元踏み台ですが?   作:偶数

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一人が不憫すぎて......(涙)


一人

 『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり』この言葉は彼の福沢諭吉、簡単に説明すると一万円札になっている人が学問のすすめという本のなかに記した名言である。この名言の意味は人間はすべて平等な存在だ、なんて、そんな甘いものではない。この名言はどんなに貧乏でも、どんなに金持ちでも、学んだ人間が上に上がり、認められる。勉強をするものは信頼と職を得て、勉強に励まないものは信頼されず、地に落ちていく。これがまるで人が自分の上に立っているような、自分が人の上に立っているようなという感覚におちいる原因なのだ。だから、真の意味で平等に生きたいのであれば、勉学に励み、自分を高めていくことが重要なのだ。

 俺はこの世界に生まれ落ちる前はいわえるフリーター、アルバイターと呼ばれるような不安定な存在だった。俺は甘えていたのだ、自分の将来の夢を叶えるために受けた大学、学力が少し足りていなかったけど、努力した、勉強した、夢を叶えようと必死になった。そして、夢破れてしまった。今更だが、俺は悲劇の主人公になったつもりだったのだろう。だから、職を探さず、アルバイトで稼いだ金で遊び呆けた。逃げていたんだ、報われない努力を恐れて。

 そんな生活が続いている内に心の中に虚しさのような感情が出始めてくる。将来の夢は幼稚園の先生だった。小さい頃に自分のなりたい職業という作文を書いて、クラスメート達の前で発表したら女の子みたいだって、笑われたんだっけな......今になったら良い思い出だ。思い出なんだ......

 俺は夢を叶えるのを諦め、遊ぶのも疎かにし、生きる為に必要最低限の金をアルバイトで稼いだ。まるで生きる屍、生きていることに執着している屍だ。いっその事、死んでしまった方が楽なのではないかと考えたこともあったが、実行する勇気が持てなかった。

 ある日のことだ、俺は某動画投稿サイトを生気の無い瞳で見ていた。そして、不意に高校時代の友人が話していた魔法少女なんちゃらとかいうアニメのことを思い出した。その時、酷く時間を持て余していたし、バイトも三日程シフトが開いていたから、ゆっくりとアニメ観賞をするには良い機会か、と、魔法少女と入力してみた。すると魔法少女まどかマギカと魔法少女リリカルなのはというアニメの名前がヒットした。はて、どちらだったか? まあ、こういうのは先にヒットしている方を選べば間違えないと思い立ち、まどかマギカの方をクリックした。

 

「違法アップロードは無いか......」

 

 なら仕方がない、リリカルなのはの方を見てみよう。と、リリカルなのはと打ち、検索をかけてみる。するとこちらの方は言い方はアレだが、違法アップロードが存在した。インターネットの進歩というのは恐ろしい限りである。まあ、その恩恵を受けている俺も俺だが......

 リリカルなのはの一期を見終わった後、溜息を一つついた。なんで薄暗い部屋で、安物のパソコンで、アニメ観賞なんてしてんだろ? でも、面白いアニメだな......

 窓の方に顔を向けると空はもうすっかり夜の帳がかかっていた。だが、不思議と疲労感はなく、充実している。こんな感覚は酷く久しぶりだ。そして、次の話を楽しもうとマウスを動かすのである。

 アルバイトの日、イキイキと仕事が出来た。店長や店員達が今日の龍崎くんは頑張ってるね、と、褒めてくれた。人に褒められるのは久しぶりのような気がする。その日の帰りはレンタルビデオ屋で会員カードを作り、面白そうなアニメを三枚ほど借りて帰路えついた。

 よく、アニメは子供の成長に悪影響を及ぼすだとか、アニメは厳しく規制すべきだとか、頭の固い叔父さん叔母さん達が血眼になって訴えているが、それは間違えだと思う。その原理なら、子供達が小説を読むのも教育に悪いし、勉強するのも悪いことだ。人間と言う生き物は娯楽、そう、娯楽というものを唯一理解出来る生き物なのだから、その娯楽をめいいっぱい楽しんだ方がいい。もし、娯楽をわからない子がいるとするならば、その子は人間以下、動物なのだろう。そして、こういったアニメを規制しようとしている大人達も頭の中が動物に近しいのだろう。

 

「うひぃ~今季のアニメは豊作だな~」

 

 スーパーで購入した安い発泡酒を片手に、これまた安物のパソコンでアニメを観賞する。人がこの姿を見たら虚しい奴、とか、思うのかもしれないが、俺はとても充実している。体が軽く、人生というものを楽しんでいる。将来の夢なんてどうでもいい、今が楽しければ、今後が楽しければ......

