絶対悪・暴虐のアジ=ダカーハ   作:悪事

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古代東方の最初の話ですが、自己解釈が酷い上に、東方キャラが活用しきれていません。ですのでこの話は賛否両論あるかと確信しております。だから改善出来ると言う所は、出来るだけ感想で教えてください。作品を良くするため何か、アドバイスをお願い申し上げます。







東方悪神録
語られぬ物語、月の都


これより始まるのは、誰も語らず、書き残しもせず、知られることのない物語。神話の時代より遥か昔、存在する万物に限りのなかった時代。不朽の栄華を誇り、常に明かり絶えず、卓越した技術と政治体勢で確実な幸福を約束された場所である月の都。そこに突如襲来した純白の三頭龍との戦い。

 

……そして、敗北。

 

覚悟せよ、これより始まるは敗北と逃避が定められた歴史の一幕。

 

それでは、その語られることのない神話を巡るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー東方悪神録ーーーー

 

 

今宵、月の都はある一大プロジェクトに挑んでいた。それは月の都が地上を離れ、空の彼方へと羽ばたくという大移住計画。ここで疑問に思われるのが、何故、月の都は地上を棄てることになったのか、それは現在の地上に原因がある。以前まで地上は万物に定めが、限界がなかった。しかし、時を経て世界はモノが増えるにつれ命に限界が生じるようになった。都の人々はその限界を穢れと呼び、それの対処法を賢者の 八意××(永琳)に疑問を投じたのだ。彼女はこれは異常事態ではなく、自然の摂理によって起こされた現象だと断じた。しかし、月の都の上層部はそれを拒絶し空の彼方にある星への逃亡を決定する。穢れから逃げるために建造した巨大ロケットを打ち上げる日。そこにちょうど穢れから生まれた化外、後の時代に妖怪と呼ばれるモノが月の都に襲来していた。月の都の警備兵と一部の実力者はロケットの打ち上げ準備が出来るまで時間稼ぎを敢行。周囲に現れる大小の区別なく滅ぼしていく。彼らに罪悪感はない、元々、化外は居てはならない異常物。化外を命と認識していないのだろう。それに尋常ではない技術を活用した武装で遠距離から、簡単に化外の命を奪う。それが罪悪感を根こそぎ奪ったのだ。例えどのような命だろうと、その命には価値がある。それを奪うということの重みを忘れた者たち。故に、これは必然、彼らを対象とした予想だにしない蹂躙劇が始まる。

 

 

 

 

 

 

『GYAEEEEEEEEEE!!!』

 

 

 

ズガーン!!

 

 

殺意の込められた凄まじい咆哮が轟く。咆哮は大気を強烈に揺らし、月の都の周囲にある最新技術の結晶である壁をあっさりと打ち砕く。ただの雄叫び、極論で言えばただの音。それがどんな衝撃すら弾き返す壁をガラスのように破砕した。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」 「うわぁぁぁ!」

 

 

阿鼻叫喚、砕かれた壁の破片が警備兵へ襲いかかる。穢れの影響で死ぬという当たり前を覚悟したはずの兵たちが恐怖で混乱に陥る。壊れた壁から打ち漏らした化外が侵入し始めた。それを三頭龍は興味なさげに見下ろす。不思議なことに何やら自分の力が上昇しているみたいだが、そんなことは気にせず崩れた壁から月の都へ入っていく。そこにあったのは、現代でも不可能と見てとれるような建造物の数々。ここで説明しておくと、アジ=ダカーハの力は文明のレベルと人類の悪意によって左右されるのだ。つまり文明レベルが異常に高いから、自分のスペックが上がっているのかと三頭龍は納得して首を揺らす。その時だ、三頭龍の右の首、その視界に光を視認する。その光は直感で自信に仇なすモノであると理解。それを体を僅かに捻って回避。次弾が迫るが、それは余裕を持って拳で迎撃した。

 

 

「ほぅ、中々芸が達者だな、穢れの者よ。この私の弓を二度も退けるとは、この都でもそれが出来るのは片手にも満たないのだが…」

 

