元踏み台ですが?   作:偶数

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 みんなに言わせてくれ、これは作者じゃなく、俺という、偶数という一読者の考えなんだ。実を言うと、俺はこの小説をみんなに見てもらうために書いているわけじゃないんだ。なんというか、俺はこういう感じの胸が締め付けられるような、主人公に感情移入しちゃうような、こんな主人公の物語が読みたいんだ。でも、ハーメルンって、こういう小説少ないじゃん? だから、自分で書いて、自分で読んでる。そして、面白いからハーメルンに投稿してる。別にアンチしていいよ、だって俺、国語の点数五十点だもん。表現力が低かったり、矛盾が生まれてくるに決まってんじゃん。だから、俺はそういうところを脳内解釈でどうにかするの、バカだから。あと――それでも俺の小説を楽しみにしてる人へ、ごめん、嘘ついた、一週間じゃなくて大体三日で上がったよ~


偽善者は正義の如く散る。

 結局、俺は主人公になれなかった。いや、なる資格が元々から無かったのだろう。よく考えると、こんな気持ちになるのは、アニメ観賞を趣味にする前のようだ。大学受験に失敗して、報われない努力を恐れて、自分から可能性を捨てていた。そうだ、この世界では前世の夢を叶えるのも悪くない。前世みたいに、報われない努力を恐れないで、自分の道を歩いて行こう。俺は物事を後ろ向きに考え過ぎていたのだ。そして、その後ろ向きが今の自分を生み出している。何で早くこのことに気付けなかったのか、多少の後悔の念もあるが、今更後悔したって意味はない。女々しい男は卒業することにしよう。

 空を見上げた。今日の天気は生憎の曇り空で、お天道様の光が少ししか届いていない。まあ、雨よりはましだ。俺は雨が嫌いだ。とても単純な理由、濡れるし体が冷える、それだけだ。何かを嫌うのに深い理由なんていらない、○○が嫌いだから嫌い。△△がなんか無理。こんな単純な理由でも人間は何かを嫌える。雨以外にも、こんな理由で嫌っているものがごまんとある。それが人間というものじゃないのだろうか?

 気分転換の散歩、これはとても有意義だ。散歩をするようになってわかった。具体的にどの辺が有意義なのかというと、自分の見たことのない景色を見ることが出来る。哲学的な考えになるが、同じ道でも、同じ場所でも、それらが完全に一致することは絶対に無い。変わりそうにないものでも、必ず変わっている。そうだな、簡単な例えをするならば、公園があるとしよう。この公園は春になれば桜が咲き、夏になればセミ達の鳴き声が響き、秋になれば葉を散らし、冬になれば雪が降る。春夏秋冬、公園という存在ということには変わりないが、その周囲の環境はねまぐるしく変化していく。俺はその変化がたまらなく好きなのだ。

 

「変化か......」

 

 俺は今も昔も変化を望んでいた。アニメのような劇的な変化。憧れていたのか? 異能に。それとも、望んでいたのか? 主人公のようになれることを。しばらく立ち止り、そのことを考えてみるが、答えは一向に出てこない。頭の中に広がる疑問。自分はこの世界で何をしたかったのか。最初の頃は、原作のヒロイン達と仲良くなりたかった、出来れば結婚したかった。だが、その後はどうだ? 父さんが死んで、半ば八つ当たり、自分という存在の意味を知らせたいがためにやめるはずだった踏み台を続けた。フェイトと共に戦ったのも、自分という存在の意義を見せつけたかったから。騎士達とも同じ理由だ。そうか、俺は拒みたかったんだ。自分という存在が少しずつ忘れ去られていくのを、自分なんて存在しなくてもいいと思われるのを。だからこそ、自分の身を挺した。死んでしまっても構わないと思った。誰かの心の中に、俺の存在、龍崎一人の存在を刻んでほしかったのだ。

 

「女々しいな、俺......」

 

