ゲームチェンジャー   作:のなもちとちみ

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第20話 洋太郎の初陣

■1567年 7月中旬 飛騨国

   桜洞湯治場 仮屋敷

 

 

「おかえりなさいませ」

 

 歳の割には大人びた見た目の少女は、伊藤の帰りを三つ指付いて出迎えた。まだ多少のあどけなさを残すこの少女は、自分が主に対して抱き始めている想いの正体を知らないでいる。

 

 未だ経験した事のない想いは【忠誠心】なのか【恋心】なのか。それともその両方なのか。どちらも未体験の少女には、人生で初めて感じる心の高鳴りである。

 

 

「ただいま~、お栄ちゃんお昼食べた?」

 

「はい、先程、兄様達とご一緒させて頂きました」

 

 桜洞城で伊藤に用意されたのは、小身の石島家にとってみれば特別過ぎる程の待遇で、湯治場付近にある屋敷がまるまる一つ貸し与えられたのだ。

 

 屋敷と言っても大きい物ではなく、広間を含めて6部屋がある程度だが、4人で湯治に来ている伊藤一行には十分すぎる広さだった。

 

「そっか、なら大丈夫♪」

 

 その一室、伊藤が居室として使っている部屋で出迎えた少女は、直に自らがすべきことを察知する。

 

「昼餉の仕度は出来ておりますので、すぐにお持ちしますね」

 

「あら、有難う、あとさ、十三と十五にココに来るように伝えておいて」

 

「かしこまりました」

 

 少女は一礼すると、行儀よく退室して炊事場に向う。

 

 

 桜洞に入ってからというもの、伊藤は毎朝のように姉小路頼綱の居宅に通うのを日課にしている。昼過ぎに戻ると、今度は兵練場に入って日が暮れるまで過ごし、夕刻から湯治場に入る。

 

「十三十五、控えております」

 

 伊藤の居室の壁に沿うように、2人の若者片膝をついてかしこまった。

 

「入って入って」

 

 この若い兄弟は、ここ数日間で見違える程にたくましくなった。兵練場で若い新兵と共に日夜訓練に励んでいるのだ。

 

 

「ハッ」

 

 十三に続いて十五が部屋の入口付近に入って傅く。

 

 

「今日ね、正式に許可が降りたよ! 新兵さん達30人をうちで貰い受ける事になった♪」

 

 

「おお!」

 

 伊藤が日々通っていた姉小路頼綱の居宅では、新兵を貰い受ける交渉が行われていたのだ。

 

 ただし、その貰い受けには条件が付いた。その条件についての交渉は、今後になるため明確になっておらず、その為伊藤は2人にそれを伝えないでいた。

 

 

「てなわけで、二人とも急いで大原に戻ってもらいたんだ、30人分の住まいと、それから美紀ちゃんに言って、コッチに来たければ女の子4人を連れて来てあげて」

 

 

「ハッ!」

 

 十三の承諾の後、十五が遠慮しながらも伊藤に頭を下げて頼みごとをした。

 

 

「恐れながら! このような湯治場、そうそう来れる物でも御座りませぬ故、お末も連れて参る訳にはいかぬでしょうか、父や兄までもとは申しませぬ、せめてお末だけでも」

 

 兄2人、姉1人と一緒に石島の屋敷で働く末の妹を想い、兄なりに精いっぱいの頼みであった。その十五の頼みごとを聞いた伊藤は、少し考えるような素振りを見せる。

 

 

 伊藤の反応に対し、青ざめた十三が叫んだ。

 

「十五! あつかましいぞ! 控えろ!」

 

 

「まぁまぁ、十三いいよ大丈夫だって、そんな事で怒らないからさ」

 

 伊藤は笑顔で十三を宥めると、優しく十五に語りかけた。

 

「まずね、十五の間違いが一つ」

 

「ハッ!」

 

 伊藤の指摘が始まる前に、十五は床に額を付ける程に頭を下げた。

 

「湯治場に滅多に来れないってのは間違いね、今はそうかもしれないけど、近い将来、好きなだけ来れるようになるから!」

 