 

『………………………………』

 

 

「ふん、言語を解さないのか?……言葉がわかるほどの知能があれば、同胞を傷つけた文句をぶつけようと思ったが、まぁ、いい。…………穢れの者よ、滅びろ!」

 

 

シュン

 

 

どうやら、うだうだ話をしていたのは弓を引き絞る溜めだったらしい。先程までとは明らかに異なるエネルギー量の矢が、心臓へ真っ直ぐに向かってくる。その矢をアジ=ダカーハはどうするのか?拳で迎撃する?体を反らして避ける?はたまた魔術でも使う?どれも違う………ならば、いったい何をしたのか。三頭龍は刹那に迫る矢を受け止めた、それだけでも驚異の出来事なのに次はその矢を逆に投げ返したのだ。常識外れの出来事に反応が遅れた永林は、投げ返された矢に命中しそうになる。いや、この場合命中するのは確定している………不確定要素がなければ、の話だが。

 

 

 

迫りくる矢を回避しきれない永琳、咄嗟に眼を瞑る。すると、そこに現れた2つの影が永林を救う。救われた永琳はその人影の正体が誰かと確認すると、呆れたように笑う。その二人は彼女の教え子、特に自分の教え子の中でも優秀だった自分の親戚。この姉妹こそ綿月豊姫と綿月依姫。月の都でも有数の実力者であるが、幼すぎると永琳が判断し、警備に当たらせずロケットに入らせた二人だった。

 

 

「えっと?一応、今一度、聞いておくけど貴方たち。ここで何をやっているのかしら?ロケットにいろってあれほどいったわよね。ね!」

 

 

「申し訳ありません、先生。ですが、何事にも想定外の事態は訪れます。それを懸念したため、ここに参上した次第です」

 

 

「お堅いなぁ、先生の戦ってる姿を見に来たら、こんなことになっているから助太刀に来た。それでいいじゃない?」

 

 

「………ふぅ…まったく、仕方ないわねぇ。二人とも気をつけて、アレは恐ろしい手練れだということを肝に命じなさい」

 

 

「「はい!」」

 

 

金髪と紫髪をたなびかせ、永琳の助けに来た幼げな姉妹。一人は礼儀正しい紫髪の少女、彼女の名は依姫。もう一人、腰ほどの長い金髪を揺らして依姫と並んでいる彼女は豊姫。ここに月の都でも超一流の猛者が揃いぶむ。そして、姉妹は自分たちの師を傷つけようとした三頭龍を殺意を込めて睨み付ける。三頭龍は眼前の三人を無感情に眺め、どうするのか、僅かに考えをしようとするが中断した。どうなっても構うものかと自棄になって全身に力を込める。

 

 

「来るわよ!」

 

 

永琳は相手の僅かな動きに先んじて弓を放つ、依姫もワンテンポ遅れて刃を振るい斬撃を飛ばす、豊姫は依姫の攻撃に合わせて光弾を撃つ。息の合ったコンビネーションに三頭龍は如何なる対処をしたのか?

 

 

『GYAEEEEEEEEE!! 』

 

 

三人の攻撃に応じて怪物の雄叫びが、衝撃波となって三人に襲来する。永琳、依姫、豊姫たちは怒濤の勢いで距離を縮めてくる衝撃波を散らばって回避した。三人それぞれをアジ=ダカーハは三頭で視認している。首が多いということは視野もそれに応じて広いということ、三人は別々の方向へ動き回って三頭龍を攪乱しようとしているが効果は薄い。彼女たちの高速移動だが、アジ=ダカーハの眼光は彼女たちを捉えたまま。高速移動による攪乱は効果が薄いと理解したのか、それとも膠着した状況に耐えきれなかったのか、依姫が刃を片手に三頭龍の懐へ潜り込もうとした。その動きは姉妹である豊姫、師である永琳ですら、視界から消えたと錯覚する挙動。しかし、その超高速の動きを三頭龍は見切っていた。依姫は懐に入ると胸のど真ん中、心臓があろう所に刃を突き立てようと、剣を握った腕を振りかぶる。それがただの化外(妖怪)ならば、何も問題はなかっただろうが、無策に突進するという愚勇、蛮勇が三頭龍に届くはずもなし。

