ゲームチェンジャー   作:のなもちとちみ

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第11話 それぞれの想い

■西暦1567年 飛騨国

   山岳地帯 簡易キャンプ

 

 

 思いがけない二人の登場で、この時代に残ったのは全部で11人になってしまった。もうすでに出発してしまっていた、生還者コンビと、大森さんの合わせて3人と。

 

 伊藤さん、金田さん、つーくん、俺。

 

 美紀さん、優理、唯ちゃん、瑠依ちゃん。

 

 

 作戦会議とやらはどうもやり直しらしく、金田さんの発案でとりあえずみんなで一緒にランチタイムになった。

 

 昼食を取りながら唯ちゃんと瑠依ちゃんにブツブツと小言を投げかけていた美紀さんは、なんだか少し嬉しそうだ。

 

 

「おおひょ~~~、マジか! すげー!」

 

 唯ちゃんと瑠依ちゃんが転送されてきた場所で、何かを発見した金田さんが変な声を上げる。

 

「あらホント、こりゃすごいね」

 

 小走りに駆け寄った伊藤さんも、それを見て感心している。

 

 

(なんだ?)

 

 つーくんと【武士語の使い方】について話をしていた俺も、気になって目を向ける。

 

 

「あ、気付きました? それ瑠依のお手柄なんですよ~♪」

 

 瑠依ちゃんはテーブルを離れると、ピョンピョンと撥ねるように伊藤さんの所へたどり着く。

 

「転送された候補者の皆さんが持っていた物を回収したきたのです!」

 

 言葉にはなかったけど、「えっへん!」と書いてあるようなドヤ顔を見せた。

 

(はぁ……瑠依ちゃんて優理に負けないくらい可愛いんだよなぁ、キャラは大分違うけど、あれはあれで妹っぽくていいなぁ)

 

 

 なんて思いながら視線を優理に向けると、目が合ってしまった。

 

 

(……!?)

 

「いや、何も! 何も考えてません!」

 意味不明に何かを否定する俺を見て、優理はただ不思議そうに首を傾げている。

 

(ややや、落ち着け俺! ってか、ふと目が合うとか初めてだな……俺の事見てたって事だよな……?)

 

 

「8個全部か、これだけで4貫あるわ、なんか希望が湧いてきた」

 

 伊藤さんは、じゃらじゃらと麻袋を一纏めにして持ち上げる。

 

 

「ホントですか!? ヤッター♪ 褒めて下さい♪ ナデナデしていいですよ?」

 

 瑠依ちゃんは「ほらほら、ナデて? ほらほらっ」と頭を差出しながら楽しそうにしている。

 

 

「なんか複雑、褒めたいような、叱りたいような」

 

 伊藤さんは何か考え込むように呟いた後。

 

 

「金田くん、代わりにナデナデしといて♪」

 そう言って瑠依ちゃんから逃げるようにテーブルに向った。

 

「お? 喜んでっ!!」

 金田さんが瑠依ちゃんに一歩近寄る。

 

「ぎゃー! 変態! くるな~~」

 瑠依ちゃんは慌てて逃げ出した。

 

「んなっ!? 変態って!???」

 ショックだったのか、金田さんはそのまま固まってしまった。

 

 

(ありゃ灰になったね、白くなってる金田さん、真っ白だわ)

 

 みんな笑っていた。本気で衝撃を受けた様子の金田さんを見ながらコロコロと可愛く笑っている優理に、俺の目線は釘付けになっている。

 

(元気になったのかな、ここ数日元気なかったもんなぁ)

 

 

 その後、皆で色々と話が出来た。今度は離れた場所じゃなく、8人で簡易キャンプのテーブルを囲んで、仲良くワイワイと話せたのは嬉しい限りだ。難しい話じゃなくて、割とどうでもいい話題が多かったのも嬉しい。

 

 伊藤さんの難しい話より、俺の下らない話のほうが絶対ウケると思っていたし、実際ウケた。それより何より嬉しいのは、その間ずっと、優理が俺の隣にいた事だ。

 

 

 簡易キャンプのテーブルはいくつか設置されているが、今は皆で話すために一つのテーブルに集まっている。6人掛けのテーブルに集まるわけだから、隣の人とはそれなりの接近具合だ。

