ゲームチェンジャー   作:のなもちとちみ

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第1幕 GAME1 【未来からの使者】
第1話 思い立ったが吉日?


■西暦2015年

 岐阜県 □□町

 

 

――思い立った。

 

(そうだ、やめてしまおう)

 

 仕事に行くのを諦めた俺は、駅とは逆方向にフラフラと歩いてる。行けば行くほど寂れた景色が広がり、田舎と言うよりも廃村に近い状況になってしまう。

 

 

 こんな長閑な田舎町に住む俺にも、妖怪月曜日は容赦なく襲い掛かってくる。特に天気のいい月曜の朝に襲ってくる妖怪は、何故かやたらと強敵だ。戦うこっちは本当に憂鬱になる。

 

 無駄に明るい太陽に八つ当たりをしたい気分にさえなってくるが、太陽と喧嘩しても勝てる気がしないのでやめておく。

 

 

「はぁ……」

 

 ため息しか出ないと言うべきか、ため息ならいくらでも出せると言うべきか。

 

 

(めんどくさい……やめちまおう)

 

 前々から考えていた事ではあったが、やっぱり実行に移す事にしようと思う。

 

 

「春かぁ」

 

 当たり前の話しであるが、春である。

 

「あったかいな」

 

 

 思わず漏れた独り言がおかしくて、一人でニヤリと笑ってしまった。さっきは憎らしかった太陽も、ちょっと心持ちが変われば気持ちがいい物だ。

 

 

 ここは確かに山里ではあるが、割としっかり整備された国道が通っている。

 

 そしてこの国道が通る渓谷は、四季折々の風景を楽しめるちょっとした名所らしい。特に紅葉を楽しめる秋には沢山の人が訪れるのだが、桜が散ってしまった後のこの時期は閑散としていて人がいない。山向こうの街まで荷物を運ぶトラックが通る程度なのだが、今の俺にはそのほうが都合がいいのだ。

 

 

 人がいない、車もほとんど通らない。

 

 もちろん、そんな場所には警察さんも滅多に来ない。だからこそ、たまに通る車はどれも結構な速度で走り抜けて行く。

 

 

(よし、やめちまおう)

 

 

 改めて決意なんて必要ない。

 

 もう、ずっと前からそのつもりだったから。

 

 

 国道沿いの歩道に立ち右方向を観察、お目当てのソレが来るまで待っている事にした。

 

 

 時折吹き抜けていく春の風は、少しだけ夏の匂いを運んで来ているようだった。

 

 

 あまり長い時間は待たなかったと思う。

 

(来た来た、いい感じ)

 

 積荷をたっぷり積んでいるであろうトラックが、かなりのスピードで走ってくる。

 

 

(一瞬だろうな)

 

 

 一瞬の躊躇が時間を止め、待ち望んでいたお目当てのトラックが轟々と風をまき散らしながら目の前を過ぎた。

 

 迷いは無かったはずなのに。

 

 

(情けなっ……俺ってショボッ)

 

 

 足が動かなかった。

 

 未練っていう物がいったい何を指すのかよくわからないが、そんな物を持ち合わせているつもりはない。生きる価値など皆無なのだ。

 

 

 

――そこそこイケメンに産んでくれた母には、感謝している。

 

 中高生の頃はそれなりに楽しんだし、社会人になっても同期の中ではモテたほうだったと思う。いい思いもしてきた。

 

 

 でもある時、唐突に全部が面倒になって実家に戻り、悠々自適な引き篭りライフも早3年が過ぎた。

 

 

 気が付けば、俺はこの3年で多くの物を失っていた。都会で出来た友達からの連絡はついに一切来なくなり。地元の幼馴染達も、大半が大阪や名古屋や東京で立派な社会人を演じている。

 

 完全なる引き篭りに、両親も愛想を尽かしたようだったし、昔はあんなに可愛かった弟と妹も、たまに実家に戻ってきては俺を冷たい目で見る。

 

 

 そして何より、僅かばかりの貯蓄が底を付いた。

 

 

 よくあれだけで3年も持ったと自分を褒めたくなるけれど、あくまで両親の提供してくれた部屋と食料があっての話だ。

 

 

 自由になる金が尽きたのと、そろそろ社会復帰のリハビリにと思ってアルバイトをしようと面接を受け、たまたま人手不足だった企業に就職できちゃう事になり、幸運だと思ったりもしたけれど。

 

 初日から、人手不足の理由を痛感させられるひどい会社だった。両親は俺の再就職を喜んで応援してくれていたけど。

 

 

 あれは。

 

