放課後の第17小隊の訓練所で一人キャロルは剣を構えていた。
他の小隊の仲間はすでに帰宅しているだろう。
専用の錬金鋼を受け取りに行っていたキャロルは遅れて訓練所に訪れ、こうして一人で居残っている。
白金錬金鋼の剣を両手で握って軽く剄を通す。
素直に刀身に剄が通る。
故郷で使っていた錬金鋼となんの遜色もない。
ハーレイの技術に感心し、かつ感謝した。
これならば問題ないと。
全身に剄を流し、身体能力を向上させる。
すっと音もなく剣が振るわれる。
上段からの斬り下ろし。
下段からの斬り上げ、すっと剣を引き刺突を放つ。
剄が刀身を渦巻き前方に弱い突風を発生させた。
再び上段に構え、刀身に剄を込める。
ただ鋭く、ただ斬り裂くために。
空気を裂いて剣が振り下ろされる。
室内に突風が起きる。
斬り裂かれた空気が壁や天井に反射して突風となったのだ。
キャロルは軽く息を吐くと。
自分専用に作られた白金錬金鋼の剣を見た。
反りのない片刃剣。
切っ先だけは両刃になるようになっており、突きも不得意としない。
キャロルの腕の長さより少し長めの刀身は振りやすく扱いやすい。
幅広で頑丈な作りになっていて、剄の伝導率が高いが強度の点で劣るとされる白金錬金鋼でも十分な強度がある。
対人戦なら不足はない。
汚染獣戦なら複数の錬金鋼を予備として持ち、使い捨てる戦い方をすればいい。
不満はない。
むしろ学生しかいないツェルニでここまでの錬金鋼ができるとは思っていなかった。
胸の奥がざわめいている。
錬金鋼の問題ではない。別の問題だ。
『レイフォンとのデートはどうだった?』
無邪気に、かつ好奇心たっぷりに聞いてきた噂好きの友人を思い出す。
デート?
自分はデートをしたのだろうか?
そういえば異性が一緒に出歩く行為はデートといえるかもしれない。
けれどそれは恋人同士とかの場合ではないだろうか?
レイフォンは友人だ。
なにかと手間のかかる友人だが、嫌いではない。
むしろ好感を抱いてはいる。
なぜと問いかけると。
なんとなくとしか答えようがない。
なんとなく放っておけない。
心配で、目を離すと不安で、頼りなくて。
強いことには強い。
けれど精神面はかなり不安定だ。
理想の異性か?
そう問いかけられたら間違いなく違うと断言できる。
今まで恋愛というものを真剣に考えたことがなかった。
今でもよくわからない。
それでも漠然と自分が恋する男性は父のように何事にも動じず。母のように包容力のある人だろうと想像していた。
レイフォンはどうか?
彼が何事にも動じない落ち着きがあるようには見えない。
包容力はあるか? むしろ包容力を求めそうな頼りなさがある。
理想の異性像からはほど遠い。
では自分はレイフォンを恋愛対象とは見ていないのだろうか?
たぶんそうだろう。
あの日のお出かけは楽しかったが、初めての友人とのお出かけということでずいぶんはしゃいだ。
あくまでも友人とのお出かけのつもりだった。
恋人とのデートのつもりはなかった。
「レイフォンはどう考えているんだろう?」
ふと聞いてみたい気がしたが、なんと聞いていいのかわからない。
まさか自分に恋愛感情を持っているかなどと問いかけるのは非常識だろう。
少し苛々してきた。
なんで自分はこんなつまらないことで悩んでいるのだろう?
思い切り剣を振り下ろす。
剄もろくに込めていないのに空気を裂く感触が伝わってきた。
「居残りか? ずいぶん熱心だな」
振り向くと訓練所の入り口にいつの間にかシャーニッドが立っていた。
いつの間に来たのだろう?