 そこまで言うと伊藤は立ち上がり、頭を下げている十五の正面でしゃがんだ。

 

 

「お末ちゃん、連れておいで? でもね、そのうちさ、四衛門さんや十二さんも湯治場に連れていけるようになるから、頑張って働いて、立身していこうな!」

 

 そう言って十五の方をポンポンと叩く。

 

 

「ハハッ!」

 

 十五は更に深く、頭を下げる。

 

 

 伊藤は言葉を続けた。

 

「あ、それからね? 二人ともかなり評判いいよ、頼綱様も2人を見て『気持ちのいい若武者だ』って言ってたし」

 

 それを聞いた十三が頭を下げる。

 

「勿体なきお言葉で御座います」

 

 

 伊藤は十三と十五を交互に見るようにすると、にんまりと笑う。

 

「それでね! 頼綱様から2人に贈り物があるだよね! 預かってきたから今受け取ってちょうだいな♪」

 

 この兄弟にしてみれば、飛騨守護の次期当主から贈り物と言われても、自分達が今まで生きてきた次元と違いすぎて理解が出来ない。

 

 

 伊藤が差し出したのは、小さな筒が1本。

 

「開けて♪」

 

 

 十三がそれを受取り、促されるままに開く。筒から出てきたのは、手の平程度の大きさの紙が一枚入っているだけだった。

 

 その紙の中央に「綱」と書かれている。

 

「頼綱様、2人の【烏帽子親(えぼしおや)】になってくれるってさ!」

 

 

 驚きのあまり目を丸くして固まっている兄弟に、伊藤は別の筒を差し出す。

 

「で、こっちは俺からね」

 

 その筒は二本あり、十三と一五がそれぞれ受け取った。

 

 

 十三が筒を開くと「義」と書かれた紙が入っており。

 

 十五が開いた筒には「忠」と書かれた紙が入っていた。

 

 

「兄は義を以て石島に尽くし、弟は忠を以て兄に尽くせ! 俺からのお願いね♪」

 

 

 更に、姉小路頼綱から両名に一振りづつの【太刀(たち)】が贈られた。飛騨守護の嫡男から贈られたその脇差は、【関の孫六(せきのまごろく)作】の所謂(いわゆる)「名刀」である。

 

 十三と十五は、その厚遇に肩を震わせ、涙を流して喜んだ。

 

 こうして十三と十五の兄弟は、この日を境に武士となり、石島家の家臣として乱世の荒波に挑んでいく事になったのである。

 

 

 

■1567年 7月中旬 飛騨国

   大原村 石島屋敷

 

 

 伊藤さんが桜洞に発ってから15日が経ったこの日、十三くんと十五くんが大原の石島屋敷に戻ってきた。

 

「で? で? で? 行ってイイって? ね? ね? どうなの? どうなの?」

 

 2人が帰還の挨拶を俺に済ませると、待ちくたびれた瑠依ちゃんが食いつくように2人に質問を浴びせた。

 

「はい、美紀殿にお伺いを立て、宜しいようであればお末を含めて湯治場に参られよとの事です」

 

 

「お末ちゃんもいいんですか!? やった♪」

 

 笑顔で答えた十三くんに、優理が歓喜の声を上げる。

 

 お末ちゃんがうちで働くようになってからというもの、優理は本当によく可愛がっている。瑠依ちゃんからの好かれっぷりといい、元々年下の女の子が可愛くて仕方ないのだろう。

 

 瑠依ちゃんはもう既に、飛ぶように美紀さんの所へ行ってしまった。後を追うように、優理も席を立つと「おすえちゃ~~~ん!」と叫びながら炊事場に向う。

 

 

「金田様と須藤様はお屋敷の留守をお守り頂き、不詳、この十三と十五が道中の護衛を務めますので、殿もお急ぎご準備下さい」

 

 十三くんが言い終わって頭を下げると、十五くんも合わせるように頭を下げる。この2人の異変に、俺達3人は気付いていた。

 

 2人とも、広間に入る前に左腰に差してあった太刀を鞘ごと引き抜くと右手に持ち、座ると同時に自身の右側に置いたのだ。

 

 

「ずいぶん高そうな刀ですね」

 

