とある傭兵の話   作:マーボー戦吼

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スマホ経由で投稿したせいか、段落が空けられておりません。許して。
TOX発売から少し経ってから作成した設定をもとに執筆したものですから、TOX2で判明した事実から解離しているキャラが存在します。セルシウスとか。
微妙ですが、最強系なのかな? その通りだと感じた方がいれば、伝えてくださればタグを追加します。
もちろん感想もまってますヨヾ(@゜▽゜@)ノ


第一章:アルクノア編

 

 

 

「すまないな、クレイン。君の屋敷を、仕事の待ち合わせの場などにさせてもらって……」

「いや、いいんだ。今回ばかりは流石に仕方がない。そちらの依頼主――本日やってくるナハティガルがそう言ってきたんだ。私に決定権などないよ」

こうして共にお茶を楽しめることだしね。と付け加えるクレイン。臆面もなく浮かべられたその微笑みは、紛れもない本心のものだろう。

「助かるよ――っと、そろそろご到着なされる時間だったな。それでは、俺は外の方で待機しておくよ。ナハティガルが帰るときに合流する手はずだから、これでしばらくはお別れだ。うちの義妹がまた厄介になるが……よろしく頼む」

幼少期からの友人への礼を述べたと同時に、玄関先より来客を告げるベルの音。

これから俺が打ち合わせをする仕事の依頼主、ラ・シュガル国王・ナハティガルの登場だ。

とはいっても、先に話をするのはクレインの方なので、俺はさっさと退散することにしたのだった。

「ああ。カイさんのことは、むしろこちらのドロッセルが喜ぶ。逆に感謝しているよ。それと一つ意見を言わせてもらうと、いつまでもお土産がブウサギ一択では芸がないよ?」

「……考えとく。またな」

「そうしてやってくれ。ではまた」

別れの挨拶を済ませ退室した俺は、もちろん歩くのだが、極めて急いで廊下を渡り屋敷の裏手の出入口から外へ出て、正門付近に迂回した。

正直、ナハティガルと親友の屋敷の廊下でばったり会うということだけは勘弁願いたかったのだ。

幸い、すれ違うことはなかったし、外に停めてある馬車付近には見張りしかいないことから、今回のミッションは無事完了できたようだ。

――さて、クレインが言うには、ナハティガルとの会談は約一時間を予定しているらしい。

暇を持て余すほどのんきな性質をしていない俺は、早速暇をつぶしに市場を回ることにした。

とりあえず、万が一早くナハティガルがやってきた時のために、見張りの兵士に少し空ける旨を伝えておいた

 

 

 

 

 

 

俺やカイ、それにクレイン達が住んでいるここ『カラハ・シャール』では本来乾燥の霊勢であるのにも拘らず、緑が多い。

その理由には、偏に街の中に大きくそびえる風車と、精霊術を利用したおかげで、街全体を囲うように緑が溢れているという事柄が挙げられる。

しかし鬱蒼と茂っているというわけでもなく適度にあることから、俺自身は結構過ごしやすいと昔から思っている。

話は変わるが、俺が今向かっている市場は、街の入口付近にある。

目印は、ひと目でわかるほどの巨木だ。樹齢は知らないが、相当のものと推測する。

そして市場は、その巨木周囲を囲むように並んでいて、稀にいい掘り出し物(安くて機能的なもの)が見つかったりするので、比較的よく利用する場所だ。

ここへ来る途中でも度々見かけたが、そこらかしこに兵士が彷徨いていて、市民が若干怯えたり、迷惑がっている……なにかあったのだろうか?

疑問に思いながらも辺を見回すと、なにやら見覚えのある背格好の人間が二人視界に入った。

品の良い服装をした、快活そうな娘と聡明そうな老人だ。あ、こっちを振り向いた。

「あら?あっ、ギルさんじゃないですか!」

気づかれた。堪忍して、こちらを呼ぶ娘の方へ歩く。娘の名はドロッセル。友人クレインの実の妹にして、我が義妹の良き友人である。その隣に老人――シャール家の執事ローエンも並ぶ。

「やあ。ドロッセル、ローエン」

「こんにちは!」

「こんにちは。ギルさん」

「ここにいるということは、なにか買い物かな?」

質問をすると、ドロッセルはぱっと顔を輝かせる。相変わらず表情豊かな娘だ。

「ええ。あっ、そうそう……さっきあそこのお店で、素敵な物を見つけたのですよ。一緒に見に行きましょう!」

「……ああ、いいよ。付き合おう」

一瞬、仕事の打ち合わせのことが浮かんだが、幸いまだ時間はある。断る理由はなかった。

その後、ドロッセルに引っ張られるようにして市場へと連行された俺は、ローエンと共にドロッセルの商品選びを眺めていた。

といっても、特にすることも見たいと思う品物もないので、たまたま来ていたほかの客と店長の会話に耳を傾けていた。

「なんだか、街のあちこちが物騒だな?」

「ええ。なんでも首都の軍研究所にスパイが入ったらしくてね。王の親衛隊が直々に出張ってきて、怪しい奴らを検問しているんですよ。全く、迷惑な話で……」

濃い茶色の髪をオールバックにした、高価そうなスカーフが特徴の男と店長の会話の中に、先程の疑問の答えが見つかった。――なるほど、ご苦労なことだ。

「……キレイなカップ」

そのとき、おもむろにカップを手に取り眺めているドロッセルの後ろから、同じくカップを見ていた、お世辞にも可愛いとは言えないフォルムのぬいぐるみを持った少女が言った。

件のカップは、白を基調とし赤い奔放とした模様が描かれている。二人とも見とれているが、最近の女の子はこんなものを好むのだろうか。

今度、カイにも買ってきてやると喜ぶかもしれん。いつまでもブウサギじゃ、かわいそうだしな。

よし、それじゃあこの仕事が終わったときは、ブウサギではなく、なにか適当なものを見繕ってプレゼントしてやろう。サプライズだ。

そうと決まればカイの好みの色とか思い出さなくては……確か――

「……さん……ん!――もう、ギルさんってば!」

「――あ、へ!?」

……ハズカシイ。物思いにふけっていたせいでなんにも話を聞いていなかった。おかげで変な声を上げて返事をするなんてはめに……。

その後、フォローしてくれたローエンの話によると、どうやらこれからシャール家にお客人をもてなすらしい。

俺も色々話を聞いてみたいと思ったが、残念ながらこれから仕事である。ドロッセルには「悪い」と一言入れ、一足先にシャール家の屋敷に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

――ナハティガル・I・ファン。今、二つの勢力に分かれている国家のうちの一つ、ラ・シュガルを統べる国王にして、六家のひとつファン家の三男である。

クレイン達領主をはじめ、一般市民や、果ては一部兵士からまで独裁者だと言わしめるほどの暴君として君臨している。

王族にしては珍しく、実際に最前線に出て活躍し功績を挙げながら信頼を勝ち取り、やがて王になったという異色の例を持つ男だ。

その経緯から、主に軍関係者の一部から熱狂的な支持者が数多くいる。

見た目は、正直言って怖そうなおっさん。あとデカイ。という事ぐらいだろうか。

まあ、それはそれとして……この数年間、傭兵として雇われた回数の多いお得意様だ。

仕事内容は、心底嫌なのもあれば、まだ許容範囲内なものもあった。いずれにせよ、人道的にはすべからず最低ラインをいっていたことだろう。

御陰ですっかり汚れ仕事にも慣れてしまった。これから先頼まれることも――いや命令されることも汚い仕事なのだろうかね。

さて、気分がネガに落ちてしまいそうな思考は一旦停止。今日もお金のため、我が家の再興のために働きましょう。

考え込みながら歩いていたおかげで、存外あっという間にシャール家玄関前に到着。

幸いまだナハティガルが出てきていなかったのでしばらく待っていると、玄関からナハティガルと、一見ヘタレのように振舞うジランドの姿が。――あいつ、やっぱ来ていたのか。

この数年間のうちにすっかり信用をゲットしたおかげか、ジランド本人の方からも様々な依頼を受けているので、彼の内緒ごととか色々知っていたりする。

最初に出会った時から、あいも変わらずナハティガルの斜め後ろと真横を行ったり来たりしながら、一歩か二歩くらい引いた姿勢で主君と会話している男だ。

やがて、俺に気がついた両名は馬車に近づくと、俺にこちらへと来るように促したのでそれに従う。

「陛下。早速、本題の方へ移りたいのですがよろしいですか?」

「かまわんぞ。貴様の性急さは、この数年で嫌というほど思い知っておる」

ナハティガルは尊大な態度で頷いてみせた。側近であるジランドに話すよう促し、自分はドカッと馬車の椅子に腰を下ろす。

取り残された俺は、ヘタレ役を演じる名役者ことジランドに顔を向けると、珍しいことにジランドの方からこちらへ寄ってきた。偶然だが、馬車の死角に当たるところである。

「陛下をお待たせしてはならんので、手短に言う。我々はこれより要塞へ戻るが、恐らくシャール家の者が抗議にやってくるであろう。兵を寄越してくる可能性も低くはない。そこでお前には、陛下と私の護衛の任に付いてもらうこととする。無論、陛下であればどのような刺客がこようとあしらわれるだろうが、自らお手を煩わせる必要もないのでな」

要するに、露払いということになる。ところで、気になる点が一つ。

「シャール家の者が、とはどういうことか?私は一介の兵士ゆえ知る権利などないことはわかるが、気になり出したら夜も眠れぬたちゆえ教えてもらいたい」

「話すと長くなる。それについては要塞内で私から兵士を介して資料を渡し、伝えることにしよう。では、乗るが良い。陛下もお前の武は評価してくださっているのでな、同席するのも吝かではないらしい」

……なんだろう。雇われてきて数年の中でこんな機会なかったから驚いているけど、まさか、あのナハティガルが他人を認めて同じ馬車に乗せるとか。いや、素直に助かるけどもさ。

というか、ここ数年の中で、稀にナハティガルが見せるなんとも言えない視線――なんとなく期待に満ちたよう――が気になっているのだが、もしかしなくても俺って優遇されてきているのかも。

だったら喜ばしいことだな。その分フォート家の復興も早まるというものだし。

というわけで乗り込んだ馬車内であるが、移動中はさながら地獄のようだった。精神的な意味で。

王であるナハティガルの座る席に誰か別の者が座るなどということはよっぽどのことでない限り有り得ないものだ。理屈云々じゃなくて、普通にお恐れ多くて座れない。

よって、自然に片方に俺とジランドが隣合せになって座るのだが……どうしたことか、目の前にナハティガルが居る。

マジ怖ぇ。目線とか合わせたくねぇ。話しかけられでもしたらどうしよ。誰だ、片方の席に座れば大丈夫、なんて言葉を俺に囁きやがった野郎は。もしナハティガルが口を開いたら、しかも俺に話しかけてきてしまったら一体なんて返せば――なんて考えながら俺に出来たのは、不敵に笑ったあとに窓に肘を載せ外へ視線を向けることだけでしたとさ。

そんな、逃避じみた思考のまま時が過ぎてくれるわけもない。

フッと笑ったナハティガル。そんな彼が開いた――開いてしまった口からとんでもない言葉がぶっ飛んできた。

「儂は、貴様を高く評価している。一介の兵士、さらには落ちぶれた弱小貴族でありながら与えてやった戦地で数々の武功を挙げておる」

――イキナリ何を言い出すんでありましょうかこの暴君。

あれか、周りを蹴落としてきたのはその全員が有力者だったのに対して、俺のとこはどうあがいても上には登ることができない未来を予見しての言葉なのか。

……とにかく、続けて話を聞くことにしよう。

「これからある物を使い、私は力による絶対的な支配を行うためにも、敵国であるア・ジュールへと攻め入ることになる。我が野望達成には何においても力が必要だ。そのため兵の増強は必須となろう。貴様にはこれからも働いてもらうことになる」