 

 ぴったり密着する程ではなかったけど、ちょっとした動作で体の触れ合う距離に俺は大興奮していた。

 

 

 当然ながら、その距離に喜んでいたのは俺だけじゃない。

 

「なんだよ、んもう~、美紀ちゃんこのペットどうにかして!」

 

 伊藤さんの右隣に陣取った瑠依ちゃんが、それはもう猫のように擦り寄って伊藤さんを困らせていたのだ。

 

「こら~! 瑠依~! はなれろ~~」

 

 瑠依ちゃんの頭をグイグイ押しながら離そうとする美紀さんも、ドサクサに紛れて金田さんを押しのけ、伊藤さんの左隣を占拠していた。

 

「イーヤーデースー」

 

 美紀さんに頭を押されながら、右側から纏わりつく瑠依ちゃん。

 

「ハーナーレーロー」

 

 瑠依ちゃんの頭を押しながら、左側から纏わりつく美紀さん。

 

 

(なんでこんなモテるんだろ)

 

 自称ではあるが、それなりにイケメンな自分としては実に悔しい。そんな3人の様子を、周囲の皆はしばらく笑いながら見ていた。

 

 

 そう、優理も笑っていた。

 

 あの時、潤んだ瞳で伊藤さんを見上げていたのは何だったんだろうか。もしかしたら、端末を弾き飛ばした俺を思い出し【男らしさ】を感じて気移りしてくれのだろうか。

 

 

「イテテ、引っ張るな! 美紀ちゃんもっと優しくっ! イテ!」

 

 もみ合う美女2人の爪やら肘やら裏拳やらが、たまに伊藤さんにヒットしている。

 

 微笑ましいレベルではあるが、美紀さんと瑠依ちゃんの伊藤さん争奪戦は、伊藤さん本人に被害が及ぶほど激化していく。

 

 その様子を見ながらすごく楽しそうな唯ちゃんは、俺の隣ではなく、つーくんと優理の間に座っている。

 

 

「やれやれひゅ~ひゅ~」

 つーくんも楽しそうに二人をけしかけている。

 

「あひゃひゃひゃひゃ!」

 金田さんは、そんな伊藤さんを見て大爆笑している。

 

 こういう時、至近距離で隣にいる人の表情って見えづらいものだ。ちゃんと横向かないと見えないし、そんな事したら見てたのバレちゃうからだ。

 

 優理もさっきまで笑ってたし、たとえ今はちょっと複雑でも、こうゆう姿を見て徐々に諦めてくれたら、俺にとっては嬉しい限りだ。

 

 

《バンッッ》

 

 

 唐突に、優理の両手がテーブルに振り下ろされた。

 

 

 小動物のようにピタっと止まる瑠依ちゃんと美紀さん。

 

 

「お、おちつけ?」

 

 顔を引き攣らせた伊藤さんが、両側から羽交い絞めにされるような体制のまま焦る。

 

 俺の位置からは優理の顔が見えなかった。

 

 

「んんもももおおおおおお!」

 

 優理は怒っているんだろう、でも、瑠依ちゃんと美紀さんへの愛情がたっぷり感じられる怒り方で。

 

 

(すっごい可愛いいんですけど……)

 

 

 俺は気になって、身を乗り出してまで優理の表情を見てみる。

 

 

「美紀ねぇ後で話があります♪」

 

「……え?」

 

 

「瑠依ちゃんはその後ゆ〜っくりじぃ〜っくり話そうね♪」

 

「げっ……」

 

 

 優理の表情は、引き攣った笑顔だ。頭部に【怒ってる時の血管マーク】がデカデカと見えるような笑顔。

 

 

「嫌なら今すぐそこから離れるっ!」

 

「ぎゃっ! はいっ!」

 

 優理の早口な一喝に、瑠依ちゃんが飛び退くように席を立つ。

 

 

 そんな瑠依ちゃんの様子を見た美紀さんは、何かをごまかすような雰囲気だ。

 

「まったく、分かればいーんだよ、なぁ優理♪」

 

 慌てた様子で【頑張って作った笑顔】を優理に向けたが。

 

 

「美紀ねぇもです!」

 相変わらずの引き攣った笑顔で一蹴されてしまっていた。

 

「あ、う、うん、そうするよ? 元々そのつもりだったしさ、ハハハハ」

 

(もしかして優理ってキレたらめっちゃ怖いのか!?)

