目が覚める。すると見知らぬ場所に俺は立ち尽くしていた。
頭が上手く回らないし、何か頭の中に引っ掛かってモヤモヤする。
「......ここはどこだ?」
見覚えのある公園、でも、俺はこんな公園に一度だって来たことはない。それなのに、俺はこの公園のことを知っているし、何度か訪れたことがあるような気がする。だが、思い出せない......
「――俺は誰だ......」
――自分の存在すら忘れいた。
名前――わからない。
年齢――わからない。
両親――わからない。
兄妹――わからない。
友人――わからない。
手掛かりが一つもない。
「そうだ、携帯と財布......」
ポケットの中をあさり、携帯と財布を確認する。
携帯は充電が切れている。財布には現金が十万円とポイントカードが数枚、名前のは......書かれていない。
「にしても、俺は金持ちなのだろうか? 財布の中に十万円も入れて......」
ぎゅるりと腹の虫が悲鳴を上げる。金はあるのだ、適当に食事を済ませて落ち着いて考えてみよう。
◆◇◆◇
食事を済ませた俺は、ひとまず状況を整理するために人通りの多い街を探索するように歩いてみた。もし、俺に知り合いが居たらならば、ひと声かけてくれるはず。ひと声さえかけてもらえば、自分の名前や生い立ちがある程度把握できるのは確かだ。それに住んでいる家の場所も知れるかもしれない。十万円というお金を持ってはいるが、ホテルなどに泊まる、泊まり続けるには心もとない。自宅があるのならば、そこで寝泊まりがしたいのが心情だ。
ゾクリ、嫌な感覚が辺り一帯を包み込む。そして、色が灰色に染まり――濃い『気配』のようなものを感じ始める。体が咄嗟に反応し、右手にオレンジ色の鉱石のようなナイフが握られていた。
「何だこれ......ナイフ――!?」
これまた体が咄嗟に動き、重い一撃を受け止めた。
体中に何かが駆け巡る、そして、酷く冷静に状況を把握するのだ。そして、多分、人を殺せるような鋭い目で攻撃を仕掛けてきた奴にこう告げる。
「死にたくなければ黙って消えろ......今回限り許してやる」
「......」
赤いお下げを揺らす少女、両手で握られた金槌はまるで魔法少女物のアニメの魔法の杖のようだ。まあ、魔法を放つというよりは、物理攻撃の方が得意なような気がする。
少女は攻撃の手を緩めることなく、一撃、二撃と重たい攻撃を重ねてくる。仕方なく攻撃を弾き、鋭い蹴りを腹部に入れる。流石にナイフで切り付けたら殺してしまう。だから、ナイフはあくまでも盾、攻撃を受け流す盾に過ぎない。
「うっ......」
「喋れるんだな? じゃあ、吐いてもらおうか」
金槌を握る右手に手刀をお見舞いし、弾き落とす。
「おまえは何者だ? そして、その金槌はなんなんだ......」
「......」
「......喋る気はないのか?」
「......喋ることなどない!」
「――やめろ!!」
少女は舌を噛み千切り粒子となって消えてしまった。
......何なんだよ、こりゃ?
ハッピーエンドにするための分岐です。この分岐エピソードを通らなければ、まあ、色々とやばい状態になります。