 レンタルビデオを返却した帰りにボールを持った少年が歩いていくのが見えた。その時、背中にざわりと嫌な予感が駆け巡った。こんな経験、生まれてこのかた一度もしたことがない。少年の方を振り向くとボールが道路のほうに転がっていたしまった。そのボールを少年が拾おうと道路に入っていく、その瞬間に一台の車が猛スピードで迫ってくる。

 ――体が勝手に動いた、少年を助けなければと!

 俺は少年を車の走れない歩道の方に投げ飛ばし、そして――

 ギギギギィというブレーキ音と共に激しい痛みが体中を駆け巡る。そして、ぬるりと体から何かが抜けるような感覚に襲われる。痛い、とか、苦しい、とかじゃなくて、恐かった......

 

 ◆◇◆◇

 

 俺は生まれ変わった。神と呼ばれる存在に特典というものをもらい、アニメの世界を自由に生きろということらしい。最初の頃は戸惑ったが、夢にまで見たアニメの世界で生きられる。それに、この世界は俺に生きる希望を与えてくれたと言っても過言ではないリリカルなのはの世界。存分に楽しむのも悪くない。

 すくすくと成長し、小学校に通う年齢、六歳まで成長した。勿論、入学する学校は市立聖祥大付属小学校、リリカルなのはの主人公、高町なのはの通う小学校だ。これでようやく主人公達をお目にかかることが出来る!

 

「一人も、もう小学一年生か......時が流れるのは早いな......」

 

 父親の龍崎玄史(りゅうさきげんし)喜びを含む声色でそう呟いた。

 俺の父親、龍崎玄史は元管理局の科学者で、とある実験に成功して巨額の富を得て今現在は出身地である地球で隠居生活を送っているらしい。まあ、前世の父親と違い、物腰が柔らかく、柔軟な人だ。何時しか、俺はこんな大人になりたいと思いはじめた。

 俺は小学校に入学して、ようやくなのは、アリサ、すずかを見つけ出した。そして、俺は考える、大人は大きくアタックし過ぎると警察沙汰になってしまうかもしれないが、子供の場合は無礼講、大きくアタックしてその気にさせた方が手っ取り早いのではないだろうか? と。俺はその作戦を信じて疑わず、そして――

 

「俺の子を産んでくれぬか......」

 

 頬に三つの紅葉が付いたのは良い思い出である。だが、俺はあきらめの悪い男だ、この作戦に不備な点は一つもないと思い込み、何度も何度も、同じように彼女達にアタックし、その度に玉砕されていった。

 そんな生活に終止符が打たれたのが小学二年生の頃、近藤光という転校生がうちのクラスにやってきた。まあ、こいつのせいで俺の計画は八割程パぁーになり、ヒロイン達の心は近藤に惹かれていった。

 俺は一時期、三人に付いて、もう水に流したどうだ、という結論を考えた。彼女達はもう、俺という存在に目すら向けてくれない。彼女達が見つめているのは近藤光、その人だけ、恋心を捨て去ろうとした。その数週間後、父さんが急死した。父さんは死ぬ間際にこんな言葉を俺にたくしている。

 

「一人、おまえは不幸な人生を送ることになる。だが、不幸というのは、自分で幸福にすることが出来る。何故だかわかるか? 所詮、不幸も幸福も自己満足の表現なんだ。だから、自分が不幸でも、それを幸福だと言い続けろ。そして、どんな逆境にも耐え続ける。そうしたら、おまえは本当に幸福になれる」

 

 俺はこの言葉の意味を理解出来なかった。でも、父親の死という酷いショックが捨てようとした恋心を捨てなかったのは確かだ。失恋の不幸、それを幸福と言い張った。そう、俺は負けたくなかったのだ。昔のように、報われない何かに、負けたくなかったのだ!