「ある物……?」

俺が疑問を口にすると、ジランドが一度ナハティガルに視線を送り、ナハティガルが頷いた。どうやら、説明してくれるようだ。

「クルニクスの槍という兵器のことです。大気のマナを集め、柱のような光を照射し対象を撃滅せしめる威力を持つ」

「なるほど。確か以前に風の噂から、首都研究所へスパイが侵入し機密の機材が破壊工作を受けそうになったと聞いたことがあります。クルニクスの槍とは、その機材のことですね?」

「ふん。忌々しいが、そのとおりだ。だが槍は我が手にあり、最早何者も我が王道の邪魔伊達はできん。いや、させんわ」

ふうむ。破壊工作なんてものの対象にされるわけだから、件の兵器とやらは相当なものなのだな。

勿論、それがあるからといって油断もしていないらしく、こうして兵力を求めてきているのだろう。

さらに、以前聞いた話では目的のためならば民草の犠牲は当然。という話だ。ただ、椅子にふんぞり返っているわけでもなく、一時はあらゆる場所に自ら赴いて、必要とあれば迷いなく戦場に立つその気概は嫌いではなかった。

そして、ナハティガルは人をひきつける性質を持っている。そうでなければ、今の地位についた時の熱狂的な軍関係者一同が生まれるはずもないのだから。

ところで、昔のナハティガルを知っているというローエンに話を聞いたところ、王になる前は本当に良い武人であったとのことだ。生来からどうしようもないことをやるような人物ではなかったのならば、更生の余地なぞいくらでもある。

ローエンも、親友だったのなら向かい合って話せばいいのに。それとも、最早話も通じなくなってしまうほどに時が経ってしまったというのか――

「――着きましたぞ。ギル、先に降りなさい」

先程から猫かぶったジランドがこちらを促す口調に可笑しく思いながらも、いつの間にか着いていたガンダラ要塞内部の床に足を付ける。最初に俺が降りたのは、勿論のこと安全確認のためである。

家で言うと玄関といったところのこの場所は、奥の扉の左右にはいざという時のために侵入者撃退用のゴーレムが鎮座している。外装甲はとても分厚く、頑丈で並みの実力者ではまず歯が立たないらしい。

……ちょっと戦ってみたい気もするが、仕事に差し支えるので止めておこう。自重、自重。

遅れてきたナハティガルとジランドの二人の背後を歩いていく。

その際、オレンジ色の魔法陣のような透明な壁が見えるが、これは実は、囚人が脱出できないようにするための罠なのである。

囚人の足につけている装置がここを潜ると、瞬時に爆発するようになっているらしい。

火力はそれなりに高く設定されているらしく、運が悪かったら即死だってありうるようだ。

実際、哀れにもそうなってしまった者を何度か見たことがあるのだが、それはもうヒドイ有様だった。

当然大怪我になるし、治っても二度と歩けなくなっていたからだ。俺も、あの輪っかを付けられないようにしようと心底思ったものだ。その辺りから、要らば大樹の影という信条をひとつ追加している。

所々、豪勢と無骨を足したような内装の廊下を進む。途中、この砦に駐屯している兵士がこちらを見るやいなや、会釈のかわりに敬礼をしてくる。

ナハティガルに仕えているジランドの子飼い兵士としての仕事をやっていく中で、知り合った者達であった。

世代も性別も様々で、青年や女性、老兵なども同じようにして、こちらへ好意的な表情を見せて片手を上げて会釈をしてきた。

そんな慣れ親しんだ者達への会釈も忘れずに返しながら、ナハティガルを先頭、次にジランド、そして俺の順番で、軍隊の基地に必ずあると言ってよい部屋、所謂、司令室に該当する場所に到着した。

「ジランド。作業は効率良く進んだか?」

「はい。マナ充填作業は進んでおります。じき完了するかと――」

二人の話が続いている間、俺はその場の適当なところに立って待っていることにする。

傭兵にはあらゆることに対して関心を持ちすぎるのは危険だ。俺は時々興味を持ちすぎるきらいがあるので、こうして意図的に会話の外に外れる行動をとることにしている。

まあ、今更な気もするが、詰まるところ、俺は話を聞くのが面倒くさかっただけなのかもしれない。

「ジランド殿!」

すると突然、何かあったのか扉を蹴破るほどの勢いで、慌てた様子のラ・シュガルの兵士が入り込んできた。

二名ほどであったが、二人の額には、びっしりと汗が滲んでいる。息も弾んでいて、喉をぜいぜいと鳴らしていた。まるでフルマラソンを走った後のようだ。

「申し上げます!先ほど、バーミア峡谷の施設が何者かに襲撃され、収容していた者たちが開放されてしまったと!!」

「なんですと!?兵は何をやっていたのです!」報告を聞いたジランドが、その目を剥いて驚愕の色を表す。

遠くにいたので、そのくらいの会話しか聞こえなかったが、非常事態のようだ。

最初に聞こえてきた二人の会話と、その慌てようで判断した。今回、傭兵としての契約には、護衛とだけであったので、関わらないでおくことにする。

ジランドと兵士が大慌てで飛び出していった後、ナハティガルから休息の許可を貰ったので早速、割り当てられていた部屋に向かった。念の為に武器の整備でもしているとしようか。

 

 

 

 

 

 

――不味い。寝てしまっていたようだ。

途中たたき起こされなかったところを見ると、幸いまだ侵入者らしき者は居ないらしい。

俺は素早く身支度を整え、引き続き待機していた。あと、部屋にやって来た兵士に渡された資料を読んでいた。

さて、武装の確認作業をしてからずいぶん時間が立っている。そろそろバーミア峡谷にやってきたという者たちがこのガンダラ要塞へと到着してもおかしくないかもしれない。

俺も動く必要があるかもしれないので、ナハティガルの元へと行くことにした。

幸い、人は直ぐに見つかったので助かった。

「すまない。休息が終わったので護衛の仕事に戻りたいのだが、居場所は分かるか?」

「はい。陛下はジランド様がいらっしゃる実験室に向かわれるそうですよ。先ほど、別の兵に伝えるところをお見かけしました」

「そうか。助かるよ」

親切に教えてくれた女性兵士に感謝を述べつつ、頭の中で思い描いた要塞内部マップで現在地を詩格情報から確認し、目的地を特定。その場所へと向かった。

移動の道中にも、多くの兵士があちこちへと走り回っていた。どうやら本当に侵入者が現れたようだ。俺は、見えてきた大柄なシルエットへ近づく。

「遅くなりました」

「構わん。ジランドが指揮している実験室へ向かう。付いてこい」

「はっ」

ナハティガルは少し怖い顔をしていたが、別段気にしてもいなかったようなのでこちらも平静のまま、いつでもナハティガルの前に出られるように付いておく。

やがて見えた扉の前に立ち開けると、驚きの光景が広がっていた。

「茶番だな、実にくだらん」

ナハティガルはそう判断し吐き捨てるが……正直こちらにとっては最悪だ。

「ナハティガル王!」

「ナハティガル……!」

後ろに控えているので確認しきれていないのかもしれないが、こちらにはハッキリと見えている。我が友、クレインの妹であり、そして、カイの友人であるドロッセルが何故ここに!?

挙句の果てにほかの侵入者らしき二人は、以前カラハ・シャールの市場で居合わせた者たちの二人だ。

なんてこった。知り合いばっかりじゃないか!

これは、ますますお仕事モードに頭を切り替えなければならなくなったぞ――

「実験に邪魔が入ったのか?」

ナハティガルはこちらの緊張感もお構いなく、落ち着いた口調でジランドに話しかける。

「はっ。しかしデータは既に採取しました」

「よくやった」

――私は私で、前方にいる金髪の女に集中している。なにやらただならぬ殺気をナハティガルに向けているようだが、今にも切りかかりそうだ。

「……!」

金髪の女が弾ける。何か言っているようだが関係ないな。

女は上段からナハティガルに切りかかる気でいるようだ。私は対して、ナハティガルの目の前まで移動し、剣を同じく上段から振り下ろす。

こちらの方が女よりも背が高いので、自然と私の剣が上から女を押潰すかのような態勢に鍔迫り合った。

「!?――っく。邪魔だ、退け!」

「――剛」

女の剣筋は、まあまあ悪くはない。剣の重みも並みの戦士では比較にすらならん。

――だが、軽い。

「魔神剣!」

鍔迫り合いの体制から力を急激に込めてそのまま押し切る。

必殺の自信はあるが、万一逃れてしまう場合も視野に入れ、衝撃波で吹き飛ばすようにした――結果、女は刃を逃れはしたが衝撃波の方でダメージを負ってくれた。その際、吹き飛ばした女の剣がナハティガルの足元まで転がっていく。

はるか前方にいる侵入者二名がなにやらこちらを見て驚愕といった表情をしている。切り伏せようとも思ったが、全く動く気もない様子なので今のところは放置しておこう。

「あの者が?」

ナハティガルが、目配せでジランドに問う。

「はい」

「ふん。あのような小娘が精霊の主だと……?――貴様はどうであったか?」

ナハティガルは、直に剣を合わせた私に問うているようだ。恐らく、程度の話であろう。

幸い、今の私はとても正直に答えたい気分だ。思ったこと、感じたことを素直に口にしよう。

「脆いですね。とても精霊の頭を張れるとは思えません。今後もこれならば、もう気にかける必要もありますまい」

一旦ナハティガルの後方へ下がり、報告した。その後ジランドと共に並ぶ形で待機する。

ふと気がつけば、途中からまた侵入者が増えていた。女と同じく、市場にいた者たちだった。

少年、青年、老人。全く、対処せねばならんのはこちらだというのに……要らぬ仕事を増やすのは止めてもらいたいものである。

「儂は、クルスニクの槍の力をもって、ア・ジュールをもたいらげる」

「それでカラハ・シャールを……!どうしてこんなヒドイことばかり……」

少年が降りてくる。念のためにすぐ迎撃を行えるよう構え、態勢を整えておく。

「下がれ!貴様のような小僧が出る幕ではないわ!」

「ナハティガル王!」

少年は、尚も食い下がる。――ヒドイコト。それは、今の俺の行いのことも指すのだろうか……俺は、単に仕事でやっているだけなのだ。

――そうだ。実績を積まねば、王に認めてもらわねば家の再興は叶わないぞ。私はなにを迷うことがあるというのか。今更、止まれんのだ!

――状況を確認しよう。

どうやら先程のダメージが回復してきたらしい。女が再び立ち上がろうとしている。だが、未だ完全に抜けきってはいない。生まれたての小馬のように無様に這っているだけ、まだ気に止める必要はない。ほかの者たちは対して変わらなかったようだ。

「貴様などに我が野望阻めるものか」

ナハティガルは倒れている女に向けて言い放った。同時に足元にあった剣を持ち、ダメ押しに切っ先を向けて投げつける。

女の命を絶とうと凶刃を閃かせる剣は、しかし突然割り込んできたナイフにたたき落とされた。

老人だ。知り合いだが、今は関係ない。公私の折り合いはハッキリと。故に構えも一瞬たりとも緩ませない。相手はあの『指揮者イルベルト』だ。用心は厳重に敷いておく。

「国も軍も捨てたあなたが、今更なんのようですかな?」

黄緑色の魔方陣の上に立ち、ゆっくりと降りてくるイルベルトに向かって、ジランドは余裕のある口調で問うた。

しかし当のイルベルトは、のんきにまだ無事な方の女と少女へと話しかけている。ジランドは己が既に眼中にすら入っていないことを自覚すると、僅かにその眉を歪ませた。

「落ちぶれたものだな、イルベルト。今の貴様には、それが相応だ」

老人の態度を見てか、フンと鼻を鳴らしたナハティガルはイルベルトへ向けて独白した。

「陛下、こちらへ!このような者どもにこれ以上構う必要はありません。ギル、お前も来なさい。あとのことは兵士たちに任せます」

「了解した」

私は、踵を返して進む二人の背後を警戒しながら後退していくようにしてその場を去った。

 

 

 

 

 

 

「あの技術……増霊極をア・ジュールが手にしているというのは驚異ですな」

通路途中、ジランドがナハティガルに話しかける。その間もしきりに後ろの方を確認しているが、一応俺が確認しているのだから信用して前向いて歩いて欲しい。

相変わらずヘタレの演技に余念のない男である。

「何を恐れる?我が軍も装備すればいいだけのことだ」

「問題点も少々あるようですが……」

「構わん。至急イル・ファンにデータを持ち帰れ」

「では、クルニクスの槍に繋いだ者たちに……?」

「うむ、早速実装しろ」

対するナハティガルは、微塵の同様も感じない足取りと態度で問いに答えてみせる。――おや?