 上手くいけば厄介者を追い出せるかもしれない、という期待がさせる応援だろう。

 

 

 本当に全部、嫌になった。

 

 

 それでも俺なりに決意はあったんだ。再就職をする前に身辺のヲタクグッズはあらかた処分したし。たまっていたエロ本もエロDVDも、PCの履歴も処分した。

 

 

 で、再出発してみたはいいけど、やっぱり。

 

 

(お……また来た)

 

 

 視界に入ったトラックは、さっきのよりも速そうに見える。

 

 

(生きるのって、めんどくさいよ)

 

 

 俺は持っていたカバンを地面に置き、短距離走に挑むアスリートのように両の太ももをバシバシと叩く。

 

 

(いけるっしょ)

 

 

 幸か不幸か、身辺整理も出来てしまっているわけだ。迷いも、未練も、無いはず。

 

 しいて言うならば、歴代彼女が全員揃って貧乳だった事くらいか。

 

 

(天国に巨乳天使ちゃんいたらいいな)

 

 

 距離感ばっちり。数歩駆け出せばすべてが終わる。

 

 

 3歩駆け出して道路に立ち、正面はさすがに怖いから横向きに立って目を固く瞑った。

 

 

《プッ!! プーーーー!!》

 

 

 右耳の鼓膜がやぶれそうな警笛。

 

 

《キィィィィィィィ!!》

 

 

 

(クラクションとブレーキ音……お約束だ)

 

 次はドーンと音がするのか。それとも俺は死んじゃうから、その音は聞こえないのか。右半身が怖くて意識が集中して、なんだか熱いような気がする。

 

(あれ、もう死んだかな?)

 

 

 

 <ガチャ>

 

 

 

(ん?)

 

 

「あっぶねぇな! 死にてぇのか! ふざけんな!」

 

 

 

 恐る恐る目を開く。

 

 

(ん? ん?)

 

 そこには、何故か俺の左手前方に停車しているトラックがある。反対車線にはみ出して停車し、運転席から出てきたおじさんが俺に向かって叫んでいるのだ。

 

 

(あれ?)

 

 状況がよくわからないので運転手さんに聞いてみる事にする。

 

「今……俺をすり抜けました?」

 

 

 自分でも分かるほど声が震えていた。たぶんボリュームも小さくて、おじさんの所まで届いていないと思う。

 

 

「死にたきゃそこから飛び降りて死ね! あほか!」

 

 

 川に掛る大きな橋を指差して怒鳴ると、そのままトラックに乗り込み走り去ってしまった。

 

 

(なんで……?)

 

 

 死ぬはずだった。

 

 右から来たトラックに撥ねられて。

 

 なのにトラックはそのまま左方向に走り抜けたらしい。

 

 ブレーキが間に合う距離じゃなかったし、あの速度で避けれる距離でもなかったはず。

 

 

(すり抜けたんかな?)

 

 自分の現状がさっぱり理解不能である。

 

 

 首をかしげて突っ立っていると、不意に後方から女の子に声をかけられた。

 

「おにーさん、これからどうするの? 言われた通りに飛び降りる?」

 

 

(な、だれ?)

 

 この辺りの子ではなさそうである。何せ人口の少ない町だ、年頃の女の子なんて数える程しかいない。

 

 

 声が出ていない事に気付いた俺は、ちょっと慌てて言葉を探す。

 

 

「……あ、いや、その……あの……」

 

 

 気の利いた台詞は思い浮かばなかったが、その原因は色々だ。

 

 

 なによりまず、自分の体が面白いほどに言う事を聞かない。どうにか車道から歩道に戻った足は、カクカクと震えていた。そんなに怖いならやらなきゃいいと、自分に突っ込みを入れたくなる。

 

 死のうとは思っていたが、痛いのとか怖いのは嫌な自分に情けなくなった。

 

 そして、二つ目。

 

 それは目の前にいる存在。少し年下にも見えるが同世代にも見える女の子だ。パッチリ二重の大きな瞳で、俺をじっと見つめているのである。

 

 緊張しているのは、見つめられている所為もあるけれど。

 

 

(ヤバ……すげぇ可愛い……!)

 

 

 男から見れば当然ながら、たぶん女から見ても、オネェから見ても、誰が見てもどう評価しても同じであろう。兎にも角にも、とんでも無く可愛いいのだ。

 

 

 それともう一つ、これは趣味趣向の世界なのだが。

 

 

(やや巨乳……デカイ!)

