大変、長らくお待たせしました。
待たせてしまいました期間が長かったこと平にご容赦を。
今回の話はストーリーの質はともかく、文量は心なしか多めにしたつもりです。
読み応えはそれなりにあるかと。
ーーーー遊戯裁定ーーーー
月の都との戦いが終わり、幻想郷の妖怪と人間の絶対数を同等にすることができた。この結果は、こちらが見込んだ予測の範疇といったところで、しばらくは妖怪たちの行動も沈静化されるだろう。それに種族の数が減ったことで妖怪たちが自分に相談を持ちかけてくることもあり、以前では考えられないほど多忙な時もある。以前から妖怪たちは自分を面白半分に"妖怪の賢者"などと持て囃していたが、最近では敬意を込めて呼ばれ始めてきた。式の藍はそのことを大変喜んでいたが、実際のところ自身が幻想郷の賢者と呼ばれるのは、どうにも違和感があって仕方ない。まぁ、名前くらい時間が経てば慣れてゆくだろう。
妖怪と人間の力量差を低減させるための方策を師に願ったが、与えられたのは一枚の黒い契約用紙。師は"ギアスロール"と呼んでいたが、どうやらこの紙は特定の条件の元に強制的に遵守させる力が秘められているそうだ。しかし、肝心の内容は全て自分に任せるという事実上の完全委任。確かに空亡様にゲームの内容を任せれば、どんな恐ろしいことになるか明白である。だが、幽々子はどうだろうか。朗らかに微笑みながら、"紫なら、心配することないわねぇ。フフフフフフ"などと自分に任せてしまった。なんと薄情な友人だろうか、信用されているということは喜ぶべきでも、一人で難しい仕事に挑まなくてはならないことと並べると少し早まったかとも思う。藍は自分の役に立とうと手伝おうとしてはくれるのだが、ここで藍が式であるということが問題として浮上する。式は命じたことを忠実にこなすのは完璧でも、一から新しいものを作る創造性に欠けているのだ。藍の気持ちは嬉しいが結局、自分でどうにかルールを作らなくてはならない。
ーーー前提としてーーー
妖怪や神などの畏れが無くさないため、人間に一定の恐怖、畏れ、関心を抱かせる事件を発生させやすくする。便宜上、幻想郷に起こる事件を"異変"と呼び、人間の代表たる博麗の巫女に解決させる。そのため、ゲームの内容は事件が解決しやすい遊戯のようなモノが好ましい。
以上のことを踏まえて、完全な実力主義は否定されなくてはならない。
思いついたことを乱雑に手元の書簡に書き記していくが、どうにも纏まりがない。結局、ゲームの内容自体はどうにも思いつかないし、何が勝利で敗北か、人間と妖怪の圧倒的とも言える実力差を埋める遊戯などあるのか。このまま、家の中にこもって考えても良案が出るはずもない。書簡をそこらに放り、スキマを開いて気晴らしの遠出に出よう。
遠出をするのはいいが、特に行く先を決めていたわけでもない。何処へ行くのがいいか?幻想郷が出来てからというもの、行うべきことが山積みで今日のように散策をしたことがなかった。だからか、行くべきところがどうにも定まらない。……そうだ、人里を少し覗いてみよう。妖怪とは接することも多かったが、人間の生活をゆっくりと観察するなどしたことがない。スキマから覗き見をするのも良いが、ここは直に接してみよう。直接、接してこそ見えるものがあるというもの。そうと決まれば、スキマ内に浮かぶ特に目立たないような衣装に腕を通し、適当に髪を纏める。こうしてスキマの妖怪が極秘で行う人里視察は始まった。
人里は賑わいに満ちていて、実際に目の当たりにすると何もかもが新鮮に感じる。人々の織りなす日常風景は、妖怪である自分の想像を越える輝きに照らされていた。この村には意思がある、ただひたむきに今を今日を生きていこうとする明確な意思が。人外には無いそれは、妖怪では持ち得ないもの。僅かな生涯を駆け抜ける人間のヒカリ。
「おい、そこのべっぴんさん!おたく見ねぇ顔だが、何処から来たんだい?」
「……あら、お上手な方だこと。私は旅の学徒といったところかしら。旅の道すがら、歴史や地理なんかを調べたりしているのよ」