 

 

ブンッ 、

 

アジ=ダカーハは、懐に入った依姫の攻撃を見た目に反した身軽な動きで回避。アジ=ダカーハの体、つまり巨大な質量が動いたことで暴風が吹き荒れた。

 

 

「依姫!」

 

 

依姫が強風によって吹き飛ばされると、永琳が吹き飛ばされた彼女を空中で回収し、三頭龍との距離を取る。

 

 

『……………………』

 

 

依姫を助け距離を取った永琳、隙を伺う豊姫。それらを六眼でじっくりと観察する三頭龍。僅かな静寂、警戒するゆえに永琳たちは三頭龍の一挙一動を観すえる。このにらみ合いを最初に破ったのは三頭龍。まず、永琳の方へ一歩を踏み込む。初速で音の速度を越え、次の一歩で第三宇宙に匹敵する加速。たった二歩で距離を完全に詰められた永琳は依姫を豊姫の方へ放り投げた、三頭龍は冷徹に凶爪を横に薙ぐ。永林はそれを受け止めようとするが、巨大な質量の暴威に抗えず吹き飛ばされた。その際に受け止めようとした右腕はミンチ状態になっており、仰向けになったままピクリともしていない。そんな状況に依姫、豊姫は驚きを隠せず警戒の段階を更に上げる。

 

 

「…そんな……先生が穢れの者に………」

 

 

「…………依姫ちゃん、先生がいるここで戦闘を続けるのは、ちょっと不味いね。それに真っ向から戦うのは厳しいなぁ。…………………よしっ!あれを誘導しよう、先生とロケットから距離を離して時間を稼がないと」

 

 

「姉さん!あの穢れを滅ぼさないというのですか!」

 

 

「勘違いしないで。今、勝利する条件はロケットの発射時刻まで時間を稼いで全員で戻ること。先生もしばらくすれば動けるくらいには回復すると思う、だから先生が回復した後、アレを動けなくさせてロケットに乗り込めればいい」

 

 

「……………わかりました」

 

 

「っていうか、助太刀に来たのに逆に足を引っ張るなんてねぇ」

 

 

「グッ!」

 

 

豊姫の無意識の一言に思わぬダメージを受けた依姫。依姫は涙目になりながらも、豊姫と共に、三頭龍から距離を取るため後方へ駆け出した。三頭龍は千の魔術によって大概の言葉は理解することが出来る。故に彼女たちのやり取りも思いっきり聞こえていたのだが、ここでロケットを壊しにいくより、あちらの策に乗ってやるかと二人の後をゆっくりと追いかける。

 

 

「姉さん、所でアレの身動きを取れなくさせるといってもどうするのですか?アレは明らかにそこらの穢れとは比較にならない力量ですよ」

 

 

「穢れが相手なら、それなりに対処する方法がないってわけじゃないんだなぁ、これが。まぁ、ちゃんと動くか、どうかが懸念事項だけど」

 

 

「?…………って、あぁ。あの試作機の扇子ですか?」

 

 

月の都で穢れを祓うための発明に着手していた永琳、幾つかの発明の中には穢れを祓うことが出来るモノもあるにはあった、それは穢れを分解するという機能なのだが、使用時に穢れが付与されていた物体ごと分解してしまい、穢れだけを都合よく消せるモノではないと判明したため、永琳が失敗作と廃棄したモノ。物体の分解能力がある危険発明は月の都の上層部の命令によって厳重に保管されている。今回ロケットにそれを入れなかったのは、ロケットの発射時に月の都を焼き尽くし無かったことにするつもりだったのだろう。あの三頭の龍には生半可な攻撃は通じない、故に穢れならば問答無用で消滅させる扇子を求めて月の都、東の外れ永琳邸へ向かう。