 そして、原作開始、近藤はなのはの方に付いた。だから、俺はその真逆のフェイトの方に付くことを考え、海底の中で眠っていたジュエルシードを一つ拝借し、そのままフェイトが現われるのを待った。そして、時は満ち。

 

「その石を渡してください......」

「可愛い嬢ちゃんは武器より花の方が似合うと思うんだけどね?」

 

 俺はフェイトと交渉した。俺はこの町に住む魔導師で、この町に落ちているジュエルシードを早く撤去したい。だが、俺は封印魔法と索敵魔法が使えないから君と協力してジュエルシードを集めたいと。フェイトは警戒こそしたものの、二回、三回と戦いを共にするにつれて信頼関係というものが定着した。

 

「アイリス、俺は強くなれてるのかな......」

「わたしにはわからないわ。でも、アンタはもう少し鍛練を積んだ方がいい」

 

 当時、俺のデバイスだったアイリスという、ミットチルダ式、ベルカ式、古代式のユニゾンデバイスが居た。こいつは転生した時に貰ったデバイスで、まあ、相棒と言っても過言ではなかった。まあ、あっちは俺のことを軟弱な男だと嫌っていたようだが。

 俺とフェイトは多くの戦いを潜り抜け、ジュエルシード事件を解決した。犠牲は一人、だが、フェイトにとってその一人は百人より重かったのだろう。俺はフェイトを慰めようと治療室に足を運んだが、そこには俺じゃなく、近藤と高町がいた。俺は、中に入ることが出来なかった。

 

 ◆◇◆◇

 

 俺は半ば放心状態で過ごすようになった。あれだけ友情を育んだフェイトさえ、近藤に心を奪われたのだから、原作のキャラクターを口説くことは俺には不可能なのではないだろうかと考えたからだ。

 そんなこんなで俺は最悪のコンディションで二期に突入したのである。

 俺は考えた、どうせ近藤のことだ、はやてと関係を持っているに違いない。それなら騎士達と関係を持ち、裏方に近いやり方で物語に関与してやろうと。この作戦は珍しく成功し、四人の騎士を味方につけることに成功したのは事実である。

 

「なあ、ヴィータ、アイスはジョリジョリ丸が最高だよな?」

「いやいや、スーパーガッツが最高だろ」

「わたしはチューパルトが最高だと思うのだが?」

「ホームランダーだな......」

「ハーゲン......」

「「「「一つで何個買えると思ってんだ?」」」」

「ごめんなさーい!?」

 

 そんなこんなで俺は魔力の蒐集を手伝い、四人とフェイトと同じような関係になった。そして、俺はあることを考える。リインフォース、彼女を助けることは出来ないだろうか? 俺はフェイトの母親、プレシアを助けることが出来なかった。別に俺は正義の味方ではない、でも、物語はハッピーで大団円の方が好きなのは確かである。なら、どうにか死んでしまうであろうリインフォースを助けることが出来ないだろうかと考えた。そして、父親の書斎の中から重要な手がかりを手に入れる。それは古代魔法に付いての資料だ。

 古代魔法に使われるデバイスは人間のリンカーコアを抜き取り、それを媒体として使用したらしい。つまり、人間のリンカーコアをハードディスクのように使用し、そのハードディスクの中から魔法を選択して放出していたらしい。その原理なら、俺の無駄にデカいリンカーコアをある程度犠牲にして、闇の書の浸蝕プログラムを取り出し、斬り捨てれば......

 俺の考えはある意味当っていた。俺は闇の書戦で闇の書が作り出した自らが望む世界に入り込み、そこから闇の書の深層部にある浸蝕プログラムがある場所まで到着した。そして、浸蝕プログラムを自ら取り込み、浸蝕プログラムが入ったリンカーコアの六割を斬り捨てる。その時の痛さ印象的で今でも覚えている。まるで体中の皮を剥がされるような、そんな痛みだった。堪らず意識を手放してしまいそうになったが、まだやるべきことがあると気力だけで歩を進め、元の世界へ戻る道を探した。

 目が覚めると消毒液の香りが漂うベットの上に寝かされていた。そうか、全部終わったのか......

 闇の書の浸蝕プログラムはすべて消え去り、リインフォースもその害を受けることはなく、四人の騎士達と同じように生活できるようになった。俺は正しいことをした。のだろう。体が自由に動くようになった後、俺はフェイトの顔を見たくなった。だから、フェイト達がいるであろう部屋に足を進めた。そして、その場所で見たのが、フェイト、なのは、はやてが楽しそうに近藤と話している風景であった。俺は咄嗟に逃げ出した。逃げ出した理由はわからない。でも、あの時逃げていなかったら、俺は自死の道を選んでいただろう。

 勝負を挑んだ。俺は近藤に勝負を挑んだ。まだ回復しきれていない体を鞭打って使い、勝負を挑んだ。そして、見事に負けてしまった。そして、俺はアイリスを近藤に渡し、聖祥大付属小学校から姿を消した。負け犬にもらえるものは屈辱の苦味だけだ。

 今だからこそ言える『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり』、されど、人は人の上に立ち、人は人の下に落ちる。




これで五十点? 御冗談を!

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