第12話 平和な朝
夜も深まり、辺りは真っ暗だ。真っ赤な目の伊藤さんは、小屋から出た後、残った俺達に指示を出した。
唯ちゃんと瑠依ちゃんは、このキャンプ内の備品管理と衛生管理を担当。俺と優理は、このキャンプで使用する消耗品の管理とメンテナンス、それと【補充】である。
この補充が厄介な仕事になりそうだ。元の時代から事前に転送されている飲み水は、23名が4日間過ごせる程度の分しか用意されていない。人数が減ったので多少は融通が利くと思われるが、それでも余裕があるわけではない。
それと、夜間に使用する明かりだ。なにやら丸っこい電池は、話に聞いているだけだと万能電池だが、やはり内容量には限度があるらしく、年単位で考えたら少しでも節約するべきという結論に達した。
その為、今日は月明かりが出ているので照明は完全に落としている。
節約もあるが、あまり明るいと遠くから発見されてしまう危険性が高まるので、あえて消しているという側面もある。節約を考えた場合、晴れている日は山を歩いて薪拾いをしないといけないだろう。
伊藤さん、金田さん、つーくんの3人の役割については、もう少し煮詰めてから公表するとの事だ。
蚊帳の外なのは悔しいけど、これはもう任せるしかない。
肝心の伊藤さんの目は、何だか突っ込んで聞くのも悪い気がして、そのまま見なかった事にした。金田さんもつーくんも気付いているはずなのに、何も言わない。
それは、俺と同じく気付かない振りなのか、それとも理由を知っていて隠しているのか。
伊藤さんの異変に気付いた唯ちゃんは、自然に瑠依ちゃんを引き離すと、そのまま瑠依ちゃんとアレコレ今後の事で打ち合わせ中だ。
「お仕事ですね! 瑠依がんばります!」
唯ちゃんの扱いが上手なのと、伊藤さんから「ちゃんと仕事してくれたらまた頭撫でてやる」と言われて張り切っているのだ。
俺と優理も打ち合わせをした。
だが、俺の提案で簡単な打ち合わせだけ済ませ、決め事の殆どを明日に持ち越す事になった。
理由は二つ。
唯ちゃんから、なるべく早く優理を解放するように言われていた事。もう一つは、打ち合わせが始まった瞬間から、優理が打ち合わせどころじゃないくらい、伊藤さんを気にしていたからだ。
(俺でも気になるくらいだからなぁ、優理は気になって仕方ないんだろうな)
昨日の夜に比べると、多少は明るい。
月明かりのせいもあるが、今夜は昨日のようなトラブルが無いからだろうか。トラブルが無いと言っても、ここに取り残されている8人は、もう十分すぎるほどトラブルの渦中にいる気もする。
優理との打ち合わせを早々に終わらせた俺は、ソーラー充電が可能な手元用の小さなライトをテーブルに置き、消耗品のリストと睨めっこしている。
しかし、全く集中できない。
原因は、俺の目の前に座っている美紀さんだ。
美紀さんのお仕事は、俺達4人の仕事の統括と、なんの為の係かよく分からないが【連絡係】というポジションになっている。
テーブルを挟んで向かい合い、美紀さんは「私が作ったリストじゃないから、私も一応確認させてほしい」と言いながら、逆さまから消耗品リストと睨めっこしているのだが、小さなライトでは暗く、どうしても身を乗り出す感じになる。
俺と美紀さんの頭は、今にもぶつかりそうな距離なのだ。
(いい匂いだ……いい谷間だ……全然集中できん……)
どう頑張っても、資料を見る目は徐々に谷間に奪われていく。
しかも、大人な美紀さんのそれは、優理はもちろん瑠依ちゃんと比べても確実に大きい。
(本物の巨乳だ……しかも隠れ巨乳とは、鼻血でそう)
普段はそれほど感じなかった。着痩するタイプなのだろうか、服の上から見ても巨乳だとは思わなかったが、近くで谷間を拝見すると、圧倒的な迫力だ。
自制心を働かせて資料に目を戻した時には、さっきまで見ていた箇所が分からないという悲惨な状況。
(大人のフェロモンってやつかぁ~、こりゃイカン)
俺と美紀さんから少し離れた位置で、伊藤さんと優理が話し込んでいる。
別に深刻そうな話は無さそうだ、時折、優理の「アハハハッ♪」が耳に飛び込んでくる。
(よし、俺も頑張って巨乳女神様と打ち解けておこうかな)
「美紀さん、テレビは何をよく見てました?」
歳が近いから、平凡な話題でもどうにかなりそうな気がする。頭がぶつかりそうな距離で尋ねたので、聞こえてないわけがないのだが、返事が無い。
気になって顔を上げて美紀さんを見てみると、ずいぶん至近距離で目が合ってしまった。
(近っ! 女神さま近っ!)
