夢を見ていた。ずっと昔の夢を。
デジャヴを感じるような気がする人がいると思うけどきっと気のせいだ。とにかく、夢を見ていたのだ。
夢の中の幼い僕は幸せそうに笑っていた。屈託のない、無垢な笑顔で。
あの時の僕もそれなりに絶望していたはずだけど、それでも笑っていたんだ。昔の僕の方が分かっていたのかもしれない。人は一人では生きていけなくて、誰かに寄り添わないといけなくて、支えないといけなくて、そして心の中の全てを打ち明けられる人間が必要なのだと。
今の僕と昔の僕の決定的な違い。それは信頼出来る存在がいるかいないかだろう。wonderwallは、まだ見えない。
目が覚めたら知らない場所にいた。
とは言ったものの前回目が覚めた部屋と酷似しているので全く知らないという訳ではなかった。家具の配置や、前寝ていたベットよりも明らかに高級なベット。更には窓の数までもが違う。しかしながら部屋全体から感じるインテリアのデザインの雰囲気が同じなのだ。きっとここら何処かの屋敷の、前とは違う一室なのだろう。
部屋の考察はこの辺にしておいて、体の具合を確認する。不思議な事に痛みはなかった。特に頬の骨は完全に砕けていたと思っていたのに全く異常がない。試しに触って見ても湿布が貼られているくらいで外傷などなかった。
あとはあれだけ頭を強烈に殴られて平衡感覚が狂ってないかを確かめて、正常だったら完全に本調子の自分の復活だ。……もしそこにも異変がなかったらそれはそれで一番おかしい状態だけど。でも死後の世界だったらなんでもありそうだしなー、と思いつつ体を起こそうとする。
その時に気付いた。お腹の辺りに感じる重みに。この程度の重さを把握出来ない体に不安を感じつつも安心した僕はその重さの正体は何だろうと確かめる。
窓の外は漆黒の闇。月明かりが雲に隠されて、目で確かめるよりも触って確認する方が楽だと思い、早速触れてみた。
サラサラと髪のような感触が伝わってくる。人が僕の腹を枕にして寝ていた。誰かが僕を看病してくれたのだろうか? ありがとうという意味を込めて頭を撫でるとモゾモゾと動き始める。起こしてしまっただろうか? そうだったら悪いことをしたなと苦笑して、その人がどうするのか身守ろうと思った。
不意に、月の明かりが部屋を照らした。まるで舞台の照明のように、僕のベットだけを照らしたのだ。その光に反応して、黒い服を着た金髪の女の人が顔を上げた。
月明かりで強烈に照らされた彼女の顔は昔、よく見ていた顔にそっくりだった。成長したら、きっとこんな顔になるのだろう。昔よりもずっと綺麗で、美しくて、神の名前を名乗るだけあるような美貌だった。
彼女は目をパチクリさせていた。僕もきっと同じ事をしているだろう。相当マヌケな顔をしているに違いない。このなんともいえないような空気をなんとかしようとして口を開いた。
「この感じ、いやーだね(airだね)」
咄嗟に出てきたのがそんなどうしよもない事だった。案の定、彼女の顔が呆れた視線に変化していく。ドスっと、鈍い音がして、頭を殴られた。
「まったく……。もっと他に言うことがあるでしょうに」
「だ、だって……」
「だってじゃあ、ありませんよ。久しぶりに会ったと思ったら突然……」
「突然……。あれ、どうしたの? 顔が真っ赤だよアーたん?」
殴られた。さっきよりも強く。たんこぶが出来そうな程痛かった。
「何するのさ!」
「ハ、ハヤテが私を抱きしめたのが悪いのよ!!」
「え」
「え、じゃありません!」
じゃあ、あの時の光景は幻とかではなくて、ひょっとしたら僕も死んでいなくて、確信を得たかった。
「そういえば、何でアーたんはここに?」
「何でって……。そんなの私の家ですもの、ここ」
じゃあ僕は、やっぱり勘違いをしていたのか。
僕は死んでなんかいなくて、彼女も幻なんかじゃない。全てが現実で、地獄から天国へ行ったかのような心境だった。
だからだろうか、僕の頬からは、一筋の涙が零れていた。
「ど、どうしたのハヤテ! 何で泣いているのですか!?」
君に会えたのが嬉しくて、なんて恥ずかしくて言えやしない。
彼女と会う前は不安だらけだったし、今も彼女の前にいていいかも分からない。ただただ、
「また、僕の名前を呼んでくれる?」
困難なんて後でどうにでもすればいい。とりあえず今は、今更だけども今は、仲直りをしようと思った。
「貴方が私の名前を呼んでくれるなら、喜んで」