「はぁ〜、なるほど。お偉い学者さんかい。それにしちゃぁ、全く偉ぶんねぇな。いいねぇ、気に入ったよ。ほれ!」
「っと……これは?」
「あん?びわだよ、持ってきな。少し出来過ぎちまってよぉ。近所さんらにばら撒いても、山のように余ってんだ。最近はこんなことばっかだぜ。そこかしこで花が満開、果実が実ったりしててよぉ。珍妙なことだろ?」
「それは随分と奇妙な……」
「おっ、学者さんの関心を惹いちまったか?……調べたりすんのは構いやしねぇが、人里からあんまし離れねぇのを進めるぜ。この辺の山には妖怪や化け物がゴロゴロしてる。一応、博麗の巫女っていう妖怪退治の出来る方もいるにはいるんだが、そう都合よく助けられるほど万能な方でもねぇ。学者さんに言うのもなんだが、危うきに近寄らないってのも賢さの証だ。気をつけるんだぜ」
「……ええ、親切にありがとう。肝に銘じておくわね。それではご機嫌よう」
ある商店の若旦那らしい人物との初接触は上手くいった。これなら、他の住民との触れ合いも期待できそうだ。もう少し、人里を巡ろうか。
ーー
「やあやあ、そこ行くお姉ちゃん。この里一番の玉ねぎはいかがか」
「このウスラトンカチ!そんな軟派な客引きがあるかい!」
「ってもよぉ。見知らぬ美人にどんなこと言えば……あだだだ、いってーよ!母ちゃん」
「あの大丈夫ですか?今、耳が千切れんばかりに伸ばされたみたいなんですが」
「心配しなくとも、バカは無病息災を地で行くんだ。心配ご無用ってね」
ーー
「ほら、山の幸がよりどりみどり!なんか知らねぇが、ここ最近草や花が馬鹿みたいに生えてくんだよ。その証拠にほら、とっくに春は過ぎたのに桜が満開ときた。これは畑仕事放って花見しろって、神様のお達しなんじゃねぇかな」
「……ここ最近、この辺りで妙なことはありませんでしたか?例えば、私のような外来のものが里に現れたとか。不思議な生き物を見たという人がいるとか」
「は〜、別段そんなことないと思うが。だいたい、このあたりは妖怪とかが出やすいんだ。いざ何かあれば、博麗の巫女様が妖怪退治してくださる。その巫女様が動いてないんだ、妖怪の仕業とかではないと思うがねぇ。……そういえば、山の近くにある茶屋に不思議な御仁が時々現れるって噂になってたっけ。関係があるかはわからんが、行ってみたらどうだい。少なくとも茶屋の団子は絶品でな。無駄足ってことにはなんねぇさ」
人里を巡り、様々な人と交流を交わしたが、どの住民もにこやかに応対してくれた。今、外の世界は戦国乱世の只中にある。もしも、戦争や争いといった要因が消えれば、そこに残るのはこんな暖かな風景なのかも知れない。そして、最近の植物の大発生を調べるうちに得た情報。今回の事件は博麗の巫女の領分で、妖怪である自分が関わる必要はないのだが、気まぐれついでに解決しておきましょうか。
情報を聞いた後に人里を通ってのんびりと茶屋へやってきた。やってきてしまった。……何てことだ、こんな冗談のようなことがあっていいのか。普通、こういった事件の調査を初めてから、黒幕級の登場人物は最後の最後に勿体つけて登場するのが物語の常だというのに。
「何を考えているかは察したが、そんなことを考えられても私が知るか」
「ある意味では空亡様は序盤に最も登場してはいけない方ですしね。いつも裏から何もかもを操るという黒幕が似合うのも、考えものというものです」
「早急に事件が解決するというのも良し悪しがあるのだと痛感いたしました。それで、何故このような事態を引き起こしたので?春でもないのに様々な季節の花が咲かせるなんて、せめて一言言ってくだされば隠すなり誤魔化すなり出来たのに……」
どっと疲れが肩にのしかかる。事件の謎を解く鍵や証拠があるかと思い茶屋を訪ねてみれば、最強の悪神である百鬼空亡と読心の妖怪、古明地さとりの二人が団子とお茶を嗜んでいたのだ。想像を上回る速度で事件を解決することが、ここまで疲労を与えるとは。自分も呑気に花見でもしておけばよかったと今更ながらに思わなくもない。