 

 

「試作機だから、まともに動くのかどうかすら、わかんないけど。先生ですら打倒したアレに一矢報いることが出来るのはあの扇子だけだからねぇ。急がないとロケットも発射しちゃうし、あの怪物が遊んでいる内に決着といこう!」

 

 

「ええ、私より速い速度で動けるのに私たちを倒していないとは………………遊びすぎですよ、まったく。怒りで腸が煮え返りそうです………」

 

 

「冷静に、冷静に。遊ばれている今が唯一、逆転の機会なんだからさ…」

 

 

背後にはズシンズシンと巨体が鳴らす轟音が、敵の接近を如実に示す。永琳の半分ほどの背丈の幼い綿月姉妹がアジ=ダカーハの一撃を喰らえば、それだけで彼女たちは終わる、というか原形も遺さず肉と血だけの物体になる。それを理解しきっているのか、二人の速度は音の三倍、更に加速して永林邸へ。

 

 

 

 

 

 

アジ=ダカーハがここで彼女たちを仕留めないのは単純に飽きた、という事実に起因する。月の都がいきなり攻撃するものだから壁を小突いたら、壁が吹き飛んでしまった。実際は、中に少し入ったことで満足していたのだが、そこで帰ろうとした時、弓を放った女性が表れて、なんやかんやで現在に至る。惰性で二人の幼い少女(推定年齢10~12歳)を追いかけているが、元からやる気が無いし、少女を好き好んでグシャりたいなんて思うはずもなし。要するにアジ=ダカーハは萎えていた。ここでUターンしてしようかと足を止めた時、三頭龍の直感が反応する。自身に迫る何か、もっとも脅威とは言えないような代物だが、自分に向かって飛んでくるモノを察知した。それはそれなりのエネルギーが込められた矢。しかし、先程の矢とは明らかに劣っている。これでは防御する気すら掻き消えた。止まったアジ=ダカーハに雨あられと降り注ぐ数えきれない矢。それが鱗に弾かれては地面に落ちていく。鱗に傷すらつけられない矢を必死で放つのは誰か?左の首がゆらっと矢が放たれているだろう方を向いた。………そこには最初に蹴散らしたボロボロの衛兵たちが必死の形相で矢を延々と放ち続けていた。

 

 

 

「依姫さまと豊姫さまの援護をしろぉぉ!!ここでアレを足止めするんだ、そうすればあのお二方が決めてくれる!」

 

 

「ふっ、別にここで仕留めてしまっても構わないんでしょう、隊長」

 

 

「子供にいいとこを持っていかれてたまるかよ!」

 

 

「………俺さ、この戦いが終わったら結婚するんだ。だから、死ぬ訳にはいかない。絶対に生きて帰る!」

 

 

「行ってください!依姫さま、豊姫さま。ここは俺たちに任せてお先へ!大丈夫、ここにいるのは悪運が強い死に損ないどもです。どうせ、またしぶとく帰ってきますよ」

 

 

「…………ありがとう!」 「………任せました!」

 

 

男たちは一目で強がりとわかる男臭い笑みで綿月姉妹を先に進ませる。彼らの決死の想いを無駄にしないため、依姫と豊姫は更に速く走っていく。片やアジ=ダカーハはやる気が萎え戻ろうとした時に限って攻撃されるという踏んだり蹴ったりな状況。その行為に怒ろうとしたが、あまりにも見事な死亡フラグを立てるモノだから、怒りよりも先に呆然と立ち尽くす。それが衛兵たちに攻撃が効いていると思わせたのか、彼らは矢を更に多く射続ける。いくら効かないとは言え、そろそろ鬱陶しくなり始めた。三頭龍は矢を飛ばしてくる男たちに向かって、己の拳を叩きつける。特別な術理でも技法でもなく単なる力の暴虐、アジ=ダカーハの拳は防御も逃亡も許さずに男たちを肉塊に変えた。

 

 

『……………』

 

 