「少しよろしいでしょうか?」

俺は、ちょいと今の話を聞く中で興味が湧いたので、それに乗らせてもらうべくナハティガルに話しかけた。

「許す。申すがよい」

「では。今上がった増霊極、という兵器の実戦配備の件なのですが……兵器完成の暁にはそれをテストする任を私にくださることを希望したいのです」

「なぜだ?」

「兵器として新造された物には、いずれにせよ何らかの悪い作用が働くことが多くあります。当然、陛下の御身で試験するわけにもいきませんし、参謀であられるジランド様も同様です。しかし、そのような重要なもののためとはいえ貴重な兵力を割くこともできません。そこで使い捨ての利く傭兵である私を有効に使っていただきたいのです」

ナハティガルはオレンジの魔方陣を越え、少し進んだところで足を止めた。

「随分と遠回しな言い方をする。有り余る好奇心を持つ貴様のことだ、要は完成した兵器を使わせろということだろう。良いだろう使わせてやる。ジランド、良いな」

「はい。依存はありません。では完成次第、装備させることにいたします」

いや、嬉しいね。ア・ジュールの増霊極と言えば、あの少女が持っていた喋るぬいぐるみみたいなヤツだろう。

俺もあんなふうに会話できて一緒に戦えるような相棒が手に入ったらどんなに良いか……うん、今からとても期待が膨らむぞ!

「待て、ナハティガル!」

そのとき、突然後方から声が響いた。振り向くと先ほど俺が吹き飛ばした女性がこちらへ走ってきて、ちょうど例の魔方陣がある直前で止まる。

「――ッ!」

立ち止まった瞬間から流れるように火の精霊術を発動する。素晴らしい動きだが、残念なことに魔法陣には無力。

御陰でやることがない俺は、ジランドと同じようにナハティガルの後方で待機だ。

「無駄だ、自称マクスウェル」

「……答えろ。なぜジンを使う?なぜ民を犠牲にしてまで必要以上の力を求めるのだ?王はその民を守るものだろう?」

ジン――正直理論はさっぱりだが、とにかく霊力野の質に左右されずに、誰にでも強力な精霊術を使えるようになってしまうお助け装置なのだ。

しかしてこれには少し問題があり、精霊の化石を燃料としているのだが、燃料である精霊の力を強引に操って精霊の力を根こそぎすい尽くして死滅させてしまう。

そのために、万物に悪影響が及ぼされるとのことだ。

「ふん、お前にはわかるまい。世界の王たるものの使命を!」

ナハティガルは、両の手を動かしながら熱弁を始めた。

「己が国を!地位を!意思を!守り通すためには力が必要なのだ!民は、そのための礎となる。些細な犠牲だ!」

シン……と辺は静まり返った。彼女は俯いているが、きっとなにか考えているのだろう。次にどう出るか……。

「……貴様は一つ勘違いをしている」

「なんだと?」

「このようなもので自分を守らねば……ジンの力など頼らねば、自らの使命を唱えられない貴様に――」

そこで彼女は言葉を区切り、握った剣を振るいながら高らかに宣言した。

「できることなど何もない。なすべきことを歪め、自らの意思を力として挑まない貴様などに!」

だが、うん。魔方陣がなければ格好が付いたのだが……如何せん、なあ。どうなのだろう?

「はっ!儂に傷一つ付けられぬどころか、こやつにさえ遅れを取るお前が何を言っても負け惜しみにしか聞こえんわ」

案の定、ナハティガルは嘲笑うように言葉で切り捨てる。彼女は再び俯いたが、それは単に打ち負かされたというわけではないのではないか、と思わせられる空気を纏っていた。

「勘違いはひとつではないようだな」

「何?」

ただならぬ気配に、俺は少し体が強ばる。そして次の瞬間――!

「――なぁ!?」

驚いた。彼女、あろうことか思い切り助走をつけた状態でジャンプし、魔方陣を通り抜けたせいで爆発した装置の爆風を利用して、ナハティガルへ向けて文字通り飛んできたのだ!

あまりの突然の出来事に対応しきれなかった俺が出来たことは、篭手で剣戟を防いだ途端、もう一度の装置の爆発で女性諸共吹っ飛ばされてしまうナハティガルを見ていることだけであった。

ぶすぶす、と黒煙が辺を立ち込める。無事だったナハティガルが立ち上がりその様子を見た後、突然弾かれたように大声で笑い始めた。

「ふ、ふはは!それが意志の力とやらか?やはり傷ひとつ負わせられぬではないか」

俺は、恐らく彼女は力尽きたのだろうと思っていた。ナハティガルとジランドも同じ考えであったと思う。

しかし我々の予想を遥かに裏切り、来度の彼女は爆炎で発生した黒煙を盲ましに利用して、上空から切りかかってきたのだ!

「陛下!」

ジランドが声を上げるがもう遅い、俺も間に合わない……!

「貴様に使命を語る資格はないっ!」

だが、ナハティガルから離れた上空位置で再び爆発が起き、ついに女性は床に倒れふすのであった。

「こやつ、なんの迷いもなく……」

もうもうと立ち込める黒煙――その先を見つめながらナハティガルは、そう呆然と呟いた。

俺は俺で、彼女は仲間がいたはずではないのか?なぜ、体制を立て直さずに単独で追ってきたのか?そして彼女をそこまで駆り立てる使命とは一体何なのか?

知りたいことは多々あったが、残念ながらお開きの時間のようだ。

「ミラ――ッ!!」

どうやら、あの実験室の仕掛けを突破されたらしい。先程の少年の声が、もうすぐそこまで迫ってきていた。

「陛下、こちらへ!」

「くっ!」

ジランドの声に促されたナハティガルは移動を再開した。依頼主が引くとなれば、それを補佐するのが護衛役たる俺の仕事のはずだ。

「お二人はお先に。この場は私が抑えましょう、後ほど合流します」

「頼みましたよ!それでは、我々の拠点で合流しましょう」

 ジランドとナハティガルが通路の奥に消えたのを確認し、俺は目の前に立ちはだかる、いつぞやの出店で出会った者達と相対する。

「貴方は!?」

「……カラハ・シャールのお店であった人、です」

 驚きを隠せない様子の棍を持った少女と、傍らにヌイグルミを浮かべている少女。二人と同様に、各々大小様々であるが驚愕の色を浮かべていた。

「残念ながら、ここから先は通せない。お仲間も酷いケガを負っていることだし、俺も知り合いを斬るのは避けたい。ここは大人しく引いてくれると嬉しい」

 腰のベルトに帯剣している、やや細身の剣の柄に触れながら、なるべく穏やかに、諭すように語りかける。

 すると、マクスウェルを庇う者たちの後方に控えていたローエンが前に出てきた。

「……分かりました。私たちは一旦引かせていただきます。しかし、ギルさん。いつか必ず、事情をお聞かせ願えますね?」

「ああ……良いだろう。いつか、な」

 俺の返事を聞いたローエンは、振り返って撤退を促す。どうやらローエンは信用が厚いのか、ほかのメンバーは満場一致で同意した。

 やがて誰もいなくなった廊下で、俺は深く息を吐いた。

恐らく、次の拠点は首都イル・ファン。次に彼ら侵入者一行と相見えるのはその場所だろう。

それにしても……最後に恐ろしいまでの気迫を見せたあの女性は無事であろうか。

無事ならば、再び変わらぬ意思で俺の前に立ちはだかるのなら、今度こそその身に宿す使命とやらを聞き出してやりたいものだ。

 

 

 

 

 

 

オルダ宮は、首都イル・ファンの中でも最大級の規模を誇る建物で、国王ナハティガルの権力の大きさを余すところなく物語るに相応しい宮殿である。

内装もそれはもう豪勢なもので、数年前初めて訪れたときは少なからず緊張したものだが、今ではもうすっかり馴染みのある建物と化している。

「ギルさん。おはようございます」

「お疲れ様です!」

こうして声をかけてくれる若い兵士も増えてきたし、ベテランの兵士とも会話の回数も多い。職場での評判は上々だ。嬉しい限りである。

俺は、ジランドから呼び出されて早速向かう途中である。なんでも例の兵器が完成したから起動に立ち会え、だそうだ。

事前に聞いた話ではブースターとジンを合わせたような物、らしい。

――所変わって、ジランドの私室。

「来たか。待ってたぜ」

「待ちわびたのはこちらもさ、ジランド。さあ、早速例の物を見せてもらえるかい?」

俺の言葉を聞き、ジランドは待っていたと言わんばかりに手のひらサイズの箱のような形をした機械を手渡してくる。

「これが……オリジン?」

「それは精霊の化石から精霊を再現し、使役することができる装置だ。ちなみに、それによって再現された精霊のことも同じように呼称される。精霊術そのものを具現化させるような仕組みだから化石になった精霊の死滅も起こり得ない。ただ、こいつには少し問題もあってだな……どうやら使役する精霊が強大すぎるとその分反動がでかい。実用化に至るまでにはまだ時間がかかるだろうよ」

「反動……それは一向に構わんさ。元より言い出したのは俺だ。精々使いこなせるようにするさ。ところで、このオリジンで具現化できる精霊とは何なのだ?まさか、言うに事欠いて微精霊ということはあるまい?」

手の中で金属製の箱を弄びながらジランドへ問う。するとジランドは、不敵な笑みを浮かべながらかぶりを振った。

「当たり前だ。微精霊での実験なぞとっくに人体実験で済ませたわ。――そいつに入っているのはな、ギル。大精霊セルシウスだ!」

「大精霊……?四大の他にも精霊がいたのか?――まさか『そちら側』の?」

「そう、『こちら側』の精霊の化石だ。実は随分前から持ち込んでいてな、それを今回活用したというわけだ」

すごいな。えと、セルシウスだっけか?ジランド曰く氷の大精霊だそうだが、どんな姿をしているのだろう?あと、どんな力があるのかを見てみたい。

早まる気持ちを抑えきれなかった俺は、使っても?と視線を向けると、ジランドは何の迷いもなく頷いてくれた。

やはり我々は男。考えることは二人とも同じのようで……つまるところ、男はみんな新しい物好きなのです。

ジランドに言われたとおりにして起動させると、箱が割れるようにして変形し発光した。

そして光が前方に人型に収束したと思うと、光が収まったところに一人の少女の姿があった。

先ず、最初に目に付く特徴は左目の眼帯のような飾り。見た目は青白い髪の少女だ。少女――セルシウスは俺とジランドを交互に見ると閉じていた口を開く。

「私を召喚した者はどちらですか?」

召喚……者か。ああ、再現した者ってことでいいのか?なら――とジランドの方を見ると彼は頷く。どうやら「お前だ」と言っているようである。

「お前を召喚したのは俺だ」

セルシウスは俺の言葉を聞き、こちらを向いてから居住いを正した。

「では、マスター。これよりなんなりとご命令をなさってください。私はそれに応えてみせましょう」

意気込みは十分のようだ。どうやら正規の召喚でない場合も「召喚者=主」という法則は適用されるのか。

それはさておき、性能評価ができるのはこちらにとって望むところなので、早速ジランドに手配してもらった練習場へと向かった。勿論、立入禁止にして。

先ず適当に四足歩行の魔物を放ち、それをセルシウスがどのように倒すのかを観察する。

「マスター。あの魔物を屠ればよろしいのですね?」

「そうだ。加減などいらんから、思う存分やってきてくれ」

「はい、マスター」

次の瞬間、セルシウスの体が消えたと思うと既に魔物の懐に接近していた。信じられないほどのスピードである。セルシウスはさらに、驚くことに掌底を連続で繰り出したのだ。

「――獅子穿孔ッ!」

どうやら武闘派であるらしい大精霊セルシウスは、止めとばかりに獅子の外見を模したかのような気を相手にぶつけ、魔物の体を四散させた。

唖然である。正直、思っていた以上の成果だ。あの時の少女が持っていたぬいぐるみみたいなものかとずっと勘違いしていた自分が恥ずかしい……。

「良いじゃねえか。近接戦闘を得手とするなんて俺が欲しいくらいだが、まあ先に約束しちまったんだから仕方ねえか。おい、ギル。次は精霊術、使わせてみろよ」

「そうだな。氷の精霊術の威力も検証しておかないと、戦闘時に活用できないことだし――セルシウス。次は精霊術オンリーで倒して見せてくれ」

「お任せを、マスター」

ジランドが何らかの機械を操作し、先程魔物が出てきたところから今度は鳥類型の魔物を放つ。セルシウスは複数の氷柱を一瞬で作り出すとそれを飛ばし、ひとつも外すことなく空飛ぶ魔物に命中させた。

「うん。威力、スピード、正確さ共に問題ないどころか予想を上回りすぎていて驚かされてばかりだったよ。流石は大精霊だ」

「お褒めに預かり光栄です」

こちらの褒め言葉を極めて冷静に返すセルシウス。うん……いまいち表情の変化が見られない。色んな顔が見られるよう、今後の付き合い方にも気を付けていくことにしようか。

「……むう」

「どうしたジランド?何か問題でも?」

先ほどセルシウスが魔物を屠った辺りから表情を曇らせているジランドに問いかける。すると彼は、なんでもないと首を振ったが、一瞬迷ったような素振りの後に口を開いた。

「ふむ、いや言っておこう。実はな、オリジンで大精霊を使う反動は正直かなりのものになるはずで、場合によっては持ち主の死すら有りうるんだが……体に異常はねぇか?」

死!?……そう言えば、反動のことすっかり忘れてたけど……特に異常はないな。多少疲れている程度だ。

「疲れているだけ……?腑に落ちんが、まあいい。安全に使えることに越したことはないか……」

ジランドはなにやらぶつぶつと呟いた後、こちらへと振り向いた。

「では、セルシウスの実戦投入試験も兼ねてア・ジュールの村の一つでも潰すとしよう。場所は追って伝える。それまで備えておけ」

そう言って、ジランドは再び参謀副長としての顔に戻り去っていった。まもなく練習場には俺とセルシウスのみが残される。

さて、早いとこ部屋に戻って休むとして、この気難しそうな大精霊とはどう付き合っていこうか。

 

 

 

 

 

 

「――では、もう一度説明しますよ。我々が仰せつかった任務は、ア・ジュールの村ハ・ミルを陥落させることです」

現在、俺たちは行軍中の馬車内の一つに集まった小隊長クラスの兵士二人を集めて、ブリーフィングを始めていた。今はジランドが目の前に広げた地図を広げ、それを活用しながら説明している。

「小隊は主に二分にして侵略を行いますが……今回の作戦にはあまりに少ない。そこで、陛下がお雇いになられた傭兵ギルに、私が完成させたオリジンを使わせ制圧攻撃を仕掛けさせます。あなたたち小隊は、その攻撃によって起こる混乱に乗じて一斉に動き出しなさい。それと、民は生きて捕らえよとのご命令です。決して、殺さぬように」

「はっ!」

小隊長二人が声をそろえて返事をする。二人ともジランドの言葉を信用しきっていて、どちらも疑問に思わないようだ。

「では、ギル。頼みましたよ?」

そう話すジランドの目は、暗に派手にぶっぱなせ!と物語っていた。

「了解した……」

ハ・ミルの住民たちには悪いが、大人しく捕まってもらうとしよう。セルシウスの攻撃で死人が出なければいいが……ああ、ダメだダメだ。お仕事なのだ。お仕事、切り替えろ――

――それから始まった侵攻作戦だが、はっきり言って蹂躙以外の何ものでもなかった。

抵抗した村人はセルシウスの放った氷の精霊術により氷漬けにされ全滅し、生き残った抵抗力がない民を捕らえるのは何の苦労もなかった。

感情を抑えていた状態からそれを緩め始めたとき、唯一、村を攻撃するとき、セルシウスの顔がわずかに曇っていたことが印象的だったことを思い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「マスター。少し、よろしいですか?」

自室での待機中。装備品や携帯食料、グミなどの点検を済ましているところにセルシウスが声をかけてきた。

「いいよ。話を聞こう」

「来度の戦闘――いや、虐殺に加担した理由をお聞かせ願いたいのです」

 やれやれ、やっと向こうから話しかけてきたと思ったらそれか……どうりで表情が剣呑としているわけで。

「あのな、セルシウス。俺は何も好き好んであのような行為に走ることに加担しているわけではないんだ。正直村人たちを連行すること自体にも嫌気がするし、できれば殺しだってやりたくはない。でもな、それらをこなさないといけない理由があるんだ」

 話せば長くなる。とセルシウスを俺が座っている椅子の近くにある椅子へと促した。彼女は素直に座ると居住いを正し、聞く態勢に入ってくれた。

「じゃ、始めるぞ?」

――俺は捨て子だった。当時俺を拾ってくれたカラハ・シャールに住む下級貴族であった養父。

ディオス・フォートが言うには、彼は上流の貴族と共に狩をしていたらしい。

本来、下級貴族が当時有力者であった貴族と共に、というのはあまりないことなのだが、それでも参加を許されたのは、ひとえに我が養父が武に秀で用心棒に適していたからだ。

同行を許された父さんは、稀に現れるボアなどの他の貴族の手に負えないようなモンスターを相手にしながら狩りを共にやっていたそうだ。

だが、雇ってくれた貴族の連れ子の一人が突然いなくなってしまったのだ。

居なくなってしまった子供の父親は幸い多少は武の心得があったので俺の養父と共に、森の中を搜索に入ったのだ。

結果として子供は見つかり、その子と父親はさっさと帰らせてしまったそうなのだが……父さんが一人後方を気にしながら戻っていた道中で赤子の鳴き声を聞いたらしい。そして、茂みの中で見つけた子供というのが俺だった。

それから俺は父さんに引き取られ、めでたくフォート家の仲間入りを果たしたのだ。

俺はどうやら武術と精霊術の両方に恵まれていて、それに気がついた父さんは俺に様々な訓練を施し、実践経験も積ませた。

子供が男児に恵まれなかったフォート家当主である父さんにとっては嬉しい限りだったのだろう。

それから俺は養父だけでなく、養母にまで二人の間にいる娘と等しく愛情を注いでくれた。義妹も、俺を実の兄のように慕ってくれたのだ。

そうして月日が経ったある日、事件が起きた。ファーメル・フォート――母さんが病で床に伏してしまったのだ。

すぐに医者を呼んだが、医者によれば「ある薬草があればすぐに治せられるのだが、それはとても危険なところにあり、一般人にはとても採りに行けるものではなく、普段は腕の立つディオスに採りに行ってもらうものなのだ」と言っていた。

だが、その日は間が悪かった。当時、父さんは兵士としての仕事で首都へ赴いており、すぐに飛んで帰っては来られない状態であった。

俺たち兄妹は医者に薬草の詳細を聞いてから母さんの容態を抑える薬をもらい、家に戻り直ぐ様その薬草を採取するべく行動を起こしたのだ。

……今思えば、まったく無謀なことをしでかしたと思う。いくら当時の俺が武術に秀でていたとはいえ、子供だけではあまりに危険な魔物の出る森へと出かけていったのだから。

森の中では、二手に分かれて行動した。俺は頑なに反対したのだが、義妹の気迫に押され、結局折れてしまったのだ。

そうして森の中を歩いていると、突然悲鳴が上がったのを聞いた。義妹の声だった。

俺は直ぐ様蜻蛉返りし、無事に間に合ったのだが、今にも義妹がエッグベアに爪で切り裂かれようとしている場面であったので、俺は迷わずエッグベアを背にするようにして義妹を庇った。

その結果、背中に跡が残るほどの大怪我を負ってしまったが、無事に薬草も手に入れていた義妹と共に生還できた。

家で母さんに作った薬を飲ませた後、俺は気を失ってしまったのだが、気がついたあと母さんが、俺のために義妹が一晩中泣いてくれたのだということを話してくれた。

――その時から俺は、決して義妹の前では傷ついた姿を見せないと誓った。

やがて月日は経ち、俺が十四になった頃だった……今となってしまっては真相を知ることは叶わないが、突然フォート家の屋敷が全焼してしまい、俺たち兄妹を逃がしてくれた両親は帰らぬ人となってしまった。

それからは父さんの友人であった貴族シャール家の者に世話になり、ひとまず一軒家を確保できた矢先に俺は傭兵として働き始めた。

それから五年位経った頃だった。仕事を高い確率で完遂してきた俺の評判を聞きつけたジランドが、俺を雇いたいと申し出てきた。渡りに船だったな。

依頼の功績によってはフォート家の復興を約束すると言う条件の下契約を交わした俺たちは、以後五年間。今現在までの付き合いを続けている。

依頼内容の中には非道、外道と言えるものも少なくはなかった。だが、俺は自分を養ってくれた、救ってくれた両親と義妹の家の復興のためにも尽力したい。

その想いがあったから、俺はその成就のためならばどんな悪行にも手を染められる。身内でさえなければ友さえ手にかけることも厭わない。その覚悟をもって、俺は傭兵稼業を続けてきたのだ。

「――」

 俺の話を黙って聞いていたセルシウスは、ひとつ頷くとこちらへ向き直った。

「よかった。そのような覚悟がお有りならば従うことも吝かではありません。もし納得のいかないような浅ましい信念をお持ちならば、たとえ自害をしてでも契約を断っていたでしょう。マスター、貴方は仕えるに値するお方だ。これからどのような悪行に手を染めることがあっても、私は決して貴方を裏切りません」

 俺は、微笑みながら言う彼女に唖然とした。てっきり「個人のエゴの塊のような願いだ!」とか言って否定され、契約破棄を迫られるものと覚悟しての話だったのだが、どういうことなのだろう?

「貴方ひとりのエゴだとしても、貴方以外の他の人間の幸せのために、だというのならば話は別です。他の大精霊はどうか判りませんが、少なくとも私は、貴方をマスターと認めましょう」

 その時、俺は呆けた面をしていたと思う。そう言って再度微笑む彼女は、夜中に降る新雪のように映えて、そして綺麗だったから。

 

 

 

 

 

 

 ――オルダ宮謁見の間。奥にある巨大なガラス窓と、奥にあるひとつの王の座がぽつんとあるだけのやたらだだっ広い空間だ。

本来なら好き好んでこんな場所にはこないのだが、どうやら侵入者が現れたらしく、俺は嫌々ジランドに連れられて来ていた。

 このオルダ宮は豪勢な作りのくせして内装が単純であるため、謁見の間には直ぐにたどり着くことが可能である。急ぎ指示を仰ぐために、ジランドが報告をしていた。

「ネズミが入り込んだようです。まもなく、ここへ」

「どちらだ?」

 その言葉を聞いて驚いた。侵入者は、ア・ジュールのスパイかあの時大怪我を負った女――マクスウェル一行のどちらかで、マクスウェルの方はケガのせいで絶望的で最早勘定にも入っていないものと思っていたが……心の底では、ナハティガルはマクスウェルが再び現れることを期待していたらしい。

すると、ナハティガルはこちらへと視線を動かした。

「ア・ジュールのスパイだったならば貴様に当たらせるが……もしマクスウェルであったときは――」

 ――ゴ……ン……。扉の開く音に気がつき振り返ると、何時か見た一行であった。センターに立つは、あの時の――!

