元踏み台ですが?   作:偶数

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 クオリティー低いよ。


分岐点2

 あの後、時はすぐに流れ出して何事もなかったように人々は歩みはじめる。俺は状況を判断することが出来ずにその場に立ち尽くすだけであった。だが、一つだけわかったことがある――俺は何者かに狙われている。そして、ある程度の力が自分には備わっている。

 

「......移動しよう」

 

 混乱する身体を出来る限り落ち着かせる為に震える手足をぎこちなく動かして意識が覚醒したあの公園を目指した。今のところ、落ち着いて腰を降ろせる場所がそこしかなかったからだ。

 考えてみよう、まず最初に自分の能力についてだ。あの少女との戦闘で使用したナイフ、多分、あれは何かしらのアクションを出せば作り出すことが出来るのだろう。だが、咄嗟の状態だったから作り出し方を記憶していない。それに付け加えて戦闘をしていた時は自分が自分でないような感覚に陥った。もしかすると本物の自分が勝手に戦ってくれたのかもしれない。そう考えるとあの少女のような存在に遭遇した場合はオート戦闘をしてくれるのかもしれない。まあ、これは結局は仮説だ。信用し過ぎるのは絶対にダメだ。早くナイフの作り出し方を思い出さなければならない。

 次にあの少女のことだ。まず最初に魔法少女のような武器を使用する。見た目とは裏腹に破壊力は高く、あのナイフも何本も折られた。一歩間違えば殺されていた。つまり、強敵だということは間違えない。それに付け加えて粒子のように消えてしまった。これは仮説だが、あの少女は人間ではない『何か』というものだ。じゃあ、その『何か』とはどんなものなのかを考えてみる。そして、新たな仮説が浮かび上がる。アレは存在する人間をあのナイフのような何かでコピーした存在。現にナイフも少女のように粒子となって消えてしまった。

 考えれば考えるほど現実味を帯びていないと思う。が、不思議と心の底からそれを否定することは出来ない。まるで、自分がその現実味を帯びていない何かを何十年も使いこなしていたような......

 

「着いたか......」

 

 月が上った時刻の公園は霊的な存在が居そうな、という雰囲気を醸し出している。常識のある人間ならば、怖いという感情が芽生えるはずなのだが、不思議とそういう感情が芽生えず、少しだけ安らぎのような落ち着いた感情が芽生えた。

 溜息を吐き出し、何となく何度も座ったようなベンチに座り人気の無い公園と雲一つない星空を見る。

 

「何だろう、物凄くヤバイ状態に置かれている筈なのに――不思議と落ち着いていて、この状況を受け入れているような気がする......」

 

 異常だ、異常なはずなのに受け入れられている。それが尚更、異常なのだ。

 これもまた仮説、自分の適当に考え出した答えの一つ、その答えは――『自分はこういう状況に慣れている』だからこそ、こんな風に取り乱す筈の状況でもバカみたいに落ち着いていて、体が勝手に反応してくれる。ただ、記憶が崩壊していて、自分という存在を維持するだけのデータだけが頭の中に残されている。だが、記憶というデータは消されているわけではなく、破損しているだけで確かに頭の中に残されているのだ。つまり、復元は可能、だが、時間とあの少女のような存在がトリガーとして必要だ。

 

「仮説の領域だが、記憶を取り戻すには戦う必要があるようだ」

 

 だが、積極的に攻めに出るのは愚策、あの少女と戦った時、オート戦闘だったが引き気味に戦っていたことを覚えている。つまり、少女のような存在を技で圧倒することは出来るが、力で圧倒することは絶倒に無理。仕掛けられた時にだけ交戦し、数が多ければ逃げ出すのが一番であろう。

 

「......ん? またか」

 

 辺りがもう一度灰色に染まる。そして、また気配が漂いはじめる。だが、不思議と緊張感は感じられず、命の危機という状況ではないよだ。なら、俺以外の存在が戦っているのか? もしかすると俺のような存在が複数存在するのか、それとも、あの少女のような存在はまとまりはなく、個々で行動し、鉢合わせしたら戦闘をはじめるのか、それとも能力を持つ警察のような存在があの少女のような存在と交戦しているのか。仮説は色々あるが、どれも信ぴょう性がある。つまり、どれも確率が高い。

 

「......戦ってるのは四人、三人は腕が立つな」

 

 何となく、そんな気がした。多分、これはオート戦闘の部分の自分が分析しているのだろう。

 

「二人は逃げ出したか、まあ、本気で戦っていたようには感じられない......」

 

 ――こっちに向かってくる。

 そらを見上げて通り過ぎる存在を見てみる。すると金色と銀色の髪をした人間の姿が見えた。

 

「気付いたか......向かってくるか......?」

 

 左右の手にナイフが握られ、どこから攻撃してくるかを注意深く観察する。するとさっきの少女とは違い、不意打ちではなく、正々堂々と目の前に現れる。そして、常人が感じたら気絶してしまいそうな殺気をぶつけてくる。よしてくれや、そういうのは大嫌いなんだ......

 

「デイヴィット......」

「デイヴィット、それが俺の名前なのか?」

「パパをあんな風にした仇!」

 

 鋭い拳が勢いよく飛んでくる。バックステップで攻撃を避け、間合いを離して睨むように相手を確認する。

 性別は女性、年齢は十代後半くらい、攻撃の手段は素手、攻撃の規則性を見る限り、何かしらの流派に属しているのだろう。だが、それが何なのか理解出来ない。多分、本当の自分もこの流派を知らないのだろう。

 

「質問させてくれ、何故、俺に攻撃を加えた?」

「おまえがパパを......!」

 

 相手が素手ならこっちも素手で対処しなければならない。ナイフを消し去り、攻撃の手段を素手にする。

 右ストレートを両手で受け止め、腹部に蹴りを入れる。が、容易く避けられてしまう。流石に体術を駆使して戦うタイプ、この程度の蹴りは悟られてしまうか......

 次は刃物のように鋭利な蹴りが飛んでくる、それをバックステップで避け、蹴りが終わった瞬間にがら空きの背中に拳を叩き付けようとするが、ローリングしてそれを回避された。

 

「質問させてくれ、俺はおまえの父親にどんなことをしたんだ」

「おまえは一億の人間を殺した虐殺者だ! それを止めたのがわたしのパパ!!」

「一億人? バカなことを言うな! 一人の人間が一億という人間を殺せる力があると思うか......」

「おまえ一人で殺したんだ......それを止めるためにパパが――両手と両目を失った!」

 

 レーザーのようなものが地を抉る。そして、上空に白い少女と金髪の少年が浮遊している。

 

「次会った時は......容赦はしない」

 

 勢いよく飛び立ち、その場から消えた。

 

「一億人殺し......嘘だろ......」

 

 デイヴィット......デイヴィット・マーカス......




 デイヴィットって誰なんだろうね?

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