三頭龍は手向けに何か言おうかとしたが、喋る気すら失せてしまい無言で、ゆっくりと依姫、豊姫を追おうとする。時間稼ぎに挑んだ男たちは影も形もない、あるのは男たちだったモノだけ。

 

 

 

「姉さん……………」 「……うん、勝とう。あの人たちのために!」

 

 

願いを託し死んでいった男たちのため、振り向かず前だけ見据え、姉妹は疾風のごとく走る。そして、やっと、永琳邸が見えてきた。希望を消さないように、明日を見るため二人は進む。すると依姫が立ち止まって反転、三頭龍に正面から刃を構える。

 

 

「…………姉さん。行ってください。ここは私が………」

 

 

「何言ってるの!最初のは永琳先生が助けてくれたから、無事だったんだよ。それなのに一人で正面から戦うなんて、絶対にダメ!」

 

 

「ここで!…姉さんが扇子を持って戻るまで防御に集中すれば、死にはしません。先ほどの方たちも命を懸けたのです、ここで私が命を惜しめば彼らに顔向け出来ない…………それに……リベンジしないといけませんから」

 

 

依姫の意思の強さに参ったのか、豊姫はこれ以上の説得をやめて妥協案を出す。その妥協は相手の言葉を信じるがゆえに出てきた言葉だった。

 

 

「…………一分!………一分で戻るから……」

 

 

「了解です………」

 

 

豊姫が走りだし依姫は刃を腰に当てた構えを取る。一分間の持久戦。それは60秒という短い時間、それまで依姫が耐えられれば姉妹の勝利。勝利条件は単純、されど言うは易し、行うは難し。依姫は自身から攻撃するのでも、カウンターを狙うのでもない、徹底的に攻撃を受け流す戦法を選択。相手は動かない、互いの動作を凝視して、まるで西部劇の決闘のような構図が出来上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

三頭龍は構えを取った少女を前に考える。はっきり言えば、さっきの男たちを始末したのは攻撃してきたからで、この少女も攻撃してきたが命中していない。従って殺す必要はない。先ほどの男たちは効かないとは言え、攻撃したので癪に障ったから殺った。しかし、この少女を殺す気は一切ない。説明しようとするが面倒になって言葉を呑み込む。以前は殺人に忌避観があったが、二回目くらいでその手の倫理が消えてしまっている。進んで殺しをするほど倫理がブッ飛んでいるわけではないが、邪魔なら潰すといった考えだ。さて、少女たちをどうしたものかと考える、考える、考える。

 

 

そこで急にヤル気が無くなった………

 

 

いや、別にもういいか。自分はアジ=ダカーハとして、魔王としての使命から背を向けた身。ここで、これ以上暴れても何か得るわけでもない。とりあえず戻るか、そうと決まれば反転、もと来た道を戻ろうと歩き出す。相手の言う扇子とやらを待つのも、目の前の少女と睨み合うのも放棄して歩いていく。

 

 

後ろからギリッと軋む音が……これは歯軋り?

 

 

 

振り替えると、そこで少女がプルプルと震えている。恐怖によるものか、と考えたのも一瞬。彼女の顔を見て、面倒だとうんざりする。彼女を戦士だとしっかり認識しなかったために起きたこと。おそらく、彼女は自分が馬鹿にされたのだと思って怒っているのだろう。もしも、彼女が特攻してきた場合はどうしたモノか。

 

 

って、ん?今度は冷静になったらしい。少女の刃を握る手の震えが消え安定した構えに戻る。……………まぁ、どうでもいい。もう、この都を出るとするか。

 

 

 

ここでアジ=ダカーハは最初のようにそこらの壁をぶち抜けばよかったのだが、それをせず人間だった時の癖のようなモノで、最初の穴から出ようと戻ろうとする。それは相手からすれば標的を変えたように見えると気付かず。

 

 

 

 

 

Side依姫

 

 