「……聞くまでもなかったな。来たか、マクスウェル……まさかあのケガから復活するとは」

「……ナハティガル」

 ナハティガルとマクスウェルは無言で視線を交わす。すると、ナハティガルは視線をそのままに俺たちの方へと体を向けた。

「貴様らは槍のもとで待っておれ。マクスウェル狩りのあとは、北の部族狩りといくぞ」

「かしこまりました。ではいきますよ、ギル――」

「――お待ちください、陛下。少し、少しの間だけで良いのです。マクスウェルと話をさせて頂く許可を!」

 俺は、やっと巡ってきたこの時を逃したくはなかった。あの時叶わなかった、マクスウェルの行動原理たる確固とした想いを今――聞かなければ!

 だが、ナハティガルが寄越した返答は、俺が求めるものとは百八十度も違ったものであった。

「ならん。儂はこれより、槍の力をもって奴らに我が力を見せつけてやるのだ。貴様の出る幕はない」

 ナハティガルは冷たく言い放つ。

「そんな……!陛下、聞き届けてください!私は――」

「――二度も言わせるなよ、若造。貴様のような一介の傭兵風情が、王たる儂に口添えしようなぞ愚かしいにも程があるわ!」

なおも食い下がる俺に対し、しかしナハティガルは、俺のその様子を見てますます冷たく拒絶したのだった。

「……いきますよ、ギル。さあ、早く!」

「――――了解、した――――ッ」

 俺は、ジランドに促されるままに左手にある扉へと進む。ジランドが

扉をくぐり、自分も続こうとしたところへ、突然声が掛かった。

「ギルさん!」

 ……振り向いて確認するまでもない。ローエンの声だ。恐らく、以前俺がジランドから渡された資料で確認した、クレイン暗殺のことについて問いただしたいのだろう。「なぜ、友を殺した敵側にいつまでもついているのか?」と。

 俺はローエンには構わずに先へ進む。扉をくぐるとき、ふと考えがよぎった。――友を殺した敵。俺の願いを聞き入れなかった者。それは誰だ?そうだ、ナハティガルだ。

困ったことに、ナハティガルは生きている限り、ご執心であらせられるマクスウェル殿との対峙を希望されるのであろう。ならば、俺が話合いを設ける機会が無いではないか。

――おお、いいことを思いついた。障害は取り除けばよいのだ。

今までもやってきたことだろうに、なぜ気がつかなかったのだろう?丁度いいことに「敵討ち」という名目は揃っているのだ。

 ――人ひとり殺すには、十分な理由だろう。

「――ジランド。話があるんだが……」

扉をくぐり完全に閉め切ったところで、俺はジランドへ本来の話し方で話しかけた。ジランドは、訝むようにこちらへと振り返る。と、俺の表情を見て何かを感じ取ったのかハッとした顔になる。

「そうか、おまえも……実は俺も、ちょいと提案があってよ」

 どうやら同じことを考えていたのだろう。にやり、と双方顔を歪ませ同時に口を開いた。

「ジジイは不要になった。大人しく舞台から降りてもらうことにしよう」

奇しくも同じタイミングで同じ言葉を言い放った俺たちは、そのまま低く笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 ナハティガルのことはセルシウスに任せ、俺とジランドはクルスニクの槍が一時的に設置されているもう一つの大部屋へ向かっていた。

「おい、ギル。セルシウスには、ちゃんと指示してあるんだろうな?」

 俺より先を歩いていたジランドが、こちらへと視線を流す。俺はそれに対して、当然だと首肯した。

「セルシウスにはナハティガルの勝敗にかかわらず、戦闘が終わり次第、好きなタイミングでなるべく早く殺せと伝えてある。大丈夫、彼女は俺に『決して裏切らない』と誓ってくれた。しっかりやり遂げるさ」

「……そうかよ。おっと、到着だぜ。これからのこと説明してやっからよく聞きな?」

 ジランドは扉の中に入ると、奥にある槍を示した。

「まずこの槍を運び出す。今こいつの下に広がってるロータスを使えば外に運ぶのはすぐだからな――それと、肝心の運ぶ場所はあのファイザバード沼野だ」

「現在、両国軍が戦争しているところにか?槍を使って、戦局を傾けさせる算段か?」

「ん?まあ、そういうことだな。ルートに関しては、向こうに着く間に兵士から聞いた情報をもとに作成する。当然、お前は俺の護衛役だ」

 今回も頼むぜ?と悪い表情で笑いかけるジランド。正直、俺は護衛なんかよりフォーヴとかガイアスあたりと戦いたかったんだがな。

 ジランドはロータスに乗ると、俺にも乗るように促した。従うと、魔方陣が輝き、気づいたときには巨大な台車の上にいた。

 ジランドが何かを台車近くに待機していたとみられる隊長クラスの兵士に渡し、一言いう素振りを見せると、兵士は台車を牽引するための馬車の方へ走っていった。

 その後、再びジランドに促され、台車には繋いでいない方の馬車に乗り込んだ俺たちは、ファイザバード沼野の地図を広げ、それを囲んでいた。

 ジランドは、地図を指先で示しながら説明し始める。

「いいか?まずはこのポイントに到着する。そんで、ア・ジュールの兵士共をこっちの兵士が相手をして気を引いてる間にここだ。この丘に到着したら、あとは時が来るのを待つだけだ」

「……丘に槍を設置して、どう使うつもりだ?密集している場に撃つとしても、味方を巻き込む恐れがあるのではないか?」

「ふふん、そこらへんは心配すんな。槍は、撃って殺すようには作られてねえのよ……まあ、そんときになったら嫌でもわかる」

 だから楽しみにしてろ。今は聞くな。そう暗に語る彼の瞳は、悪戯を計画する子供のそれに酷似していた。

 

 

 

 

 

 

 ファイザバード沼野のジランドが示していた最初のポイントへとたどり着いた俺たちは、ランチタイムと洒落こんでいた。

「まっじぃな、オイ」

 ジランドが文句を言いながら咀嚼するそれは、兵士御用達の携帯食料だ。これは特にひどいタイプのもので、栄養さえあればなんでもいいのだという方針の下に開発されたが、『粘土』と食した兵士全てに言わしめたものだ。

 対する俺はというと、自作したサンドイッチを黙々と食べていた。

味は一応、俺以外の人間に食べてもらって太鼓判を押してもらったからまあまあイケるんじゃないかな、と思う。

まあ、サンドイッチだし、パンに何かてきとーに挟むだけだったし、これで失敗するほうが才能あるな。

 ジランドは文句を一通り言い終えた後、俺の手にあるものをじっと見つめる。俺の手の中には、事前につくり持ってきていたサンドイッチが――

「――って、オイコラ。てめえ、何美味そうなもん食ってやがる?つか、なんでセルシウスまで食ってんだ」

「モグモグ……誰がそんな土なんぞ食うか。モグモグ……自分の、用意のなさを恨めよ……ゴクン」

「モキュモキュ……マスターには遠慮したのだが。モキュモキュ……どうしてもと言うので、受け取った。始めて食事という概念(もの)を経験したが、素晴らしいな……コクン」

「お前ら、せめて口の中のモン飲み込んでから話せよ……」

出発前には戻ってきていたセルシウスと俺を恨めしそうに睨むジランドをよそにサンドイッチを食べる。そんな平和な風景は、突然の爆発によって遮られた。

「ッ!なんだ!?」

ジランドが怒鳴り声を上げる。すると、慌てた様子で兵士の一人が報告してきた。

「ジランド参謀副長!襲撃です、四象刃アグリアが仕掛けてきました!」

 その言葉を聞き、直ぐ様今の今まで咀嚼していたサンドイッチ(二個目)を呑み込み、立ち上がる。セルシウスも同様に並んだ。彼女も共闘の構えらしい。

「俺も出よう。兵士だけではアレほどの実力者の相手は難しいだろうしな。セルシウスはジランドの護衛をしてくれ。流石に厳しそうになったらリンク越しに呼ぶ」

「了解です、マスター」

 俺はジランドに視線を向け、承諾の旨を身振りで伝えてきたジランドの期待に応えるため、馬車から飛び出した。

「アハー!雑魚が、燃えちまえよ!」

馬車の外では既に戦闘は始まっていて、応戦に出向いた兵士の幾人かが黒こげになって転がっている。――四象刃アグリア。言動から察するに言葉が通じそうにない相手だ。とにかく火の精霊術に注意しなければならない。

俺は結構目立つ格好をしているので、アグリアはすぐに気づき、こちらを見た。

「……なんか見ねえ顔だな。おい、ニイちゃん。まっ黒こげにされたくなきゃ、こっちこないほうがいいぜ?」

 雪のような白髪に、頬にあるソバカス。確か、昔どこかで見かけた覚えがあるな……そう。昔、貴族の集まりに父さんに連れて行かれたときに挨拶した六家のなかで――あ。

「……ナディア・トラヴィスお嬢さん?」

「――――!」

 その呼び名を聞いたアグリアは顔をひきつらせ、さきほど浮かべていた余裕の表情から一転し、殺意のこもった目をこちらへ向ける。カマ掛けは当たりのようだ。

「……アタシを、その名前で呼ぶんじゃねえ――!」

 一見すると針のようにも見える杖を構え、彼女の足元に赤い魔方陣が展開される。避けようとするが――早い!

「――ッ、粋護陣!」

「フレアボム!」

 目の前で爆発する下級の精霊術。しかし、彼女の放つそれは明らかにその枠を越え、強力な術と化していた!

 咄嗟に使った防御の技の御陰で軽い火傷で済んだが、安心して棒立ちという間抜けは起こさず、フレアボムの影響で発生した黒煙を盲ましに剣を下段から切りかかるべく持ち直し、突貫する!

「虎牙――」

 技の一撃目を入れるべく下段から切り上げる。しかし、流石は四象刃。煙の中から突如現れた俺の姿を確認すると同時に反応していた。

「甘ぇよ、フレイムドリル!」

「――破斬ッ!」

 瞬間、剣と杖の切っ先がぶつかり合い、火花を鳴らす。

「アハハハ!燃えちまいなー!」

 アグリアの攻撃は、こちらが放った技とは違い追加の属性の炎があるのだ。その炎が、徐々に剣の柄を握る手へと迫る。その時、若干服の袖が焦げてしまった。

 俺は咄嗟に剣を手放し、徒手空拳となった状態で斜めから間合いを詰める。この瞬間、格闘家御用達のある歩法を使っているので、その時間は一瞬に等しい。

「閃空、烈破ァ!」

「んな!うわあ――!」

 本来、剣を切り上げた後に突く動作を流れるように行う技。今回は即席で拳でやってみたが、存外上手くいった。アグリアが吹き飛ばされたのを確認して、地面に落ちている剣を拾う。あくまで本領はこちらだ。次も同じようにして上手くいくなど有り得ない。

 吹き飛んだアグリアは、しかし直ぐ様立ち上がる。まだ交戦の意思はあるらしく戦闘体制でいるが、恐らくダメージは大きいだろう。体も若干フラついていた。

「……クソッ、やりやがったな。髪も汚れちまったし――いいぜ、本気で殺ってやるよ……!」

「そっちこそ、お気に入りの服を焦がして……ただじゃ済まさんぞ――!」

 実際のところ、互いに怒鳴り合っている俺たちは見た目より冷静なのだろう。お互いに間合いを意識しながら距離を詰めている辺り。

 しかし、俺は待ち派ではないので、早々にしびれを切らして再び距離を詰めるべく疾走した。

 その時だ。ニヤリ、とアグリアの表情が歪む。しまった、奴の奥手は待ちの型――ッ!

