ゲームチェンジャー   作:のなもちとちみ

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第16話 役割

■西暦1567年 飛騨国

   簡易キャンプ

 

 

「美紀ねぇ!」

 

 深夜、優理の声で目が覚める。

 

 テントから顔を出して覗いてみると、テーブルで端末を操作していた美紀さんが急いで小屋に入る所だった。

 

 

(大丈夫かな……)

 

 どう説得したのか、瑠依ちゃんは大人しくテントで寝ている。優理と美紀さんは、伊藤さんの容態を心配して、寝ないで看病する事にしたようだ。

 

 他のメンバーに出来る事と言えば、しっかりと寝て、明日に備える事だろうと思う。

 

(寝るか、それも役目だ)

 

 俺はテントに戻ると、そのまま目を閉じた。

 

 

 朝、全員揃って早起きした。美紀さんから伊藤さんの容態説明が行われている。

 

「なので、この感じだと……まだ数日は動けないと思います」

 

 

「了解っす」

 

 金田さんが、引き締まった顔で頷く。

 

 深夜、伊藤さんはかなりうなされたそうで、医者ではないので細かい診断確定は難しいが、恐らく失血性の貧血状態だろうとの事。

 

 昨日、深夜まで貴重な電池を消費しながら端末を操作していたのは、それを調べる為だったようだ。オフライン状態でも充実した情報量が確保されているらしい。

 

 確かに、俺のいた時代でも、沢山の辞書を一纏めにした小型の電子辞書とかあった気がする。

 

 失血性の貧血状態に苦しむ伊藤さんを、昨晩は必死に温め、励まし、美紀さんも優理も全く寝れなかったそうだ。

 

 明け方には少し落ち着いて、伊藤さんが眠りに付けたのを確認すると、優理もすぐ横で気絶するように眠りに落ちたらしい。

 

 

 美紀さんもだいぶ疲れているはずだ。ここ数日、ホントに大変だったと思う。

 

 

「美紀さんも寝た方がいいですよ」

 自然と声に出てしまった。

 

 

「そうさせてもらうよ」

 美紀さんは疲れた表情のまま小屋に入って行った。

 

 

「さーて、剛左衛門、石島ちゃん」

 金田さんは俺達2人の肩を掴むと。

 

「朝飯の前に水汲み3往復! いってらっしゃい♪」

 

 

 文句など出るはずも無い。俺はつーくんと色々話しながら、貯水タンクへの補充を開始した。昨日、けっこう沢山入れたのと、ほとんど使ってないのとで、容量は30%くらいまで回復している。

 

 美紀さんの話では、そろそろシャワーを使っても水の心配するほどではなくなるとの事だ。

 

 

 俺はつーくんと並んで歩きながら、気になっていた事を聞いてみた。

 

「ねぇ、皆と離れて行動するかもって言ってたじゃん? あれ本当なの?」

 

 

 つーくんはチラっと俺を見る。

 

「まぁね、役割を担うのは当然だし」

 

 

 バケツの中でちゃぽちゃぽと揺れる水の音。

 

 俺は無言で続きを待った。

 

 

「俺だけじゃないよ、金田先輩も、伊藤さんも、たぶん近いうちにココを離れる」

 

 

(!?)

 

「なんで!?」

 ものすごい不安に襲われた。

 

 

「なんでって、そりゃ稼ぐためさ」

 

(稼ぐ? お金?)

 

「金は使ったら無くなっちゃうからさ、量があるうちにそれを使ってどうにか増やさないといけない」

 

 

(確かにそうだけど……)

 

 

「これから何年ここにいるのか分からないけど、安全の確保とか、食料の確保とか、色々考えると経済力は必須なんだよね」

 

 確かに今ある食料では、もって数ヶ月だ。

 

「そうだね、商売をするって事?」

 

 

「んー」

 

 つーくんは少し考えを整理するような素振りを見せる。

 

 

「一つは商売なんだけど、たぶん一番難しいんだよね」

 

 

 歩きながら、色々説明してくれた。つーくんの説明はこの時代の商売の状況で、会議で金田さんや伊藤さんから聞いた話だ。

 

 この時代の商人たちは、組合のような【座】という物を作って談合し、独占的に商売をするのが当たり前らしい。商売をしたければ、その【座】に登録する必要性があり、それにはけっこうなお金が必要になるそうだ。

 

 ただ、伊藤さんが言うは、この時代のビジネスノウハウなんて物は、俺達の時代のそれに比べたら子供だましみたいな物で。生産、物流、販売までの流れを把握してしまえば必ず勝機があると言う。

 

 特に、近い将来、織田信長が【座】の廃止を行い始める。その時までにどれだけの流通シェアを確保出来ているかで、儲けが全然違うそうだ。

 

(いやぁ、サッパリわからん)

 

 俺には難しい話すぎてサッパリだ。つーくんも割とサッパリらしい。

 

「商売のほうは、伊藤さんがやってくれる」

 

(回復を待つのが第一条件か)

 

 

 商売は【伊藤さんが】とういう事は、他にも稼ぐ手段があるという事か。

 

 

「俺と金田先輩は肉体労働だね」

 

 

「働くって事?」

 

 俺の問に、つーくんは無言で頷く。

 

 

(働いて、女の子達を養うって事か、俺もそれがいいかな)

 

 

 しばらく歩くと、つーくんがまた口を開く。

 

「労働って言ってもさ、この時代は当然、労働基準法なんてないし、一歩間違えれば奴隷のような状況になっちゃうからさ」

 

 つーくんの目に、覚悟の色が浮かぶ。

 

「やっぱり、身分的な物が確立されやすい侍がいいんだよね。金田先輩はこの時代の知識を活かすため、大本命の織田に仕官できるように頑張るって話になった」

 

(金田さんは予定通りって事か)

 

「そんで俺は、あまり中央情勢に詳しくなくても問題がない、この辺りを領有している誰かに仕官する」

 

 

(この辺り……飛騨か)

 

「正直、誰かわからないんだ、この場所の正確な位置もイマイチわからないしね」

 

 

「飛騨じゃないの?」

 

 俺の質問に、つーくんはわざとらしいため息をついた。

 

「この時代は群雄割拠だからさ、飛騨にもいっぱい会社があるわけよ、その会社同士にはそれぞれ上下関係があったりするんだけど、この辺りの仕事をしている会社の社長が誰かって話」

 

(その例え話、俺にはすげー難しいかも)

 

 つーくんは、困惑気味の俺を無視して話を続けた。

 

 

「織田信長は、いずれ日本中の社長がひれ伏すような、超大企業に成長する会社の社長さん、今はまだ、名古屋県で1番くらいらしいけどね」

 

 

 なんとなく分かってきた。

 

「金田さんは【㈱織田】の面接を受けに行く、当然だけど難関になると思う、俺はこの辺りの零細企業に面接にいくって話」

 

「なるほど~、どんな仕事するんだろ、やっぱ合戦とか?」

 

 戦国大名に仕官するとなれば、イメージは鎧兜を身に着けて戦うイメージしかない。

 

 

「俺もそう思ってたんだけどさ、全然違うらしいんだよね」

 

 つーくんの説明は、すごく意外だった。たぶん、歴史に詳しくない人間が聞いたら、みんな意外だと思うかもしれない。

 

 戦国大名というのは、まさに会社の社長のような物だそうだ。お仕事は、領地の運営。経済から治安まで、全てが仕事だそうだ。

 警察のような事もする、裁判所にもなる、貧しい人をどうするかも考えないといけない。

 

 この時代の主な収入源、税収は殆どが米、農家の皆さんから納められる年貢という税米、これをしっかりと徴収する税務署のような仕事もある。当然、取られてばかりでは不満が噴出するわけで、農家の人達と上手くやらないといけない。

 

 商売をしている人たちからは金銭で税を取るが、俺達の時代と違って税法が整っていない状況では大変な作業になるらしい。

 

 集めた税を、今度は働く社員に分けないといけない。働く人の数は膨大だ。

 

 経理部、総務部、人事部、営業部、さらにその下には沢山の課がある俺達の時代の大企業のように、そんな感じで様々なお仕事をしている人がいるわけだ。

 

 そんな感じで自国を豊かにしていくお仕事がメインで、その自国を脅かす存在や、敵対する相手と戦うのもお仕事になる。

 

 普段は社内のお仕事をやりながら、有事の際には戦闘員になる。これがこの時代の会社員の姿だ。下っ端のほうなら、社内のお仕事専属だったり、戦闘員専属だったりする人もいるそうだが。

 

やはり、いつまでもそれじゃ出世できないらしい。

 

(求められるのはマルチプレイヤーか!)

