俺の青春ラブコメがifってる。   作:リキミ

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俺の修学旅行がifってる。

修学旅行を数日に控えたある日、俺は意外な人物に声をかけられた。

スポーツ万能、成績優秀のリア充王 葉山 隼人である。

葉山との接点はほぼない。

互いにぼっちとリア充であり、日常において互いに視界に入る程度の間柄だ。

 

「ちょっと、話があるんだけど、いいかな」

「……あー、ちょっとアレだから無理だわ」

 

俺の厄介事センサーがビンビンに作動しており、なおかつ視界の隅で海老名さんが輝かしい程の笑顔を浮かべている。ついでに言えば、毎日のようにラインを送ってくる獄炎の女王様も怖い目で俺を見ている。

なに。ラインの途中で寝たことをまだ怒ってるの。今朝謝りましたよね。

 

「この後って、部活だろ? ほんのすこしだけでいいんだ」

 

下手な言い訳では逃さないとばかりに葉山は視線を逸らさない。

仕方なしに俺はこちらを伺っている由比ヶ浜に部活に遅れる旨を伝えると葉山に向き直る。

張り付いた様な笑顔を浮かべる葉山の顔に、どこぞの毒舌姫の姉である魔王様が少々かぶる。

 

「教室でもなんだし、少し場所を変えようか」

「喋るのはお前だ。好きにしてくれ」

 

人通りの少ない場所へと二人で移動する。

状況が状況であれば海老名さんが喜びそうな状況だ。

想像するだけで、いや想像すらしたくない。

 

「で、なんだよ」

「……君個人に、依頼をしたいんだ」

 

思いつめた顔で葉山が語った依頼内容はどうしようもないものだった。

修学旅行で戸部が海老名さんに告白しようとするのを止めるのを手伝って欲しい。

それは葉山だけの望みでなく、当事者の片割れである海老名さんの望みでもある。

二人に共通しているのは、居心地のいい今を守りたいということ。

頭が痛くなる。

 

「それをなんで俺に依頼するんだよ」

「俺の方でも何度か戸部を説得してみてはいるんだ。だけど、戸部の決意はかたくて」

 

そこまで話して、葉山はまっすぐに俺を見る。

 

「君なら、君ならなんとか出来るんじゃないかと思ったんだ」

「……無理だ。何を持って俺を評価しているかは知らないが、その依頼は受けれない」

「どうしても、か」

「仮に俺がその依頼を受けたとしても、戸部はどうなる」

 

戸部のことを俺はよく知らない。

葉山グループの騒々しい担当という認識しかない。

だから戸部のことを思っての言葉ではない。

 

「時期じゃないんだ。姫菜も今が楽しくて、今を変えたくないって言ってる。それは俺も同じで。このまま戸部が告白しても、戸部が辛い目にあうだけだ」

 

告白し、振られたとなれば三浦の時同様にこれまでと同じようには出来ない。

そうなった場合の状況が脳裏によぎる。

グループのリーダーである葉山と、当事者である海老名さんが結託している以上、戸部に待っているのは。

ずきりと痛みが走る。

まただ。やっと過去にしたはずなのに。やっと俯瞰出来るようになったというのに。

俺のことではないけれど、俺とは別の対岸の出来事であるけれど、あの惨めさをもう一度見るのは嫌だ。

 

「……分かった。依頼を受けよう」

「ヒキタニ」

「だが、俺のやり方に口出しするのはなしだ。俺に依頼した以上、俺のやり方に従ってもらう」

「……ああ、それでいい。それで十分だよ。ありがとう、ヒキタニ」

 

そういって笑ってみせた葉山の顔はやはり魔王様と被り、そして魔王様と比べるもなく気味が悪く見えたのだった。

 

 

 

 

葉山との一件の後、奉仕部に遅れて参加し、いつものように由比ヶ浜のやはっろー挨拶と雪ノ下との毒舌コミュニケーションを終えた俺に待っていたのは事態は別方向でも動いていたとの情報だった。

詳しく話を聞くと戸部からの依頼と、海老名さん来襲が俺のいない間にあったらしい。

戸部からの依頼はいわずもがな海老名さんへの告白の手助け。

海老名さん来襲に関しては、愚腐腐トーク。

恋愛事の相談ということで由比ヶ浜は瞳を輝かせており、雪ノ下は乗り気ではないのを由比ヶ浜に押し切られていた。

葉山とのことは由比ヶ浜、雪ノ下には報告していない。

葉山からの依頼が俺個人への依頼だったということ。

後は冗談でも、真意からでも、なぜ葉山の依頼を受けたのかと聞かれたくなかったこと。

はぁ、と溜息が漏れる。

 

「お兄ちゃん。唯でさえ暗いんだから、溜息なんかついたらもっと暗くなるよ」

「うるさいですよ小町ちゃん。それに俺は暗くない。世界が俺に対して明るすぎるんだ」

「また屁理屈を言って」

 

思考を巡らせる。

目標は葉山達の関係性の現状維持。

手段はなんとかして戸部の告白を阻止する。

いや、阻止するだけではダメだ。今は告白するタイミングではないということを戸部に納得させる。

ではどうやって。

実のところ、葉山との会話の後に1つの手段は浮かんでいる。

問題を解決ではなく、解消する手段。

戸部に海老名さんへの告白を擬似体験させてやればいい。

誰かが戸部の役割を担い、戸部に変わって海老名さんの心境を受け止めるのだ。

そこまで思考を進めると、脳裏にあの黒板が浮かんでくる。

立ち尽くすしかなかった過去の俺が叫んでくる。

そうではない、と。

その手段を取れば雪ノ下は怒るだろうか。由比ヶ浜は悲しむだろうか。

人の気持なんて分からない。感情なんて理解できない。

推測し、間違えて、そしてまた俺は。

ダメだ。思考を切り替えよう。

平塚先生あたりならばまだ慌てるような時間じゃないと言うだろうか。

その想像がなかなかに的を得ていて笑ってしまう。

考えるんだ。

俺に出来る事はそれしかない。

依頼として引き受けた以上、それしか出来る事がないのであれば、考えぬくしかない。

そう、糖分補給のためにこの前買ってきたプリンでも食べながら。

 