「――今更おせぇんだよ。アハー」

 アグリアは、もう数歩のところにいる俺の目の前で杖を地面に突き刺した状態でその上に飛び乗り、周囲に炎の渦を巻き上がらせる。その規模は小さい。小さいが、アグリアの瞳が、それだけでは決して終わりではないのだと語っていた――!

「ちぃと火傷すんぜ、ニイちゃん――ロギズ・イーター!」

 冗談じゃない。目の前に広がるコレが、そんな軽いものではないと物語っている。

 彼女が放った炎の渦を一時的に自らのゲートのリミッターを解除し、マナを増幅させた状態で拡散させ、吹き上がらせたそれは一瞬で海のように広がり、技の範疇に入った愚か者を食らうべく食指を伸ばしていた。

「――――グッ!オォォ――――!」

 だが、そのままでいい訳がない。このまま何もしなければ先程の兵士のように黒こげ確定だ。まだアグリアの炎が出したばかりで広がりきれていないのが幸い。こうまで接近できていなければ本当に危険であった。

 ジランドには悪いが、急場なのだ。俺は契約で出来たリンクを通じてその名を呼ぶ!

「セルシウス――!」

 現れたセルシウスは俺の後ろに立つと、両の手のひらをかざし、俺に力を送る。送られたマナの属性は水。それを剣にまとわせ、上段の両手持ちの構えから一息に振りきる――!

「セルシウス――キャリバー!」

 俺とセルシウスのマナが合わさった膨大な量の水属性のマナ。それらはさしずめ氷の息吹となり、柱のように一直線に炎の渦を難なく突破して渦の術者であるアグリアへと直撃した。

「ぁ――クソ――――!」

 アグリアは氷の息吹によって吹き飛ばされ、彼女の後方に広がる土手に叩きつけられ力なく伸びた。

「――は――――はぁ。思ったよりも長引かせてしまった……先の名前のことで、最初から本気にさせてしまっていたのか」

 対戦相手に話しかけるときには気をつけよう。そう心に誓ったところで、俺はアグリアの傍へ寄る。……別に止めを刺そうというのではなく――

「……ハートレス・サークル」

中級クラスの範囲系の回復術を発動し、俺とアグリアの両方のダメージを癒した。これは、同情でも哀れみでもない。俺にとってこの行為は、強者であった相手への敬意を表しているだけだ。

両方の回復を終えた俺に、召喚したセルシウスが近づく。どうやら、ジランドは無事に目的地である丘へとたどり着いたそうだ。

「マスター。ジランド殿が用意した馬がありますので、そちらに乗って丘へ向かうと良いかと具申します」

「そうか。意外と気が利くな、あいつ」

 さっきの戦闘の余派でせっかく用意してもらっていた馬が死んでしまっていないか心配ではあったが、結構離れたところにいて無事であった。俺は馬の背にまたがり、セルシウスは隣を並行して飛び、共にジランドが待つ丘へと急ぐ。

 彼女――ナディアが何故あのように荒んでしまっていたのか気になったが、今は考えないように首を振って、浮かび上がる疑問を頭の隅に追いやった。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、ギル」

 そうねぎらってくるジランドと俺がいるのはクルスニクの槍の裏側。セルシウスは一旦戻ってもらっている。ジランド曰く、登場のさせ方とタイミングがあるらしい。それらの手順を一通り聞いたところで、とりあえず浮かんだ疑問を一つ。

「ジランドよ。なんでこんなところに隠れてなきゃいけない?真っ向から出向いても平気では?」

「わかってねぇな。そうか、そういや説明してなかったな。これの稼働には足りないネギがあるんだが、それをわざわざ届けてくる鴨がもうじきやってくる筈だ。俺らが動くのは、そいつが槍を起動させてからだ」

 そういうことらしいので、俺は再びサンドイッチを取り出してかぶりつくことにした。サンドイッチたちが入っているカバンは馬車の中に置いていたので無事である。セルシウスが創った氷を皮袋に入れて保存していたので腐ってもいない。おいしいそれを堪能した。

 ジランドがまた携帯食を齧りながら睨んでいるが気にしない。欲しければ家庭的になればいいのである。

「――お。始まったみたいだぜ。下、覗いてみろよ」

 ジランドが言うとおり、丘の下ではマクスウェル一行とア・ジュールの王ガイアスによる激戦が繰り広げられていた。遠くから眺めていても、ガイアスの強さは生半可なものではないことがわかる。技の一つをとっても威力のケタが違いすぎるのだ。なんだ、瞬迅剣ってあんなエグイ技だったのか、知らなかった。単騎で刀の切っ先からビームって、マジで何者だ、あの人。先程戦ったアグリアも強敵であったことにも関わらず、彼女と比べることさえも馬鹿らしいと感じるほどだ。ガイアスは自らの獲物である長刀を巧みに扱い、次々と繰り出される斬撃、拳撃、術、弾丸をいなしながらも強力かつ的確な反撃を見舞っている。

「聞けば十代半ばで、戦場で大活躍したんだったか……どんな怪物だ、それ」

「すぐそこにいるじゃねぇかよ、それ。……まあ、槍が起動さえすりゃあその怪物の力も無意味だ――っと、来たぜ、鴨だ」

そう言って、ジランドは空の一点を指さす。その方向へ視線を向けると、ワイバーンから何者かが槍の数歩のところに着地した。

「ミラ様!本来のお力を取り戻し、その者を打ち倒してください!」

 そう言って降り立った白髪の青年は、懐から円盤状の機械を頭上へと掲げる。それは直ぐ様円筒状へと変形した。隣で見ているジランドの表情がちょっと見せられないほどえらいことになっている辺り、恐らくあれがネギ。そして、ワイバーンから降りてきた先程からうるさい青年が鴨、なのだろう。

「発動させるぞ、一旦離れろ。巻き込まれるからな」

そう言うジランドと共に槍から離れた俺たちは、その場の状況を見守る。その後、何事かをわめいた白髪の男は、ネギ――起動のための鍵らしい――を持って走り、鍵の設置場所らしき台へ降りおろす。

 すると、槍が起動し砲身を四つに分裂させると、周囲に変化が起こった。なにやら、先程戦っていた者たちや、遠くの兵士たちが苦しげに呻いている。

「クルスニクの槍。そのエネルギー源はマナ。それも大量に必要だ。そして、目の前にはこんなに燃料が広がってんだ。使わねぇ手は有り得ないだろ?」

「――」

呆気にとられながらも、周囲を観察するが、この槍のエネルギー吸収範囲は相当広い。戦場全てにまで行き渡っているようだ。だが、これではわざわざこの丘の上に設置した意味が分からない。そんな俺の心情を知ってか、ニヤリ、と笑ったあと、ジランドは得意げに口を動かし始める。

「分からねぇって顔してんな。へへっ、そりゃあ今から起こる光景を見てりゃ判ることだ。ヒントは……『こちら側』のってヤツだ」

「――ッ、そうか!コレは……クルスニクは――」

――兵器などではなかった。その時、俺が放った言葉は、奇しくもマクスウェルが放つそれと重なることになる。

その直後、大量のエネルギーを吸った槍は、巨大な光柱を『空』へ向けて発射した。

「やっと判ったかよ。そうだ、全てはこのための――」

 途中で言葉を切ったジランドは、口を割かんばかりに開いた。ジランドが見つめる先――槍の光線によって『穿たれた穴』から次々と『空を飛ぶ船』が現れては下界へ向けて光弾を発射していく。

「ついにやった。くくく……くはははは!」

 突然笑いながらクルスニクの槍の前――ちょうどマクスウェル一行とガイアスを見下ろせる位置――へ歩きだす。途中、我に帰った俺は、その斜め後ろについた。

「ジランド!どうなってる」

そう怒鳴る青年――何時だったか、見た覚えがある――を見る。青年は、ジランドが持つショットガンに似た物――恐らく銃器の類――を取り出しで、構えていた。

(セルシウス、青年がこちらへ向けるアレ止めてくれ)

(了解です、マスター)

 念じて指示を飛ばし、セルシウスの放った氷柱によって青年の構えを阻んだ。青年は、自身の周囲に打ち込まれた氷柱を見た後に、こちらを睨みつけ舌打ちをした。どうやら勘違いしているのか、俺ではなく、ジランドがセルシウスを操っていると決めつけて、俺の隣で不敵に笑う男を睨みつけていた。

「ハ・ミルをやったのは貴様らか?」

 ガイアスが問いを投げてくる。大してジランドは、俺に対して合図である目配せをした。

「そう。この精霊、セルシウスがな!」

 そう言って腕を真一文字に振るうジランドに合わせてセルシウスを召喚する。それを見た者たちの目が、一人を除き驚愕に開かれた。

「精霊セルシウスだと……?そのような名、聞いたことも……」

 一人疑問を呟くマクスウェル。対してガイアスは違った。確固たる信念を秘めた瞳で、俺たちを睨む。

「我が民を傷つけたこと、許しはせん」

 そう言って、自らの得物である長刀を振りかぶり構える。今にも仕掛けようとするその気迫に触発され、思わず踏み出そうになるが、それは突然の爆撃によって遮られる形となった。と同時に、船が浮かんでいる辺から何かがゆっくりと降下してきた。驚くことに、全身を重装備で固めてはいるが、動きで人間であることが分かった。

「アルクアのジランドさんですね……そちらの方は?」

「こっちは現地協力者のギルだ。そして、あれが例の女だ」

 全身黒ずくめの一人に対し、そう言ってマクスウェルを示すジランド。

「……アルクノアだと……?貴様がナハティガルにジンを伝えたのか?」

二人の会話を聞いてか、マクスウェルが声を張り上げた。その言葉の意味を理解し、思うところがあったのか低く笑ったジランドは『あの女は殺すな』とマクスウェルを示しながら周囲にいる者たちに指示した。

「装甲起動兵、前へ!」

 その中のリーダーらしき黒ずくめ――声からして男――が命令をすると、黒ずくめの中でも比較的軽装な者たちから先に前に出て、どういう原理か滑るように崖を降りながら攻撃を仕掛け始めた。

軽装な者たちは小型の機械のようなものを取り出し構えると、その先端から小粒程の石のような何かが高速で放たれる。標的にされたマクスウェルたちは、その未知の攻撃に翻弄されていた。

 続いて、大型の筒丈の機会を抱えた者が並んで雷を一斉に放った。雨のように降り注ぐ猛攻撃に翻弄されていたマクスウェルたちは、突如、地面に当たった衝撃波によって吹き飛ばされる。すごい、圧倒的だ。

「何も知らねえお前に教えといてやる。最初に仕掛けた奴らがもっていたものがマシンガン、次に仕掛けた奴らがもっていた筒みてぇなものがレールガンだ。これら全ての武器は、俺たちエレンピオスの持つ技術によるジンで出来た兵器だ。さっきの、セルシウスが止めたガキ――アルヴィンが持っていたヤツもそれと同じ原理の銃器だ」

説明するジランドの言葉を聴きながら状況を観察していると、先ほどジランドの名を叫んだ青年が、倒れて動けなくなっているマクスウェルへ向けて銃を構えていた。

「セルシウス――!」

リンクを通じて指示をしたので、彼女はその意味を理解し、アルヴィンの持つ銃器へ向けて氷柱を飛ばして弾き飛ばしてみせた。

「マクスウェルとは一度会話してみたい。それを阻むことは許さない」一人呟き、もう一度周囲を見渡す。また、誰かが先程のアルヴィンのようなことをしでかすかわからないのだ。

 その後、しばらく戦闘は続いたが、勢いを取り戻したマクスウェル一行とガイアス。そして遅れてやって来た、アグリアを除く四象刃の活躍により、戦局はどちらに傾くか分からなくなっていた。

 その後、マクスウェル、ガイアス一行の殿を努めたと思われる大柄な男。四象刃のジャオによってこちらの兵はほぼ壊滅。残った手負いのジャオは誰が手を下すまでもなく、その後の空飛ぶ船から放たれた光弾によって、沼野に鮮血の花を咲かせた。