「待て、異常事態は全て私が仕組んだと考えるな。今回の件に関しては私はおろか、幻想郷の妖怪たちは一切関係していない。これは単なる自然現象だ。特に害を与えることもない、放っておけば消える現象に過ぎん」
この植物が大発生することが自然現象?何がどういうことなのか。
「そう思うのも当然ですね。こんな事態が起きて最初に疑ってしまうのは、お兄さんくらいしかいませんから。山の妖怪たちも大騒ぎして、私のところに押しかけてきたくらいです。まったく、私はただの平凡な妖怪だというのに」
「……平凡な妖怪が空亡様とお茶するかしら。自覚があるかは知らないけど、貴女は」
「言わなくても結構です。自覚したくはありませんが、私の周囲の方が自分とは比較にならないほど、怪物であるというのは承知してますから。おかげで私はいつも事件の首謀者側の立場にされて、いい迷惑です。……あと他人事のように考えていらっしゃるようですが、紫さんもその一人ですからね」
「待って、私はそこまで大掛かりな事件、問題を起こした覚えはないのだけれど」
「言わぬが花ですね。幻想郷の賢者様と言えど、ご自分のことにはとことん疎い様子で……あぁ、動物たちが今の私の唯一の癒し、安らぎです」
「はいはい、ところで二人はどうして茶屋で食事をしていたのですか。二人の言うことを疑うわけではありませんが、別の悪巧みとか………考えていません?」
「いや、今回はその手の話題ではない。外の世界の話をしていたところだ」
「話をしていたというか、通りすがったところで食事に付き合わされることになったんです。それと私と空亡様が一緒にいたら、悪巧みを計画しているという発想はやめてください。凄まじい風評です、根も葉もない話です」
「根も葉も、どころか幹も枝もありそうなのですが……今は触れないでおきます。それにしても空亡様が直々にお話をするなんて珍しい。外の世界ではそれほどの一大事が起きているのですか?」
以外に感じるかもしれないが、百鬼空亡の行動は能動よりも受動に傾いている。彼が自分から行動をするということは滅多にないことで、それがいずれも最重要な事柄であるというのは長い付き合いの中から学習している。少なくとも事件の真相と合わせて聞く必要はあるだろう。
「外の世界が現在、戦国乱世であるというのは幻想郷を統括する貴女なら存じているでしょう?今回の事件と我々の話の要点はそれに尽きます……」
「?……どういうこと、今回の大開花の原因が外の世界に?」
「然り、今回の花の開花は言ってしまえば、人間と地獄が深く関係する。そして、この二つ以外の存在は一切関係していない。ここまで手がかりがあれば、わかるであろう?……紫、まず、今回の花を咲かせている要因を述べよ。ただし、妖怪はこの事態に関与していないことを前提とする」
妖怪はこの件に含まれていない?これほどの事態に妖怪や神が関わっていないということがあり得るのか?少なくとも我が師はこうした場面で嘘、偽りは口にしない方だ。となれば、人と地獄の関連から考えるべきか。花を咲かせた要因、人と地獄。外の世界。
「………………………………………」
「随分と悩んでいますね。まぁ、私も空亡様の心は深くまで読めないので、結局事件の真相を聞くことにしたのですが」
「この馬鹿弟子は無駄に負けず嫌いだからな。素直に答えを聞けないのだ」
「……地獄と人を結ぶ要因は死と魂。……明確には把握出来ませんが、花の開花の要因は人の魂なのでは?ちょうど、戦国の世であるため人の魂には事欠かないでしょう?いえ、それどころか地獄では死んでいった者たちの魂を管理しきれなくなっている。その魂が現世に溢れ、植物を実らせた」
さとりは空亡の隣で湯呑みに口をつけた。空亡も紫の推論に対して反対意見を語らず、茶を飲んでいる。この様子からして自分の推測は当たりのようだ。
「お見それしました。まさか、あれしか情報を与えられなかったにも関わらず、真実を見抜くとは。……さすが幻想郷の賢者様、というべきですか」