 

 その後、優理は瑠依ちゃんに【席の交換】を命じた。

 

 可愛い妹系天使の瑠依ちゃんは、テーブルに顎を乗せ、ペッタンコな体制で、唇を尖らせながら俺の隣に座っている。

 

 美紀さんは大人しく元いた席に戻った。こっちは別にだからどうと言う事もなく、ちょっと難し戦国時代の話を始めた金田さんにアレコレ質問していた。

 

 瑠依ちゃんと席を交代した優理は伊藤さんの右隣を確保。

 

 何がそんなに楽しいのか、終始笑顔で、頭の上には分かりやすい「♪」が何個も踊っている。

 

 そんな優理の様子を見ていた俺に、瑠依ちゃんの背中の上を跨ぎ越す感じで、唯ちゃんが楽しそうに小声で話しかけてきた。

 

「優理ってホント分かりやすいですよね、テーブルの下覗いてみてくださいよ、足パタパタしてご機嫌ですよ、ふふっ♪」

 

 テーブルの下を指さしながら言う唯ちゃんは、なんだか幸せそうだ。

 

 

(なんだよぉぉ、俺の勘違いか、落ちるわ~)

 

 

 優理はこれ以上ないくらいご機嫌だ。ライバル2人を撃退し、奪い取った席に大満足なご様子で、その視線は伊藤さんをじっと見つめている。

 

 真横に座っている伊藤さんを見つめている訳で、分かりやすいどころのレベルじゃなく、ガッツリ見つめている感じだ。

 

 

 金田さんと話をしながらの伊藤さんが、視線に気付いて優理に顔を向けると、2人の視線はとても近い距離になってしまった。

 

(おおう、見てられない……けど見ちゃう)

 

 

「へへっ♪」

 

 伊藤さんと目が合った優理は、なんだか本当に満足そうに、幸せそうに伊藤さんに笑って見せた。そんな優理に、伊藤さんも笑顔で答えると、また金田さんとの会話に戻る。

 

 

(さすがに皆の前でそれはないか……)

 

 

「ズルーイズルーイ センパイズルーイ」

 ペッタンコになって口を尖らせている妹系天使が、何やらぶつぶつと不満を漏らしていた。

 

 

 そこからまた、難しい話あり、楽しい話あり、くだらない話あり。要するに、ただの【雑談会】が3時間程度続いただろうか。

 

 伊藤さんが、改めて会議をすると言い出した。メンバーは、伊藤さん、金田さん、つーくん、美紀さん。

 

 優理の事が気になって仕方がない俺。伊藤さんの事が気になって仕方がない優理。同じく瑠依ちゃん。優理の事と、それと、たぶんきっと、俺の事も気になって仕方がないはずの唯ちゃん。

 

 この4名を除く形で作戦会議をやると言い出したのだ。

 

 確かに、瑠依ちゃんは会議に参加しても意味なさそうだし、意味ないどころか邪魔になりそうだ。唯ちゃんもあまり興味はなさそうだったし。今の優理は伊藤さんの事しか見えていない、ただの恋するバカだ。

 

 俺はちょっと不満だけど、確かに、この人選は頷ける。頷くと同時に、自分で自分が情けなく、この子供達と同レベルと思われるのが悔しかった。

 

(まぁ、仕方ないか、会議する4人は誰かと一緒にいたいとか、そんな理由でここに残ったわけじゃなさそうだしな)

 

 そんな4人にしてみたら、こっちの4人はずいぶんと頼りなく映るのだろう。

 

「美紀ねぇだけずるーい! ズルーイズルーイ」

 ブーブー言う瑠依ちゃんを宥めながら、会議メンバーが席を立つ。

 

 

「ンンー」

 

 伊藤さんが大きく両手を挙げて、背伸びをする。

 

 流石にこの中では最年長。

 

 アラフォーに差し掛かる人にとって、3時間もベンチに座って雑談会はきつかったのかもしれない。

 

(中村さんほどおっさんって訳じゃないけど、俺に比べたらどう考えてもおっさんだよな)

 

 そんなおっさんに負けている自分が悔しい。

 

 

「さて、いくね」

 

 テーブルを離れようとする伊藤さんの隣に3時間も座っていた優理は、それでもまだ不満気で無言のまま顔を向け何か訴えている。

 

「ったく……あとでね♪」

 

 そんな優理に、ため息が混じった優しい言葉をかけると、軽く2回、頭をポンポンして席を後にした。

 

 

(事件です!! これはセクハラだっ!!)