 

 

 割とピッタリ目のワンピースは、女の子のボディラインを無駄に強調している。どう表現しようとしても、それは抜群のプロポーション以外の何物でもない。

 

 

 女の子はすらっとした長い脚を一歩二歩とこちらへ踏み出し、不思議そうな表情で話しかけてきた。

 

「お兄さん、あのね、私の日本語、わかります?」

 

 憎らしいほどのいい天気、お日様に照らされて淡い茶色に光る髪の毛が、春の風に優しく舞った。

 

 

「はあ……はい、わかります!」

 

 美しいセミロングに見とれていた俺がようやく答えると、女の子は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「焦った……よかったです、びっくりさせないで下さい♪」

 

 そう言って、左手に抱えていたタブレット端末を操作し始めた。

 

「えーっと、ちょっと待ってくださいね」

 

 

 見慣れないタブレット端末だった。薄さや大きさは俺が知っている物と大差ないが、立体映像みたいな物が画面上に出現しては、クルクルと回ったり、吸い込まれたり、俺の知らない機能が搭載されているようだった。

 

 

「あったあった、これこれ」

 

 女の子は、興味があるのか無いのか曖昧な声を発すると、改めてこちらへ向きなった。

 

 

「おまたせ!」

 

 笑顔で俺を見つめるその女の子は、どこかのアイドルグループでは全く敵わない程に、可愛い。

 

 

「石島洋太郎 24歳」

 

 

 突然、名前を呼ばれた。

 

(あれ? 知り合い?)

 

 返事をしない俺にイライラする様子で、女の子はまた一歩近付いて問い詰めてくる。

 

 

「で、あってますよね?」

 

 

 

「へ? あ……はい」

 

 ちょっと間を置いた割に間抜けな返事になってしまったけど、それ以外に思い浮かばなかった。

 

(大き過ぎず、でも大きい)

 

 そんな破廉恥な事を考えている俺にはお構いなしに、女の子は話を続けた。

 

 

「少年時代はサッカーに没頭するも特に目立った活躍なし

 小中での学業成績は中の下

 岐阜県立〇〇高校に進学

 学業成績は中の下

 大学進学を諦め都内の企業に就職し上京

 営業部門に配属され、営業成績は中の下」

 

 

 そこまで言うと「ここまで普通を貫くのも才能ね」なんて小声で漏らし、端末を触りながら話を続ける。

 

 

「特にモテる訳でもないのに女癖は良いほうではなく

 同期の同僚と女性関係のトラブルを起こす

 入社3年目に突然の退職

 その後は地元に戻り自室に引き篭り

 好きな食べ物はお好み焼き

 趣味はアニメ鑑賞

 好きなアイドルはA〇B48」

 

 

(な、なんで……)

 

 ほとんど誰にも話した事の無い趣味まで言い当てられる。あの端末にはいったい何が、どんな情報が入っているというのだろう。

 

 

「ま、他にも色々あるけどこんなトコか」

 

 一気に俺の紹介を言い終えた女の子は、満足気に俺を見つめなおした。俺は完全に動揺している。

 

 

「ちょっ! なんで!?」

 

 何からどう聞いたらいいのかさっぱり分からない。

 

(聞くのか? 苦情を言うのか? どうしたらいいんだ?)

 

 

「スペックはともかく、死のうとしてたみたいだし条件は悪くないって感じね」

 

 盤面と俺を交互に見ながら、女の子は何やらウンウンと頷いていた。

 

 

 俺はパニック状態で挙動不審になっていたと思う。完全に不測の事態ってやつだ。

 

 そんな俺を見て、その子はさらに言葉をぶつけてくる。

 

 

「データ通りね、危機管理能力は低そう、決断力も」

 

 ため息まじりにそう言うと、俺の低評価が記載されているであろう端末を再び操作し始めた。

 

「なんでお兄さんみたいな人がゲームチェンジャー候補者リストに入ってるんだろ」

 

 

(え……なに? ゲーム?)

 

 

 たぶん、俺は口をポカンと開けて間抜けな顔をしていたんだろう。

 

 

「あ、お兄さん、私まだ新人だからね、何から話したらいいかよく分からないんだけどさ」

 

 

 状況はどうあれ、目の前の女の子がとびっきり可愛くて、スタイルが良いという事実は変わらない。

 

「あ、はい」

 

 こんな時、男って生き物は無抵抗になるものだと言い訳を思い浮かべてみた。

 

 

「先にこっちから質問しちゃうね? いい?」

 

 

 また一歩近づいて尋ねてくる。

 