「賞賛は嬉しいけれど、その呼び名は控えてくださる?とりあえず、今回の事態が一過性のものということは承知しました。これは私たちの出る幕はないでしょう、地獄の閻魔たちに任せて収まるのを待ちますわ。それよりお二方は何の話をしていたのですか」
「それは私から説明します。ーーーこの頃、異国より新たな宗教が伝わってきたのは後存知ですか。ここ最近は仏教の訪れた時と同じことが再び起きるのではないかと、あらゆる方々が戦々恐々としているのです。新たな宗教の流入がどのような事態を及ぼすのか、お兄さんの意見を聞いていたところです」
新たな宗教の件は知っていたが、まさかここでその話題を聞くことになるとは。しかし、これは僥倖だ。前回の仏教伝来時は妖怪や土着信仰の神が手酷い弾圧を受けた。もし、今回の宗教が同じようなことを起こすなら、幻想郷はそれと対決しなくてはならない。
「空亡様は今回の件はどのようにお考えだったの?」
「ふっ、何も変わらんさ。……人間はこれから変革を遂げるが、少なくとも妖怪や神が直接的な被害を受けることはない。何も変わらんというのは、そういうことだ」
「……これが結論だそうです」
「そんな馬鹿な!?異国の神が伝来したことが何も影響を与えないというのですか!」
仏教が日本に広まった頃の混沌ぶりは、永きを生きる妖怪からしても苦々しい記憶を刻んでいた。そのため、いくら己の師が新たな宗教の伝来が混乱を呼ばないと確約してもそう簡単には信じられない。なぜ、そのようなことを自信ありげに言えるのか。また、彼は何を考えているのか。
「その通り、宗教には数多くの種類、形式があれど、今回伝来した宗教は無視できない欠落を抱えている。それがある限り、如何に信仰を得ていようと現世に具現することはあり得んだろう。なまじ完璧を謳い絶対などと夢物語を吹くから、致命的な欠陥が生じるのだ」
「ーーー致命的な欠陥?」
「……空亡様の発言をそのまま使ってしまいますが、外の世界で広まり始めている宗教は唯一の神を信仰する宗教だそうです。その宗教の根幹は世界を創ったという触れ込みで全知全能の神を信仰せよ、というもの。それ事態が大きな矛盾となり、その矛盾の解消が出来ないために
「
「さては話すのが面倒になりましたね、今のは心を読むまでもなく分かりました」
「無駄な口を開く余裕があるなら、支障はなかろう」
「…………紫さん、この話はお兄さんの言うことをそのまま伝えるので、疑問に感じた箇所の質問はお兄さんにどうぞ。こちらに質問されても対応に困窮いたしますので……」
「分かりました。……ねぇ、やっぱり貴女って黒幕側の方が生き生きとしてないかしら」
「…………縁起でもないことを。とにかく、説明を始めますよ。説明と言っても話す内容は拍子抜けするほど単純なものです。話の要点はたった一つ、すなわち全能者は自身にとって不可能なことを実現できるかという点です。例えば、ある全能者が誰も持ち上げることの出来ない石を創ったとします。これは製作者たる全能者にも持ち上げられないはず。しかし、持ち上げられないということはその時点で、全能者が全能ならざることを証明しているのです。かといって石が創れないならば、どのみち全能性は破綻しています。この矛盾に辻褄を合わせられない神々は、幻想にすらなれない夢想である。……これで合ってますか、お兄さん」
「ああ、正しく過不足なき説明だった。やはり、あれだな……さとりは黒幕側に巻き込まれて、動いている方が向いている。紫が"幻想郷の賢者"、私が"幻想郷の真の支配者"と呼ばれている。それなら貴様は"幻想郷の狂言回し"というのはどうだ?」
「絶対に、いえ死んでも嫌です!断固拒否します、私は一山いくらの木っ端妖怪ですから。普通なんです、ありふれているんです。お願いですから、私の平穏を崩さないでください」
普段から感情を表に出しにくいさとりが、声を荒げてまで徹底拒絶のスタンスを取っている。それに対する空亡の顔は如何にも愉しげな笑みが浮かんでいる。その笑みは、邪悪とまでは言わないがタチの悪いイジメっこみたいな空気を流していた。紫はさとりが空亡に揶揄われていることに同情したが、詳しく言及しようとはしない。下手に地雷源へ突貫して、起爆したくないのは人間でも妖怪でも避けたいのが心情というやつだ。一概に紫が冷淡とは責められない。
