ハヤテのごとく IF   作:Momam

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√1-4

人の夢と書いて儚い。

だったら昔の事ばかり夢見る僕は脆い存在なのだろうか。ちっぽけで、取るに足らない存在なのだろうか。

否定したかった。けれど僕自身が僕の事を矮小だと疑っていた。

否定して欲しかった。けれど僕を評価する人はいなかった。僕の中身を知ろうとする人はいなかった。

だからだろうか、夢を見てしまう。

楽しかった時、僕の隣の人間は果たして本当に僕を捉えていたのか確かめてしまう。用心深くて疑り深い僕は深い関係を築けない。唯一、可能性があるあの時代の君と僕は、心の底から繋がっていたのだろうか?

偽りの愛なら、道化師のように笑ってやろう。涙を笑顔の仮面に隠して、笑わせよう。そうそれが、僕の運命なのだったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

情けない声を上げながら体を伸ばすと少し寝ぼけていた意識が完全に覚醒した。

ベットから跳ね起き、机に置かれている執事服に着替える。この服を着ると何故だか不思議と気合いが入る。

なんせ十年振りなのだ。この服を着るのも、この仕事をするのも。僕の中ではとても大切で、特別で、最高峰の仕事。有り体にいうのなら既に僕は執事であるということに誇りを持っていた。初めて繋がりを持って働いた仕事だっとのだから。

鏡を見てだらしがない所がないかどうかを確認する。完璧だ。

 

 

「用意は出来てるか?」

 

 

扉から声が聞こえた。

振り向くと不機嫌そうなマキナさんが僕を睨んでいた。

 

----力が足りない

 

そう言われた事を思い出す。

実際、彼には歯が立たなかった。彼のように人間を止めなければアーたんを守れないという。僕自身の命も落としてしまうとも。

ゾッとした。それは死ぬことに対してなのか、罰を受けられないことに対してなのかは分からない。けれど、怖かった。

 

 

「準備は出来てるみたいだな」

 

「はい」

 

「じゃあ、これから何をすればいいか説明するから着いてこい」

 

 

マキナさんは僕の反応すら見ずに外へ歩き出した。慌てて僕もついていく。

彼の反応から推測すると、やはり嫌われているのだろう。

マキナさんはアーたんの執事だ。当人同士は納得していても僕は彼女に寄生して、全てを押し付けている。彼にとって僕とは主を害する、害している敵なのだ。

今なら分かる。先日の戦いは試験などではない。僕を害虫と見なして殺しに来ていたのだ。いや、本当の所はどうかは分からない。アーたんは試験のつもりだったのかもしれない。アーたんが僕を殺すように命じたのかもしれない。彼女が僕の顔を見たくなかったのかもしれない。

とにかく、彼は僕を亡き者にしたいということは確かだ。

嫌われてもいい、正直、死んでもいい。でも今はダメだ。謝って、償って、それまでは僕は死んではいけない。そう強く思った。

 

 

マキナさんの説明は十年前にアーたんから教わったことと殆ど一緒だった。一日の予定から掃除の仕方、彼女の好みの料理や生活スタイル。全部知っていたことだった。

僕は与えられた仕事を機械的でいてなおかつ心を込めてやり遂げる。アルバイトをしていた頃からやっている業務もあったのでブランクを感じさせない仕事っぷりだったと自負している。

そして業務が終わり、訓練が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グアアッ!!」

 

 

容赦が無く攻撃をされる。もう何度倒れるか数えるのも億劫になってきた。

 

 

「早く立て。アテネを守りたいのならこの程度の苦難じゃ足りないんだ」

 

 

この言葉も何度目か。

ボロボロになった戦闘用の執事服を見て笑いながら立ち上がる。

一ヶ月だ。それまでに僕は強くならないといけない、らしい。強くなるといっても漠然としているから、あまり身が入らない。目の前の講師であり上司である彼を超える程度の力が必要だというのならそれは不可能だといってもいいだろう。戦いに関するセンスがずば抜けて居るのだ。

基本的な戦術、その事から予測する相手の動き、誘っていたと思ったら誘われてカウンター、気がついたらいつま仰向けになってしまうのだ。

センスだけならまだ良かった。恵まれた身体能力のゴリ押しまで出来るのだ。良くも悪くも彼の戦い方にはクセがあって、一向に勝てるイメージが湧かない。

さっきだってそうだ。僕が彼のような化け物を倒す手段なんてカウンターしか存在しない。だからタイミングを見極めていくわけなのだが、中々隙を見せてなんかくれない。

隙を作る必要があって、僕はわざと攻撃喰らう事により相手の次の攻撃を絞らせる事を選択した。マキナさんのパンチの衝撃を出来るだけ首を後ろに捻る事により逃がす。それでもなお身が引きちぎれるかのような痛みがあるも、その回った勢いを利用して裏拳で攻撃。勿論それは防がれる事が前提のものだ。案の定、彼は僕の攻撃を読んでいて背を逸らして躱す。そこから追撃をかける振りをして彼の攻撃を待つ。逸らした体制のままアッパーを放ってきた。そう、これを待っていたのだ。視界の外からやってくる空を切り裂くかのようなそれを予期した僕は、タイミングを合わせて彼の体に拳を打ち下ろす。確信があった。初めて勝つという確信が。しかしながら地面に寝ていたのは僕だった。腹に激痛が走る。訳が分からなかった。いつ攻撃を貰ったのか理解できない。

その一瞬の思考停止の間に蹴り飛ばされる。

 

 

「グアアッ!!」

 

 