 

 俺達の時代から400年前、文明は確かに大きな差があると思うけど、求められる人材は大差ないんだと思うと、なんだか面白かった。

 

 

「誰かが失敗しても、誰かは成功するように、俺達は3人それぞれ別の方法で稼ぐわけさ」

 

 

「……つーくん」

 

 言っている事は確かに合理的だが、それはすごく辛い事だ。この簡易キャンプを離れ、たった一人で戦国時代に飛び込もうとしている。

 

 時空域とやらが切断される前と、やろうとしている事はそんなに変わらないけど、自分1人ではなく、女の子達を養う負担を背負う事になってしまったのだ。

 

 

「ごめんね……俺が頼りなくてさ」

 

 

「なーに言ってんだよっ」

 

 話ながら、簡易キャンプに到着していた。

 つーくんはバケツを製水機に向けてひっくり返しながら言葉を続けた。

 

「ココが無いと、俺達は安心して戦えない、一番大事な場所を守るのがよーくんの役割だよ?たのむぜ?」

 

 笑顔で言うつーくんの瞳は、ちょっと涙ぐんでいるように見えた。

 

「でもさ?」

 

言いかけた俺の言葉を、つーくんは遮る。

 

「あのね、俺達3人は全員が成功するつもりだよ?」

 

 バケツの水が空になった。つーくんはバケツをぶら下げて、また沢に向って歩き出そうとしている。

 

「伊藤さんが成功したら、俺も金田先輩も金銭的な援助をしてもらう予定なんだ」

 

 つーくんの顔は生き生きとしている。

 

「財力がある家臣を、社長は絶対に優遇するからね」

 

 

 俺のバケツの水も、全て製水機に吸い込まれていった。

 

「てことはさ?伊藤さんに元気になって貰わないと始まらないって事だよね」

 

 もう歩き始めていたつーくんを追いかける。

 

 

「そ、今俺達に出来る事は、水汲みくらいっしょ?って事で、第2回戦いきますか!」

 

 

 俺達は予定通り3往復の水汲みを完了。昼前になると、金田さんとつーくん、それと俺の3人で買い出しに行こうという話になった。

 

 目的は、とりあえず米の入手だ。俺達全員の食料にもなるが、今はとにかく伊藤さんの為にお粥を作りたいという話なった。

 

「申し訳ありません」

 

 お粥を作りたいと言い出した美紀さんが、目の下に隈を作りながら俺達に謝罪した。

 

(ゆっくり寝れてないな)

 

 小屋に入ったのに、2時間くらいで起きて来たようで、アレコレと唯ちゃんと瑠衣ちゃんに指示を出している。

 

 

「何言ってるんですか、俺達の役割です!」

 

 俺は自信を持ってそう宣言できる。

 

 

「ついでに、この場所の把握もしないと駄目だな」

 

 つーくんが危険回避システムのモニターを凝視していた。このモニターに映し出されているのは、超音波発生機が設置されている地点の高低差を表示している画像にすぎない。

 

 明確な位置は不明なのだ。おおよその位置については、先行スタッフから渡された略地図がある。かなり大ざっぱな地図で、分かるのはこの場所が美濃と飛騨の国境付近だと言う事くらいだ。

 

 金田さんが麻袋を2個持って立ち上がった。

 

「とにかく人がいねぇと買い物も出来ん、まずは南に下りてみるしかねぇか」

 

 もしかしたら数日かかるかもしれない。可能性だけの話をするならば、途中で山賊に襲われて死んでしまうかもしれない。

 

(でも、これはやらないと駄目だ)

 

硬い決意を胸に、俺達は出発の準備に取り掛かる。

 

 

 特に打ち合わせで決めたわけでもないが、俺達はなるべく急ぐように無言で山を下って行った。

 

 2時間ほど下ると、小さな集落に出た。買い物が出来るような店はなく、金田さんがここから一番近い町は何処かを聞きに行ってくれた。

 

 

「なーんもない村だね」

 

 つーくんが退屈そうに、細い木の枝で地面に丸やら四角を描いては足で消すという子供のような動作をしながら呟いている。

 

 本当にさびれた村だ。到着する前は多少上から見ていたが、全体が見渡せる程度の範囲しかない。山間の小さな集落だ、人口は検討も付かないが、恐らく100人もいればいいほうだろう。

 

 

(お、誰か来た)

 

 山賊達と一言も会話をしていない俺にとって、この村の人と話す事になるとしたら、その人は【第一戦国人】だ。

 

「お、第一村人はっけーん」

 

 つーくんがそんな事を言って立ち上がる。

 

(かぶるね、思考がかぶる)

 

 

 第一村人さんは、明らかにお婆さんだ。お婆さんも俺達の存在に気付いたようで、俺をじっと見ながら一直線にゆっくりと此方へ歩いてくる。

 

 そして何も言わないまま俺の目の前までやって来た。

 

 

「こりゃ~たまげたな」

 

 

(??)

 

 お婆さんは俺とつーくんを交互に見ると、また俺をじっと見つめる。

 

 

「こりゃたまげた」

 

 

 そう言うと俺に向って両手を合わせ、スリスリしながら。

 

「ナンマンダブナンマンダブナンマンダブ」

 

 なにか口の中でモゴモゴと言うと、また俺の顔を見て。

 

「ナンマンダブナンマンダブナンマンダブ」

 

 またなにかモゴモゴと言いながら手の平をスリスリしてる。明らかに拝まれているようだ。

 

 

「ちょっとお婆ちゃん、俺生きてますけど、拝まないでくださいよ」

 

 

 たまらず声をかける。俺がこの時代で初めて話をしたのは、このお婆さんになった。

 

「プッ」

 

 つーくんが小さく吹き出す。

 

 

「おおそ~かえ、生きてなさったかえ、こりゃたまげた」

 

 そう言うとまた「ナンマンダブナンマンダブナンマンダブ」を始めてしまった。

 

 

(どうしたらいーのー)

 

 俺は苦笑いでお婆さんを見ていた。するとちょっと遠目から女の子が駆けてきた。

 

 

「おばあさま!」

 

 

 近くに来ると、その子はまだあどけなさが残ってはいるものの、大人びた表情で、話す雰囲気もしっかりしていた。

 

「こんな所に修験者さまとは珍しいですね、長滝寺へお行きに? お御岳山なら峠一つ向こうを通らないと遠回りですよ?」

 

 

「えーっと、あの」

 

 言っている事がわからないし、なんと返事をしたらいいのか分からない。返答に困っている所に金田さんが戻ってきた。

 

 

「おろ? どうしたの?」

 

 

 金田さんはお婆ちゃんと女の子に挨拶を済ませると、自分達の目的を伝えた。

 

「それでしたら今はもう難しいと存じます」

 

 

 女の子の答えに、金田さんは納得の様子だった。

 

「ですよね、誰に聞いても同じでした、これから郡上まで行く予定っす」

 

 その場を収めてくれた金田さんが言うには、現在地の細かい地名は【大原】で、俺達の時代で言うと【郡上市】が近いらしい。

 

 このまま南へいくと【郡上】へ出るそうだ。

そして東へ行くと、渓谷沿いに峠を二つ越えて南へ少し行けば【下呂】に抜けるらしい。

 

 

「大原? こっちが郡上であっちが下呂で、え~~っと、ん?」

 

 

 俺はこの小さな集落の中心を通っている狭いあぜ道を見る。

 

 

 

「お? なんか石島ちゃんがピンと来た感じ?」

 

 金田さんの言葉を気にすることなく、俺は村の中央へ向かう。

 

 

(この山の雰囲気、似てるようで似てないようで)

 

 

「んー、わっかんないなぁ」

 

 300年の隔たりは、その景色を大きく変えてしまうだろう。そうは言ってもこんな山奥では、そう大きな変化もないような気もしている。

 

 俺が今見ている風景、子供の頃によく見ていた景色に何処となく似ている気がするのだ。

 

 

「たぶん、ばーちゃんちこの辺りだ」

 

 

 俺は自分たちが降りてきた山のほうを見る。

 

 集中し、過去の記憶をたどる。その時、お婆ちゃんが俺を見て言葉をかけてきた。

 

 

「20年程前じゃからな、もうすっかり寂れてしまっとるだろうが行くだけ行ってみたらええじゃ」

 

 

 俺達には何の事かさっぱりだったが、女の子が補足してくれた。

 

「この辺りには美濃から移ってこられた裕福なお武家様のお屋敷があったらしいのです、ですが20年程前にご当主を戦で、ご嫡男を病で亡くされたとか」

 

 

「へ~」

 

 つーくんが興味深々に声を漏らす。

 

 女の子はつーくんを見ると説明を続けてくれた。

 

 

「わたくしの生まれる前の話ですので詳しくは存じませぬが、石島様というお武家様のお屋敷だったそうです。今では山賊が住み着いているという噂ですが……」

 

 

 

「いしじま!?」

 

 つーくんが驚いて聞き直す。

 

 

「あれ? 石島ちゃん、地元が飛騨って言ってなかったっけ?」

 

 金田さんも何か考えながら口を開いた。

 

 

「そうですよ、それにたぶん祖母の家がここらへんです」

 

 さらっと答えた俺に、金田さんが掴みかかるように問いかけてくる。

 

 

「そんじゃ! そのお武家さまって石島ちゃんのご先祖かもしれないって事じゃん!?」

 

 

(なんかアリガチな設定すぎるよそれ……)

 

 

「よーくん! 行ってみよう! 」

 

 つーくんが目をキラキラさせている。

 

 

 残念ながら、この2人の予想は外れている。この辺りの元有力者の姓が【石島】だった事に、俺はなんら驚きが無いのだ。

 

「二人とも、残念だけど違うよ、祖母の家の近辺はね、遠い親戚でもないのに石島さんだらけなんだ、明治に入った時に皆揃って石島を名乗ったのが始まりみたい」

 

 この辺りの人がこぞって石島を名乗った理由に、そのお武家様が影響していたとしても、それがご先祖な訳ではない。

 

 

「ほへ~」

 金田さんはまだ何かを考えている。

 

「でも山賊が住み着いてるんじゃ行ってもだめか」

 つーくんが少し残念そうにしていた。

 

 

「お婆さま、そろそろ戻りましょう」

 

 女の子は俺達に向って会釈すると、そのままお婆ちゃんの背を押すようにして村の中に消えて行った。

 

 

「えーっと、郡上でしたっけ? 行き先」

 

 考え込んで何も言わない金田さんと、その様子を伺っているつーくん。2人とも俺の質問には答えてくれなかった。

 

 

(なんだよ……郡上行かないのかな?)

 

 もう既に日が登りきっているので、急がないと夜までに郡上に着けないかもしれない。焦れた俺は金田さんがつーくんの顔の覗き込むのと、金田さんもが口を開くのが同時だった。

 

 

「山賊も人だ、飯は食う、よく考えると昨日の連中は軽装すぎたと思わない?」

 

 その金田さんの言葉に、つーくんが答えた。

 

「大森さんが出発してからの時間、彼らの軽装、どう考えてもキャンプから近い地点があいつ等の拠点ですよね」

 

 

(そうか!)

 

「その屋敷に住みついてる山賊達って、もしからしたらあいつ等かもしれないって話!?」

 

 金田さんとつーくんが黙って頷いてくれた。

 

 

「もし昨日の連中が全員だとしたら、今はその屋敷に誰もいないって事だよね……もしかしたら、食料とかお金の備蓄があるかもしれない!?」

 

 俺達は急いでその屋敷に向った。

 

 その村から30分も歩かない距離、俺達の簡易キャンプからは2時間ちょっとで来れそうな場所に、土の塀で囲われ、それなりにしっかりとした門を備えたお屋敷が存在した。

 

 塀も、門も、屋敷その物も、だいぶボロボロではあったが、踏み入れた瞬間に色々と目についた。つい最近まで人が生活していたであろう痕跡が散見されるのだ。

 

「剛左衛門……」

 

 金田さんの一言でつーくんも周囲を警戒。

 

 俺達は武器を持っていない。修験者の格好をしているのに刀や槍を持っていては、かえって怪しまれると思ったからだ。

 

 つーくんは足元にあった棒を手にする。

 

 

(つーくんは棒が好きなんだな)

 