二人で笑いあって、自然とお互いの顔が近づきあって、僕らはキスを……
「なあ、そこからどうするんだ? キスをするのか?」
第三者の声が聞こえた。僕とアーたんは慌てて距離を離して、声の主を見つめた。
さっき戦っていた、男だった。
そいつは目を爛々とさせていた。尻尾があれば激しく降っていたであろう、それくらい僕らの事に興味津々そうだった。
「……マキナ、貴方は一体いつからここにいたの?」
「最初からかな。アテナがその貧乏人を見ながらニヤニヤしてた所からだ。それでこの後どうするんだ? つづきをしないのか?」
貧乏人。やっぱり僕は貧しく見えてしまうのか。どうしても彼女と釣り合わないのではないかと考えてしまう。
「…………」
「…………」
「やらないのか?」
あそこまで激戦を繰り広げた彼、マキナさんは空気が読めないのだろうか。あそこまで戦闘センスがあったのでギャップが凄い。
アーたんも眉をひそめてどうすればいいのか悩んでいるようだった。
相変わらず、マキナさんは目をキラキラさせている。
「マキナ、お腹とか空いてないかしら?」
「大丈夫。この不幸野郎と戦った後、いっぱいハンバーガー食べたから」
不幸野郎って……。あながち間違っていないから困る。今度は悲しくて泣きそうになった。
そんな僕を尻目に話が進んでいく。
「……そういえば客間が散らかっていた気がしますわ」
「ここに来る前に掃除しといたぜ」
「……キッチンの整備をお願いしますわ」
「アテナが張り切ってやってただろ? オレがやってもな」
「……買い出しをお願いできますか?」
「その女顔の女々しいやつが寝ている間に行ってきたぜ」
彼は僕を嫌っているのだろうか。それとも悪口を言わないとやっていけない人なのだろうか。
「……ちょっとこの男の子と大事な話があるので席を外してくれます?」
「キスか! キスをするのか!」
顔を真っ赤にしながら首を振る。
「彼を、雇いたいと思いましてね」
アーたんのその一言で、空気が凍りついた。マキナさんもさっきまでのはしゃぎっぷりが嘘みたいに消えている。戦闘をするのではないかという雰囲気に、今なっている。
「そいつを執事にするってのは、本気だったのか?」
「ええ、貴方も彼の力を理解したでしょ?」
「こいつが裏切りそうに無いっていうのは分かっている。けど、今の実力じゃあこれから先、死ぬぞ、こいつは」
「来るべき日まで、少しずつ力を着ければいいわ」
一体、何の話をしているのだろうか。死ぬとか、裏切るとか、物騒だ。
「アテナが言うなら従う。けど一ヶ月だ。それまでにある程度戦えないのなら、解雇してくれ。他の執事としての能力があっても戦闘力がないのなら足手まといだ」
彼はそう言い残すと部屋を去っていた。僕の方に一回も目を向けずに、出て行った。
「ハヤテ、貴方は今働いていませんよね?」
「う、うん。クリスマスイブの日に首になったんだ」
「いい仕事を紹介するわ。三食付きで住み込みで働けるのよ。毎日可愛い女の子とも会えるわ」
僕には、多額の借金があった。
この屋敷を見て分かる通り明らかに彼女は大金持ちだ。ヤクザが関わっているこの件に巻き込みたくなかった。
「考えさせて欲しいんだ」
「ダメよ」
「僕は、君に迷惑をかけたくないんだ。だから……」
「ダメよ」
「だって、」
「知ってるわ。貴方の事情は。お金がいるんでしょ」
その通りだから、僕は、君に
「お願い……。私の為にも、償わさせて」
「違う! 償うのは僕の方で! 君じゃなくて僕が!!」
「だったら! 私達で償い合いましょう。私はハヤテの為に、ハヤテは私の為に」
僕には、それを否定することが出来なかった。彼女の涙を堪えている姿を見て、首を横に振る人間などいないのだ。
「明日からお願いね、ハヤテ」
「……うん。よろしくねアーたん」
僕はこうして再び執事をやることになったのだった。
もっと話が進むと思ったけどそんな事はなかったです。
夏になるまではスローペースが続きそうなのでご了承下さい。
それとハヤテのごとくはバトル漫画です。少なくともこの作品は作者がネタぶっこむ技術がない為、ギャグ要素は少なくなりそうです。ご了承下さい。
と言うかアニメではハヤテはかめ○め波を使ってたしバトル系だよね。それ以外は考えられないよね。初期とか地下迷宮ダンジョン攻略とかしてたしね。もうこれは完全にバトルだよバトル。
兎にも角にもこれからもよろしくお願いします。