容赦が無く攻撃をされる。もう何度倒れるか数えるのも億劫になってきた。

 

 

「早く立て。アテネを守りたいのならこの程度の苦難じゃ足りないんだ」

 

 

立ったからといって僕には何が出来るのだろうか。戦いに関しては僕は彼には届かない。

 

 

「この程度で折れてしまうのか? そんな覚悟ならここから出て行け。あの時オレに見せた誇りが無いようなら、オマエがここにいる資格はない」

 

 

その言葉は僕が一番言われたく無いことだった。僕自身がその通りだと思っていたから。

でも、そのお陰で僕の体に力が滾った。悔しかったのだ。言われっぱなしは、ただただイラつくだけだ。

 

 

「今、決めましたよ。僕はこの一ヶ月であなたを超えます」

 

 

アーたんを守るとか、彼女の為に償うだとか、そんなのは関係なかった。僕の事を嫌いな人を好きになる理由はない。彼が地面に寝転がる所をただただ見たいだけなのだ。

構える。彼を倒す為に構える。実力を覆すには頭を本来使って戦わなくてはいけないのだが、それをやめる。何を考えたって読まれるのならば、何も考えないで、本能で行動する。

 

 

「そうだ。それでいい。だからオマエは強いんだ」

 

 

強い? どの口がそんな事を言うのか。皮肉を言われて馬鹿にされている。頭に血が上るのをもう止めようとは思わなかった。

 

 

「うおおおおおおお」

 

 

走り抜けて、右ストレートでぶっ飛ばす。

 

 

「オマエの唯一の伸び代は愚直な事、それに尽きる」

 

 

あっさりと僕の握り拳は彼の手に掴まれる。

 

 

「だけどその状態のままじゃダメだ」

 

 

右脚の一閃。あまりにも早すぎる一撃を防ぐ事なんて出来ずに吹き飛ばされる。吹き飛んだ自分の体を一回転させて壁を蹴って突撃……!

通常よりも加速した状態で飛び蹴りをぶつける。動作も見せずに彼は視界から消えていた。文字通り消えてしまったのだ、一瞬で。その結果、対面の壁に衝突。完全な自爆だがそれに悔いている場合ではない。刹那に彼の姿を補足して足に力を入れる。溜めに溜めて、爆発させる。自然と出てくる右の拳。当たる直前でまたも僕の体が宙を舞った。

 

 

「なんで目で見ようとするんだ? オマエにとってオレは化物見たいなモノの筈だ。そんなヤツの動きを目で追いかけようなんて出来るわけがないだろ」

 

 

どうすればいいというのか。

 

「心の目でも使えとでも?」

 

「そんなの知るか。オレは目で追えるんだ。使う必要なんてない。けどオマエは追えない。どうすればいいかはオマエが考える事だ、綾崎」

 

「そんなの……勝手じゃないですか」

 

 

師匠ヅラしているのに、何も教えてくれない。

 

 

「オレはアテネに頼まれただけだ。オマエとは戦うだけでいいって」

 

「だからって少しくらい……!」

 

「嫌なら出ていけ」

 

 

そう言われたら、何も言い返せなくなった。

 

 

「アテネはオマエが必要みたいだけどオレはそう思わない。一週間でオレを捉える事が出来ないのなら、オマエがここを出ていく前に殺してやるよ」

 

 

それを最後に扉の外へと出て行った。

僕は一歩も動けなかった。彼の目が本気だったから、怖かったのだろう。

そして彼の理不尽な言葉が、心の中を走り回る。彼の言っているのは正しいと、頭が判断をする。

 

 

「やるしかないんだ……やるしか」

 

 

漫画のような技術を持たなければ、誓いを果たす前に殺されてしまう。そんなのは御免だ。

痛めつけられた体をそのままに、鍛錬を開始しようとする。

 

 

「そこまでよ」

 

 

振り向かなくても分かる。アーたんの声だ。

 

 

「貴方の体は限界だわ。今日は休みなさい」

 

 

言われなくても分かっている。けれど時間が惜しいのだ。

 

 

「でも、限界を超えないとマキナさんを超えられない」

 

「……ハヤテ、貴方はマキナに勝ちに来たの? 違うでしょう。私の執事なのよ」

 

「けれど……!」

 

「私の言うことを聞きなさい」

 

 

思わす振り向く。彼女の雰囲気が変わった気がしたのだ。十年前、感じたことのある嫌な感じと似ている。

 

 

「……ふう、貴方の体が壊れてしまったら日頃の業務も出来ないわ。今はおやすみ」

 

 

僕の方に近づいて来て、僕の手を握って、僕らは訓練部屋を後にした。

僕の部屋まで連れていかれる。其の間に会話はなかった。逢引をしているかのような空気が漂っていて、僕の顔は赤くなっていた。

勿論、そんな事はただの僕の妄想に過ぎない。僕が勝手に行動しないように縛り付けたかっただけなのだ。

 

 

「おやすみ、ハヤテ」

 

 

彼女が笑顔で僕に語る。そんな顔をされたら無茶をする気なんて起きなくなった。

だから僕が言うことは決まっていて

 

 

「おやすみ、アーたん」

 

 

それだけを残して自室に入る。

コツコツと大理石を踏みしめる音が反響する。

その音聞いて思った事が二つあった。どうして彼女の顔が赤かったのか、どうして彼女の目の奥が深く沈んでいたのか、疑問に思ったのだった。

 

 

 

 

 

 




マキナの口調が分からない。ハヤテの口調が分からない。アテネの口調が分からない。
展開をもうちょっと早くしたいけど難しいものですね。
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