「もう一回! いまなんて言った? ごめん、聞き取れなかった」
とても不思議そうな顔で此方を見ている美紀さん。
(ん? 考え事でもしてたかな?)
もう少し分かりやすく聞こうと思った。
「好きなテレビですよ、ドラマとか、お笑いとか」
「て……れび? んー、ごめん、ドラムは分かる、楽器でしょ?」
なんだか会話が成立していないらしい。
「あ、いやぁ~、あれ?」
「ん~っと、実際には単体の打楽器から、打楽器の集合体までをドラムと呼んだり、なかなか興味深いよね」
美紀さんはそう言うと。
「あなた達の時代については、多少は勉強してあるでしょ?」
なんだか誇らしげな女神の微笑みを見せてくれた。
(なんだかなー、これが300年の隔たりか)
伊藤さんは何故、あんなに簡単に優理の笑を引き出せているのだろう。俺は美紀さんとの会話が上手くいかないまま、ただ女神の谷間を眺めて夜を過ごしていた。
その夜は、みんなで揃って小屋で寝た。元々、サポートの子が8名で使っていた小屋は、縦に4段のベッドが2ヶ所、壁に設置されており、俺達8人にピッタリだったのだ。
女の子達と同じ部屋で寝るのは妙にドキドキしたが、そんなピンク色の期待も虚しく、室内は金田さんのイビキに占拠されていた。
金田さんのイビキの合間に、瑠依ちゃんの「スースー」と可愛い寝息が聞こえてくる。唯ちゃんは既にすっかり夢の中っぽい。
つーくんもどうやら寝てしまったようだ。
「だから嫌だって言ったのに、俺やっぱテントいくわっ」
伊藤さんはムクっと起き上がるとフラフラと外に行ってしまった。
(けっこう神経質なんだな伊藤さん)
そもそも伊藤さんはテント派だった。
皆で寝ようって言い始めたのは瑠依ちゃんで、伊藤さんはそれを全力で拒否していたのだが、その理由が金田さんのイビキだったとは知らなかった。
伊藤さんに小屋で寝ると言わせたのは美紀さんで「伊藤さんが一人でテントに寝るなら、私もお邪魔して二人で寝ようかな」なんて脅したのだ。
渋々、小屋でベッドに入った伊藤さんだったが、金田さんのイビキに耐えかねたらしい。
伊藤さんが出てからしばらくして。
「きっつい、私も空いてるテント使わせてもらうわ」
美紀さんが眠そうに目をこすり、自分の使っていたタオルを片手にゆらゆらと外にでる。
――数分後。
「やばい! 油断した!」
そう言って飛び起きた優理が、タオルを片手に美紀さんを追いかけて行った。
(ホント……伊藤さんはさぁ……いいよなぁ)
俺はそんな優理の事が気になったけど、あまり気にしていたら身が持たないと思い、さっきまで脳裏に焼き付けておいた女神の谷間を思い出しながら寝てしまう事にした。
実際に疲れていたんだと思う。
俺は楽しみにしていた谷間を妄想をする間もなく、一瞬で眠りに落ちてしまった。
――明け方
目が覚めると、まだ空は薄暗く、早朝というよりは明け方といった具合だ。外に出た3人が気になって、俺も勇気を振り絞って外に出てみる事にする。
(うを!? サービス満点だ!)
上から2段目で寝ていた唯ちゃんは、暑かったのかタオルを掛けず、部屋着もはだけてお腹が丸出しである。
(女の子と同じ部屋とか、目の保養にはなるけど、体には悪いな)
我慢は体に良くないと聞いたことがある。1人になる時間もあまりなさそうだ。
(薪拾いの時くらいだなぁ)
この生活は、煩悩との戦いになりそだ。そんな事を考えながら小屋を出る。
「さぶっ」
実際にはそれ程寒くもないのだが、少し暑いくらいだった室内と比べると外はやたらと涼しく感じた。
300年後の技術で作られた簡易キャンプ。プレハブに近い設計のはずの小屋でさえ、しっかりとした断熱効果と気密性があるようだ。
外に一歩踏み出し、涼しさと一緒に感じたのは、何が燃える臭い。朝靄に混ざってハッキリとは分からないが、煙りも出ている様子だ。
(火事!?)
神経を尖らせて周囲に気を配る。
「あら?」
「!?」
(美紀さんか……びびったー)
「石島さん早いね、おはよう」
集中した途端に後ろからの声をかけられ、俺は心臓が飛び出す程に驚いたが、ここはバレないように取り繕う。
「お、おようございます、美紀さんも早いですね」
「驚かせちゃったかな? 悪い悪い♪」
確かにとても驚いたし、余裕でバレて恥ずかしいけど、そのおかげで朝から女神様の優しい笑顔が見れたと思えば安い物だ。
優しい笑顔の女神様は、両手で大き目の箱を抱えながら「アッチ」と言う感じに顔で方向を指し示すと、自身もそちらへ向けて歩き出す。美紀さんに連れて行かれた場所は、簡易キャンプのすぐ近く。朝靄の中に入ると、少し窪地になっている場合がある。
その中央部では、地面にしゃがみこんだ伊藤さんが小さな焚き火に手をかざしていた。
「お!? 石島くん早いね、おはよう」
「おはようございます」
俺は挨拶を返しながら(美紀さんと全く同じ挨拶するんだな)なんて思っていた。
美紀さんは持ってきた箱からペッタンコに折り畳まれたシートのような物を取り出すと、俺と伊藤さんに渡す。
「ここをね、こうするの」
こちらに見えるようにシートの端に付いている小さなコックを捻る。
〈ぽんっ〉
シートは、俺の目の前でやや厚みのある大き目クッションに早変わりした。
「おぉ、エアクッションか、いいねいいいね」
〈ぽんっ〉
伊藤さんもすぐにそれを膨らませると「もう一個ない?」と美紀さんからもう一つ受け取っている。
「なんか、過去に来たのに未来の物を使うって変な気分ですよね」
俺は言いながら〈ぽんっ〉と膨らませたクッションに座る。
「本来は候補者の皆さんに貸与していい物ではありませんが、この事態ではそんなルール関係ありませんからね」
俺や優理に対しては男勝りな感じで、ちょっとお姉さんな雰囲気がある美紀さん。
(俺はそんなに変わらないんだけどなぁ)
伊藤さんに対しては、目上の人に対する接し方をしている感じが伝わってくる。かといって遠慮がちな訳でもなく、変に遜る訳でもなく、妙に相手を持ち上げるでもなく、とても自然な振る舞いなのだ。
(美紀さんってお嬢様なのかな、育ちが良いって感じがするな)
二つ目のクッションを膨らませた伊藤さんは、並べたクッションの上に片肘を付き、頭を手で支える横向きの状態で寝転んだ。
「火って温かいよね~」
伊藤さんは空いたほうの手で、焚き火の周りに落ちている小枝を火の中に放り込んでいる。
わざわざこんな場所で焚き火をしている割に、会話がない。(俺が邪魔なのか?)と思ったけれど、ここに俺を連れてきたのは美紀さんだ。
しばらく沈黙が続いた。その沈黙は決して嫌な雰囲気ではなく、時折パチパチと音を立てる小さな焚き火に照らされて、眠気を誘う沈黙だ。
しばらくして、美紀さんが思い出したように口を開く。
「伊藤さん、優理の事けっこう好きでしょ」
(!!??)
突然切り出した質問に驚いた俺は、とっさに美紀さんの表情を確認していた。その表情は俺の想像とはかけ離れていて、なんだかニコニコと楽しそうだ。
「ん、まぁそうだね、そりゃそうでしょ」
(サラっと言ったぁぁぁぁ!!)
伊藤さんの回答にも驚いた俺は、今度は伊藤さんの表情を確認してみる。
(わからん……この人はホントわからん)
いつもと同じ、特に変わった様子がない。
そんな伊藤さんの真意を測り切れていないのは、俺だけではなく、美紀さんも同じようだ。
「ずるいなぁ~、そうゆう事じゃなくてですよ?」
まだニコニコ顔の美紀さんの表情は、伊藤さんの読めない態度さえ楽しんでいるようだ。
「そうか、質問を変えましょう♪」
とても楽しそうに焚き火越しに質問を重ねた。
「昨晩、私が行かなかったらどうなってました?」
(なんだ? 優理と伊藤さんなんかあったのかな?)
心臓が少しだけドキっとした。
美紀さんのその質問に、伊藤さん半笑で即答する。
「美紀ちゃん、意地悪やめてあげてよ、石島くんが卒倒しちゃうよ」
(え? 俺??)
「アハハハッ♪ ごめんごめん、ぼーっとしてたからちょっと意地悪したくなった、アハハハッ♪」
(からかわれた!?)
仕方がないと思う、俺が優理に惚れている事なんて、もう周知の事実だろう。
「やめてくださいよ、一応年下なんですから優しくしてください」
答えた俺も、伊藤さんと同じように小枝を火に放り込みむ。
美紀さんのニコニコ顔は、徐々にニヤニヤ顔に変わっていく。
(まだ何かあるのか!)
昨日から、何故か弄られキャラが定着しつつある。年齢的な物だろうか、今いる8人の中では中間なのが俺とつーくんだ。
真ん中というのは、上からも下からも弄りやすいのだろう。弄られキャラが嫌と言うわけではないが、弄られっぱなしも悔しいので話題の変更に挑戦してみる事にした。
「ところで、優理はどうしたんですか?」
俺のこの質問が、墓穴を掘る事になる。
答えてくれたのは美紀さんだった。
「まだ寝てるよ~、伊藤さんのテントで♪」
「えっ!?」
普通に声に出して驚いてしまった。
俺の反応がよほど嬉しいのか、ニヤニヤ顔の女神様はさらに衝撃的な言葉を続ける。
「ちなみに、私も伊藤さんもさっきまで寝てたよ、伊藤さんのテントで♪」
「はい!?」
(なになになになになに!? どうして!?)
完全に目が泳いでいる俺に、伊藤さんが真面目な顔で語りかけてきた。
「早朝からこんな話題で悪いな、でも石島くんも大人だし、どうゆう状況かは理解できるよね?」
(ぇぇぇえええええええ!?)
伊藤さんの言葉に、俺の思考回路は完全にショートし、停止した。頭を振って復旧させるが、正常とは程遠い。
(ささ……ん、さん……ぴ?)
改めて伊藤さんを見ると、下を向いて肩を小刻みに震わせている。
(皆が寝てる間にテントで? そんなのあり?)
「プッッ、アハハハ♪ ダメだ限界、アハハハ♪」
美紀さんが唐突にお腹を抱えて笑い始めた。
「ブハッ! ギャハハ♪ 石島くんいいよ面白いギャハハ」
こちらも吹き出した伊藤さん。下を向いて肩を古させていたのは、笑いを堪えていたらしい。
「石島くんごめんごめん、冗談!」
伊藤さんは涙を流して笑った後、起き上がって俺の肩をポンポンと叩くと、またクッションに寝っころがった。
「まじで勘弁してください! びっくりした」
(ほんと弄られキャラだな……まいったなぁ)
「でも伊藤さんのテントで寝たのはホントだよ? 私も優理も伊藤さんと一緒に寝たんだ♪」
「え? え? 冗談じゃなくて? え?」
(なに? もーなんだよ!)