まるで気がつかなかった。
それだけ気が抜けていたのだろうとキャロルは反省した。
「ほいよ。運動のあとは水分を取らないとな」
そう言ってシャーニッドが缶ジュースを手渡してくる。
「ありがとうございます」
「それにしてもすごい太刀筋だったな。レイフォンもすげぇと思ったが、キャロルちゃんもとんでもないな」
「レイフォンにはかなわないと思いますよ」
自然に苦笑する。
対抗試合で見せたレイフォンの動き、そして太刀筋。
あれで全力ではない。
いや全力にはおそらくほど遠い。
自分でもあの程度の動きはできる。
けれど全力を出したレイフォンに追いつけるかどうかは自信がない。
それぐらい武芸者としてのレイフォンは底が知れない。
精神面もそれぐらい頼りになれば、限りなく理想像に近くなる気がする。
「先輩面できるほど俺は出来がいいわけでも品行方正でもないんだが」
そう前置きしてシャーニッドは優しい目をこちらに向けた。
「後輩の悩みを聞くぐらいはできる。もしなにか胸に抱え込んでいるなら話してみてもいいぜ。別に無理強いはしないがね」
一瞬息がつまった。
「……悩んでいるように見えますか?」
「なんとなくな。なんとなくなにかを気にしているようには見えるな」
まさか密かに悩んでいたことを察せられていたとは思わなかった。
思ったより勘のいい人らしい。
普段は軽薄な態度でフェリやキャロルに『今日も可愛いね』などと軽い台詞を投げかけていて想像できないが、彼はあきらかにツェルニのレベルでは上位の狙撃手だ。
その実力は対抗試合で見ている。
戦場に潜み、誰にも知られずに目標に接近して撃破する。
基本に忠実な狙撃手だ。
ただの軽薄な男性ではないと思ってはいたが、それでもどこかで彼を軽く見ていたのかもしれない。
思えば彼は四年生で年長者だ。
自分などより人生経験豊富なはずだ。
キャロルはどちらかといえば特殊な環境で育ったため、どこか世間にうとい面がある。
頭が悪いとは思わないが、どこか世間一般の常識になじめずにそれを察せられない一面があることは故郷にいたときから指摘されていた欠点だ。
要するに年齢相応の経験をしたことがなく、そういった面ではまるで子供のようになにもわかっていない。
そういうことらしい。
相談、してみようかな?
ふとそう思った。
長く伸ばした髪を後頭部でくくり、垂れ目がちな目と常に緩ませている口元が軽薄な印象を与えるが、この長身の青年は自分が悩んでいることを見抜いた。
ただの軽いだけの男のはずがない。
「自分でもなにに悩んでいるのかよくわからない状態なのですが」
それでも相談に乗ってもらえるかと尋ねるとシャーニッドはどこか寂しげに苦笑した。
「悩みなんて大抵そんなもんだな。自分で考え込んでいるといったいなにが問題なのか、なにをしたらいいのかわからなくなっちまうもんだ」
そう言って立ち上がった。
「場所を変えようか。キャロルちゃんにはちょっと早いかもしれないが良い店を知っているから、そこでシャーニッド先輩による人生相談教室としゃれこもうじゃないの」
そう言ってにやりと笑う彼の顔にはもう先ほどのどこか影のある表情は欠片も残っていない。
まるで人生のすべてをおもしろおかしく楽しんでいそうな笑顔で彼はキャロルに手を差しのべた。
少し迷ったが、差し出された手にキャロルは手を伸ばした。
顔の印象とは違って大きくてどこか父を思わせるような無骨な手がキャロルの手をつかんだ。
薄暗い照明。
ぼんやりとした青い光が目を引く。
地下だというのにそこそこの広さがあり息苦しさは感じない。
いくつかの席には上級生らしい人たちが静かにグラスを傾けている。
カウンター席に腰をかけ、シャーニッドが笑った。
「いい店だろ? 雰囲気も良いし、のんびり飲むには最高の店だ」
彼の前には注文もしていないのになぜかグラスが置かれていた。
琥珀色の飲み物を彼はなんの問題もないという態度で飲んでいた。
シャーニッドがカウンターの向こうにいる店員になにか話しかけると自分の前にもグラスが置かれた。
赤い色が鮮やかな飲み物。
「ノンアルコールだから心配しなくてもいい。それとも酒の方がよかったか?」
「お酒はあまり好きではありません」
そう答えつつおそるおそる赤い飲み物を口に含む。
すっきりした甘さが口に広がった。
なにかの果物のジュースだろうか?