「待ってください。先ほど言っていたことには、抜け道がありませんか?神が持ち上げられない石を創ったとして、その後で持ち上げられるようにすれば矛盾は解消され辻褄が合う」
「その考えならば、確かに矛盾は解消される。しかし、真に全知全能という特性を持つなら不可能を不可能のまま実行せねばならない。それが行えない以上、全知全能の神、神話というものは絵に描いた餅ということだ。多神教ならば一柱の神の及ばない領域に対応できるが、ただ一柱の神を信仰する一神教では構造的に対応しきれん」
こうして話を聞いて、ようやく安心できた。新宗教の影響について空亡が"問題なし"とお墨付きを出したのだ。百の説明より信用する価値はそこにある。ああ、これならしばらくは安心して、のんびりと過ごすことが出来そうで……
「そういえば紫、任せておいた遊戯の構築具合はいかほどに進んだ?」
「……『忘れていたかった、そんなこと』……心はいつでも誰でも正直ですね。正直は美徳ですが、真実というのは残酷なものです。もういっそのこと、思いつきで決めてはどうですか。あまり、複雑で凝った内容では妖怪や妖精たちがついていけないでしょう」
「ははは、それだと飽きてしまう可能性もあるんですわよ〜。……戻って遊戯の草案でも、作ってきます。それでは二人ともご機嫌よう……」
「紫さんの目、死んでいます」
「まったく、もう少し輝かぬものか」
「私の第三の目を見ながら、そんなセリフを言わないでください。何を期待しているのですか、まさか輝かせろとでも?心を読むだけで十分に苦労しているんです。それなのに、これが輝くとか、ビームが出るみたいな珍能力が増えたとあっては、積み重なる苦労がどれほど増えることか……考えただけで震えが止まりません」
「ビームか……ビーム……」
「(考え込んでいるっ!?)」
紫のひっそりとした驚愕は、さとりの目によって見破られていた。紫が肩を落とし放心状態。空亡もさとりも手馴れたように紫の現状には触れずスルーし、雑談に花を咲かせていた。
「時は戦国、異国より新たな宗教と武器が伝わることになった次第。この様子ならあと少しすれば穏やかな時代になるな」
「?……そうでしょうか、異国から伝わったのは宗教だけではなく新たな武器も同様のこと。新たな力を持ったのなら、それを振るおうとして戦禍が増すのでは?」
「それは無い、新たな武器の強力さを知った一部の者は日本を纏め諸外国との戦いに力を蓄えようとする。かの名高い第六天を背負った魔王が没してから時代は回りだす。……実際のところ、我々のような人外や幻想郷の住民には関係がないのだがな」
「第六天の魔王と申しますと……ああ、外の世界で比叡山を焼いたという?」
妖怪たちは神に対し明確に牙を剥いたであろう人間の話題で大いに盛り上がっていた。さとりとしては興味が無かったのだが、妖怪たちがあまりにうるさいものだから記憶に残っていたのである。もっとも、どこかの人間が比叡山に火を放って燃やした云々というかなり大雑把で
「その通り、神も恐れぬ人の魔王。単発でしか放てない銃を連射し弾幕を張ることで戦国最強の騎馬兵を打ち破った尾張のうつけもの。流石の妖怪たちでも彼のことは知っていたか」
「それはまぁ。比叡山を焼き払ったとか、妖怪たちがバカみたいに盛り上がってましたよ。特に鬼の皆さんなんか、『説教くさい神に一泡吹かせた人間に乾杯だぁ。とことん飲んで呑んで騒ぎ倒すぞぉ』なんて山が揺れるくらいに騒々しく何時も通りに宴を開いてましたね。まったく、酒を飲むのも宴でアホよろしく騒ぎ尽くすのも普段通りではないですか。このまま、あの調子で騒がれたのでは
「なるほど、それなりに貴様にとっても深刻な状況なのだな?……語り口が平坦すぎる
「ええ、あれは正しく騒音の"弾幕"です」
