなかった。ただ、犯されている時には必ずソリチュードの悔しそうな顔が浮かんだ。

 あの日から半年が過ぎた、異世界から侵略者が来たらしい。だけど、自分にはそんなのどうでもよかった。何時もと変わらないように犯されて、ソリチュードの顔を思い出すだけ、もう、この世界が危機になろうが、壊れようがどうでもよかった。一秒でも早く死ねるらな......

 住んでいた家に侵略者の兵士が入って来た。自分は笑いながら、早く殺してちょうだい。と嘲笑うように兵士に囁いた。すると兵士達はニヤリと気色の悪い顔になり、あの男と同じように自分を犯しはじめた。だが、確実に殺されるという安心感を覚えた自分は今までやってきた行為のどれよりも気持ち良かった。

 

「この世界には喜劇より悲劇が溢れているというが......」

「歴史は酷く捏造されるのが常識よ。そうじゃなければあの屑が義王なんて面白おかしい名前で呼ばれているはずがないでしょうが。虐殺王の方がよっぽどしっくりくるわ」

 

 アイリスはもう一度話しはじめた。

 自分が死んだあと、体からリンカーコアが抜かれてデバイス職人に魂と共にユニゾンデバイスとして仕立て上げられた。目を覚ました時にはこの世界で最も会いたくない男の顔があった。そして、デイヴィッドが英雄として生きていく姿を見続けたらしい。本当に悲劇としか言いようがない人生だ。

 

「......でも、この子を見ていると幸せだった頃の自分を思い出すわ」

「そんなに似ているのか?」

「ええ、ソリチュードの生き写しよ、この憎たらしいくらい鋭い奥二重の目......」

 

 すやすやと眠るカズトの頬を撫でて涙を流す。

 

「この子はソリチュードのような悲劇を辿らせないわ......」

 

 ◇◆◇◆

 

「カズト、この世界に良い所取りなんて面白おかしいものはないの、純粋な物が何よりも力を発揮する。だから、ミットチルダ式とベルカ式を無理に混ぜたらダメ、重要なのは状況に応じてその二つを使い分ける柔軟な発想だけよ」

「わかった!」

 

 六歳まで成長した龍崎一人はアイリスの訓練によってみるみるうちに実力を伸ばしていった。その成長性は目を見張るものがあり、彼女は水を吸う地面のようだと表現した。

 汗をダラダラと流すカズトは大の字で寝転がり、深呼吸を繰り返す。持久力はまだまだ子供、だが、カズトの将来性が恐ろしくなる。もしかしたら、虐殺王すら勝る程の実力を付けるかも知れない......この子の傍にいられるうちは正しい道に導かないといけないと心に誓う。

 

「アイリス、俺は強くなれてるのかな?」

「何を言ってるの? まだまだ三流以下、戦場に出たら真っ先に殺されるわ」

「......そうか」

 

 カズトはしょんぼりしながら帰路に付く。アイリスはそんなカズトの姿に溜息が出た。この子と一緒に居れるのはあと四年と少し。その間に殺されない程度の実力を付けてもらわないといけない。

 

『君のデータを取るのは十年間だ』

『十年ね......十年が過ぎたらどうなるの?』

『君をポットの中から出した研究者、近藤由紀子博士が引き取った実験体に渡される』

『そう......その個体はどんな奴なの?』

『史実の虐殺王に酷く似ている。才能も一人よりも上だろう』

『......幸せは長く続かないのが常ね。でも、カズトを一端の魔導師に育てて去るわ。で、その個体の名前は何というの?』

『――近藤光(こんどうひかる)というらしい』

 

「アイリス、俺、絶対に強くなる。そして、すべてを手に入れてやる」

「......すべてを手に入れる?」

 

 アイリスは呆れたような声でそうたずねる。するとカズトは胸を張って、

 

「俺は欲しいものが沢山ある。夢がある。やりたいことも星の数くらいある。だから――俺を強くしてくれ、そしたら、欲しいものが手に入れられる。夢も叶えられる。やりたいことも好きなだけやれる」

「世の中そう甘くないわ。でも、自分を守れる程度の実力を付けてあげる。感謝しなさい」

 

 アイリスは心の中でくすくすと笑う。本当に――ソリチュードにそっくり......と彼女は思った。




 ハッピー成分は作者と読者には猛毒だ! 鬱成分を注入してやる!! 上中下でみんなをやるせない気分にさせてやるぜ!! ヒャッハー!!!
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