 アイリスが軟弱者だとか、女々しいと貶していた理由が今更だがわかった。俺は、俺が思っている以上に女々しいし、堅く真っ直ぐであるべきの芯がフニャフニャで捻じ曲がっている。こんな俺が報われるはずがない。幸せになれるはずがない。そうだ、そうだよな、勘違いしていたんだ。父さんが言う、不幸は幸福に出来るじゃなく、幸福を捨てて、誰かが同情してくれるであろう不幸を選び続けていたんだ。ああ、女々しい限りだ。ああ、軟弱な限りだ。

 

「変われるのか、俺?」

 

 今更だが、変わりたいと思いはじめる。もう、変わったとしても大した意味はないということは理解出来るが、今までの自分から変わりたいと思っているのは確かだ。そして、父さんが言っていた、「不幸を幸福に変える」を実現してやる。そうしたら、何かが見えるような気がするんだ。何かを感じられるような気がするんだ。じゃあ、手始めに何をしたらいい? ちっぽけな脳味噌で必死に考える。――そうだ、未練をすべて捨ててしまうというのはどうだろうか? じゃあ、具体的なその未練は――目を閉じた瞬間に一人の少女の笑顔が見えた。

 

「フェイト......だよな......」

 

 未練、女々しさ、軟弱さ、そのすべてをフェイトに擦り付ける。フェイトのせいにしてしまう。そうすれば、俺は楽になれる......わけないだろうが!? 俺は何を考えているんだ......

 最低だ、俺は最低の人間だ。自分が作り出した未練と言う名の重りを他人に擦り付けて逃げようと考えた。それも、この世界ではじめて出来た親友、戦友をだ。恥ずかしい、汚らわしい、フェイトにすべてを擦り付けるなら、死んでしまった方がマシだ!! 誰かに重りを背負わさせる俺なんて、生きている価値なんてない!! 背負わなければならないんだ。すべての重りが外れるまで、俺は罪を、自らが受け入れた不幸を――背負い続けるんだ......

 

「だからこそ、離れるじゃない。別れるんだ。決別、それが、今、俺が一番やらなくちゃいけないこと......」

 

 全部の重りが外れるまで、俺は彼女との縁を切ろう。そして、恥ずかしくない姿でもう一度、彼女と話をしよう。その時は不幸を幸福に変えてやる。

 

「何するのよ! 離しなさい!?」

 

 女の子の叫び声が聞こえた。慌てて声の方向に向かってみるとアリサとすずかが見るからに怪しい男達にハ○エースの中に乗せられている。魔力でナイフを作り出し、走り出すハ○エースに投げつける。ナイフは見事に板金に突き刺さり、微かだが俺の魔力を漂わせる。これで場所は100%特定できる。ことが大きくなる前にカタを付けないと......

 

 ◆◇◆◇

 

 数十分後に辿り着いたのは町はずれに存在する三階建ての廃ビルだった。まあ、誘拐した少女達を隠すにはもってこいの場所だということは確かだ。それに、雰囲気もそれっぽい。って、なんで俺は誘拐犯を高く評価しているのだろうか? もう少しアリサやすずかを心配した方がいいのに......だから嫌われてたのか?

 

「見張りを立ててない......素人か?」

 

 廃ビルの入り口には見張りも何も立っていない。それよりか、乗って来たハ○エースすらどうぞ見つけてくださいと言わんばかりに路上駐車しているしまつ。試しにハ○エースの中を魔力をぶつけてサーチしてみるが、中に誰かが乗っているわけでもない。つまり、二人はこの廃ビルの中にいる。それに付け加えて、物凄く頭の悪い奴ら、いわえる脳味噌筋肉な奴らの犯行だと思われる。

 

「早く助けないとな......」

 

 体育会系の悪の一番の欠点、それはお手と我慢が出来ないことだ。悪としては程度は低いが、危機が迫ると何をしてくるかわからない。迅速な救助が求められるな......

