めだかなボックス~風紀委員会活動記録~   作:白白明け

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今更ながら前話の文量はやりすぎだと、読み返してそう思ったりした今日この頃。
区切りのいいところまで投稿したのはいいが、このままではあと4話くらいで話が終わってしまう。
というわけで、今回は短めで。むろん、区切りのいいところまで。


第序章-始まりのエピローグ編-その2

-前世の記憶?既知感?いいや違うな、そりゃ妄想だ-

 

 

『最後の血統』真庭朱雀はよくふと、昔のことを思い出すことがある。

それは朝食を食べているときだったり、教室で教科書を開いているときだったり、友達と一緒に歓楽街を歩いているときだったり、檜の風呂に肩までつかっているときだったり、今のように箱庭学園の学園長と密談を終えた帰り道でのことだったりと、決まった場面で起こることはなかったが、思い出すことはいつも決まったものだった。

それは記憶だった。そして記録だった。

 

最後の血統真庭朱雀が思い出すもの。

それは決して一般的といえるものではなかった。

 

あるとき思い出したものは一人の忍のことだった。

真庭忍軍。真庭蝙蝠。

彼は優秀で、才能にあふれていて、融通はきくし、洒落も解する。一対一で付き合う分にはやりやすく、頭とするには頼もしく、しかし、優れてはいるが魅力に欠けて、秀でてはいるがひとつ物足りない。

そんな忍者だった。

野心というものを持ち得なかった彼は、故に目的もなく。何かをしたいという欲求もなければ、何かを成し遂げたいという野望もなかった。

しかし、結局は里のために真庭忍軍初代十二頭領の座に就いた。

彼はそんな男だった。

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。

それは無頼の蝙蝠と呼ばれた一人の忍者の生きざまだった。

 

また、あるとき思い出したものは一人のくのいちのことだった。

真庭忍軍。真庭喰鮫。

彼女の内面は慈愛で満ちていて、行動は情愛に溢れていて、至愛といっても問題がないほど美しい目的を持っていて、とにかく彼女は愛に満ち満ちていた。

そんな忍者だった。

愛を歌い、平和を願った彼女は本気で救世を考えていて、忍者でありながら聖者であろうとし、忍者以前に聖者であろうとした。

だからこそ、彼女に言葉は通じなかった。言葉などは意味もなかった。

その思想は驚くほどにゆるぎなく。轟くほどに隙もなく。

実に秩序に。実に平和に。味方を何の躊躇もなく殺し。敵も泣きながら遠慮なく殺しつくした。

そして、世界を救うために死と恐怖を持って真庭忍軍初代十二頭領の座に就いた。

彼女はそんな女だった。

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。

それは涙の喰鮫と呼ばれた一人の忍者が信じた正義だった。

 

また、あるとき思い出したのは一人の忍のことだった。

真庭忍軍。真庭蝶々。

彼は不遇に過ぎていた。彼は人望がないわけでも、無能なわけでもなかったが、大きすぎるその体格は忍としては致命的で、だから生涯を下忍としてそこそこの任務をこなして終える筈のそんな忍者だった。

しかし彼は最終的に真庭忍軍初代十二頭領にその名を残し、真庭忍軍始まって以来初めて、拳法家として頭領の立場に立つこととなった。

そういたるまでの紆余曲折までは思い出すことは出来ないが後の世において戦国最強とうたわれる流派、虚刀流の開祖とまみえたという武勇伝だけは思い出すことができた。

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。

それは不遇の蝶々と呼ばれた一人の忍者がとおした努力の結果だった。

 

また、ある時思い出しだせなかったのは一人の忍のことだった。

真庭忍軍。真庭白鷺。彼は意味不明で、正体不明で、理解不能だった。

命令に従わないわけでもなく。任務をこなさないわけもなく。やる気を見せないわけでもなく。手前勝手な思想を振りまくわけでもなく。忍者向きの体格をしていないわけでもないのに、生涯誰とも噛み合わずに死んでいった忍者のことを、知りながらも最後の血統真庭は思い出すことはできなかった。

だから、最後の血統真庭朱雀が受け継いだもの。

それは誰にも理解されることなく飄々と生き続け、任務達成率驚異の十割を終ぞ割ることもなく死んでいった。長槍の白鷺と呼ばれた一人の忍者が遺した忍法だけだった。

 

 