 その刀から一番近い位置にいたつーくんが声をかけた。

 

 恐縮しながらの2人が言うには、姉小路頼綱さんに贈られた貰い物だとか。更に十三くんが畏まって「申し上げたき義が」と頭を下げる。

 

 俺が頷いて「どうぞどうぞ、遠慮せずに」と促すと、なんと名前を変えたのだと言い出した。

 

 

「これからは武士として、石島家の末席に加えて頂きます」

 

 そう平伏する2人の若武者が、とても心強く見えた。

 

 

 兄の十三くんは【大原綱義(おおはらつなよし)】と名乗り。

 

 弟の十五くんは【大原綱忠(おおはらつなただ)】と名乗る。

 

「かっこいいじゃん!」

 

 俺は素直にそう思った。

 

 

「俺達もなんか名前考えないと駄目だなぁ」

 

 金田さんが何やらブツブツと1人で言いながら名前を考え始めた。一応、俺達は既にこの時代に合せた呼び名を持っている。

 

 つーくんは、須藤剛から【須藤剛左衛門(すどうごうざえもん)】に。

 

 金田さんは、金田健二から【金田健二郎(かねだけんじろう)】に。

 

 伊藤さんは、伊藤修一から【伊藤修一郎(いとうしゅういちろう)】に。

 

 俺はそのまま、石島洋太郎のままだ。

 

 ただ、金田さんが言う「名前」とは、男であれば大人になる儀式の【元服(げんぷく)】の際に名乗りを改めると言う。その儀式は通常、14歳~16歳くらいの間に済ませるそうで、俺達の年頃には持っていて当然の名前なのだ。

 

 

「すでに歴史上にいますからね、歴史上の人物から貰うのも気を付けないとかぶっちゃいますよね」

 

 つーくんは最初、有名な武将から貰うのを考え付いたらしいが、現存する武将と名前がかぶる可能性が高い。かぶった所で問題は無いのだが、流石に「信長」とかは気が引ける。

 

 

「大原兄弟の名前付けたの伊藤さんだし、伊藤さんに聞いてみたらいいんじゃないですか?」

 

 シンプルに考えるとそうゆう結論になる。金田さんもつーくんも異論無しだった。

 

 明朝、俺は十三くんと十五くんに護衛されながら、若干ハーレム状態で屋敷を発った。道中の話題は、未来から来た女の子達にとっては未知の世界である「温泉」で持ちきりだ。

 

 実はこの時代、お風呂が無い。

 

 正確には、湯船という物が存在しないのだ。【風呂】と言えば、蒸気で満たされた狭い部屋で体を温めるサウナのような物を指す。湯船やシャワーに慣れた俺達にはけっこう厳しい時代だ。

 

 俺達の屋敷にも、蒸気の風呂は存在する。お湯はもちろん沸かせるし、お湯で浸した布で体を拭く事もできるのだが、その程度と言えばそれまでだ。

 

 特に女の子達は3日に一度くらいはわざわざ往復4時間以上かけてシャワーを浴びに簡易キャンプへ通っている。そんな女の子達にとって、温泉は魅力的な存在なのだろう。水の補充を心配する事無く、永遠に沸き続けるお湯が使い放題なのだ。

 

 

 桜洞の湯治場まで、ほぼ丸1日を要す。

 

 途中何度か休憩をはさみ、美紀さんが用意してくれた握り飯を食べながらの長旅になったのだが、意外な事にその遠さには誰も文句を付けなかった。

 

 

 一番疲れていたのは俺らしい。

 

 優理の身体能力は、今までも何度か垣間見てきた。瑠依ちゃんも結構な運動神経の持ち主だ。美紀さんも唯ちゃんも、歩けど歩けど疲れを見せない体力を持っていて、俺は自分が情けなくなる。

 

「サポート部の訓練は厳しいんですよ? これくらいどうってことないです♪」

 

 夕方、到着する手前で唯ちゃんが天使のスマイルで俺を励ましてくれた。

 

 

 大原兄弟の案内で着いた湯治場は、賑やかでいくつかの店が並んでおり、優理と瑠依ちゃんは目をキラキラさせながら「明日行ってみよう!」と相談をしている。

 