シャーニッドが意外そうな顔をした。
「飲んだことがあるのか? 意外だな」
「以前先輩たちに無理矢理飲まされました。正直二度と飲みたくありません」
「そのうち飲みたくなるさ。酒の味と飲み方がわかるようになったらな」
そう言って笑う姿は彼が年上の男性なんだとキャロルに再認識させた。
キャロルにはいまいちなじめない店の雰囲気にもよく似合っているし、お酒を口に運ぶ姿も様になっている。
「お酒に飲み方なんてあるんですか?」
「それはあるさ。馬鹿みたいに騒ぐ奴もいれば、こうして静かに飲む奴もいる。人それぞれの個性みたいなものだな。意外な性格がわかって結構おもしろいもんだぜ」
「シャーニッド先輩は静かに飲むのが好きなのですか?」
「俺か? そうだな。その日の気分といったところだが、たまにはこうして一人で静かに飲みたくなる。今日は一人じゃないけどな」
なんとなく自分は邪魔のように感じられてキャロルは居心地が悪くなった。
そんなキャロルを見透かしたような目で眺めてシャーニッドは意地悪そうに笑った。
「それで、可愛いお嬢さんはなにをお悩みかな? 今ならシャーニッド先輩のためにならねぇ人生相談が無料で受けられるぜ」
「ためにならないのですか?」
「俺の戯れ言を聞いてそれを生かせるかどうかなんて俺に保証できるわけないだろ」
あたりまえのように肩をすくめてみせるが、言われてみれば確かに彼の助言を生かせるかどうかは自分次第だろう。
キャロルは少しためらったあとぽつぽつと話し始めた。
レイフォンと二人で出かけたこと。
それはとても楽しかったこと。
自分にとってレイフォンは大切な友人であること。
そして友人にそれを『デート』と指摘されたこと。
「私にはわからないのです。なにを悩んでいるのか、なにがわからないのかさえ」
「青春だねぇ」
シャーニッドは目を細めてキャロルを見つめた。
どことなくおもしろがっているようにも見える。
「まぁ、はっきり言っちまえばくだらない悩みだな」
「くだらないですか?」
「そう。誰もがあたりまえに感じて、それがなんなのか気がついたときはそんなこともあったと笑い飛ばせる程度の話だ」
いやとシャーニッドは苦々しく顔をゆがめた。
「人によっては洒落にならないほど苦しむ場合もあるが、それは自業自得だな。大事なことから目をそらして気がつかない振りをし続けていればそうなるのは自業自得だろう」
キャロルにはよくわからない。
あとで笑い飛ばせる話であり、あとで苦しむこともある。
それはなんなのか?
「キャロルちゃんは難しく考えすぎるところがあるみたいだな。そう言われたことはないか?」
「昔、両親や先輩たちに」
「そうだろうよ。普通のキャロルちゃんくらいの女の子なら友達と笑いながら話してそれで終わるようなことだからな。それができないって事は友達もいない寂しい奴か、友達に話せないような不器用な奴か、あるいはなにもわかっていない救いがたい馬鹿かだな」
どこか嘲笑うように最後の一言を吐き出した。
「私は馬鹿なのですか?」
「その可能性はある。もっともこれからも気がつかなければ救いようもない愚か者だが、気がついちまえばそう悪いことでもない。少しばかり鈍いって程度の話だ」
「私は、なにに気がついていないのですか?」
「思い当たるふしはないのか?」
「あったら相談していません」
「本当に?」
どこか嘲笑するように唇をつり上げる。
その表情にキャロルは若干気分を害した。
「わからないからわからないと言っているのです!」
「俺には『わからない』じゃなくて『わかろうとしない』ように見えるぜ? 友達にそれはデートだろうって言われたときなにを感じた? そのあとレイフォンのことをどう思った? まさかなにも考えなかったわけじゃないだろう」
デートだと言われてなにを感じたか?
そんなことは決まっている。
あれはデートではない。
レイフォンのことをどう思ったか?