刃を構えて十秒、長い、これほどの長い十秒を体験することなんて、これから先もう二度と無いだろう。穢れの怪物を前に敵の全身を凝視する。相手も迂闊に動けないのか、まったく動こうとしない。この均衡は自分からは破れない、敵が格上であるため後手に回るしか道は無く、受け流す以外の戦法は無いのだ。すると突然に敵が動いた、自然と刃を握る手に力が入る。どんな攻撃も対処してみせると相手を強く睨むと、敵が背中を向けてきた。予想外の動きに呆然とする依姫。ハッと我に帰ると、怒りがこみ上げてくる。先ほどの男たちは倒していったというのに、私を見逃すと言うのか。私の覚悟を汚そうと言うのか…………

 

 

 

相手の背中を見ると、《お前には価値が無い》と言わんばかりに自身に背を向け、行ってしまう。そのあまりの屈辱に歯を食いしばる、あまりに強く噛んだせいか口の中で鉄の味が広がった。だが、痛みと鉄の味によって頭が急に冷めていく。ここで特攻しても犬死にするだけ。感情を抑えて敵の背中を睨む、冷静になりもう一度しっかりと刃を構える。何故、ここまで追いかけた私たちに背を向けるのか?………ロケットの人たちか!狩りにくい獲物を無視するのは当然、弱い獲物を狙うというのか…………

 

 

あの三頭龍を止める手段がないため、ヤツが離れていくのを眺めることしか出来ない。このままではロケットの人たちが……

 

 

「依姫ちゃん、待たせたね!」

 

ドン

 

そこに扇子を片手に持つ姉が、元気付けるように諦めるなと激励を込め自分の肩を叩いた。

 

 

 

 

Sideアジ=ダカーハ

 

 

さて、ここを出たらどうするか。この龍の姿ではコミュニケーションの、コの文字にすら触れられないだろうし、かといって、今のこの街中を動き回る異形とは会話すら出来そうにない。………………どうしたものか……………あれ?……人間形態になれば良かったのでは?……………………うん、とりあえず、ここを出たら人間形態になろう。今、人間形態になったら確実に面倒なことになりそうだから。そして最初に破壊した壁の穴が見える所まで来たとき、上から二つの影が落ちてくる。二人の女が綺麗に着地すると三頭龍の前に立って、敵意剥き出しでこちらにメンチを切ってきたのだ。………………………

 

 

「それじゃあ、穢れ。ここで貴様との付き合いも、お仕舞いだ!」

 

 

「貴方に殺された者たちの無念を思い知りなさい!」

 

 

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」

 

 

 

金髪少女が振るう扇子から浄化の風が吹き荒ぶ。堂々と正面から来る姿勢は評価できるが、戦術としては落第。この姉妹は戦闘そのものの経験が少ないのか?まったく不意を突けば良いモノの、まさか正面から再び挑んでくるとは馬鹿正直にもほどがある。既定の条理を無視した一撃。扇子から生じた清らかな旋風がこちらに向かってきた。馬鹿としか形容できない愚行。だけど、これこそ私が求め諦めた英雄の在るべき姿。羨望の眼で見ていた隙によって避けることを忘却した絶対悪。そして、万物を分解し抹消する清浄な風が吹き荒れた。三頭龍はそれを避けもせず、棒立ちで受ける。

 

 

体を分解しようと風が三頭龍を滅ぼそうと荒れ狂うが、アジ=ダカーハのスペックはこの都に来てから、更に上昇している。以前ならば、致命傷とまではいかないでも手傷を負わせられただろうに。下手に文明レベルを上げたことが仇となった。胸に込み上げる失望と無念からくる苛立ちを払拭するように、左手を大きく振るう。その動作だけで彼女たちの切り札であろう扇子の一撃を、蝋燭の火を吹き消すがごとく、あっさりとあしらったのだ。

 

 

「えっ?…………何で、何であの穢れは消えていないの?…どうして、どうして!……………………私たちがやったことは、私たちのために犠牲になった人たちは全部、無駄だったというの!?」

 

 