 彼のゲート全開放による余波を受けていた俺は、その力に戦慄し、同時に敬意の念を覚えた。退いた者への負担を皆無にしたこの男の働きは、殿として最上級のものであったと讃えられるべきものであると確信した。

「マクスウェルを探せ、逃がすんじゃねぇぞ!」

 怒鳴るジランドを尻目に、俺はジャオが居た辺を見つめ、短く敬礼をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 アルクノアがアジトとしている船。通称ジルニトラは、機械的な構造のくせに内装がえらく豪華で、オルダ宮同様にロータスで各所を繋いでいる。途中、重要なところへと続く廊下には封鎖線が張っているが、こちらはガンダラ要塞のそれとはまた違ったタイプの侵入者撃退に特化したものだ。どちらにせよえげつないものには変わりなく、さらにこちらの方は檻の鉄格子のように赤い光線に触れると、焼き切られてしまうというグロテスクなオプションが付いているそうだ。聞くだけで気分が悪くなる代物である。間違っても通らないからな。

 ところで、アルクノアの構成員に指摘されて久しぶりに思い出したが、オリジンを使った時の反動がほぼ皆無だと言うことが皆に知れると、その場にいた者どころか艦内中で大反響が巻き起こった。なぜだ?と聞く俺に対し、ジランンドは「当たり前だ」と返してきた。念のためと船の設備で検査してみたところ、本当に異常も何もなく、めでたく研究者一堂の頭痛の種のひとつに加わったのであった。余談だが、俺の体には莫大、膨大では済まされないほどのマナが収まっていたそうだ。これに関して、俺は自身の生まれに関係があるのでは?と考えている。

俺をここの船員たちに「仲間だ」と言って連れてきたジランドは、クルスニクの槍が設置されている総合制御室の近場の部屋で過ごしている。ここで過ごしている中で何度か寄っては酒を片手に会話を楽しんでいたものだ。

部屋の内装にさして執着のない俺は、比較的簡素な造りの部屋を宛てがわれることとなっていた。リーダーであるジランドの仲間という理由で最初に案内された部屋のあまりの豪勢さに眩暈がした俺は、速攻で案内してくれた船員に問いただすと同時に説得し、今の部屋を使わせてもらっている。

俺が何かやれることがないかジランドに聞くと「後はマクスウェルを捕らえて、あることをするだけで終わり。万が一でもなにか非常事態が起こらなければ、何もすることはない」とのこと。つまるところ、暇になってしまったのであった。――あれ。こんなことが、前にもあった気が……?

それから更に数日経ったある日のことである。最早習慣の一部と化した自室でいつものように実体化したセルシウスと共に食事をし終えたところで、彼女から「話がある」ということなので付き合うことにした。

「それで、話とはなんだ?頼み事なら聞くぞ」

「……はい。では遠慮なく――マスター」

 居住いを正してこちらを見るセルシウスの真剣な雰囲気に影響されて、こちらも少し真面目に見つめ返した。

「私は既に死した精霊です。ですが、ジランド殿がオリジンなるものを造り、結果マスターの手によって再び現界を果たしました」

 セルシウスは、ゆっくりと、まるで思い出を語るかのように言葉を紡いでいく。

「そうして得られたマスターとの契約によって生まれた繋がり……しかし、それは機械によって生み出された私のせいで仮初の物となっています」

「そのようなことはない。お前と共に過ごし、戦った日々は嘘偽りのないものだろう?」

 俺は否定の言葉を言うが、セルシウスは黙って首を横に振った。

「いいえ。確かに、マスターの仰ったことに間違いはなく、この身にとって身に余る思い出と喜びでありました……しかし!なればこそ、私はこの絆を確かなものにしたい……!化石となった私のマナはじき底を尽く時がやってきますでしょう。そうでなくても、私を現界させている機械がいつ壊れてしまうか……」

 そこで一旦言葉を切ると、セルシウスは一度躊躇うように俯き、やがて顔を上げた。

「以前、マスターのマナを研究員らが計測した際、私も結果を見せていただきました。はっきり申し上げると、マスターのそれは異常な数値で、私の今のマナ計測の結果とマスターの結果を比べると、大精霊クラスを一、二体賄うには十分すぎるほどのものだということが判明したのです」

「驚いたな……自分のこととはいえ、まさかそこまでとは……」

「それで……マスターの、私を補うだけのマナを一時的に頂けて下されば、私はそのマナを使い、完全なる大精霊として復活を果たし、今まで以上にマスターの御役に立つことができるようになるのです!――いえ、それ以上に……私と貴方との絆を、ようやく本当にできるのです……!マスター、どうか――――ッ!」

 セルシウスが頭を下げる、嘆願するように言葉を選ぶその様子は、見ている俺にはとても真摯に見えた。

「分かったよ」

「…………?」

驚いた様子のセルシウスが顔を上げ、こちらを凝視する。こちらの言った言葉を未だ飲み込めていない彼女を安心させてやるべく、俺は微笑んでみせた。

「これだけ長い間付き合っている仲で、今更断るとでも思ったのなら心外だぞ。俺はそんなに薄情ではないし、それに身内にはめっぽう弱いんだ。――さて、マナを流すのは化石に、でいいんだよな?」

 俯いて肩を震わすセルシウスを尻目に、俺は一旦セルシウスを戻した後オリジンを操作し、化石を取り出す。自身のゲートのリミッターを一時的に解除し、大量のマナを両手の内に包んだ化石に流し込む。すると、化石は青白く発光し、宙にひとりでに浮いたと思えば光の粒子と化した。やがてそれは渦を巻き始めながら人型に収束し、光が晴れたあとには馴染みのあるセルシウスの姿があった。ただ、完全なる精霊へと戻った結果か、左右非対称であった眼や腕などの部分が変化していた。

ふと、物音がしたので見てみると、床にひとつの指輪が落ちた事に気づく。それを拾い、彼女の姿を見上げる。

「成功、かな?」

「――はい。それでは、契約を」

 こんな幻想的な場面では、言い回しにも気を付けて……雰囲気を大切にしない男は嫌われる。さあ、指輪を持って――

「――我、今、氷の精に願い奉る。指輪の盟約のもと、我に精霊を従わせたまえ。我が名はギルガメス……」

すると、手に持っていた指輪が美しく輝き始め、それに呼応するようにして再び粒子状になったセルシウスが指輪の宝石部位へ吸い込まれていった。

(――いでよ、セルシウス!)

 指輪に念じると、再び輝いた宝石からセルシウスが召喚された。彼女は、これまでにないほどの晴れやかな笑顔をみせる。

「それは、クリスタルジェイドというルーンリングです」

 セルシウスは、今、俺の掌にある薄い水色の丸い宝石が付いている指輪を示す。

「それこそが、私が求めた貴方との絆の証であり、私という大精霊を直接使役することが可能となるもの……どうか、大切に扱ってください」

「もちろんだ。これから、改めてよろしく頼むよ」

「はい、マスター」

 微笑んで、彼女は再び消えた。

「さて、これはもういらないな。……引き出しにでもしまっておくか」

 化石を取り出し無意味になったオリジンの外装を持ち、机の引き出しの奥へと突っ込んだ。その後、左手にクリスタルジェイドを装着し、未だにこの部屋に残る幻想的な空気を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

――ジルニトラ総合制御室。

 現在、驚くべきことだが侵入者が現れ、艦内中に厳、警戒態勢が敷かれている。

 俺とジランドは当然、要であるクルスニクの槍の前で待機していた。

「そういえば。お前には言ってなかったよな、俺たちの計画」

「ああ。とても、気になるな」

 俺たち、とは恐らくアルクノアのということだろう。俺は気になっていたことの一つなので、続きを促すことにした。

「俺たちエレンピオスの人間の人口はとても多く、その分、技術も必要だったし、エネルギーも必要だったんだ。だが、残念なことに俺たちにはゲートが無かったからマナをエネルギーとして活用できなかった。そのために、ジンを開発したんだ。それでもマナの代替燃料としてのジンはいずれ底を尽く。そのために生み出したのが、お前に渡したオリジンだな。しかしそこでも問題は起きてしまう。反動が大きいんだ。お前は例外だが、大抵の人間は使っていくと寿命が縮まり、いずれ早死しちまう。それじゃいけねぇ。そこで提唱されたのが……異界炉計画だ」

「……異界炉、計画……?」

 俺が復唱すると「そうだ」とジランドは頷く。

「読んで字のごとく、だ。“俺たち”の感覚で言うところの異界――つまりリーゼ・マクシアを覆うシェルをデカい釜だとする。その中にある燃料――こいつは所謂、マナだな。クルスニクの槍の吸収機能を使って『リーゼ・マクシアにいる全ての人間のマナを吸い尽くす』んだ」

「――」

 瞬間、俺の表情が凍りつく。イマ、コイツハナントイッタノカ?

 俺の纏う空気が変わったことに気がつかないジランドは、テンションを徐々に上げながら解説を続ける。

「そうやって吸ったマナをエレンピオスへ照射し、照射したマナを受け取る機械によってエネルギーに変換。その結果、今まで苦しい生活を強いられてきた俺たちエレンピオスの住人が楽に暮らせる世界が生まれる……!」

 ジランドは、ひとり舞い上がりながらクルスニクの槍の方へと歩き、両手を広げて感極まった気持ちを表している。――だが、もう限界がきてしまった。

「いでよ、セルシウス」

「――ッ!なんだ!ネズミが来たのか?」

俺の声に、ジランドが驚いて振り返る。その顔にははっきりと怒りが見て取れた。きっと、気持ちよく説明しているところを邪魔されて苛立っているのだろう。

「セルシウス――縫いつけろ」

「――は?」

 命じた途端、俺の隣にいたセルシウスが無数に創り出した氷柱を発射し、ジランドの手足を貫き、文字通り床に縫いつけた。

「―――ぁ――――うぐぅぅ!……!?」

 痛みに藻掻き苦しむジランドの胸の中心に浅く、抜き放った剣を突き立てる。それを見ても、ジランドは未だに今起きていることが信じられないらしい。当然か。俺たち二人はほとんど毎日といっていいほど共に語らい、笑い合う仲であったのだ。まさかそんな友人のような存在が己に剣を突き立てているなど……だが、信じられないのはこちらも同じだ。そう、まさか――

「――まさか、俺が加担していた計画が、実は義妹を害してしまうような代物であったとは……なあ。ほんとうに、本当に残念だったぞ、ジランドール。お前とは、いい友人になれた気でいたのにさ。……まあ、めぐり合わせが悪かった。自分は事故に遭ったと思って、大人しく死んでくれ――」

 そのまま、全体重を一気に掛けて剣の切っ先をジランドの胸に沈める。数回ほど体を痙攣させた後、彼はそれきり動かなくなった。

「―――――づッッ!」

正直、気分が悪い。胃の中にあるもの全てを吐き出したい衝動にかられ、ふらつきながら歩くが耐え切れずちょうど槍の影になるところで吐き出してしまった。

「マスター……」

 俺の体調を案じるように、セルシウスが背中をさすってくれている。胃の中身は全て吐き出したというのに、この嘔吐感はいつまで経っても消えないでいる。そして胸の苦しみは、それから数十分もの間続いた。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経って、ようやく胸の苦しみも大分収まって楽になった。

「マスター。こちらへと近づく気配があります。恐らく、マクスウェルの一行かと……仕掛けますか?」

「いや、いい。ひとつだけ、彼女に質問して、返ってくる答えを聞き次第、槍など壊してもらうさ」

 そう言ったところで、重苦しい扉が音を立てて開く。入ってきたのは、やはりマクスウェルの一行。しかし、各々の顔には驚愕の表情が浮かび上がっていた。

「……ジランドを、仲間を討ったのか?」

「――――そうだ。正直、こんな結果は望まなかったんだがなぁ……」

 俺の言葉に、マクスウェルたちは首をかしげる。

「マスターは、ジランドが行っていた計画の全容を知らされてはいなかったのだ」

 黙っている俺に変わって、セルシウスが説明を務めるべく前へ出てくれた。

「異界炉計画の話か?」

「そうだ。先ほどその全てを知らされた際、マスターにとって最も許されざる事柄が当てはまり、結果的にジランドを殺害するに至った」

「俺は、自分の手の届く者を守るために様々なことに手を貸してきた」

「それって、きっと義妹さんのことだよね?ドロッセルが言ってたしー」

紫色のナマコのようなぬいぐるみが喋る。その言葉に反応した者がいた。ローエンだ。

「ギルさんは、十四の頃より傭兵として働き、カイさんの貴族としての地位を取り戻そうと奮闘していらっしゃいました」

「えっ、てことは……今までの事は全部義妹さんのためだったってこと!?」

「そのために信じてきたものもあったのだが……今さっきその全てに裏切られたよ。マクスウェル、質問だ。信じてきたものに裏切られたとき、人はどうやって立ち直れる?」

 マクスウェルは考える素振りも見せずにこちらを見た。

「それでも、根本にある信念がある限り、人は歩み続けることができるだろう。お前にもあったのだろう?それに準ずるものが」

「つまり、一から積み直せと……頭では分かっていたが、結局はそれしかないか……」

ともかくだ。とマクスウェルは話を戻させる。

「私はこれから槍を破壊する。阻むならそれ相応の対応をさせてもらうが?」

それを聞いて、俺は思わず笑った。ばかばかしい、こんな状態の俺に、なにかやれる余力があるとでも思っているのだろうか?