彼は友人であって、恋人ではない。
あたりまえのことだ。
悩むことなど何一つない。
なのに胸がざわめく、なにかに気がつけと胸の奥で自分に訴えているものがある。
「レイフォンは友人です。デートとは恋人同士でするものでしょう」
キャロルの回答にシャーニッドは喉の奥で笑った。
「なにがおかしいのです?」
「まるで小さな子供のような模範解答だな。そう怒るなよ。だんだん俺にもキャロルちゃんのことがわかってきたよ」
「私のなにがわかるというのです?」
「さて、一言で言えば『お子様』だな。良くも悪くもなにも知らない」
キャロルの頬に朱が差した。
そんなキャロルの頭にシャーニッドは手を置いてなだめるように頭を撫でる。
「そう怒るなよ。別に馬鹿にしているわけじゃない。しいていえば俺にはない純粋さを見て少し眩しく感じちまったというところかな」
「よく意味がわかりません」
「だいじょうぶだ。キャロルちゃんはまだ取り返しがつかないところまではいってねぇ。ただ入り口で戸惑っているだけだ」
入り口?
なんの入り口だろう?
「難しく考える必要はないさ。普通に感じたことをそのまま感じ取ればいい。キャロルちゃんにとっての現段階での答えが『レイフォンは友人』っていうのならそれも別に間違っちゃいないんだろう。ただキャロルちゃんの中で別の可能性もあるって考えている少しだけ大人な自分のことをまだ受け入れられないだけなんだろうからな」
別の可能性?
少しだけ大人な自分?
「シャーニッド先輩ははぐらかすのが上手なようですね。答えを知っているだろうにそれを教えようとしない」
優しい目でキャロルを見つめながら、壊れ物に触れるように繊細な手つきでキャロルの頭を撫でる。
「いきなり答えを他人に教えてもらうのはズルだろう? 自分で考えて、悩んで、感じて、そして気がつくんだよ。ああ、そうだったんだなってな」
「シャーニッド先輩がそうだったんですか?」
手が止まった。
「ああ、俺は馬鹿だったからな。気がつくのが遅かった。いや運も悪かったのかもしれねぇ。なにせ状況が最悪だった」
「最悪?」
「ああ、そして今の俺はそれを思い出して過去の自分を笑うのさ。俺は救いようのない愚か者だったとね」
自嘲するように、いやどこか自分自身を切り刻むように表情を歪ませるシャーニッドを見てキャロルは胸が痛んだ。
自分の頭の上の手を取って胸の前で握る。
体温で暖めるように、小さな手のひらで大きく無骨な男性の手のひらを抱きしめるように。
「そういう顔は嫌いです。過去が愚かだったならこれからは利口に生きればいいのです。いえ愚かでも一向にかまわない。自分がそのときにできることをして一生懸命生きたと信じていればそんな顔はしなくてすみます」
シャーニッドは少し驚いたように目を見開いた。
「シャーニッド先輩は私の相談に乗れるぐらいにそのことを理解しています。少なくとも現在の先輩は愚かではありません。そしてそんな先輩が過去に失敗していたとしてもそれは今の先輩を否定することにはなりません。なぜならそのときの先輩もきっと必死にがんばったはずだからです。だからそんな顔はだめです」
「……俺は今どんな顔をしている?」
「つい先ほどまで、昔の自分を殺したそうな顔をしていましたよ。そういう顔はだめです。過去を恨んでも呪っても、それは今の自分を責めるだけです」
もう片方の手でシャーニッドは顔を覆った。
「まいったな。いつの間にか俺の方が説教されているぜ」
「シャーニッド先輩の言いたいことはまだ完全にはわかりません。でも私は考えてみようと思います。毎日をしっかり生きて、後悔しないように考えて生きていこうと思います」
手のひらの中の鍛えられた無骨な手を撫でながらキャロルは言葉を紡ぐ。
「シャーニッド先輩は、胸を張ってください。背筋を伸ばしてください。前を向いてください。自分は自分にできることをして生きてきたと誇りに思ってください。いまの先輩は少なくとも私には愚か者には見えません」
キャロルの言葉を聞き終えてシャーニッドは大きくため息をついた。
「さっきの言葉は訂正する」
穏やかな瞳がキャロルの青い瞳を覗き込んだ。