さとりが何気なく呟いた言葉は紫の耳にするりと入り込み、ある考えを想起させた。その考えこそ幻想郷の新たなる秩序を創造する鍵へと変わるのだが、現時点でそれを知る者はいない。紫は耳に入った弾幕という言葉が決定的なものだと直感したのだ。頭の中で想像していたものが明確な
「………………労わってやるべきだったか?」
「手遅れだと思います」
しばらくして、幻想郷に新たな秩序をもたらす遊戯が施行された。その遊戯の名は"
幻想郷はまた一つの変革を迎えた。
ーーギフトゲーム・
参加者及びプレイヤー・ホスト
・幻想郷に存在する全種族。
・ホストはゲーム宣言者が代行する。
・プレイヤーとはホストと対戦する参加者である。
参加条件
・幻想郷内でゲーム開始を宣言した者と対戦者がゲームに参加。
・ホストが認めた場合のみ、一プレイヤーと複数プレイヤーのゲームが可能
プレイヤー・ホスト禁止事項
・弾幕を放つスペルカードは複数発動できない。同時に複数発動を行った場合無条件で敗北。
プレイヤー・ホスト敗北条件
・対戦者が放つ弾幕の二回以上の被弾。なお死亡は敗北には見なされない。
プレイヤー・ホスト勝利条件
・対戦者の放つ弾幕の回避。
勝者、敗者への諸注意
・勝者は敗者に自身の要求を通すことができる。
・要求が可能な範囲である限り、勝者の要求は遵守される。
(要求が遂行可能であるにも関わらず、受諾されなかった場合に敗者は絶命する)
ーー宣誓、上記を尊重し、ホストマスター八雲紫の名の下にギフトゲームを開催するーー
ーーーー平穏なる幻想郷の日常ーーーー
幻想郷は今日も平穏である。その平穏ぶりと言ったら妖精や妖怪が平時のように弾幕ごっこを行っていたり、人里で妖怪たちが虎視眈々と支配圏の獲得に勤しんでいたり、世界を滅せる程度の悪神が寝倒していたりと実に平和なもの。いや、冷静に考えれば障子紙、または薄氷の上でコサックダンスをするくらいギリギリの均衡で平穏が保たれていると言うべきか。幻想郷の特筆すべき噂を求めて、今日も情報収集を始めよう。
幻想郷一の情報通にして、幻想郷最速の妖怪である射命丸文の取材はこうして始まった。
まずは河童の住まう妖怪の山の最も大きな滝にやってきました。ここは人里と妖怪の交流が盛んで時たま有益な情報が手に入る場で、情報料も安上がりに済むので絶好の狩場なのだ。有益な情報と同じくらい取り扱いに困る厄ネタも混ざっているのだが、そこは記者の勘で巧みに回避するしかない。
「はい、そういうわけで何かいい情報ありませんか?もしくは目立ちそうな情報でもいいですよ。ちょちょいと面白おかしく誇張いたしますので」
「そこは口先だけでも"嘘偽りない真実を書きます"とか言えないの?……まぁ、文がそんなことを言い出したら、それこそ嘘偽りだって思うんだよ。これも人柄かな」
「人柄と言われましても私は妖怪ですけどね。それに口は災いの元とか言うでしょう。無用な嘘は私、吐かないことにしているんです。では、何か愉快な情報を一つお願いします」
こちらが普段から情報を提供してくれるK城に◯りさん。ちんまい格好をしているが、こう見えて河童たちの取りまとめ役を行っている河童たちの長的な存在だ。まぁ河童は個人主義の傾向が強すぎ、上下関係がまともに機能していない節がある。それに河童の長といっても妖怪の山の地位は大きなものではなく天狗の仕切る妖怪たちの一集団に過ぎないが。
「……ちょっと、なんか失礼なこと考えなかったか」
「そんなまさか。情報提供をしてくださる方にそんな不義理はいたしませんって。ご覧くださいよ、この透き通るような目を。嘘を吐いているように見えますか」
「うん、何か裏が透けて見えるね。嘘を言ってるのか、意図して本当のことを話さないのか。どちらにしろ、タチが悪いってことには間違いない。ーーーせめて、椛くらいド直球で生真面目なら付き合いやすいんだけど」
あやや、さすが天狗の中でも特に捻くれている自分と付き合いが長いだけはありますねぇ。にとりの洞察力が確実に上がっているのは、もしかすると自分との付き合いが原因でしょうか?
