夢を見ていた。
その夢の中では僕たちはまだ幼くて、現実なんて見ていなかった。
いや、彼女は現実を知っていたかもしれないけど、僕は知らなかった。
ずっと黄金の毎日が続くと思っていた。
だけど、永遠なんて言葉なんてなくて。
刹那に過ぎて行く栄光の日々を感じる暇もなくて。
全てが終わってしまった。
夢を見ていた。全てが終わってしまう前の、幸せな時代な頃の、輝きに満ち溢れていた夢を。
「ここは……?」
目が覚めて真っ先に思った事は、ここはどこだろうということだ。その次は高級そうな場所だなと。そして最後は、
「僕は死んだんだな……」
僕には勿体無い程のベット。勿体無い程の家具達。そして暖房ではなく時代を感じさせるような暖炉。
「地獄に落ちると思ったけど良かったー。天国みたいだ」
真面目に生きてて初めて得をした気がした。死んだ後に思うっていうのは皮肉以外のなにものでもないけど。
それにしても神様がいたら一回お礼を言いたい。
死ぬ直前に見た幻は今でも鮮明に脳内に焼き付いている。初恋の人の成長した姿を走馬灯変わりに見せてくれたんだから。どうせなら生きている時に助けてくれればいいんだけど、そんな昔のことはどうでもいい。
「というかどうすればいいんだ?」
急にこんな場所に投げ出されたって困る。僕は動いていいのだろうか。動かなければならないのだろうか。
「ずっとじっとしてればいいんだよ」
「……え」
部屋を凍らす一声。今までの幸せな気持ちが消えていく。強烈な殺気を含んでいたからだ。
頭で何かを考える前に、体が動いた。
轟音が響く。その発生源はすぐ目の前だ。何処からかやって来た人物が放った拳を僕が手の平で受け止めたのだ。
「…いきなり何をするんですか!?」
「答える義理はない」
男は今度は右脚を僕の頭を目掛けて降った。横になっていた体をベットを叩いて強引に起こし、その力を利用して後ろに宙返りをする。その最中に一筋の風が髪を掠める。直撃していたら頭蓋骨が砕けるんじゃないかというくらいの威力だった。その恐怖心を表に出すことなく僕は地面へと降り立った。
「何で突然襲い掛かってくるんですか!?」
もう一度確認。しかし、いや案の定答えは帰ってこなかった。その代わりにというわけではないが、右のストレートが僕にプレゼントされる。
攻撃してくると予感していたのと、ストレートの性質上、軌道が予想出来たので僕は首を少し動かすだけで回避しようとする。その動きをしつつもカウンターを狙い右手を突き出した 。相手は僕のカウンターを読んでいたのか途中で殴るのを辞めて僕のパンチを後ろへ下がることによって交わした。
とても人間とは思えない動きだった。今の一連の動きは格ゲーでも再現するのは難しいだろう。そんな異常な動きの速さだ。
そして気づいた。人間じゃないのだ。そうだ、彼は天使なんだ!