 

 

 優理の反応は、耳まで真っ赤にして伊藤さんの背中を見つめている。

 

 

「ずるーい!! 瑠依も!! ねー待ってよ~! 瑠依もポンポンしてよ~!」

 

 小屋に入る伊藤さんを追いかけた妹系天使は、到達する手前で女神さまに捕獲されていた。

 

「大事な話するんだから待ってろ! 終わったらしてもらえっ!」

 

美紀さんに捕獲され説得された瑠依ちゃんは、不満たらたらでテーブルに戻った。

 

 

「ふふっ♪」

 

 唯ちゃんが楽しそうに笑う。

 

 

「もう~、唯先輩はいいじゃないですか、石島さんはこっちチームだもん」

 

 

(お、やっと俺の話題か!)

 

 ここまでずっと蚊帳の外。勢いで端末を吹っ飛ばして残ってみたはいいけれど、なんだか自分が頼りないと思う事ばかりだ。

 

 

「ふふっ♪ じゃぁ瑠依ちゃんには優理を貸してあげる!」

 

 

「言われなくてもそのつもりですよーダ」

 

 

 そんな頼りない俺の話題は、2秒と持たずに終わってしまった。

 

 

 

「え? 何? あれ? なんか言った?」

 

 何かに気付いたように、優理がキョロキョロと唯ちゃんと瑠依ちゃんを交互に見ている。

 

(完全に上の空だったな……はぁ、なんかショック)

 

 

 2人の話を全く聞いていなかった優理の横に、瑠依ちゃんが座った。

 

 

「あ~ぁ~、なんか疲れちゃったなぁ」

 

 座るなり、疲れたと言いながら優理にもたれ掛った。

 

 

(うわー、写真撮ったら売れそうな絵だわ、天使姉妹!)

 

 体を預けてくる妹系天使の肩を抱く、超可愛い姉系天使。

 

「ねぇ、優理先輩?」

 

「ん?」

 

 

 少しの間があった。

 

 

「あのね、瑠依の事、嫌いにならないでくださいね……」

 

 そのまま目を閉じてしまった。

 

 

「バカっ、こっちの台詞だよ、ありがとう、るいちゃん」

 

 優理はそんな妹系天使を愛おしそうに、頭をナデナデしている。

 

 

「瑠依、優理先輩の事……大好きですからね……」

 

 余程疲れていたのだろう、言いながらフェイドアウトするように眠ってしまった。

 

 

 優理は少し体制をずらし、スヤスヤと可愛い寝息を立て始めた瑠依ちゃんを膝枕で寝かしつけると、唯ちゃんを見て小声で話し始めた。

 

 

「変わんないね、この甘えん坊」

 

 優理の膝の上で寝息を立てる瑠依ちゃんを、唯ちゃんは優しい目で見つめている。

 

「そうだね、あんまり歳かわらないのにね、優理には昔っからそんなだよね」

 

 

(この子達、けっこう昔からの一緒にいるんだ……)

 

 

 昔話が始まっちゃったら、俺はますます蚊帳の外だ。かといって、わざわざ席を外すのも違う気もするし、難しい状況に置かれてしまった。

 

 

 唯ちゃんは立ち上がると、備品が入っている箱からタオルを持ちだしてきて、瑠依ちゃんにそっと掛けてあげた。

 

「昨日はあんまり寝てないし、昨日も今日も泣きっぱなしだもんね瑠依ちゃん」

 

 

「原因は私だよね……」

 

 

 なんだかシンミリしてきたけど、このまま蚊帳の外も辛いし、一言二言交わして少しこの場所を離れようと思った。

 

 

「いやいや、原因は伊藤さんっしょ」

 

 冗談のつもりで言おうと思ったけど、なんだかけっこう本気で言ってしまった。

 

 事実、瑠依ちゃんも優理も、泣かされているのは伊藤さんだ。

 

(あのチョイ悪モテおやじめ!)

 

 

「ふふっ♪」

 

 唯ちゃんは少し笑ったけど、優理は全く反応がない。

 

「それ、優理は笑えませんよ石島さんっ、ふふふっ♪」

 

 唯ちゃんはとても面白そうだ。

 

 

「もう~、唯ぃ~、笑うなし」

 

 唯ちゃんに文句を言った優理は、ゆっくりこっちを見る。

 

「一瞬でも「ちょっとカッコよかった」とか、思った私がバカだったわ」

 

 言いながら首を左右に振る。

 

「瑠依ちゃんが膝の上にいてよかったね、石島さん♪」

 

 真面目な顔してそんな怖い事を言った。

 

 

「え!?」

(なんか怖いんですけど!?)

 

 

 小屋から会議組が出てきた時には、もう日が傾いていた。

 

 

「おっまたせ~」

 

 最初に出てきたのは金田さんだった。その声に目を覚ました瑠依ちゃんは、まだ寝ボケている様子だった。

 

 

(いい、お寝ボケ妹系天使! 最高!)

 

 

 伊藤さんは「ちょっと寝る!」と言ったきり、そのままぶっ倒れたそうだ。仕方ないと思う。昨日、深夜に優理を背負って山道を歩いてきた上に、今日もかなり早起きしていた。

 

 

「伊藤さんのテントっ、伊藤さんのテントっ」

 

 つーくんが小屋から出てきてキョロキョロしている。

 

「なんのテントだ! どんなテントだ!? あひゃひゃひゃ」

 

 

「もう! 金田先輩、伊藤さんのテントどれでしたっけ?」

 

 つーくんは金田さんに伊藤さんのテントを教えてもらうと、中身をゴソゴソと漁ってタオルを取り出した。

 

 

「わお、剛左衛門やっさしい~」

 

 茶化す金田さんに、つーくんがニヤニヤしながら耳打ちするが、耳打ちしたくせに声は大きく、みんなに聞こえていた。

 

「美紀さんが持って来いって!」

 

 このつーくんの一言に、寝ボケ天使が覚醒、弾丸のように飛び出した。

 

「ダメ! 瑠依がもっていく!」

 

「こら、寝てるトコに瑠依ちゃんが行ったら煩いでしょ! 私がいくからいい!」

 

 覚醒した寝ボケ天使を、もう1人の天使が追いかける。

 

 同時に走り出した2人は、つーくんからタオルを奪い取ると、今度は奪い合いを始めた。

 

 

「ヤダー、瑠依がいグぅ~」

「貸しなさい~」

 

 

 そんな二人の争いを笑顔で見ながら、唯ちゃんが席を立つ。

 

 席を立った唯ちゃんは、さっきまで瑠依ちゃんが寝ていたタオルを持つと、そのまま小屋の入口で美紀さんに手渡していた。

 

 

「あれ? なんでー?」

 

「もう、瑠依ちゃんのせいだからね!?」

 

 

「二人ともっ」

 

 文句を垂れ流す2人に、唯ちゃんが珍しくキリッっと呼びかけた。

 

 

「こんな状況下で伊藤さんは皆にとって大事な人なんです、子供みたいなワガママ言わない! 特に優理! ちょっとは反省しなさい!」

 

 

(皆にとって大事な人か……)

 

 唯ちゃんの言葉に妙に納得してしまった。

 

 

(確かにそうだ、あの人がいればこの先どうにかなりそうな気がするよな……)

 

逆に言えば、伊藤さんがいないと駄目そうな気もしている。

 

 

「はぁ~い」

 

「ごめん、唯」

 

 

 素直に謝る二人。と、思ったら、瑠依ちゃんだけニヤーっと笑った。

 

「伊藤さん、瑠依の使ってたタオルで寝るんですね? ねっ!? 瑠依の香りに包まれて寝るんですね? キャー♪」

 