 俺は伊藤さんを見習って、投げれるように野球のボールくらいのサイズの石を手にした。

 

 

 ところが、俺達の警戒は結局無駄だった。屋敷は無人で、生活の後だけがそこかしこに散らばっている。その中に、見慣れたポーチを発見した。携行食の入った袋だ。

 

「大森さんのだね」

 

 つーくんがそれを手に取ると、中身は入っていなかった。

 

 散乱しているゴミの中に、携行食が入っていたと思われる空のパックがいくつも混ざっている。

 

 俺達はそのまま屋敷の中を探検した。

 

 屋敷は中庭を囲むように8部屋が存在、とにかく汚くて散らかってはいたが、炊事場もあるし、少し離れた場所にはものすごい臭いを発するトイレもあった。

 

 

「みつけたああ! 金田先輩! よーくん! 見つけた!」

 

 

 中庭の方からつーくんの歓喜に震える叫び声が上がった。

 

 急いで駆け付けてみると、倉庫のような小屋の中には米俵や銭、小石サイズの金銀、高価な雰囲気の装飾が施された鞘に収まっている日本刀、槍、弓、鉄砲まであった。

 

「こりゃすげぇ、あの山賊達えらい稼いでたみたいだな」

 

「伊藤さん、すごい連中を倒したんですね」

 

 俺の言葉に、つーくんが深く頷く。

「そうだね、よし、急いで持って帰ろう! まずは米!」

 

 自分達を鼓舞するように元気よく言うと、米俵を運ぶために使う板のような道具を背負い、1人1俵づつ担いで帰路に着いた。

 

 

「重い……」

 

 

 米俵は想像以上の重さだった。

 

 金田さんが言うには、この時代の米俵は規格が統一されていないので地方によってかなり違いがあるらしい。俺達が今担いでいるのは、たぶん30Kgくらいの米俵だろう。

 

 背中に30Kgを担いで歩くなんて経験、そうそう出来ないだろうし、その状況で登山とか信じられない。俺達は揃って「はぁはぁ」言いながら簡易キャンプに戻った。

 

 

 

 俺達が到着した頃には、もうすでに夕方になっていた。30Kgを担いでの山登りは予想以上に時間がかかったのだ。

 

 

「すごーぃ! おっ米♪ こめっこめ♪ なぜか茶色いお・こ・め♪」

 

 到着した俺達は、米俵を一つ解いでみたのだが、中からは茶色の米が出てきた。

 

 その茶色い米をじゃらじゃらと触。ながら、瑠依ちゃんが自作のお米歌をルンルンで歌っている。

 

 

「たぶん赤米ってやつだな」

 

 金田さんの解説によると、この当時のお米の種類としては安い物だそうで、生産者としては安価で大量に生産できるので流通量は多かったそうだ。

 

 金田さんも食べた事は無いそうだが、味はイマイチらしいとの事。

 

「一般人はコレが主食かぁ」

 つーくんはちょっと不満気だった。

 

「剛左衛門!出世して白米を買えるようになろうぜ!」

 

「了解!」

 

 

 この2人は本当に頼もしい。

 

「じゃ、ちょっと炊いてみますか♪」

 美紀さんが鍋に赤米を入れ始める。

 

「水は多めがいいと思うっす」

 

 金田さんのアドバイスに、美紀さんはニッコリ頷くと鍋を抱えて小屋に入って行った。

 

 

 優理は小屋から出て来ていない。伊藤さんも優理も目を覚ましているそうだが、伊藤さんは起きれる状況じゃない。

 

 優理に関しては、美紀さんが「ありゃ駄目だ、しばらく伊藤さんの側を離れそうもない」と笑っていた。

 

 

(早く元気になってもらわないとな、色んな意味で!)

 

 

 赤米の炊飯は、2回の失敗を経て成功した。

 

 成功した時にはすっかり夜だったけど、伊藤さんはその赤米をさらに煮込んでお粥風味にした物を食べ、また眠りについたそうだ。

 

 

「明日は3往復くらいしたいですね!」

 俺の提案に金田さんとつーくんが頷いてくれる。

 

「手伝える範囲なら唯と瑠依も連れて行ってくれ」

 

 美紀さんが協力を申し出てくれたので、明日の探検は今日よりずっと楽しくなりそうだと思った。

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