 堂々と廃ビルの敷地内に侵入し、魔力をぶつけてみる。アリサとすずかがいるのは三階、入口と同じように一階も二回も警戒している様子は見えないが、三階で一人、誰かと電話をしているようだ。この場合は二人を渡す取引相手か? まあ、何にしろ、手早く二人を助け出すのが一番。早く行動をはじめよう。

 廃ビルの中に入ると何年も使われていないためか、所々に苔が生えていたり、猫の小便の臭いが充満している、見るからに不衛生。潔癖症ではないのだが、気持ち悪くなる。早く出て行きたいのが心境だ。二階に到着したくらいに微かだが、誘拐犯達の声が聞こえはじめる。よく耳を澄ませて、その話を聞き取る。

 

「なあ、この二人、どっちが月村すずかなんだ?」

「クライアントの話によると、この紫色の髪の方らしい」

「じゃあ、この金髪は?」

「追加報酬にはならんだろうから、引き渡す際に殺すかを尋ねればいいさ」

「じゃあさあ、こいつ犯していい? 最近溜まっててさ~幼女でも犯して気持ちよくなりたいんだ」

 

 アリサの嫌がる声が聞こえはじめる。これだから体育会系は大嫌いなんだよ! と心の中で叫んで、足音がよく立つ階段を駆け上る。こうすることによって、誰かがここに侵入してきたということを悟らせる為、そうすれば、嫌でもS○Xは出来んだろう。流石は俺、頭が良い。

 三階まであと少し、魔力でナイフを作り出し、右手に逆手持ちで構える。すると足音に気付いた誘拐犯の一人が様子をうかがいに階段までやって来ていた。咄嗟に誘拐犯の足を切りつけ、崩れ落ちた瞬間に壁に顔を思い切り叩き付ける。この間、僅か五秒。流石にあれだけの攻撃を受けて意識を保てる人間はそうそういない、誘拐犯は転げ落ちるボールのように階段から落ちていく。

 ようやくアリサとすずかが閉じ込められている部屋に到着。魔力をぶつけて二人と誘拐犯の様子を確認する。武器は拳銃、確かマカロフとか言うやつとナイフが数本。貧弱とはこのことだ。銃はシールドを展開してどうにかなる。ナイフファイトなら負ける気はしない。後は増援が無いことを祈るか――!!

 扉を蹴破り、一番近い強盗犯の足にナイフを投げつけ、崩れ落ちた瞬間に回し蹴り。破裂音が響いた瞬間にシールドを展開し、もう一本ナイフを作り出す。そして、弾が尽きた隙を見計らって接近、足にナイフを突き刺し、首に鋭い一撃を一発。誘拐犯は崩れ落ちる。

 

「く、来るなー!?」

 

 アリサを犯そうとしていたのであろう男が服がビリビリに破かれたアリサの首にナイフを突き付ける。だが、俺にはわかる。この男、まだまだ悪には染まっていない。こいつは人を殺すことにまだまだ躊躇いを持っている。なら、やることは一つだ。俺は容赦なくナイフを男の右手、ナイフを持っている手に投げつけた。そして、ナイフを落とした瞬間に蹴りを一発、倒れた瞬間に顔を踏みつけ、気絶させる。

 

「......風邪ひくぞ」

 

 俺は服を破かれたアリサに上着をかけ、ズボンのポケットの中から携帯電話を取り出す。勿論、電話する先は110、警察だ。だが、急いですずかが俺の携帯を取り上げる。

 

「け、警察は呼ばないで......」

 

 声が偉く震えている。何らかの事情があるということは明確だ。俺は「何か理由があるのか?」となだめるように尋ねる。するとすずかは「う、うん......」とはぐらかすようにそう言った。そうとうな理由だと悟り、それ以上、追求することはせず、携帯を受け取り、そのままポケットの中に収納する。

 

「さ、さっきの弾を弾いたのはなんなの......」

「おまえ達が警察を呼べない理由と同じだ。喋ることが出来ない」

 

 アリサは「何なのよ!」と叫んで、俺がかけた上着を強く握り締める。が、深く追求することはなかった。多分、内心では俺なんかにでも助けてもらったことを感謝しているのだろう。俺は溜息を一つ吐いた。そして――ナイフで攻撃を防ぐ。