 女の子の背はそんなに高くない。身長170cmの俺でも、ヒールを履いた女の子より目線はずいぶん高かった。近くで見ると、割と大きな胸に似合わず、その体はずいぶんと華奢である。

 

(守ってあげたくなるタイプってこんな感じなのかな……)

 

 

 これはもう、一目惚れなのだろう。

 

 

「えっとね、まず……」

 

 女の子はタブレット端末に目を落としながら質問してきた。

 

「頻繁に連絡を取り合っている友達や、恋人はいますか?」

 

 

 いると見栄を張りたいところだが、普通にいない。

 

「いませんが……」

 

 

「はーい」

 

 女の子からは、全く興味のなさそうな返事が返ってくる。

 

 

 さらに一歩近づくと、上目使いに尋ねてきた。

 

「相対性理論を勉強したことはありますか?」

 

 

(は? あるわけがない)

 

「ない……ですけど?」

 

 

 相対性理論なんて、名前は知っていても一般人は勉強するような物じゃない。

 

 

「ですよねぇ」

 

 

 特に落胆した風でもなかった。聞く前から俺の答えを知っている感じである。

 

(だったら最初から聞くなよ……)

 

 トップアイドルも顔負けなくらい可愛いいしスタイルも抜群だが、話した印象はあまりよろしくない。

 

 

「おっかしいなぁ、ヒアリング項目どこいったかなぁ」

 

 端末を操作しながら1人で作戦会議中らしい。自分のペースを崩さないあたり、いまどきの女の子って感じがする。

 

「うーん……困った、おっかしいなぁ」

 

 次の質問をどうするか考えを巡らせているのだろう。可愛い視線が宙を舞った。

 

 

 その瞬間。

 

 《ッッツツー ッッツツー》

 

 辺りは聞きなれない電子音に包まれた。

 

 

「え? 嘘でしょ? 真面目に?」

 

 慌てた様子でキョロキョロと周囲を見回す女の子。大人びた見た目に反して、その動作には子供っぽさが満開だ。

 

 

「前の人で時間使いすぎた感じ?」

 

 左手に持った端末を忙しく操作する。

 

「タイプだったし仕方ないよね、うん」

 

 などと独り言を漏らす間に、端末の操作が終わったらしい。

 

 

 また一歩、二歩と接近してきた女の子は、もう俺の目の前だ。

 

 吹き抜けてく春の風は、美しい髪をふんわり浮かせ、いい香りが届いてきそうな距離まで来ている。届いてきそうなだけで届いてこないわけだが、届いてきそうな気がするからには、必要以上に鼻から息を大きく吸ってみる。

 

 

「確認なんですけど、お兄さん、今さっき死のうとしてましたよね?」

 

 

(おお、こ、これは)

 

 大きく息を吸い込んだ俺の嗅覚ではなく、極上のソレを捉えたのは俺の視覚だ。

 

「うーん、まぁそうだね、死のうと思った」

 

 一応、質問には答えたけど、今の俺はそれどころではなかった。

 

 

 この田舎町は、山間の谷に人が住み始めて集落になったような物が始まりだと思う。そんな地元を決して好きではないが、特に嫌いでもない。いくつかの渓谷があり、思う存分に自然を満喫できるのだ。

 

 谷の情景は美しく、季節毎に四季折々の色に染まる。そんな美しい地元のどんな景色も、今、俺の目の前にある極上のソレには遠く及ばない。

 

 

「じゃ、死んだつもりで行きますか!」

 

 

女の子がどこかへ誘ってくれているらしい。

 

(死んだつもりでも、いや、死んでもいいさ)

 

 ちょっと興奮気味なのに、頭がぼーっとして言葉が出てこない。

 

 

「どうします? 説明してる時間が無くて申し訳ないんですけど……」

 

 

(行っちゃうか)

 

 何処へ行くかは、正直気にならなかった。と言うか、それを考える余裕がなかった。

 

 

「ねぇ、お兄さん、聞いてます?」

 

 

(返事……しないと)

 

 

 

「……谷間」

 

 

 俺の口から出た言葉は、自分でも信じられない言葉だった。

 

 

 あんまり目の前まで来られたもので、目線を少し下げ気味にしたら視界を奪われたんだ。柔らかそうな谷間に。

 

 もうそこから視線が動かせなくなっていた。

 

「へ?」

 

 不思議そうな顔をしている女の子に、俺はさらに慌てた。

 

 

「い、いいよ!行く!」

 

 

「やった♪ 思い立ったが吉日って言いますからね! 今すぐ行っちゃいましょう!」

 

 本当に嬉しそうに喜ぶ女の子の表情は、俺にはもう天使そのものだった。

 

(あ……天使か、俺ホントは死んだのかな?)