 

「優理と瑠依で遊びに行っちゃうのか、唯は殿とデートでしょ? そしたら私は伊藤さんとデートかな」

 

 

「え~~~! 駄目です! 美紀ねぇは瑠依ちゃんとです!」

 

「え? 優理先輩1人で遊ぶんですか? だったら私は美紀ねぇと伊藤さんと3人で遊びます♪」

 

「ちょ!? なにそれ! 違うよ違う、私が伊藤さんとデートだってば!」

 

 

(相変わらず羨ましい限りで……)

 

 

 俺は苦笑しながらそのやり取りを眺めていた。気付くと、唯ちゃんが少し恥ずかしそうにコッチを見ていたので、あまり期待させても悪いから言っておく事にした。

 

「ごめんね、俺は多分、遊んでる余裕ないわ、伊藤さんもだと思うけどね」

 

 唯ちゃんは小さく頷くと。

 

「分かってますよ♪ 大切なお仕事があるんですよね?皆それくらい分かってますから気にしないで下さい」

 

 とても優しい笑顔でそう言ってくれた。

 

 

 伊藤さんが借りているお屋敷が見えてくると、十五さんが走って伊藤さんに知らせに行った。もう日は完全に傾き、少し薄暗い程になっている。

 

 

「おっじゃましまーす♪」

 

 瑠依ちゃんの大きな声を、伊藤さんとお栄ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

 

「長旅お疲れ様~」

 

 

 全くもってどうしようもない話なのだが、伊藤さんの姿を見ただけなのに、なんだか胸に熱い物が込み上げてくる。

 

(俺がこんなんだからなぁ……)

 

 予想通り、優理と瑠依ちゃんは熱い物が胸にとどまらず、両目から込み上げている。

 

(大げさなんだよな……俺も含めてだけど)

 

 約2週間離れていただけなのにコレじゃ、この先もっと離れる期間が出来たら大変だ、想像が付く、大泣きするだろう。

 

 

 伊藤さんとお栄ちゃんが用意してくれた3つの桶には、水が張られていて、そこで足を洗って屋敷にあがった。既に夕餉の仕度が出来ており、全員でお栄ちゃんの手料理を御馳走になる。

 

 

「やっぱりお栄ちゃんの味付けが最高♪」

 

 美紀さんは満足そうに料理を口に運んでいる。他の皆もお栄ちゃんの作る料理が一番好きだ。

 

 

「殿、一献」

 

 伊藤さんがニコニコしながら俺にお酒を勧めてくれた。

 

 俺は普通に伊藤さんにも勧めたが、伊藤さんがお酒に口を付けようとした瞬間、美紀さんと優理が怒涛の勢いでそれを辞めさせてしまった。

 

(厳しいなぁ……ちょっと羨ましい気もするけど)

 

 夕餉も終わり、俺は日本酒を飲んだせいもあって、完全にオネムモードに突入してしまった。

 

「殿はお疲れのようですから、お栄、寝所の仕度を」

 

「畏まりました」

 

 伊藤さんに促され、お栄ちゃんは一礼すると別室に向う。

 

 

「元気な人は温泉を案内しよっか? 入りたくてウズウズしてるっしょ? 俺も今日まだ入ってないし、お酒も飲ませてもらえてないし? 気分転換に一風呂浴びてくるしさ」

 

 伊藤さんの言葉に、女の子はウンウンと頷き、目をキラキラさせている。

 大原兄弟が「殿の護衛に残ります」とだけ言うと、伊藤さんはそれに頷いていた。

 

 

「姉様はゆかれるのですか?」

 

 伊藤さんに対してまだ緊張気味のお末ちゃんが、十五くんに問いかける。

 

 

「ああ、伊藤様の湯殿のお世話は栄が行っておる、末もご同行させてもらって湯殿の作法を教わってきなさい」

 

「はい♪」

 

 表情が明るくなったお末ちゃん、まだ10歳ながらすでに国民的美少女コンテストに出てもおかしくないレベルだ。

 

 

(うん、絶対に美人姉妹になるわ)

 