俺は訳が分からなくて、気付いたら伊藤さんを直視していた。
「おいおい、そんな顔で見るなって、美紀ちゃん説明が足りないでしょ」
苦笑交じりの伊藤さんは「そろそろ靄が晴れるぞ」と言いながら、長めの枝で焚き火を少しずつ薄く広げ始めた。
「アハハハッ♪ 石島さんて面白いね」
「なんか、昨日からすっかり弄られキャラですよね俺」
もう、苦笑で返すしかなかった。
美紀さんは俺の顔をマジマジと見つめながら。
「これでもう少し【ビシッ】としてたらモテるんだろうけどなぁ」
言い終わると伊藤さんを手伝い始める。
「たしかに顔は点数高いのよね」
火の子をパチパチと飛ばしながら、さりげなく俺を褒めてくれた女神様。
(女神様も魅力的だなぁ、年上も悪くないか)
俺の思考回路は本当にどうしようもなく下衆らしい。
焚き火を広げながら、美紀さんは昨夜の状況を色々と説明してくれた。伊藤さんは小屋を出た後、自分のテントで横になり。美紀さんは近くの空いたテントを使って横になったそうだ。
数分して現れた優理は、半分寝ぼけてて判断力も落ちていたんだろう、躊躇する事なく伊藤さんのテントに頭を突っ込んだらしい。飛び込んだ目的は、美紀さんから伊藤さんを守るため。
ところが、伊藤さんのテントには伊藤さんしかおらず、目を丸くして頭から「??」を噴火させている優理と、同じく状況を理解できない伊藤さん。
「あれれ? 美紀ねぇは!? あれ?」
優理のその声で気付いた美紀さんが伊藤さんのテントに向うと、テントからお尻を突き出した状態で固まっている優理を発見したそうだ。
「優理、あんたまさか、夜這いを仕掛けるほど大胆だったとは思わなかったよ」
「へ?」
その時の「へ?」の表情は、今思い出しても笑が込み上げてくる程だと、美紀さんは笑いながら話す。
結局、少し肌寒くなってきた事もあり、3人でテントに入って寝る事にしたらしい。その流れがよく分からないが、伊藤さんを真ん中で寝たわけじゃないらしく。
優理を挟む感じで川の字で寝たとの事。明け方、美紀さんが目を覚ました時には、伊藤さんの姿はなく。
寄りそうように寝ていた美紀さんと優理には、他のテントから集められたと思われるタオルやら、伊藤さんのスーツの上着がかけられて温かかったそうだ。
「上着は優理だけにかけられてたけどね?」
そう強調しながらも、どこか満足気な美紀さん。
美紀さんが外に出た時には、伊藤さんは既に焚き火を始めた所で、地面に座るのは寒いだろうからとクッションを取りに行った所で俺と出くわしたそうだ。
「3人で寝ても、なのか、3人だったからなのか、石島さんの妄想するような事はなかったよ♪」
そう締めくくった美紀さん。
「そうだったんですか、伊藤さんってやっぱり紳士なんですね」
(俺がその状況だったら興奮して絶対寝れない自信あるわ)
2人きりだったらもしかしたら状況は違ったかもしれない。それにしても、ここまで紳士だと金田さんの冗談が現実味を帯びてくる。
伊藤さん【オネェ】疑惑だ。
「あのね、そんなに紳士だったらちゃんと寝れてます」
枝で焚き火を突っつきながら、伊藤さんは言葉を続けた。
「もうね、ぜっっんぜん寝れなかったわ、金田くん起きたら小屋で寝るからね! 起こさないでね!」
(伊藤さん、やっぱ男だな)
「アハハハッ♪」
美紀さんの笑声と、俺の苦笑と、伊藤さんの欠伸。なんだか平和すぎる朝だ。戦国時代に取り残された実感なんて、持てと言われても無理だと思った。