「そんな、こんな不条理がまかり通るというのですか………………ならば、私たちが学んできたことは、鍛え重ねてきたことは、私たちの《これまで》は、いったい、何の価値が………………………」

 

 

 

 

 

そのあまりの理不尽な現実を前に姉妹は膝をついて絶望と恐怖に屈する。三頭龍アジ=ダカーハは、その姿を憐れに思い、せめてもの慈悲として一思いに殺してやろうと双腕に力を込め振り下ろす。それは致死の一撃、絶望と生の終幕を告げる介錯。二つの腕が姉妹を捉えようとした時、この都に来て最初に喰らったモノと同類の矢が向かってくる、受け止めようと手を伸ばすと握る寸前で矢のエネルギーが爆散。爆発の衝撃で土煙が立ち込め視界を遮断され、視覚が封じられた。立ち込める煙によって眼では少女らを見つけられない。しかし、三頭龍には蛇と同じピット器官が備わっている。ピット器官による知覚で、姉妹を連れて逃げる女(永琳)を確認するが、ここまでアジ=ダカーハを手こずらせた褒美に見逃してやろうと双腕を下ろす。ようやく、一番はじめに空けた穴から三頭龍は月の都を後にした。暫くしてロケットと思われる物体が空へ、宙へ飛んでいく。ロケットが大気圏を突き抜けた瞬間、アジ=ダカーハの身に異変が起こり激痛が奔る。

 

 

『GAAAAAAA、GYAAAAAAAAA!!!』

 

 

体の内側から弾け飛びそうになるほどの力の奔流が流動する。この瞬間、絶対悪に焦がれた三頭龍はその肉体の質量を銀河と同等の領域まで増大させた。三メートルという宇宙から見ればちっぽけな体に無限とさえ思えるような質量が付与され、三頭龍という人類悪の象徴は宇宙と同等の位階まで到達したのだ。何度も言っているが、アジ=ダカーハの能力は人類の文明レベルによって決まる。アジ・ダカーハが地球という惑星並みの質量を手に入れたのは、現代に入ってからだ。だが、ここで疑問が生まれる、何故アポロ11号が宇宙に届いた時、アジ=ダカーハは宇宙と同等に成らなかったのか?

 

 

 

それにはきちんとした理由が存在している。簡単に説明すると、アジ=ダカーハが宇宙と同等の質量になるには人類が宇宙に行ったり来たりが出来ること、宇宙で生活出来る環境を創造出来るようにならなければ成らないという二つの厳しい条件が実行可能かで左右される。つまり月の都の民たちは、その凄まじい科学力によって、人智、神威すら越えた怪物を知らぬ間に生んでしまったのだ。オリジナルのアジ=ダカーハを越えた能力を手にした三頭龍は世界にどのような影響を与えるのか?

 

 

 

 

 

一方、ロケットに乗り込んだ永琳、豊姫、依姫は、三頭龍の雄叫びに恐怖を刻まれる。彼女たちはその恐怖を飲み込み、次こそはと三頭龍に雪辱を晴らすことを誓うのだった。

 

 

 

 

ロケットの噴射により都は跡形もなく消え、群がっていた化外もいなくなり周りは静寂に包まれている。月の都だった瓦礫の山の上で、アジ=ダカーハに憧れた三頭龍は印を結び人間形態に変わった。その青年は瞳に諦めと悲しみを映して、立ち尽くす。青年は志が本物のアジ=ダカーハに及ばないというのに、本家アジ=ダカーハを越えた能力を手に入れた事実に軽く絶望する。三頭龍だった褐色の肌の青年は虚しさをまぎらわすため、それとスペックの確認のため、手の平を強く握りしめる。握りしめた拳から血液が滴り落ち眷族が召喚された。その姿は八つの首を持った巨大な龍。今までの眷族とは明らかに強さが異なっている。その眷族は主に背を向け、どこかに行ってしまった。青年は眷族を無言で見送り、自分も眷族とは別方向へ歩き始める。いく宛も、希望もないまま、歩き続けていくのだった。

 

 

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