 キャーキャー喜びながら一人で楽しそうな瑠依ちゃん。

 

「唯、私反省した、あの子と同レベルで張り合ってたら疲れちゃうや……ハハハッ」

 

「うん……そうだね、ハハハッ」

 

 優理と唯ちゃんはお互いに、わざとらしい【乾いた笑い】で感情を共有していた。

 

 

「――とゆうわけなんで、皆それぞれ大変だとは思うけど、理解と協力と努力をお願いします! って事で!」

 

 

『はい!』

 

 

 会議で話し合った事のうち、割と簡単な事項だけをドバーッと説明してくれたのは、つーくんだ。この役をわざわざ、つーくんにやらせたのは、これから中心メンバーの一人として活躍させようとしてる意図があるのだろうか。

 

 まだ聞いてない事も沢山あったけど、それは伊藤さんからって事になっていた。

 

 

 また皆でテーブルに着いた。伊藤さんの寝ているであろう小屋から、美紀さんが出てこないもので、落ち着かない人が2名いる。

 

 さっき唯ちゃんに怒られた2人は「それとコレとは別!」と言いながら、今度は協力体制で小屋の中を監視している。

 

 

「金田先輩、どんどん出番なくなっていきますよ?」

 

 つーくんと金田さん、それと俺の3人で、特になんてことない会話が始まっていた。

 

「ホントっす、ここ何話か出番が数行っす」

 

 つーくんの問いかけに、金田さんは意味の分からない返答をしている。

 

 

(会議メンバーなんだから、出番あるでしょうに)

 

 そう思ったので、不満そうな金田さんに問いかけてみる。

 

 

「金田さん俺より出番あるでしょう、俺ずっと蚊帳の外ですよ」

 

 ホントに、ちょっと悔しかったんだ。

 

 

「いやいや、会議の中でさ、石島ちゃんはかなり重要なポイントになったわけよ」

 

 

(え?)

 

 

「そそ、俺達の要になるかもしれない、よーくんはそんなポジションかもね」

 

 

(なんで?)

 

 

 俺なんかより、ずっと頭のいい3人を差し置いて、俺が要になる訳がない。

 

 

「主人公って事さ、俺たちゃ脇役ってわけ」

 

 金田さんが何故か、ちょっと誇らしそうに言った。

 

 

「どう考えたって、伊藤さんが主人公って感じじゃない?」

 

 当然そうだと思っていた。だから言ったんだけど、どうも会議の中では全然違う方向になったらしい。

 

 

 何が可笑しいのか、つーくんが「プッ」っと笑うと。

 

「確かに、伊藤さんが主人公っぽいよね、特にモテっぷりがさ」

 

 

「あひゃひゃひゃ♪ほんと、モテっぷりは敵わねぇよ、ありゃ勇者様レベルだ! あひゃひゃひゃ」

 

 

(つーくんの言う通りだよ……俺なんか超脇役じゃん)

 

 

「でもさ」

 

つーくんが言葉を続ける。

 

 

「伊藤さんが自分で言ってた事、言われてみて俺も、金田さんも、美紀さんも、なんとなくわかったよ」

 

 

(何を話したんだろうなぁ……気になるなぁ)

 

「なんて言ってたの?」

 

 ストレートに聞くのが一番だと思った。

 

 

「んー、まあ、ちょいと要約するとさ、あの人はね、縁の下の力持ちが理想なんだってさ、先頭を切って我武者羅に走るのは向いてないんだってさ」

 

 

 つーくんは俺を正面から見る。

 

 

「あの時さ、直感を信じて優理ちゃんの端末吹っ飛ばしたろ? あれ、伊藤さんは絶対出来ないって言ってた」

 

「俺もできねぇなあれは、あひゃひゃ」

 

「そ、もちろん俺も出来ない、よーくんだから出来たんだよ」

 

 

(あんな行動1個で、俺が主役?)

 

「めっちゃかっこよかったですよね、あの時のよーくん」

 

 つーくんは俺を褒めると、金田さんに同意を求めた。

 

 

(あれ? なんか話がそれたような……)

 

 

「男前だったぜぇ、石島ちゃん!」

 

 

 金田さんは唐突にテーブルの上に立つ。

 きちんと靴を脱いだあたり、この人は見た目に反してキチンとした育ちなんだろと思う。

 

 

「『優理を残して一人で帰ったら、一生後悔するだろ!』って、ひゃっひゃっひゃ」

 

 

(うおい! 俺のモノマネかよ!)