そう考えると納得がいく。突然襲い掛かるのも試練なのだろう。僕が本当に天国に住むに値するかどうかを試しているのだ。
説明が無かったのも試験の内容自体をテストしたかったからだ。これを試練だと考えさせるのが試練だったのだ。
知と力を試す。何て素晴らしい試験なんだ。
そうとなったら、
「何で貴方が僕を襲うか分かりましたよ」
「そうか……。だったら死んでく「だから全力で貴方に打ち勝ちます!」
「え……?」
「僕は幸せを勝ち取るんです! 生きていた頃に得れなかった分まで!!」
僕の言っている事が図星なのか相手の顔が強張っていた。何故かクエスチョンマークを頭の上に浮かべていたけどこんな短時間で見極めた事を不思議に思っているに違いない。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「な、何かよく分からないけどそっちから死にに来るなんて好都合だぜぇ!!」
ノーガードでお互いの顔を全く同じタイミングで殴った。本来だったら駆け引きなどをして自分の体を痛めつけないようにして戦うのだが今回は違う。全力全開で行かなければ勝てない相手だ。自分の体を庇っているようでは話にならない。捨て身で、愚直に突っ込んでいく。
今、この瞬間だけは止まる事など許されない。殴られてもよろけないで別の手でまた殴る。
今度も相打ちだ。ダメージが抜ききっていないのか男は体制を崩した。その隙を逃すわけはなく、追い打ちにかかる。
「いっけええええええええええっ!!!」
それが相手の罠だった事に気がついたのはパンチを空振りした後だった。
僕は気がついたら仰向けになって倒れ込んでいた。客観的に見えないから確信を持って言えないけど、綺麗にカウンターを貰ったのだろう。咄嗟に衝撃をずらさなかったら僕は気を失っていただろう。だけど今の僕は意識があるだけで、主観的にも客観的にも僕は試験に負けていた。
結局の所、彼は全てを読んでいたのだ。自分の力を見せつけて、捨て身にさせて、そして隙を見せた後にカウンター。お手本のような戦術だ。ぐうの音も出ない。
やっぱり僕は天国なんて幸せの結晶のような場所なんて似合わないのだ。地獄でやっていく方が性に合ってるのかもしれない。
「だけど嫌だね……」
負けたっていい。最終的に勝てばいいだけだ。知力、体力ときたら最後は心力だ。どんなに高い壁があろうとずっと立ち向かって行く不屈の心が必要なのだ。
「勝ちたいんだよ……」
あの彼女の幻を見て思ったんだ。みっとも無いことなんて出来ないって。
「勝ちたいんだ……」
体に鞭を打って立ち上がる。
もう体力は残されていない。この一撃に全てを掛ける。拳を握り、相手を一心不乱に見つめて構える。
「なあ、なんでそこまでして闘おうとするんだ? 傷だらけの体を気合で動かしたってどうしようもないだろ?」
呆れた目で見つめてくるが無視する。自分が大砲になった気持ちで突っ込むために足に力を籠める。
「教えてくれよ。そこまで頑張る理由を」
彼も構える。何でか知らないけど僕の博打に付き合ってくれるそうだ。だったら彼の疑問にも答えなければならない。
「誓ったんだ。初恋の人に誓ったんだ。次に会う時は彼女に誇れるような人間になるって」
だから、
「こんな所で負けられないんだ」
きっと僕の誓いは他の人がみたらひどく幼稚なモノだろう。けれど、それがきっと僕の心の中に眠る本当の声だから、馬鹿と罵られたってその想いを大事にしたい。多分、それは貴いモノだと、信じているのだから。
「……お前は馬鹿だな。でも、嫌いじゃない」
お互い笑い合う。彼とは良き理解者になりそうだった。
僕と彼が見つめ合う。僕らはタイミングを見極めていた。互いを倒すタイミングを。
バタン、と音がした。きっと扉が開いた音だと思うけど、見ていないから確信を持てない。その音が合図だったから、気にしている場合など無かったのだ。
全力で駆け寄り、何も考えずに殴り飛ばす。その事だけを頭の中に。
ぐしゃっと音がした。互いに衝突して、全力で殴ったのだ。
「……ハヤテーーーェ!!!」
声が聞こえて、僕の体に力が溢れて、押し負けそうだったけどそれを跳ね返す。
「うおおおおおおおおお!!!!」
相手を吹き飛ばしたのを見た。相手が倒れるのを見た。その後は見ていない。立ち上がったのかも、そのまま倒れたのかも分からなかった。
限界だったのだ。僕の体を酷使し過ぎて、力尽きたのだ。
大の字で寝転がり、悲しそうでいて、何かに怒っている彼女の姿を見ていた。
僕は話したかったけど口は動かなくて、何かしたいけど指先すらも、動かなくて、そのまま瞼を閉じた。
僕はこの短期間で一体どれくらい意識が落ちるのだろうと、自分の不幸体質を呪って、意識を手放した。
書いてて思ったけどこのハヤテ誰だよ……。
後、原作のギャグ入れるの難しすぎ。強引に入れようしたけど無理でした。きっと終始シリアスになるけど許してください。
あと、ヒロインが全く出てこないのは仕様です。次はもっと出番があるはずなので許してください。