まぁ、にとりが幾ら愚痴をこぼそうと
「はぁ〜、それで外と内の情報。どっちが欲しいのさ」
結局は情報を提供してくれるので、交友関係は良好そのものなんだけど。
「ふむふむ、外の世界では戦いが終わり平穏な時代へ。外から来た宗教は特に危険なし。幻想郷は弾幕ごっこで妖精と華の眷属が先日派手に衝突。鬼たちが妖怪の山を降りて地底に移住。……よっし!」
今日は以外と掘り出し物の情報が盛りだくさんでしたね。鬼たちが妖怪の山から去るというのは、自分としては歓迎すべきこと。今回の私の瓦版は相当に繁盛するのでは。それに最近では空亡様が全く動こうとしない。いや、あのお方が動くほどの一大事なんて想定もしなくない。けど、動かれないというのも気味が悪いですし。頭に好奇心が渦巻くが、それに対し知るべきではないと妖怪の本能が押し留め、情報だけでも仕入れるのだと記者の魂が囁いている。
背に腹は変えられない。時として情報とは命に比するものなのだ。ここは手に入れるために労苦を惜しまず、行動しようではありませんか。まぁ、さすがに空亡様の元へ直接向かうなんて自殺行為はしないのですけど。難点があるといえば、彼女には嘘偽りが通じないため個人的に苦手ですが。
「なぜ、どの方も私の元に来れば空亡様の行動がわかるなどと考えているのでしょうか……」
「それはもちろん、さとりさんは空亡様に最も近しいお方だからですよ〜」
言わずもがなさとりには文の心が読めているため、嘘と見抜いている。けれど、さとりは呆れながら感嘆の息を思わずついてしまった。
「ーーーよくもそこまで本音と乖離したセリフが口から出てきますね。それほど自分を偽るのが習慣になってしまうと本人でさえ本音か嘘かが判別できなくなるのでは?」
「あっははは。いえいえ、嘘も本音も自覚して用いることが重要なのです。自覚無しの言動など何の意味も持ちませんし、騙すならきちんと騙し、本音で惑わすならはっきりと惑わさないと……あー、つまらないでしょう?」
「何故でしょう。本音はこちらがドン引きするくらい黒いくせに、こうして話だけ聞くと妙な説得力があるのは。心を読んでいても、それが真実かさえ判断ができません、はっきり言ってこうして話をしているだけで気力が持ってかれるのですが。帰ってもらえませんか……割と本気で」
「あやや、私としても心を読まれている状況は好ましくないので、早急にお
「………貴女に舌戦で勝てるとは思えませんし、手っ取り早く弾幕ごっこで決めましょう。こちらが勝てば、貴女は大人しく帰ってもらい、負ければ知っている範囲でならお答えします。どうですか」
「乗りました!」
「……使用スペルは三枚、ゲームを始めます」
文の受諾と、さとりの静かな宣言を呼び水として空中に黒の
ーーー
ちなみに今回の弾幕ごっこは、以外なことにさとりが二発被弾させたことで文の敗北で終わった。最も、文がどこまで本気だったのかは不明である。勝者のさとりも文に勝利したことについては、こう述べていた。
『正直な話、勝ったという実感はありません。新聞のネタが欲しかったというのは本当のような気がするのですけど、そこまで執着していなかったみたいです。心を読んだ時は、勝っても負けてもいいと考えていましたね。射命丸文、幻想郷にいる天狗の中でも相当の古株であり相応の実力を持っているのは確かですが、はっきり強いとも弱いとも言えない方です。……個人的に言うと苦手です、彼女は勝負で勝ちを狙うのではなく、勝っても負けても得をすることに心血を注いでいます。正直、心が読める私ですら、彼女の行動の意味は解読できません』
ーーー
今日も変わらず幻想郷には風が吹く。勝手気ままにして自由奔放な風が。その風に乗って空を舞う少女は、天から幻想郷を
「……天下は泰平、世は総じて事もなしっと」
彼女こそ幻想郷に住まう天狗が一人……風神少女の射命丸文。
ーーーー求聞恋歌ーーーー