 

「ぬあ! やめて下さいよ金田さん!!」

 

 

「え? もっかいやる? あひゃひゃひゃ」

 

 

「ダメです! だめー!」

 

 

 俺と金田さんのやり取りを見て、つーくんがニヤリと笑う。

 

「じゃぁ俺がやろうか!?」

 

(なーーーーーー!)

 

「だめだめ! やめてー!」

 

 

 チラっと優理の事を見てみると、多少ではあるが気まずそうな顔をしている。

 

 

「昨日まで「佐川さん」とか言ってたのにね、突然「優理」とか呼び捨てだからね、やるよね~よーくん! アハハッハッ♪」

 

 

(もぉぉおおお)

 

 完全に弄られてる。

 

 

「もう! 怒るよ!! ウガー!」

 

 照れ隠しでもう、ふざけるしかなかった。

 

 

「ふふふっ♪」

 

 そんな俺達を見て、唯ちゃんは上品に笑っている。

 

 

「よーくん、俺さ!」

 

 つーくんが突然、真顔に戻る。

 

 

 両手を挙げて「ウガー」なんて襲いかかるポーズをした所に、そんな顔で急に声かけられたら固まってしまう。

 

 

 俺はゆっくり、両手を下ろし、つーくんの言葉を待つ。

 

 

「俺、たぶん、しばらく皆と離れて行動する事になると思う!」

 

『え?』

 

 4個かぶった。俺に向けて話した事だけど、皆に聞こえていたので、金田さん以外の4人が同時に驚いた。

 

 つーくんの瞳に、何か決意のような物が光る。

 

 

「剛左衛門!」

 

 金田さんがつーくんに近づくと、両肩を掴む。

 

「後悔しても知らんよ?」

 

 

「うん、いいよ」

 

 

 

「ブッ」

(おいおい!勘弁してよ!)

 

 ちょっとおカマ口調での「うん、いいよ」が面白すぎて、俺もついつい吹き出してしまった。

 

「ブーーー! ギャハハハッハ」

 大爆笑するつーくん。

 

 

「あひゃひゃひゃひゃ」

 金田さんも大爆笑。

 

 

「ふにゅ?」

 頭から「?」が飛び出して見える瑠依ちゃんと、同じく無言で首を傾げる唯ちゃん。

 

 

(おおおい、それはダメだろぉ)

 

 優理は下を向いたまま、耳まで真っ赤にしている。

 

 そんな時、小屋の戸が開いて伊藤さんが出てきた。

 

「んー、寝過ぎた! おはよう地球の諸君!」

 伊藤さんの姿を見た瑠衣ちゃんの顔がパッと明るくなった。

 

「おはよー伊藤さん! ホレ、ほれほれ、ポンポンしてポンポン♪」

 

 伊藤さんの足元でピョンピョンと、ウサギのように跳ねながら頭を差し出す瑠依ちゃん。

 

 

 伊藤さんは、最初はうっとおしそうな顔をしたけど、ひたすらピョンピョン飛び続ける瑠依ちゃんに根負けしたらしい。

 

 苦笑しながら頭をナデナデしてあげていた。

 

 

「ふわ~い♪」

 

 

 撫でられて気をよくしたのか、瑠依ちゃんはそのまま抱き着くように伊藤さんにしがみ付いてスリスリしいる。

 

 そんな瑠依ちゃんは気付いてなかったようだけど、遠目に見ていた俺はすぐに気付いた。たぶん、優理も気づいたと思う。この状況で何も言わないのは、瑠依ちゃんの行動よりも伊藤さんの異変の方が気になったんだと思う。

 

 目が、違う、なんとなく。

 

 もう日は落ちかけて辺りは薄暗く、ちゃんとは見えないけど、なんとなく。

 

(あれ?……赤い……泣いた? 寝起きなだけ?)

 

 伊藤さんの真っ赤な目に、優理は吸い寄せられるようにフラフラと駆け寄った。

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