 

 俺は、再び端末の操作に取り掛かった女の子をぼんやりと見つめた。

 

(会えたんだ、巨乳天使に)

 

 なんて思っていたら。

 

 《ッッツツー ッッツツー》

 

 辺りはまた奇妙な電子音に包まれた。

 

 

「はいはーい、わかってますよ、ちょっとまってねぇ~」

 

 端末に語りかけながら操作する姿もまた可愛らしい。電子音が続くなか、端末の操作を一旦やめてこちらを見る。

 

「ふふっ……巨乳作戦♪ 大成功~です♪」

 

 電子音の中で、女の子はそう言ってイタズラな笑みを浮かべた。

 

 

(え、見てたのバレてたか)

 

 これから天国に連れて行かれるのだろうか。

 

 

「残念なお知らせがあります♪ これほぼ偽物です! 詰め物いっぱいでかなーり寄せて上げてますので、残念でした~♪」

 

 女の子は自分の胸を指差してにっこりと笑って見せた。

 

 

(な、なにー! 騙された!?)

 

 

「それじゃ、転送しますね!」

 

 

 《ィィリリリリリ-》

 

 

 電子音が急に速度を上げたというか、高音になって体に纏わりついてくる。

 

 

「初転送だとちょっと気持ち悪いかもしれませんが、健康上の害はないのでご心配なく!」

 

 

(体が……ねじれる?)

 

 

「そいじゃお先に~♪」

 

 天使だと思った女の子が、今度は悪魔に見えてきた。

 とびっきり上等な小悪魔に。

 

「お兄さんもよい旅を~♪ なんてね、一瞬ですよ!」

 

 手を振る女の子が、渦巻き状の何かに吸い込まれて行ったように見えた直後、ものすごく気持ちが悪い感覚に襲われた。別に痛くはない。体がねじれて、裏返しになって、伸びていくような感覚。

 

 

「――ちょ!? これ……なん……」

 

 

 視界が歪み、体中がねじれていく。

 

 一瞬真っ暗になったかと思うと、今度は急に光に包まれた。

 

 

「イテテ……きもちわるっ」

 

 強烈な吐き気に襲われた。

 

 一瞬で【転送?】されたその場所は、白を基調とした生活感の無い狭い部屋だった。気分が悪く立っていられないので、床に這いつくばる。

 

(なん……なんだよ)

 

 どれくらいの時間、床とお友達になっていたのだろうか。この部屋の床はとても綺麗に清掃が行き届いており、硬過ぎず、柔らか過ぎず、冷たくも熱くもない。寝っころがっている分にはとても心地の良い床だった。

 

 

 ようやく少し落ち着いてきた時。

 

 

 《ビーーーーーー》

 

 警報に近い音と共に、ガシャっと何か金属音がした。その方向を見ると重厚そうな扉があり、自動ドアなのか徐々にスライドし開き始めている。

 

 扉が開くと、そこから飛び込んできたのは多くの人の話し声で、視線を向けるとかなりの人数がワラワラと集まっているのが見えた。

 

「おーい、32番、こっち来いよ~」

 

 体格のいい男が、俺のほうを見て手まねきをしている。

 

 

(32番って、俺の事か?)

 

 

 もう、わけがわからない。そもそも、面倒だから死んでしまおうと思ったはずなのに、巨乳美女に釣られ、さらに面倒な事に巻き込まれた予感がする。

 

 いや。

 予感ではなく。

 巻き込まれたのだろう。

 

 しかも。

 

 偽の巨乳に騙されて。

 

 

 フラフラとした足取りで部屋を出ると、そこには30名くらいの人たちが特に整列するでもなく、パラパラと集まっていた。とりあえず広間まで出た俺は辺りを見渡してみる、やはり32番と呼ばれたのは俺のようだ。

 

「あの、すいません、ここ……」

 

 

 《ドンッ》

 

 

 俺を呼んだ男に質問しかけた刹那、広間の照明が落ち真っ暗になった。それまでザワザワと話し声がしていたが、照明が落ちると同時に静まり返った。

 

 聞こえてくるのは人の呼吸だけ。

 

 なんだかとても緊張し、自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。

 

 

『ようこそお集まり頂きました!』

 

 部屋全体に響く、凛とした女性の声。恐らくスピーカーを通して全方位から流されているのだろうと気付く。

 

『只今より、ゲームチェンジャー候補者選考会の開会式を行います!』

 

 《バンッ》

 

 広間に照明が燈った。

 

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