 ――敵は一人、武器は小太刀二本と鋼糸、後は俺と同じような投げナイフが数本。腕は誘拐犯の何十倍、いいや、何百倍だろう。繰り出される斬撃をナイフ一本で防ぎきり、ゆっくりと間合いから離れる。こちらの方が手足が短い分不利、デバイスがあれば、非殺傷設定で一方的な戦いが出来たのかもしれないが、今の俺にデバイスなんていうお助けアイテムはない。本気で殺し合えば、本当に殺してしまう。

 互いに腹の探り合いが続く。動くに動けない。動きたくても動けない。そんな時間が長く続く。

 

「......」

「......」

 

 張りつめた空気に冷や汗を流しはじめる。こいつ、人を何人か殺したことがある......

 動きを見ればわかる。人間という生き物は同族を殺すということに酷く躊躇いを持つ生き物だ。現に、俺も誘拐犯を攻撃こそしたものの、致命傷と呼べる攻撃は一つもしていない。だが、この男はさっきの攻撃で首、脇、太股、人間の動脈が走る部分を狙い撃つかのように攻撃してきた。これは人を殺し慣れた人間の攻撃、常人では、狙うことも出来ないような攻撃......多分、一生かかっても、俺には出来ない攻撃だ。

 そちらが出てこないなら、こちらから行くぞ! とばかりに接近してくる男。俺は先程と同じようにナイフ一本ですべての攻撃を受け流し、もう一度距離を取る。流石にナイフ一本じゃあ、持たない。右手に握ったナイフを口に咥え、もう二本、魔力でナイフを作り出す。そして、仕返しだと言わんばかりに怒涛の連撃を繰り出す。が、俺と同じようにすべての攻撃を受け流してくる。

 

「......」

「......」

 

 また続く沈黙と殺気の空間。この戦い、実力は五分五分じゃない。多分、俺の方が人を殺したことがないという点で負けている。躊躇いというものが存在するんだ。その躊躇いが、どれだけ足を引っ張るのか理解している。もし、俺が勝つとするなら――一発、一発だけ、足か手のどちらかに一発だけでも攻撃を当てなければならない。俺はナイフを二本同時に投げつけ、駆け抜ける。もし、攻撃を当てられるとするなら、死角からの攻撃! 背後を是が非でもとってやる!!

 ナイフを次々と作り出し、先発投手も驚愕の連投を繰り返す。その攻撃をすべてはじき返している奴は化け物か!? と、心の中でツッコミを入れてみるもの、男に攻撃が通るわけではない。それなら――零距離!! シールドを展開して懐に入り込む。が、容易くシールドを切り裂く、俺は咄嗟に男の足を蹴り、後ろに飛ぶ。危機一髪、もし、あとコンマ一秒でも回避が遅れていたら......考えたくない。

 

「......」

「......」

 

 また沈黙、もう互いに実力は理解した。そして、実力は四対六、たった一割だが、あちらの方が分がある。それを理解したのか、男はもう一度攻撃を仕掛けてくる。俺は仕方なく防御の態勢に入り、攻撃を受け流す。が、あちらの方が頭が良かった。服の袖から放たれる一本の鋼糸、それが俺の左手首に巻き付く。咄嗟に斬り捨てようと右手のナイフで切り付けるが、ダイヤモンドでも仕込んであるのか切れる気配がない。その隙を見逃さず、男は怒涛の連撃、俺はどうにか右手のナイフだけで全ての攻撃を防ぎ切るが、左手から出血。通常通りの攻撃はもう出来ないだろう......

 

「負けを認めろ......」

 

 男がようやく言葉を発した。俺はその言葉に何も返さず、そのまま逆転の一手を考える。そして、こうなれば自棄だと言わんばかりにナイフを投げつけ、油断させた瞬間に懐に入り込み、両手をクロスさせ、思い切り弾く。二本の腕は男の手首に当たり、その衝撃で二本の小太刀は飛んでいく。

 インファイト、拳が必ず届く距離での殴り合い、肉弾戦。俺は身長差をカバーするため、鳩尾辺りを重点的に狙い撃つ。男の方はこれまた身長差を生かして俺の顔に重点を置いて殴ってくる。まさしく接戦、実力差は僅差、勝つ可能性も僅差、そして、信念も僅差、そして――俺は負けた。

 一発の拳が俺の顎を通り過ぎる。その瞬間に体中の力が抜け落ちた――脳を揺らされた......