「………小町ちゃん。お兄ちゃんのプリンがないんだけど、知らない?」

「……てへ」

 

くそ。可愛いじゃないか。

 

 

 

 

そして我らが比企谷 八幡は皆が笑顔でハッピーエンドを迎える画期的手段を。

 

「思いつくわけがない」

 

修学旅行当日。

京都へと向かう新幹線に揺られながら、はぁと葉山からの依頼を受けてから何度目になるのかも分からないため息をつく。

葉山からはどう動くかということを聞かれたので、とりあえずそれとなく戸部と海老名さんがそういう感じになるのを阻止するように伝えている。

ちらりと視線を向ければ海老名さんはある意味わざとらしいほどに川崎に話しかけていた。

戸部は由比ヶ浜の報告通りであれば川崎に萎縮しているのだろう。

 

「八幡。何か考え事?」

「ん? いや、特になにも考えてなかった。そう見えたか、戸塚」

「ちょっとね」

 

そう言って戸塚が控えめに笑う。

なにこの子。いや、この娘。天使なの。

 

「何か悩んでるなら、相談してね。力に慣れるかもしれないし」

「まぁ、その時が来たらな。逆に戸塚の相談はいつでもウェルカムだから。相談なくてもいいレベルだからな」

「なにそれ。変な八幡」

 

くすり、と戸塚が笑う。可愛い。

葉山の件は煮詰まってきたので、気分転換に戸塚の可愛さを考える。

これは人類の可愛さではない。天上の可愛さだ。戸塚は天使ってはっきりわかんだね。

これで生物学上も女であれば、俺は間違いなく惚れている。

だってこんな可愛い娘が、八幡って微笑んでくれるのだから。

だれだって惚れる。俺だって惚れる。

だが男でありながら、いや性別戸塚でありながらのこの可愛いさ。

休み時間によく女性陣の和に捕まっているが、その状況の違和感の無さ。

俺が逆の立場であれば、登校拒否をしているかもしれん。

まぁ、俺だったらと考えることには何の意味もないけれど。

だがその想像は思った以上にダメージがでかく、

 

「戸塚。今度、男同士で遊びに行くか」

「え、いいの」

 

殊更男同士を強調した形で戸塚に遊びの誘いを行っていた。

戸塚はきゅっと俺の制服の裾を掴むと、嬉しそうに微笑む。

この笑顔だけで誘ってよかったと思える。

じゃあ、と遊びの予定を嬉しそうに話し始める戸塚を眺めながら、思考を葉山の依頼から切り離していく。

俺にも修学旅行を俺なりに楽しむ権利はあるのだ。

 

京都散策の間中、戸部と海老名さんとの仲をそれとなく妨害するのは葉山の役目だ。

俺としては由比ヶ浜に協力するふりをしながら、由比ヶ浜の戸部達へのアシストを妨害する。

といっても俺に関していえば特に何かをする必要もなかった。

そもそもからして戸部の想い人である海老名さんがこちらの協力者なのだ。

結論をどう導くかという手段はまだ決まっていない。

だが、物事の進行に関しては特に問題がない。

問題がないというのに、何かが引っかかる。

葉山との短い情報交換を終え、とりあえずは現状の行動をそのままということにした。

今打っている手に問題はない。

なら俺は何に引っかかっている。

 

「ヒキオ」

「ん?」

「何一人でぼーとしてるし。ほら、いくよ」

 

由比ヶ浜と付かず離れずの距離を保っているとどうやら女王様に自分のグループと認識されたようだ。

 

「ん、悪い」

「ぼーとしすぎだし。何、夜更かしでもした?」

「楽しみすぎて寝れないとかないから」

 

三浦に促されて、葉山のグループへと足を向ける。

由比ヶ浜がこちらを気にするように視線を向けてきたので、じっと見つめてやる。

そして追いついた所で話しかける。

 

「どした?」

「別になんでもないし」

「そか」

「そうだし」

 

会話の話題を変えるように、由比ヶ浜が口を開く。

 

「そう言えば、ヒッキー。隼人君と仲良くなったんだね」

「は? なにそれ」

「だって、修学旅行中よく二人で話してるじゃん」

「あー、そうだよね。あーしも、ちょっと気になってたし。隼人とヒキオって普段絡みないよね」

「……ほら、葉山は良い奴だからな。ボッチの俺にも話しかけてくれるんだよ。別に仲がいいわけじゃない」

 

言葉に出さずに付け加える。

それに、文化祭での屋上の一幕もあるしな、と。

そう思考の中で呟いて、唐突に枠がハマった。

違和感の正体がはじき出された。

思わず足が止まる。

あの野郎。

 

「ちょ、いきなりどうしたのヒッキー」

「……いや、なんでもない。ちょっとつかれただけだ」

「ヒッキー体力なさすぎだし!」

 

湧き上がる怒りを今は飲み込んで、由比ヶ浜に軽口を投げる。

あいつと話す機会など、今この状況においてはいくらでもあるから。

俺から接触しなくても、向こうからやってくることは分かっているから。




原作は偉大。リハビリがてらに久々に小説を書くと筆がススムススム。
ifってるは、読者様が原作・アニメ2期を読破・視聴済前提で書き進めております。
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