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。それは記憶であり、記録だ。

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。それは真庭忍軍真庭狂犬の記憶であり、記録。

最後の血統真庭朱雀が思い出したもの。それは里の観察者とよばれたくのいちが見守り続けた、真庭忍軍の始まりから終わりまでの物語である。

 

 

そんな最後の血統真庭朱雀の話を聞いて、身もふたもないことを言うような人間が十三組の十三人(サーティーン・パーティー)、箱庭学園で秘密裏に行われている実験『フラスコ計画』の要である十三人の中に、いないわけじゃなかった。

 

「気のせいじゃねーの。妄想とかよー。もしくは中二病」

 

それを言っては話が終わってしまうというセリフを割とあっさり口にすることのできる人間。2年13組の名瀬夭歌。専攻は解剖と解体と改造で覆面の下からでも美人とわかる顔を包帯でぐるぐる巻きにし右目にはナイフを突き刺している明らかに異常(アブノーマル)な姿をした、検体名『黒い包帯(ブラックホワイト)』は腕を組みながら怠そうな目でそう言った。

 

「まあ、前世の記憶があるっていう症例がないわけじゃないけどよ。つーか、むっちゃあるんだけどさ。俺としてはあんまり人間の記憶なんて言うあいまいなもの信じちゃいないからさーあー。えーと、なんていうんだっけそういうの」

 

『黒い包帯』名瀬夭歌は人差し指を頭に当ててかわいらしく考えるしぐさをする。

 

「エピソード記憶だっけか?」

 

それっぽいだけでそれは違う。

 

「既知感とか?」

 

どこかで経験したことがあるという点では似ているが、違う。

 

「まあ、どうでもいいか」

 

ついにあきらめた黒い包帯名瀬夭歌は頭の後ろで手を組んで、最後の血統真庭朱雀の周りをぐるぐると円を描くように歩きながら言うのだった。

 

「けどよー、まにわにん。俺の研究に率先して協力してくれるアンタは、言うなりゃ古賀ちゃんの次に俺の実験動物(ともだち)してるわけだから、善意で教えてやるけどよー。記憶とか、記録とか、あるいは過去とか歴史とかー。そんなもんに意味はねえよ」

 

過去である歴史に意味などない。

そう断言する黒い包帯名瀬夭歌の言葉はある意味では核心をついていて、一つの物語を台無しにするくらいには正しかった。

そしてなにより、名を捨て家を捨て情を捨て姿を捨てた彼女の言葉だからこそ、過去に意味などないというその言葉は何より重かった。

 

「人間がよー、努力して変えられるのは今か未来だけなんだぜ?過去なんてタイムマシンでも発明されない限り触れもしねえんだよ。そんなもんに偏執してなんになるってんだよー。妄執するなんて馬鹿らしいだろー。だからよー、まにわにん。歴史とか先祖とか先人とか、いつもそれしか言わないアンタを俺はどうかと思うぜ」

 

そんな忠告のような言葉を受けての最後の血統真庭朱雀の返答はくっくっく。と忍びらしく嫌らしく、笑い声をこぼすことだった。

 

「名瀬よ。お前に言われるまでもなく、我は前をしかと見据えておるよ。ああ、我は確かに過去に重きを置き、真庭忍軍の歴史を重んじてはいるが、同時に今を見据え、未来を求めてもいる」

 

最後の血統真庭朱雀は決して、後ろ向きな人間ではない。むしろとても前向きだ。彼は彼にしかできないこと。真庭忍軍にとって何物にも代えることのできない使命を果たすため、常に前へと進み続けている。進み続けるための努力をしている。

彼が風紀委員会の仕事を後回しにしてまで十三組の十三人(サーティーン・パーティー)の十三組の十四番目(サーティーン・オバー)として黒い包帯名瀬夭歌の研究に協力しているのもそのためだ。

 

「へー、そうかよ。なら俺の忠告は余計なお世話だったってことかよ。うっわ、恥ずかしー。じゃあよー、まにわにんが今もしくは明日にやりたいことってなんなのさー」

 

「うむ、我の成すべきこと。我が身命を賭してやりきらねばならぬ使命。それは――」

 

と、そこまで語ったところでそれ以上を最後の血統真庭朱雀が口にすることはなかった。

代わりに、出るものはあった。それは時代錯誤だと同僚に言われようと最後の血統真庭朱雀が所持し続けていた苦無(くない)だった。黒くて無骨な実用性抜群の苦無が最後の血統真庭朱雀の口から、

 

『は。』

 

の発音の状態で開かれたその口から数十本。黒い包帯名瀬夭歌の方向に、正確には黒い包帯名瀬夭歌の背後に向けて放たれていた。

その様子を正面から見ていた黒い包帯名瀬夭歌は数秒、何が起こったのか理解することができずポカンと口を開けたまま硬直した後、なおも自分を、いや、自分の後ろを見据えている最後の血統真庭朱雀を見て状況を理解し、「ひええっ」なんて言いながら慌てて駆け出して最後の血統真庭朱雀の背中の後ろへと隠れた。

何が起こったのかも見ることができなかった彼女にできることはそれくらいしかなく、いや、たとえ見えていたとしても頭脳労働専門の森ガールを自称する彼女のことだ、同じ行動をとっただろう。

ともかくとしてそんな黒い包帯名瀬夭歌の行動は最後の血統真庭朱雀の望んだ行動と相違なく、結果として襲撃者と迎撃者の両者の思惑通りに二人は真正面から対峙することとなる。

 

 

 

-ありえない敵-

 

 

そこにいたのは忍ではなかった。その男が忍であるなんてことがあり得る筈がなかった。

なぜならば、最初から言っていることではあるがこの物語の主人公、真庭朱雀が最後なのだ。

この国が戦国。この世が乱世と呼ばれた時代。闇に生き、闇を纏い、闇と死んでいった者たち。

その最後の生き残り。この国が法治国家。この世が治世と呼ばれる時代。生き残っていた最後の血統(しのび)。それこそが真庭朱雀なのだ。だから。ありえないし。ありえない。ありえないのだ。

目の前にいる男が、忍者であることなど。真庭朱雀以外の忍者はこの時代には生きていない。

――(しかし、だから、と言って、我には目の前の男が忍以外には見えん)。

それが不忍の男を初めて見た時の真庭朱雀の感想だった。

 

「未見違(みちがえず)。気配を絶った私の気配に気づくとは、いまだその血脈は衰えていないようで結構なことだ。真庭忍軍の者どもよ」

 

洋服に身を包み、ご丁寧に『不忍(しのばず)』の仮面をつけた男は大して興味もなさそうな口調でそう言いながら不敵に笑った。

 

「・・・お前は、我を見て、真庭の血が衰えていないと?真庭の何を知っているかは知らんが、大した勘違いではないか。見ず知らずの誰かよ。戦乱を駆け抜けた先人らが、我程度の筈がないだろう」

 

「未違(たがわず)。私の言うことに誤りなどありはしない。なぜなら私は、戦乱をかけたころの真庭忍軍は所詮その程度だったと言っているのだから」

 

「・・お前、我はよい。だが、あろうことか彼らを侮辱するとは、よほど死にたいとみえる」

 

一触即発。出会った瞬間から、否、ずっと昔からそう決まっていたかのように対峙し今にも争わんとする二人を前に、止めようとする人がいなかったわけではなかった。

ただ、その影、黒い包帯名瀬夭歌は最後の血統真庭朱雀の背中に隠れ、その影からこっそりと問いかけるだけだった。

 

「なー、まにわにん。誰だよそいつ、知ってる顔みたいじゃん。友達なら紹介しろよ」

 

「この見ず知らずの誰かが誰かなど知らん。否、知りはしないが覚えてはいる。だが、そんなはずがないのだ。あの男が生きているはずがないのだから」

 

そう、生きているはずがない。見ず知らずの誰かの風貌に、確かに最後の血統真庭朱雀は覚えがある。

だがしかし、それは最後の血統真庭朱雀という人間の記憶の中ではなく、真庭狂犬と呼ばれた一人のくのいちの記録の中での話だ。何百年もの昔の話だ。すでに終わってしまった物語の話だ。

目の前の男の風貌と合致する特徴を持つ、不忍の忍は何百年も前に死んでいる。

真庭の里の先人たちがそうであったように、歴史の闇に消えている。そのはずだ。

 

そして、なにより、何かの間違えがあり数百年前に死んだはずの男が実は生きていたとしても、この男が不忍の忍であるはずがない。本当に不忍の忍だというのなら、男には戦う理由がないはずだ。こうして最後の血統である自分と対峙する理由がないはずだと、最後の血統真庭朱雀は断言する。

記憶と記録の中にある男は、ただ一人の女のためにだけ、戦う者であったのだから。

たとえ自分が生きていたとしても、女が生きていないのなら死んでいるも同然なのだから。

 