 堪らずその場に崩れ落ちる。

 

「く、くそ......」

「おまえ、どこまで知った?」

「な、何のことだ......」

 

 男は問いただすように言葉を投げつける。が、俺は男の言っていることが何一つ理解出来なかった。

 

「きゅ、吸血鬼のことだろ......」

 

 気絶させた筈の誘拐犯が地に伏せながらも、にやにやと笑いながらそう告げた。

 吸血鬼? 俺は誘拐犯の言っている意味が理解出来なかった。

 

「その紫色の髪の娘、吸血鬼なんだよ「やめて!!」血を吸う悪魔なんだよ!!」

 

 俺は男に気絶させられた。だが、その後に聞こえた断末魔だけは、聞こえていたような気がする。

 

 ◆◇◆◇

 

 場所は変わってすずかが住まう豪邸。その中で、俺は椅子に括り付けられ、身動きの取れない状態にされている。

 

「貴方が龍崎一人くんね、私は月村すずかの姉の月村忍よ」

「どうも......」

 

 殺される。そう思えるくらいの殺気がこの空間に漂っている。

 あーあ、頭が回らない。まだ脳が揺れたのが堪えているのか? まあ、頭が回ってもこの状況を打開出来る方法が思いつくわけがない。いっその事、殺されてもいい。

 

「単刀直入に言わせてもらうわ、すべて忘れなさい――」

 

 一瞬だけ、一瞬だけだが、忍さんの瞳が赤く輝いた。

 

「何をした?」

「吸血鬼」

「すずかが吸血鬼って事だろ」

「!?」

 

 その場に居た全員が硬直する。多分、これは俺の憶測なのだが、あの一瞬だけ目が赤くなったのは、催眠術の類い。それを俺に掛けようとしたのだが、効かなかったと言ったところだろう。

 

「多分、俺は忘れないぜ......アンタより数倍格が上だからな」

 

 俺はハッタリを張ってみた。自分自身でも、憶測の催眠術が効かなかったのはわからないが、ここは出来る限りハッタリを張って、どうにかこうにか切り抜ける方がいいだろう。流石に自分の妹を助けてくれた恩人に催眠術はかけれても、手はかけられないだろう。

 

「どうする? 殺すか......」

「やめなさい。彼はすずかとアリサちゃんを助けてくれたのよ」

 

 よし、俺の予想は的中した。ここからが勝負、ここで下手なことを言ったら間違えなく監禁、軟禁、南京大虐殺、天安門事件されてしまう。これは宗主国様もびっくりだ。だが、こんなこと何度も経験している。慣れてる筈なんだ......俺ならできる。自分にそう言い聞かせる。そして、

 

「なあ、妹さん一対一で話をさせてくれないか? それがダメならバニングスも連れてきていい」

「どうしてかしら?」

「アンタだけに絶対にばらさないと言っても、妹さんの方は心配するだろ? それに、俺は二人から嫌われてる。信用してもらうためには、直接話した方がいいと思うんだ」

 

 忍さんは少し考えて、俺を倒した男を連れて部屋を後にした。その数分後、すずかとアリサが部屋に入ってくる。

 

「よう、怪我とかしてないか?」

「だ、大丈夫だよ......」

「え、ええ......」

 

 「そう警戒するな、縛られてるんだから何もできないよ」と、二人の警戒を和らげるために告げ、ゆっくりと溜息を吐き出す。そして、二人に告げなければならない内容を纏める。

 

「なあ、アリサ......いや、馴れ馴れしいな。バニングス、おまえはもう、月村のことは知ってるんだよな?」

「え、ええ......」

「ならよかった。じゃあ、月村、この話は断ってもらっても構わない。俺は嘘吐きだからな、助かるために嘘をついてるかもしれない」

 

 アリサとすずかは酷く驚いた顔で、俺のことを見つめた。何時もなら、酷く馴れ馴れしい筈の龍崎一人が何故、ここまでしおらしく、潔いのだろうか、そう考えているのだろう。もし、俺が二人ならそう考えている。

 

「月村、バニングス、ごめんな......俺はバカだからよ、二人に迷惑ばかりかけてた。そして、最終的には、知られてはいけないこともで知ってしまって、俺って本当に邪魔な奴だよな」

「そ、そんなことないよ......」

「あるさ、俺はそういう奴だ」

 

 俺は優しい笑みを二人にこぼした。そして、自分の気持ちをストレートに伝える。

 

「――月村、おまえが俺に死んで欲しいなら、さっきの男を今直ぐに連れてこい」

「「!?」」

「――月村、おまえが俺に生きていいというのなら、絶対に何も言わない。俺はこの話を死に場所まで持って行く」

 

 俺のストレートな気持ち。別にここで死んでしまってもいい。女の子二人守って死ねるなら本望だ。まあ、少しだけ死に方が特殊になってしまうが、彼女の今後まで守って死ねるなら、また、これも本望。死に場所なんて選ぶ理由はない。死ねるなら死ぬさ、生きれるなら生きるさ、それが今の俺だ。

 すずかは俯きながら、ゆっくりと考える、考える、考える。そして、数分後、短い数分後、ようやく答えを見出せたようだ。

 

「恭也さん......」

「ちょっと!? すずか!!」

「そうか、ごめんな......今まで......」

 

 ありゃりゃ......そんなに嫌われてたか......俺。

 扉が開かれる音、死を告げる足音、刀が抜かれる脱刀音、そのすべてが来るべき死に向かってやってくる。別に、死ぬのが怖い訳じゃあない。誰も悲しむ奴なんていない。そうだな、父さんと同じ墓に入れれば、もう......十分だな。

 

「良いんだな?」

「はい......」

「すずか! やめなさい!!」

「止めないで......これはわたしの仕返し......」

 

 肩に当たる冷たい感触、

 これが俺の命を奪うもの、

 さあ、

 奪え、

 偽善者の命を奪え、

 俺は、

 こう唱える、

 偽善者は正義の如く散る。

 

「本当、龍崎くんは悪い人だよ」

 

 斬られたのは俺の命ではなく、俺を拘束していた縄だった。

 そうか、すずかは俺に仕返しをしていたんだな、そして、俺の殺される時の顔を見ていたんだな。

 

「なあ、俺はどんな顔をしてた?」

「死ぬのが怖いって、顔してたよ」

「ハハハハ......そうか、恐がってたか......」

 

 まだまだ俺は、死にたくないらしい。まだまだやることもあるらしい。まだまだ、死ぬには早いんだ......

 

「俺は生きていいのか?」

「いいよ、わたしが許す」

「ありがとう」

 

 月村は優しい声色で「どういたしまして」と告げる。

 

 ◆◇◆◇

 

 深夜の帰り道、俺は数時間前に命を賭けた戦いをした、男、いや、高町恭也さんに送ってもらって、帰路へついていた。

 

「なのはから聞いていたのより少し違った」

 

 恭也さんはそう告げた。俺はそれに「まあ、変わったんでしょう」と返す。これは嘘だ。本当は、何も変わってはいない。変わったように見えるだけだ。でも、俺は変わるという言葉を使いたかった。何一つ変わらない俺を、少しでも変わったように見せたかった。

 

「そうだ、恭也さん......妹さんに龍崎一人が今までごめんなさいと言ってたって、伝言してもらえませんか?」

「自分じゃ、言えないのか?」

「はい、俺じゃあ、もう、無理だから」

 

 恭也さんは俺の考えを見透かし、悲しそうな表情になった。

 

 ◆◇◆◇

 

「もしもし、フェイト......今、時間大丈夫か?」

 




 俺、バトルを書くのが物凄く苦手なんだけど? 面白かった? 個人的に結構いい出来だったんだけど、そう、点数で表すなら五十点くらいかな?

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