「おまえは『お子様』じゃない。十分『いい女』だ。いやいい女になる素質があると言うべきかな、まだ今は」
キャロルの方に手を伸ばしかけ、不意にその手を止める。
そしてかすかに苦笑して、キャロルに握られていた手を引っ込める。
「いい女になれよ。おまえならきっとなれる。俺が保証してやる」
「やばかったなぁ……」
そろそろ時間も遅いのでキャロルを帰らせ、一人でシャーニッドはちびちび飲み続ける。
女の子の一人歩きには遅い時間だが、仮にも小隊員に選ばれる武芸者だ。
なんの問題もないだろう。
むしろキャロルの実力ならちょっかいをかけた方がもれなく不幸になると確信できた。
送っていこうとも思ったのだが、今の自分だとかえってその方が危険かもしれないと自制した。
あのとき無意識に彼女を抱きしめそうになってしまった。
手のひらを温める体温を全身に感じてみたいという欲求に自然と手が出てしまった。
「まだまだお子様かと思ったら、あれは反則だろう」
こちらを思いやる穏やかで深い色をした瞳。
引き込まれそうな抗いがたい魅力があった。
綺麗な色をした唇から紡がれる妖精のささやきに似た甘い誘惑。
自分のすべてを許されるような。認められるような。受け入れられるような錯覚。
彼女の手のひらの感触の残る右手を見つめて苦笑する。
武芸者とは思えない。柔らかく肌触りのいい小さな手のひらだった。
髪は柔らかく、まるで血統書つきの美しい猫でも撫でているような心地よさだった。
あのままそばに置いておいたら、なにをしていたか自分でも自信が持てない。
おそらくまだ恋も知らない純粋無垢な少女。
そのくせすべてを受け入れるような深く温かい心を持つ女性。
「やばかった……」
繰り返す。
あれを意識せずにやっているからタチが悪い。
別に彼女には好意があるわけでも下心があるわけでもない。
ただ純粋に自分を心配し、そんな自分にかけるべき言葉をささやいたに過ぎない。
「あれは男殺しだろう」
ため息しか出ない。
このシャーニッド・エリプトンさえ陥落寸前にいった魅力だ。
言ってはなんだがレイフォン如きでは太刀打ちできないだろう。
彼は武芸は天才的だがそれ以外は意外に未熟だ。
あんな風に見つめられ、ささやかれたら一発でころりと参ってしまうだろう。
あるいはすでにぞっこんかもしれないと想像して、少し複雑な気分になる。
恋愛という感情さえまだ自覚できずに持てあましている少女と、未熟で不器用な少年。
どう考えてもごく自然につきあえる組み合わせではないだろう。
「前途多難だな……」
レイフォンであの少女に恋愛感情を自覚させることができるか?
そもそも彼女は男としてのレイフォンを受け入れるか?
「まぁレイフォンがその気と決まったわけでもないか」
自分の先走りに気がついて笑い飛ばす。
そんなシャーニッドに知り合いの店員が声をかけてきた。
「ようシャーニッド。あの可愛らしい新しい恋人はどうした? ふられたのか?」
「馬鹿いえ、あれはただの可愛い後輩さ。年長者として人生相談に乗ってやっただけさ」
「おまえが人生相談? いたいけな少女に悪い事を吹き込むのは感心しないな」
「おいおい、俺をなんだと思っているんだよ」
「節操なしのナンパ野郎だろう?」
「きついね。俺だってたまには真面目に後輩の面倒だって見るさ」
「後輩の手を握ってか? どうせ相談に乗るとかいって口説くつもりだったんだろう?」
……信用がねぇ。
そう笑いながらもシャーニッドの脳裏にあの蒼い瞳が鮮明に刻まれていた。
すべてを受け入れ許すような慈愛の少女。
彼女ならもしかしたらこんな自分でも……。
軽く頭を振って笑い飛ばす。
馬鹿馬鹿しい。
このシャーニッド・エリプトンが年下の少女に甘え、頼り、許しを与えられて満足する?
なんの笑い話だ。
それでもあの優しい蒼い瞳が胸の奥から消えない。
シャーニッドはグラスに残った琥珀色の液体を一気に喉に流し込んだ。
刺激と酩酊感が、ほんの少しあの暖かさを忘れさせてくれた。
シャーニッド、大好きです。
かっこいいですよね。
ひょっとしたらレイフォンよりかっこいいかもしれません。