「なあ、まにわにん。俺は今からすっげー普通(ノーマル)なこと言うけどさ、覚えてるんなら当人なんじゃねーの?」

 

「たとえ、目の前の男が我の覚えている男だったとしても、やはり違う。我の覚えている男は女に生かされ、女のために生き、女のために死んだことを悔いて死んでいった。そういう誇り高き男だった。あの女以外の為に生きるなど、たとえ両腕を切り落とされたところでしない男だ」

 

あの男はそういう忍だった――と。真庭朱雀はそう言った。

 

「・・・あっそ、そりゃすっげーや。抱っかれてー。愛されてー。じゃあ、アイツは一体何なんだよ」

 

「さあ、そんなものは当人に聞けばいいだろう。なあ、見ず知らずの誰かよ。お前は一体、何者だ?」

 

その問いに対しての不忍の男の返答は

 

「ふっ」

 

薄く笑うことだった。

 

「不答(こたえず)。お前のその問いに私が答える義理はない。こうしてお前と一度でもまみえられたことで、私の目的はすでに程達成されたといっていい。ゆえに、これ以上長居は無用だ」

 

不忍の男はそういうと、仮面の下からまっすぐと最後の血統真庭朱雀を見据えながらゆっくりと一歩ずつ後ろへと下がっていく。最後の血統真庭朱雀は動けなかった。

 

「それと、真庭忍軍の者どもよ。最後にいいことを教えてやろう。私だけではない」

 

「・・・どういう意味だ」

 

そう聞いた自分の質問に帰ってきた答えを聞いて、最後の血統真庭朱雀はすぐに後悔することとなる。

 

「そのままの意味だ。お前が言うところの、この時代にいる筈もない者は私以外にあと12人いる。そしてそのほとんどがお前の言うところの及ぶ筈もない先人たちだ。それがあと、12人。お前は一体どうするのか、もしくはなんと言って死んでいくのか・・・興味はある。が、そんな思いを私はあえて否定しよう。あの御方がそうしたように」

 

「ま、待て!先人とは、どういう意味だ!!」

 

「不答(こたえず)」

 

そんな最後の血統真庭朱雀としては珍しく、慌てた様子で発せられた言葉を置き去りに、不忍の男は登場した時と同じように唐突に、そして静かに物語の舞台から消えていった。

 

残されたものの内の1人、黒い包帯名瀬夭歌は最後の血統真庭朱雀に尋ねた。

 

「なー、まにわにん。これからどうするよ」

 

「どうするも、なかろう。あの男が何者であれ、我に友好的ではないことは確かなようだぞ。降りかかる火の粉は払わねばならないだろうよ」

 

「うへぇ、けどよお、あんなのがあと12人も居るらしいぜ?一人で何とかなるもんなのかねー。一人じゃ無理じゃないかなー。誰かの力を借りるべきだと思うなー」

 

「うむ、そう急かさずともわかっている。名瀬よ。13人いるという正体不明の敵。そして統括であるお前を除いた我ら13組の13人(サーティーン・パーティー)もまた、13人。まるでそうなるように仕組まれているかのような合致ではないか」

 

「うい。じゃあ、俺様ちゃんたちの愉快な仲間たちに連絡入れとくぜ。・・・高千穂さんとか宗像さんはいいとして、都城さんや裏の六人(プラス6)の連中はどう言いくるめて動かすかねー」

 

そういって携帯端末を弄り始めた黒い包帯名瀬夭歌をしり目に、最後の血統真庭朱雀は思うのだ。

 

あの男。あの不忍の男だけは、きっと自分の手で撃つことになるのだろうと。

 

 

 

 

そしてそんな予測が全くの的外れであったことを最後の血脈真庭朱雀が知ることになるのはもう少しだけ後になってのことである。

 

「ところでよ。まにわにん。あいつ、おかしな勘違いしてたよなー。俺が真庭忍軍とか。ありえないでしょ」

 

「ああ、まったくだ。名瀬が真庭忍者などであるはずがないだろうに」

 

 




今更ながらに謝罪をします。
この物語はめだかボックスだけではなくめだかボックスの原作者である西尾先生の別作品『刀語』『真庭語』を知らないとちょくちょく出てくるキャラがどんなキャラなのかがわかりません。

たとえば『不忍の男』。『刀語』を知っている人なら言うまでもなくわかるキャラなのですが、知らない人は知らないはず。
なのでそういう場合は遠い昔の時代を生きた正体不明のすごい人と思っていてください。

わかりにくくて本当に申し訳ありません。
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