失敗だ、失敗した、失敗だ。致命的に間違えてしまったのだ。この間違いの贖いに命が奪われるだろう。そう、私はただひたすら過ちを犯したのだ。妖怪とは無害でもなければ安全などありえない。そうだというのに危機感を無くして私は愚かにも対策を怠った。これが失敗と言えず何という。
「まぁぁぁでぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ひぃぃぃぃ!?」
無様だ。常日頃から室内にこもって書物を読み記すだけの生活を送っていた不健康な自身が実に憎い。また、そんな貧弱な自分が分不相応に妖怪の山へ来てしまったことにしても苛立ちが募る。幻想郷縁起を書き記すため、昔から妖怪へ話を聞いてきた。どれほど大きくても、どれほど獰猛な面相でも妖怪であれば、"あのお方"の名前を出すだけで借りてきた猫のように大人しくなったのに。かのお方は近年では噂にちらほら出るだけで、最近の外様の新しく幻想郷に流入してきた妖怪たちからは、名ばかりの妖怪と侮られているくらいだ。
これは残念な事故だろう。偶然、山で妖怪と遭遇し接触を試みるも、"あのお方"の名前の効力が無かったというだけ。……これは死ぬのでしょう。共だって連れてきた者はなくたった一人の孤立無援状態ではどうしようもない。ただ、死ぬのだ。そう死、死しか自分に許された選択はない。
「ああ……い……だ……。いや、ダメだ。うっ、ひっく……死にたくない……」
嗚咽が溢れ、足がもつれ地面に転んだ。何故だろう。転んだという実感がない、気がついたら目前に壁が現れたとさえ感じてしまう。そんなことを考えている場合ではない。逃げなくては……いやどこに逃げるというのだ。逃げ場なんてない、妖怪退治の巫女はここにいないし自分にはこういった状況を打開する能力はない。
「ようやく、止まっだぁぁぁぁ。その肉、骨、皮、余すとこなく食わせろやァァァ!!!」
「……」
ガチガチと歯が音を立てる。自分には何も出来ない、何もない。自分の生涯はこうして終わるのか、自分のことなのに他人事のようにしか感じない。諦めたくないと考えているのに、心は諦観に満ちている。ああ、対する妖怪は大きく口を開けている。鋭い歯と血生臭い臭気、大口の向こう側の暗闇はどうしようもないほど真っ黒だ。誰か、誰か、自分以外に誰もいないのは言うまでもない。それでも死にたくない、諦めに満ちた魂が熱せられた。無駄というのはわかっている、何の影響も与えないことは確約されている。
……それでも、それでも!
「…………誰じゃ、たっけて……」
あっ、これは死んだ。恐怖で
なんて言っている間に妖怪の口がゆっくりと近づき私を噛み千切らんとする。喰われる、食われる、そして……死ぬ。もうダメか、死ぬ間際だというのに頭に浮かぶのは、どうでもいいことばかり。今夜の夕食を食べられない、それに読みかけの本が気になる、あと初恋というものを体験してみたかった。まったくなんて呑気な心残り……
爆轟……
ほんの一瞬まばたきをした瞬間、耳が聞こえなくなるのではと思うほどの大きな音が山に
けど、そんなこと"どうでもよかった"。自分を喰おうとしていた妖怪のことが頭に入ってこない。今、頭にあるのは目の前に立つ"褐色"の人影だけだ。私は彼を知っている、いや正確には前世の私は……だ。彼は妖怪の山を統べるモノ。御阿礼の子に大きく関係するお方。でも、今の私の中では彼が最強の人外だということは考えられず、ただ胸にじんわりと染み込むような甘く暖かな気持ちを
これこそ六代目阿礼乙女として生を受けた私、稗田阿夢の物語の始まり。
そして、この瞬間が幻想郷の終わりの始まりでもあったのだ。
弾幕ごっこの描写を真剣にやるのは、霊夢世代の話に入ってからです。
弾幕ごっこをしている幻想郷の住人を、どうしても見たいという方がいるようでしたら真剣に弾幕ごっこを書いてみたいと思います。