「いいや。抵抗する気はないよ。そもそも、ジランドの話を聞いた時からこんなものさっさと壊したいと思っていたところだからな」

「……そうか」

そうマクスウェルが呟くと、そのまま黙り込む。視線は既に槍の方へ向いていた。

「……なあ。あんた、ジランドのとこに行きたいんだけど、いいか?」

 こちらへと近づく青年は、話によるとジランドの縁者らしかった。

「ああ、もちろんだ。友を手にかけてしまった俺が言える義理ではないが……なるべく丁重に頼む」

「あんた、こいつの友達だったの?物好きだねぇ……っと、あった。これは返してもらうぜ。ジランドール・ウル・スヴェント……叔父さん」

青年はジランドの遺体から金の簡素な造りの銃器を取り出すと、それを懐にしまった。セルシウスの攻撃が当たらなくてよかったよ。

そういえば、あの銃器はアルクノアの前リーダーから奪ったものだったな。そうすると、ジランドを叔父と言ったこの青年は……ジランドが話していたアルフレドってことか。

その時、再び扉が開く。今度はガイアスたちだ。

「既に決していたか……いや、ひとり残っているか」

「あっ、てめぇ……あの時はよくも――」

「――待て、その者は既に敵ではない。ジランドを討ったのも彼だ」

「ふむ」

 ガイアスは納得するかのように唸るが、隣にいる黒ずくめ――四象刃ウィンガルが遮る。

「ジランドに付いているという大精霊らしき存在はどうした?あれは単騎での相手は厳しいはずだろう?」

「その大精霊は、既にジランドとは縁を切り、現在のマスターによって再契約を果たし『直接使役』されているが?」

 そう言って前へと移動するセルシウス。実は細部が違うのだがバレなきゃ問題はない。一見普通の話の内容に聞こえていて、皆納得の仕草を見せたのだが、一人おかしな反応を取るものがいた。

「ちち、直接、使役だと……?」

 意外や意外。それは先程から鋭い視線をクルスニクの槍へと向けていたマクスウェルであった。

「そうだ、マクスウェル。『直・接・使・役』だ。付け加えておくが……双方合意の上で、だぞ?」

「――――ッ」

 ボンッという効果音が聞こえそうなほどに勢い良く顔を赤らめるマクスウェル。その様子に驚き、ミラのそばに立っていた少年は何事かと問いかけていた。

「ミ、ミラ。どうしたの?そういえばミュゼにも同じようなこと言われたけど、直接使役ってなんなのさ?」

「……ジュード。いくら君でも、そのようなことを何度も聞こうとするのは感心しないぞ……?」

「なんで!?」

「そもそもだな、ジュード――」

 なんなのだろうか。あの二人、ミラと呼ばれたマクスウェルとジュードと呼ばれた少年のやり取り……こういうのを、えっと――

「あらら。『思う中の恋いさかい』ね。初々しいわねぇ、かわいいわ」

 そうそう、それだ、ボンテージの人。見た目からして、ジュードは十代半ばほどで、ミラは十代後半辺といったところだろうか?年の差に関係なくかなり微笑ましい遣り取りである。

あとなんか、その後方から負のオーラを醸し出しながら特にジュードの方を睨む少女が少し怖かった。

ところで直接使役の意味って精霊的に何て意味なんだろう?今度、聞く機会があればセルシウスから教えて貰おっと。ああ、それよりも――

「――あのさ、俺もうここに用事ないから。さっさと帰らせてもらうよ?」

 俺は、出遅れないうちに言っておいたほうが良いと思い口を開く。このままでは、いつまで経っても帰れそうにないし。

「あれ?なんだ、あんたは見ていかねぇのか?お互いジランドに振り回された者同士仲良くしようぜ?」

「アルフレド。俺はさっき説明した通り義妹――カイの身が無事ならそれでいいのさ。だから、もういつまでもこんなところに長居する理由はないんだ」

「あー、分かったけど……頼むからアルヴィンで通してくんない?そっちの名前ではあまり呼ばれたくないんだわ」

「じゃあ、こちらも本名で……ギルガメスだ」

そう言って手を差しのべると、アルヴィンも応えるが、少し戸惑いながらも口を開いた。

「うーん。あのさ、あだ名とかでよくない?あんたがギルで、俺がアル。どうよ?」

「OK、それでいこう。よろしく、アル」

「こちらこそ、ギル」

 それから手を離し、俺はその場から立ち去った。甲板へと出たと同時に走り出し、柵を飛び越えて眼下に広がる青い海を視界に映す。

「頼むぞ、セルシウス――!」

 そう言って召喚したセルシウスに俺を支えるようにしてもらい、彼女自ら作り出した氷の道に乗って海上を滑るようにして目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

――豊かな緑、賑わう市場、回る巨大風車。何もかもが懐かしい。

カラハ・シャールは今日も平和だ……と言いたかったが、今は街中の人々は朝から医者のお世話になっている者が殆どであるという。

原因不明のゲートの痛みと知られているが、俺がしばらく関与していたアレのせいだろう。以前、ジランドが行なっていた人体実験の被験者たちの身に起きていた症状と一致していたのだ。

俺がこの街へと戻ってきた理由は、当然のことながらカイの身の安全の確認と、シャール家への挨拶のためである。兄を見殺しにしたと捉えられてもおかしくないこの俺をドロッセルが受け入れてくれるかどうかは疑問であるが、筋は通さなければならない。

俺たちフォート家が住んでいる家は、シャール家の屋敷とわりと近場に建てている。

こここら辺は、前シャール家当主の配慮によるものらしい。俺は慣れた道のりを歩き、何月ぶりかの我が家へとたどり着くことにそう時間は掛からなかった。

フォート家の扉を開ける。そうしてまっさきに懐かしい木製の匂いが鼻腔へ入る。

続いて目を使って内装を認識し、またダイニングテーブルのクロスが新しく生まれ変わっていること以外は俺が出立する前と変わりはなかったことがわかると、俺は一旦またドアを少し開けて、外にかかっているベルを鳴らす。

すると、奥からパタパタと慌てるように家の主がやってくる物音が聞こえた。

「はい。お待たせして申し訳ありませ――って、兄さん!?」

「ただいま。元気そうで何よりだよ、カイ」

 ポイっと、あらかじめ用意していた恒例のぬいぐるみを放り投げ、ちょうど洗い物でも済ませていた途中だったのか、エプロン姿な我が義妹へ向けてプレゼント。

今回はなんと、以前であったエリーゼって娘が持っていたティポとかいうブースターにそっくりなぬいぐるみだ。

いつまでも土産がブウサギでは芸がないとクレインに言われていたことを思い出し、帰りに行商人から購入したものである。

「……なんです、これ?」

「わからん。スイッチひとつで伸び縮みすることは確か」

 試しに、とカイがぬいぐるみの背中あたりにあったスイッチを入れてみると、みょんみょんと動きはじめる。はっきり言って気色悪いことこの上なかった。

「あ、ありがとうございます……」

 隠す気もないほどに微妙だといったふうな表情(カオ)をして、カイは未だにみょんみょんと動いているそれをテーブルの上に鎮座させる。…いや、止めようや、そのナマモノ。

 カイは俺に椅子へ座るように促すと、自分も席へと着いた。

「兄さんがやってきた行いを、私はドロッセルや彼女のお友達の方々に話を伺いました」

「……そうか」

 こちらの思ったとおり、早速本題へと移るらしい。

「兄さんのことです。やはり、何かしら思うところがあっての行動でしたのでしょう。今日、この街へ戻ってきたのも、ドロッセル――シャール家への謝罪が目的、そうでしょう?」

「驚いたな。てっきり、なんてことをしてくれたのだ、とかの文句を言われることを覚悟してきたのだが」

「見くびらないでください。これでも、何年もともに暮らしてきた家族です。兄さんがこの状況で、何も責任を感じずに行動を起こさない訳がない、ということくらい分かるつもりですから」

 そうキッパリと言い切るカイの双眸は、言葉とは裏腹に『余計な心配をかけさせるんじゃない』と語っているようで、なんだかこちらが申し訳ない気分だ。

思わず目をそらす。なんせ、目力がすごいのだ。

「そして、シャール家ですが……」カイは続ける。

「前当主、クレインさんの後を継いだドロッセルは、健気にもその責務を全うしています。シャール家は、間違い用もなく彼女の奮闘により安泰です。ですが、それなりに長い付き合いの私ですし、実際に相談も受けましたから分かるのですが、やはり、彼女自らの内に押さえ込んでいる物もありました。今、兄さんがそんな彼女のもとへ出ていくと、抑えていたものが、どんな拍子に表へ現れてしまうか……」

「つまり、今は時期が悪い。出直せと?」

「そういうことです」と、カイは頷いた。

「わかったよ。彼女の家がある程度の落ち着きを見せてから、また改めて行くことにする」

 やはり、今回のことに関しては性急過ぎた。

俺も、自分の親友絡みの一件なだけあって、少なからず判断力を欠いてしまっていたということか……。

「――では」ふと顔を上げると、カイが席を立ち棚に置いてあったらしい書簡を取り机の上に広げた。

俺が何事か確認をする前に、カイが説明を始める。

「……本当は、勧めたくはなかったのですが、陛下の勅命とあれば見過ごすわけにはいきませんから。これは、かのア・ジュール王からの書簡です。兄さん宛ですので、ご確認を」

「ああ。――本当だ、印鑑まで押してある。正式なものか……どれ」

――書簡に記されていたのは、早い話が勧誘の事柄であった。以前の雇い主であったラ・シュガル王、そして参謀長官ジランドが死んだせいで(結果的に、両方共俺が手に掛けたわけだが)傭兵としての仕事が少なくなってしまった俺に、どうやら新たに仕事を与えてもらえるらしかった。

「有難い話だ。断る理由が全くない」

「やはり、そうなりますよね。分かりました。我が家はいつも通り、私が守っておきますから、兄さんは存分に陛下のお役に立って来て下さい」

「ああ、また土産を買ってこよう。今度はア・ジュール、外国だ。なにか、特産のものを見つけてこよう」

 それでも、出立までは日数がある。それまでは、久方振りの我が家でゆっくりしていくとしようか。




書きたいことだけ書いてぶっぱしたものですが、ここまで読み耐えてくれてありがとうございますm(._.)m
セルシウスと契約させることができて、わたしゃとても満足じゃよ。
お次はセルシウスといちゃつかせてからです(真顔)
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