クリスマスイブの日に絶望を味わった人はどれくらいいるのだろうか。聖なる日なのにその状況を味わうことがないままその日を迎える。周りの人々が羨ましくて、そして妬ましく見えてしまう。とりあえずカップルは街でイチャイチャするなとかそういう話だと思った人は違う。そういう絶望ではない。誰かに裏切られて、一人きりになってしまったりすることだ。そうなってしまうと他人繋がりとかはどうでもよくなってしまう。
悲しくて、苦しくて、泣きそうになってしまうのだ。それでも涙が出ないのはきっとこうなることが分かっていたからだろう。あの人達は平気で僕を切り捨てる事が出来るのに、それでも僕は信じたかったのだ。人は変わる事が出来ると。
いや、そんな綺麗な事なんてちっとも思ってなんかいない。僕は嘘をつきたくなかったのだ。過去に人は変われると彼女に言い聞かせた事を。やっぱり正しかったのは彼女で、間違っていたのは僕だったという話なだけだ。
(これから一体どうなるんだろう……)
いっそ死んでしまえばいいなんて考えが頭によぎった。僕には生きる価値がないのではないかと、そう思ってしまう。あの日から、僕の人生は狂ってしまった。いや、元に戻ってしまった。あの日々はきっとイレギュラーだったのだろう。灰色どころか無色といっていいくらいな僕の人生の中で、それこそ硝子よりも透き通っていたあの時。
今でも後悔をしてしまう。僕が侵してしまった過ちの事を。あんな事をしなければ僕は今も彼女と共に、彼女の隣で歩いていたのではないかと。こんな苦行のような人生を歩まなかったのではないかと。幸せな人生があったんじゃないかと。そんな世迷い事を考えていた。過去を変えるなんて人を変える何倍難しいのだろう。考えたって無駄な事を僕はバカみたい考えていた。もしもなんて絶対に存在しないのに。でも、でももしも彼女がここにいたら、僕に向かって何を言ってくれるのだろうか。雪が降る公園でベンチに佇んでいる僕にどう接してくれるのだろう。
「なんてね。そんなのよりもこの紙をどうにかする方が大切だっての」
なんやかんやあって親から押し付けられた借用書をもう一度覗いてみる。ひょっとしたら見間違いかもしれないからだ。
156,804,000
何回読んでもこの数字。一億なんて庶民には使う方が難しいだろう。なんていうか逆に凄いよ。
なんて思っても状況が変わらない訳で、一億五千万もの大金をどう稼げばいいのかも分からない。
一攫千金を狙える博打をやろうにも財布の中には12円。宝クジという夢すらも買えない少量の額。それこそ誰かを誘拐して身代金を要求するくらいしか思いつかない。だけど、そんな都合良くいるのだろうか。金持ちの人間がこんな辺鄙な場所に。
「寒い……」
雪が降っている公園にいるわけがない。
「自販機の下に一億円とか落ちていないかなー…」
せめて百円でも落ちていたら缶コーヒーが飲める。心身共に冷え切っているが身体だけでも温もりが欲しい。
「本当にどうしてこうなっちゃったかな……」
過去なんて振り返るものじゃないと結論付けたのにそれでも僕は考えてしまう。
結局、自販機の下には一億円どころか百円もなかった。体温が下がれば考えることが困難になってしまい、楽な思考しか出来なくなる。そうしたらネガティブな事しか思うことがないわけで。
とりあえず僕の命日が今日だということだけが判明した。五体満足のまま凍死するか、体中のありとあらゆる器官を抜かれて死ぬか。その二択だ。
それだったら前者の方がマシだろう。一人淋しくここで朽ち果てた方がいい。そう考えると楽になってきた。僕の体から力が抜けていき、雪の中に倒れ込む。
冷たい。うつ伏せで寝ているせいか冷たい。下に積もる雪から、上から降る雪から、サンドされていく。
報いだ。罪に対する償いだ。そう思っていくとなおさら生への執着心が消えていく。
(来世では幸せになろう。今よりもずっとひたむきに真面目に生きて、それで最後は笑ってやるんだ。僕は幸せだったって)
力が抜けていく。体の感覚も消えてきた。僕が行くのは天国だろうか、地獄だろうか、ってそんなの考えるまでもないか。
不意に足音が聞こえた。なんせ地面には雪が積もっているのだ。見なくたって音が聞こえる。
きっと歩いている人は僕を見て笑っているのだろう。そりゃそうだ。惨めな人を笑わない人間はいない。下の人間は虐げられる運命だ。
音が近づいてくる。それもぼくの方に向かって。そんなに笑いたいか。近くに来て見下したいか。まあ、でも僕の最後にはお似合いだ。嘲笑を子守唄にしてあの世へと旅立つのだ。
僕のすぐそばで音が無くなった。さあ、笑えよ。盛大に笑ってくれ。
「ダメよ、こんな所で倒れていては。コートを羽織っていたからといって死んでしまうわ」
うるさいほっといてくれ。僕の勝手じゃないか。ここで死んだって親が借金を返せなくて困るだけなんだ。だから、
「死にたいんだ」
もう疲れたんだ。眠らせてくれ。
「心が折れて立ち上がれないのね。だけどあなたの体は動かなくなったわけではないわ。だから、早くお立ちなさい」
勝手な事を。突然こんな場所に現れて説教か。暇人なのだろうか。
「誰だか知らないけどほっといてよ……。僕にも事情があるんだ。君は何も知らないのに」
彼女は少し黙ってそして優しい声を発した。
「だけど、あなたの心がずっと言っているのよ。『助けて』って、ずっと叫んでいるの」
遠い昔、何処かで聞いたことのあるセリフだった。
「だから、立ちなさい。最後の勇気を振り絞って、自分の足で立ちなさい」
思わす顔を上げる。目の前には白い手が差し伸べられていた。
「一人じゃ無理と言うのであれば、左手ぐらいなら私が貸してあげますから……」
躊躇することなくその手を取った。迷う理由なんてありやしない。僕はそのまま立ち上がり、そして彼女を抱きしめた。
「ゴメンね……。本当にゴメンね…」
「いつまでたっても鈍いのね。そんな言葉じゃ女の子はトキメキませんよ? こう言う時は」
「「ありがとう」」
声が重なる。ただそれだけの事が嬉しくて、彼女と会えた事が嬉しくて、だけどちょっぴり後ろめたくて悲しくて、僕は泣いていた。
「しばらく見ないうちに大きくなったわねハヤテ」
「……うん」
「けど泣き虫な所は変わらないんだから…」
「……うん」
「しょうがないわね。私がついてあげないと本当にダメなんだから…」
彼女の温もりを感じながら、彼女の優しい声を聞きながら、僕はそのまま目を瞑った。凍死寸前だった身体を無理して動かしたのだ。眠ってしまったて文句は言えない。
僕とアーたんの運命とも言える再開は、なんとも締まらない物になってしまったのだった。
久々にハヤテのごとくを読んでいたら(アテネ編まで)衝動的に書いてしまいました。
正直、ある種テンプレートの様な始まり方なのに全くプロットが出来ていないのが辛いです。
一週間後投稿するつもりですが、書き溜めとかも特にないので期待せず見守って下さい。