元踏み台ですが?   作:偶数

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 スランプに入りました......他の話に比べると格段に文章構成能力が落ちてる。次の話までには、どうにかこうにかしておきますので、どうかご容赦ください。
 あと、好きだろ? 幸せな展開。


ヴィータ

 昔の俺は、色々な人々と出会いと別れを繰り返し、大切なものを失ってきた。その中には絶対に失いたくなかったものも存在した。失ったものが戻ってくることはまずない。もし、その失ったものをもう一度手に入れるには、自分から歩み寄り、手を伸ばし、ゆっくりと見つけ出さないといけない。取り戻すということは、手に入れることより、ずっと難しいのだ。

 今日は雲一つない晴天、気温も夏に近付いているということを感じさせる。あと、数十日もすると六月、梅雨の季節だ。六月は雨がよく降って嫌いだ。これが何度目の説明かわからないが、俺は雨が大嫌いだ。理由は濡れるし体が冷える。単純な理由だが、物事は単純な方がわかりやすくて良いと思う。

 休日に必ず行う散歩。もう、三年近く続けている日課だ、ここまで続けていると、散歩をしないと体調が崩れてしまう。そうだ、確か、高校の時の先生がこんなことを教えてくれたんだっけな......人間はものを考えることのない単純な作業をするとストレスが解消される。確かにそうだ、毎日殆ど同じルートを通る散歩、それがとても心を穏やかにし、昔の記憶を薄めてくれる。皮肉だな、何かのために尽くした戦い、褒め称えられ、称賛されても可笑しくないことをしたのに、その記憶を薄める......本当に、皮肉だな......

 

「いつもと変わらない。いや、めまぐるしく変わっている公園......」

 

 足を進めているとこじんまりとした公園が見えてくる。この公園では、休日になると老人達が決まってゲートボールを楽しんでいる。何度かその風景をベンチに座って眺めていたことがあったのだが、とある少女、フェイトと同じくらい友情を育んだ少女が目を瞑った瞬間に見える為、あまりあの公園でゆっくりしたことはない。彼女は、ゲートボールが好きだったからな。だが、今日は不思議とあの公園でゆっくりしたいと思う。多分、それは、アリサとすずか、フェイトと語り合ったからだろう。俺は、失ったものを見つけたんだ。ただ、それを手に入れることはしていないが......

 ゆっくりと足が公園の方向に向かう。公園のグラウンドでは、ゲートボールに勤しむ老人達が楽しそうに語り合っている。俺は自動販売機で苦いブラックコーヒーを購入し、誰も座っていないベンチに座る。風が吹いている、温かく、暖かく、そんな、優しい風が吹いている。心が透き通る。心が洗われる。心が......楽になっていく。目を瞑ってみた。何も見えない。ただ、温かい闇に包まれる。心地良かった......

 

「坊や、すこしいいかね?」

 

 咄嗟に目を開けると一人のお婆さんが俺の前に立っていた。「どうかしましたか?」と尋ねてみるとお婆さんはか細い声で、「人数が揃わなくてね、よかったら、一緒にやらないかぇ」と尋ねた。俺は少し考えた後、「いいですね」と答えて、ベンチから重たい腰を上げる。ゲートボールをするのは、アイツと一緒に戦ってた頃以来だ......

 

 ◆◇◆◇

 

 ゲートボールを終えた後、温くなってしまったブラックコーヒーを飲み干す。どんなに苦くても、喉が乾いたら美味しく感じてしまうのが憎い処だ。お婆さん達に手を振って別れを告げる。「また、一緒にやろうね」その温かい心遣いがとても心地良かった。そして、もう一度、誰も座っていないベンチに腰掛け、数滴残ったブラックコーヒーを飲む。

 充実している、それが、今の心境だ。心が温かい、心が、穏やかになる。

 

「よお、楽しんでたじゃねーか......」

「――ヴィータ?」

 

 赤いおさげを二つ揺らし、何も言わずに俺の隣に腰掛ける一人の少女。俺のもう一人の戦友、ヴィータその人であった。

 ヴィータはニヤリと悪戯っ子のように笑い。まだまだ明るい空を見上げた。明日も晴れるらしい。

 

「何年振りだっけな? 闇の書事件が終わって......もう、三、四年経つんだよな......」

 

 ヴィータの表情はどこか悲しそうで、見ているこっちまで悲しくなってしまう。俺は咄嗟に声を掛けようとした――その瞬間に右頬を思い切り殴られる。殴られた瞬間に見えた顔は、涙を含んでいた。

 

「アリサやすずか、フェイトに会って、アタシに会わねーとはどういう了見だ? 叩き潰すぞ......」

 

 ヴィータは流れる涙を袖で拭い、何時ものようにニヤリと笑い。俺の襟首を握り――殴る。蹴る。身長が三十センチ程違う少女にここまで一方的に攻撃されると精神的に来るものがある。誰か、この状況を説明してくれ、出来れば、腫れに効く湿布とかを用意してくれ......

 

「ふぅ~すっきりした~」

「ぐちゃり」(一人だったもの?)

 

 今までのシリアスな展開が一瞬で牛乳と一緒に食べるコーンフレークのようになってしまっている。ズタボロのボロ雑巾にされた肉体を必至に動かし、ヴィータの顔を覗き込む。その瞬間にもう一発拳が飛んでくる。あべしっ!?

 

「やっぱ、あと三発くらい殴っとこう♪」

「やめてください、死んでしまいます」

「あぁぁ? アタシが法律だ!」

「何たる悪法!?」

 

 力の入った拳を一発、二発、三発と顔に叩き込まれ、精神的にも、肉体的にもボロ雑巾にされてしまう。

 

「さーて、おまえの言い訳を聞かせてもらおうか? 馬鹿な理由だったら、もう何発か飛んでくるぞ......」

「サンドバッグですね、わかります」

 

 ヴィータは女王様のようにベンチに足を組んで座り、蔑むような視線で俺を見つめる。思わず冷や汗が流れ出す。

 

「あ、最初に一つ言わせてくれよ。アタシの代わりにゲートボールやってくれてありがとな、三時間くらい寝坊しちまって」

「そ、そうですか......」

 

 目を酷く泳がせながら、ヴィータを怒らせないようにする。が、蹴りが飛んでくる。ぐぎゃら!?

 

「じゃあ、本題に入ろうか......何でアタシに会わなかった? 正直に言えば蹴らないから」

「えっと......忘れて――ぷぎゃぁ!?」

 

 ヴィータは物凄く綺麗な笑顔で「殴らないとは言ってないぞ?」と告げ、容赦なく俺の両頬をぺしぺしと叩く。やめてください、せっかくのハンサムフェイスが前世と同じくらい不細工になってしまいます! グタリと地に伏せ、そのままヴィータの顔を覗き込む。今回は蹴られない。よかった......

 

「携帯出せ」

「何に使うのですか?」

「早く出さないと......」

 

 足をぐらぐらと揺らす。わかりました、追加攻撃ですね、わかります。咄嗟にポケットの中から二つ折りのガラパゴス携帯を取り出し、ヴィータに手渡す。するとヴィータは思い切り腹部を蹴りつけた。ごぼっ!?

 

「あの番号が使えないと思ったら......番号変えてんじゃねーか、あ? アイゼンの錆にしてやろうか......」

「お慈悲を......お慈悲をください......」

「ねーよ、そんなの!」

 

 もう一度、胸倉を掴まれ、鋭い拳が一発、二発、三発と叩き込まれる。最後に切れのあるアッパーが放たれ、宙に舞う。まさか、自分より小さい女の子に吹き飛ばされる日が来るとは......世も末だな......

 可愛らしいウサギのストラップの付いた携帯電話を取り出し、赤外線で電話番号とメールアドレスを交換するヴィータ。

 

「よし、これでいつでも電話出来るな、着信拒否にしたら――わかってるな?」

「わかりました女王様――あべし!?」

 

 ヴィータは「誰が女王様だ」とツッコミと蹴りを入れ、もう一度ベンチに座る。......なんか、懐かしいな。

 

「なあ、ヴィータ......寂しかったか?」

 

 俺は地面に倒れた状態で、そう呟いた。ヴィータは「当たり前だろ」と細く告げ、一滴の涙を零した。そうか、そうだよな、俺とヴィータは戦友であり、親友だ。泣くのもわかるし、殴りたくなるのもわかる。それくらい、俺は彼女に酷いことをしたんだ。とても申し訳なく思う。

 ヴィータは溜息を一つ吐き出し、ゆっくりと語りはじめる。

 

「おまえって、昔から何も変わってないのな......」

「......」

 

 ヴィータはもう一度溜息を吐き出し、睨むように俺のことを見つめる。

 

「アリサとすずかが言ってたぜ、一人は嘘吐きだって」

「ど、どう言うことだ?」

 

 ヴィータは「聞いてないのかよ?」と飽きれたように言い、説明しはじめる。

 

「アリサもすずかも、おまえの言葉に騙されて近藤の野郎に告白したんだよ。そして、見事に玉砕、おまえみたいに脳味噌が弁当に入っているミートボール程度にしかない奴に説明するなら、振られたんだよ」

 

 振られた? あの近藤に? 嘘だろ......

 頭の中がぐるぐると回る。それと同時に、笑えてくる。そうか、近藤、おまえは俺が考えていたより、ずっと一途だったんだな、知らなかったぜ......

 

「なに笑ってんだ? 乙女の恋心をバカにしてんのか......」

 

 ヴィータは青筋を立てながら、ボキボキと指を鳴らす。多分、ケンシロウを怒らせたモヒカンさん達はこんな気持ちなんでしょうね......

 

「襟を掴まないでください! 殴ろうとしないでください!! イケメンな顔が崩壊してしまいます!?」

「なに言ってんだ? アタシは整形が得意なんだよ......」

「ごぼっ!?」

 

 多分、どこからともなくチーンという、音が響き渡っていると思う。何だろう、アニメやラノベの暴力ヒロインでもここまでしないでしょ? 平手打ち程度でしょ? 多分、こいつはヒロインじゃない、サブキャ――あぼっ!?

 

「失礼なこと考えただろ? なんとなくわかるぜ......」

「おまえが魔導師で、エスパーなのことはわかった。頭にのせている足を退けてくださらないかしら?」

「なに? もっとふんでくれ? 良いぞ、アタシはいじめるのは嫌いじゃない」

 

 ぐりぐりと頭を踏みつけるヴィータ。小さく、「よく焼けた鉄板があればな~」と呟いた。誰だ! こいつに福○作品を読ませた奴は!? こいつならやりかねないんだぞ!!

 

「なあ......もう会ってくれるよな?」

「......誰にだ?」

「はやてとリインフォース」

 

 俺は少し考える。わかってる。もう、俺は昔の俺ではない。変わった、自分が作り出した重りを自分の力で取り外した。だから、もう、彼女に会っていいのではないだろうか? 彼女は、自分の家族を救ってくれた恩人、龍崎一人にまだ「ありがとう」その言葉を告げていない。不意に「で、でもよ! おまえがリインフォースを救ってくれたんだ!! おまえにありがとうを言わなきゃ......済まねぇだろ......」という、ヴィータの言葉が蘇る。

 

「......負け犬に多くを語る資格はない」

「あるよ、負け犬だから多くを語るんだ」

 

 ヴィータは俺のことを抱きしめる。自分より何十センチも小さな体。でも、そんな小さな体がとても温かく、心地よかった。涙が流れる。人の温かさ、人の優しさ、人の強さ、そのすべてが伝わってくる。

 

「おまえが辛い思いをしてきたことは知ってる。アリサやすずか、なのはやフェイト、おまえのことを知ってる色々な奴らから聞いた。胸が苦しくなった。もし、アタシがもう少しおまえに気をかけていれば、過ぎちまった数年間、隣におまえがいたかも知れないと思ったこともある」

「ヴィータ......」

「辛くなったら頼れよ、苦しかったら隣にいるさ、恋しかったら求め合ってやる、それくらい、おまえはアタシにとって......大切だったんだぜ?」

 

 沈黙の数分。その数分が、自分の愚かさを実感させる。

 そうか、俺はバカだった。俺のことをこんなにも思ってくれる人が居たのに......俺は......

 

「ごめんな......俺は近藤よりずっと、朴念仁なのかもしれない」

「難しい言葉使うなよ、わかんねぇー」

「つまり、バカってことさ......」

「ああ、おまえは大馬鹿だ......」

 

 ああ、俺は大馬鹿だ......




 ごめん、何か、上手く書けなかった......

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