 つーくんの言っていた事は間違いない。お栄ちゃんもお末ちゃんも、絶対に美人姉妹になる。

 

(この時代じゃ美人って言われないんだろうなぁ)

 

 

 山賊達の感覚では、優理と美紀さんは大層な不細工らしいから、この時代と俺達の時代との間にある美的感覚のズレはかなりの物だろう。

 

 温泉に入りに行く皆を尻目に、俺はお栄ちゃんが用意してくれた布団に入ると、のび太君並の速度で寝の国へ向かう。

 

 歩きすぎて限界だったのだろう、グッスリ寝過ぎて夢さえ見なかった。

 

 

 

 翌朝、女の子達はそれはもう朝からよくしゃべった。昨日の夜に行った温泉の興奮が冷めやらないらしい。

 

 女を3つ書いて【姦(かしま)しい】と書く漢字がある。

 

 どんな意味なのか気になって調べた事があるのだが、どうやら「うるさい」とか「やかましい」に該当するらしい。

 

 

(良く出来た漢字だ)

 

 

 女の子が6人いるので【ダブル姦しい】だ。

 

 

 最初は温泉の話題だったのだが、途中からあらぬ方向へ進み出す。ついにたどり着いた話題が、俺に雷を落とす事になった。

 

 まさに激震である。

 

 俺は昨日の夜、寝たしまった事を死ぬほど後悔した。

 

 いや、死んでも後悔しきれないだろう。

 

 今、屋敷の外に飛び出したら選択シーが止まっていて、竹之内さんがダンディーな顔で「何かお困りですか?」とか言ってくれないだろうか。

 

 迷わず昨日の夜に戻りたい。

 

 

 実は、なんと、この時代は混浴だというではないか。

 

 

(なんてこった! おーまいがっ!)

 

 

 話を聞いていると、電気もない小屋の中にお風呂があり、湯気で靄っているので夜は殆ど見えないらしいのだが。

 

「やっぱり肩がよかったです、胸筋も捨てがたいんですけど」

 

 唯ちゃんが聞くに堪えない会話を始めてしまった。

 

 

「え~? 唯ちゃんそれはフェチだよフェチ! 王道は腹筋と上腕二頭筋だって!」

 

 

 話題になっているのは、伊藤さんの肢体に関する事だ。

 

 

「え~、瑠依はそうゆうのよく分からないですけど」

 

 瑠依ちゃんは少し間を置いてニヤっと笑う。

 

「背中、触っちゃいました! キャー♪」

 

 

(がっでむ!……俺よ、どうして、何故、なんで寝たのだ!)

 

 

「背中触ったって、私と優理はそれ以上の関係になってるよ? ねー♪」

 

 

「ブッッ」

 

 俺は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

 

「アハハハハッ♪ 冗談だって、美紀ねぇそれは言い過ぎ♪!」

 

 優理は笑いながら俺が粗相した所に手ぬぐいを持って来てくれた。

 

 

「そぉ? どっちかって言うと優理の方がペタペタ触ってたよ? 包帯巻いてあげてるとき」

 

 

「ん~、まぁそうだけど、関係って言い過ぎじゃないかな?」

 

 優理は手ぬぐいで床を拭きながら、瑠依ちゃんの方を見てニヤリと笑うと。

 

「でも悪いけど、瑠依ちゃんよりはよーく知ってるよ? 伊藤さんの……か・ら・だ♪」

 

 

 

 伊藤さんは大原兄弟を連れ、姉小路さんの所へ行っている。石島の屋敷でも、もしかすると女の子だけになるとこうゆう雰囲気なのだろうか。それとも、温泉に来てテンションが上がっているだけなのだろうか。

 

 

(下呂温泉 ガールズトークが 止まらない)

 

 俺はサラリーマン川柳ならぬ、お殿様川柳で心を鎮めながら伊藤さんの帰りを待った。

 

 

 伊藤さんが戻ると、浮ついたガールズトークはピタリと止んだ。

 

(あの~……俺も一応は男なんですけど……)

 

 

 何故か十五くんしか戻ってきておらず、十三くんがいない。

 

 

「殿、頼綱様がお会いしたいとの事ですので、湯殿へ行ってください、綱義が待っていますので」

 

(綱義って誰だっけ?)

 

 最初はピンと来なかったが、数秒遅れて十三くんの事だと気付き、俺は小さく頷いた。

 

 

(そうだ、ガールズトークを聞くためではない、俺はこのために来たのだ!)

 

 

 お栄ちゃんとお末ちゃんが身支度をしてくれている間、俺は伊藤さんから最終レクチャーを受けた。

 

 もう既に信頼関係の構築が終わっているので、素直に話をしてくればいいらしい。恐らく、生い立ちの話になるだろうから、伊藤さんや金田さんに連れられて流浪していたとすればいいだろう。

 

 俺自身が頼綱さんの目に「いい人」に映れば100点満点だそうだ。

 

 

 これは非公式の会見となる。家と家との格式がある会見となる場合、石島家は姉小路家に対して頭を下げなければいけない立場だ。しかし場所が温泉で、お互いに裸であればその必要は無い。

 

 忌憚なく話がしたいと言う頼綱さんの心遣いなのだとか。

 

 公式の会見は伊藤さんがやってくれていて、その成果は上々だ。聞いて驚いたのだが、まだ訓練中の新兵とはいえ、30騎を貰い受ける話にまでなっていると言う。

 

 ただ、その条件が俺に直接、温泉で伝えられるそうだ。

 

 

 伊藤さん曰く、「誰かの命に係わる話じゃなければ即決して大丈夫」との事だ。ある程度の事は伊藤さんが想定していて、きっと柔軟に対応してくれるだろうと思う。

 

 要するに、人質を寄こせとか、そんな話は断れって事だ。

 

 

(よし、これが俺のデビュー戦だな、【初陣(ういじん)】ってやつだ!)

 

 俺は十五くんに案内されて、自綱さんが来る事になっている温泉に向った。

 

 

 途中、あっちかお城でそっちが兵錬場でと、十五くんが色々と説明してくれたが、初めて来た場所を説明だけで把握できるほど俺の頭は優れていない。ましてやデビュー戦を控えて緊張しっぱなしだった。

 

 

「この上で御座います」

 

屋敷からは歩いて5分も経っていない。温泉からすぐ近くの好立地のお屋敷を借りている事になる。温泉の入口に着くと、十三くんが出迎えてくれた。

 

 

「既にご到着されておられます」

 

 俺はその知らせに焦ってしまった。

 

 こちらが待っている予定が、相手を待たせてしまっているかもしれないのだ。

 

 

「急ごう」

 

 後ろに続くお栄ちゃん、お末ちゃん、十五くんに目配せすると、俺は急いで中に入った。

 

 

 狭い脱衣所に入ると、そこは温泉の匂いが満ちていた。

 

「栄、末、頼むぞ」

 

 十五くんが2人の妹に声をかけると、1人で外に出る。

 

 

「こちらで御召物をお脱ぎください、湯治場では湯帷子は着用しないのが作法で御座います」

 

 

 お栄ちゃんの目の前で服を脱ぐのはかなり恥ずかしいが、屋敷ではお末ちゃんのお世話で何度も風呂に入っている。屋敷の湯船が無い風呂では、湯帷子という専用の風呂着みたいな物があるが、ここではそれがない。

 

 男らしく覚悟を決め、衣服を脱いでいつものようにお末ちゃんに手渡す。

 

 

(昨日、みんなココで脱いだのか……なんで寝たの俺!)

 

 あんまり変な妄想をすると、下半身が反応してしまいそうだったので、首を横に振って下品な妄想を振り払う。脱衣所から湯まで特に扉は無く、小さな入り口をくぐれば目の前の湯気の向こうに岩風呂が広がっていた。

 

 

「失礼致します」

 

 既にそこにいるであろう頼綱さんに失礼の無いよう、細心の注意を払う。かけ湯で体を洗い流し、湯に足を入れた時、湯の中にいる男性に声をかけられた。

 

 

「ご足労をおかけしましたな、ささ、こちらへ」

 

 

 どんな話になるのか、どんな事を話せばいいのか、頭の中がