俺の青春ラブコメがifってる。   作:リキミ

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依頼から始まるif

三浦 優美子が葉山 隼人に告白して振られたらしい。

文化祭を終えてすぐにその噂は俺の耳に届いた。

色々とあった文化祭の最後にそんなイベントが起きていたことに僅かばかりの驚きと、その告白の結果に納得する。

知り合い程度の間柄の人物の恋愛事は俺からすれば対岸の出来事でしかない。

文化祭というイベントで燃え上がってしまったのだろう。

バンド、後夜祭と盛り上がる要素には困らない。

それに元々誰の目から見ても三浦の気持ちは分かりやすく、葉山もそれに気づいている上での付き合いだった。

いつかは必ず起きたイベントが起きたというだけの話だ。

惜しむべくは三浦は立てるべきフラグをたてずにエンディングを求めてしまったということ。

対岸で起きた出来事をそう結論づけ、手にしている小説へと意識を向けようとした時奉仕部のドアが叩かれる。

先ほどまで三浦のことを雪の下に相談していた由比ヶ浜が、来たと呟く。

雪ノ下が仕方がないと額に手をやり、俺は帰りたいとステルスヒッキーを発動させるのであった。

 

 

獄炎の女王様の相談事は唯一つ。

振られても好きなので友達でいたいということ。

ようは自分の行動で起きてしまった波紋の影響を最小限に留めたいとのこと。

元通りには出来ないことは理解しているようだった。

告白のことを思い出して半泣きになっている三浦を慰めながら由比ヶ浜がすがるように雪ノ下をみる。

 

「……困ったわね」

 

雪ノ下が短くそう呟き、貴方はどうと俺に視線を向けてくる。

ステルスヒッキーを発動中なのでやめていただきたいとその視線から逃げ、子犬の視線で俺を見つめる由比ヶ浜の視線に捕まる。

 

「ヒッキー…」

 

やめていただけませんかね。

三浦もじんわりと涙の浮かべた瞳で俺を見てくる。

三者三様の瞳は俺に逃げることを許してくれず、俺は思考を巡らせる。

文化祭の出来事で校内一の嫌われ者になった俺に何を求めるというのか。

だがそれでも、何かしらの答えを提示しなければ逃げれはしないのだろう。

 

「あー、由比ヶ浜。三浦の件はまだ噂なんだな」

「……うん。文化祭明けから、ちょっと…変だなってなって」

 

ちらりと三浦に視線を向けて言葉を濁す由比ヶ浜。

状況が噂を生み、噂が真実であってしまった。

真実が吐露された訳ではないというところに今回の活路はありそうだ。

 

「なら、噂にとどめてしてしまえばいい」

「どういうことヒッキー?」

 

今から俺が提示しようとしている方法は三浦にとって身を切るよりも辛いことなのかもしれない。

それを現時点で理解しているかは別にして、いや考えないようにして最も効率的な方法を提示する。

 

「三浦は葉山に告白なんてしていない。振られてもいない。そもそも好きでもなんでもない。仲の良い男友達だ。お互いに仲の良い友達という所にそういう噂が立ってしまってちょっと気まずいという噂でも流せばいい。今の三浦達の気まずい状況は当事者の気持ちと部外者の憶測によって生じている。なら、まずは部外者の憶測を排除すればいい」

「答えを用意するというわけね」

「そうだ。部外者が感じている違和感にこちらに都合のいい答えを用意してやればいい。そうすれば後は当事者同士の問題だ」

 

周りを黙らせ、問題を自己の範疇内にすれば後は当人次第だ。

 

「三浦。葉山と何もなかったようにふるまえるか」

 

その問いは、文化祭の後、勇気を振り絞り、想いを言葉にのせたという事実をなかったコトにできるかという問いと同義であった。

好きという大切な思いを、踏みにじれるかということだ。

綺麗だったものを臭いものとして蓋を被せれるかということだ。

そのことを伏せたまま三浦に都合のいい建前を並べて頷かせようとしている。

唐突に、それはかつて自分がされたこととどこが違うのだろうかという問いが生じた。

好きな人に告白し、次の日その事実が書かれた黒板を目にした時の気持ちが蘇る。

瞬時に思考を繰り返す。

事実を並び立て、目標を定め、道筋を思考する上で、当人の気持ちを加味する。

 

「あーしは……」

「だが、そんなことは無理だ」

 

三浦の言葉にかぶせるようにして言葉を紡ぐ。

雪ノ下と由比ヶ浜が驚いたように俺を見る。

自分自身でも咄嗟に出た否定の言葉に驚きながらも、何かに促されるように言葉を紡ぐ。

 

「周りの雑音は消してやる。だから……」

 

すとん、とかつての自分が枠に収まったような気がした。

あの時感じた惨めさが意味を持ったように感じた。

 

「もう一回、頑張れるか?」

 

解はでている。ならば、もう一度問いなおすしかない。

雪ノ下との会話が脳裏に蘇る。

うまくいくかはわからない。

三浦にとって最悪の結果しか生み出さないのかもしれない。

だが今必要なのは誰かに与えられた答えではなく、自分が納得できる答えだ。

そしてその答えが出せるのは周りではなく、当事者しかいないのだ。

 

「今思っていることを葉山に伝えられるか」

 

しばらく無言の時が流れた後に三浦が短く頷いた。

息が漏れる。それが安堵によるものかはわからない。

ふと視界に雪ノ下と由比ヶ浜の顔が入る。

顔を真赤にして俺を眺める様子に、冷静な思考が戻ってくる。

 

 

……俺は何を語っているんだ。

 

 

恥ずかしさがここにきてせり上がってくる。

何かをしゃべろうとして、でもそれは言葉に出来ない。

 

「……比企谷、ありがと。あーし、隼人ともう一回話してみる」

「お、おう。ま、まぁあれだ。うん。まぁ、頑張ってくれ」

「なんだし、それ」

 

くすり、と三浦が笑う。

それは思わず見惚れるほどに綺麗な微笑みだった。

 

 

 

二日後、そこにはいつもどおりの上位カーストグループの姿が。

というわけにもいかず幾分のぎこちなさを残しながらも機能している上位カーストのグループがそこにはあった。

あの後、三浦と葉山の間でどんなやりとりがあったのかは知らないし、興味が無い。

雪ノ下からはご苦労様という言葉。

由比ヶ浜からはありがとうという言葉。

俺としては忘れてくれというお願い。

トラウマが刺激されて出さなくてもいい部分が表に出てしまった。

あるよね。やっちゃった後に激しく後悔して思わず転げまわっちゃうアレ。

昼休みにいつもの定位置で天使の舞を眺めながら、思い出したくない恥ずかしい過去を振り払う。

苦味が走る過去をマッ缶の甘さで中和する。

自分とは今後関わることがない、というよりも関わりたくない上位さんの事は忘れて目の保養に努めよう。

放課後には毒舌コミュニケーションが待っていることだし、ここで心の余裕を蓄えなければならない。

 

「……こんなとこにいたし」

「は?」

 

後ろから声がしたかと思えば獄炎の女王様がそこには立っていた。

女王様はそのまま俺の横に座ると何を喋るでもなく黙っている。

やめてよ。ボッチの横で無言は勘弁してよ。

なんか喋らなくちゃいけないと焦ってまたトラウマを刻んじゃうだろうが。

 

「……この前は、ありがと」

 

ぼそりと、三浦が呟く。

囁くように呟かれたその言葉に、黒板の前で立ち尽くしていた自分が喜ぶのを感じた。

だが、あの放課後の時も、今も、俺は三浦に御礼を言われるようなことをしたわけじゃない。

三浦に投げかけた言葉は、そっくりあの時の自分が投げかけて欲しかった言葉だ。

あの時、周りの雑音をかき消してくれる存在などいなかった。

再度彼女と話す機会など持ちたくはなかった。

けれど、それでも、あの時の自分は、自分が好きになった女の子とちゃんと話がしたかった。

告白を馬鹿にされるのではなく、告白を意味あるものにして欲しかった。

 

「ま、依頼だしな。礼なら依頼を受けると決めた雪ノ下か、お前を心配してた由比ヶ浜にしてやってくれ」

 

結論として、俺は三浦を通して過去の自分に納得したかっただけなのかもしれない。

 

「あーしは、あんたに御礼が言いたいんだし。それにユイにも、雪ノ下さんにも御礼はしたし」

 

なにこの娘、いい娘じゃない。

海老名さんへの接し方とかを見てるとなんかオカンっぽいなと思っていたが、本当に良い奴じゃないか。

そりゃ上位カーストに君臨するわ。

 

「携帯」

「……何?」

「連絡先教えろし」

「……やだよ。何に利用する気?」

「いいから。携帯。あんたいっつも一人だし、あーしがたまに連絡してやるし」

「いや、いいから。そういうのいいから」

「……ん!」

 

いや、ん!って言われても。

このまま出さずにいると獄炎パンチが飛んでくるかもしれない。

はぁ、と溜息をついて三浦に携帯を差し出す。

三浦も俺の相手を一々するほどヒマじゃないだろう。

登録して、そのまま連絡をせずに、最終的に久々に連絡するのもちょっと気まずくて結局しないパターンに落ち着くはずだ。

後日、俺のそんなささやかな願いは、三浦のオカン力の前になんの意味もなさないことを思い知るのであった。

 

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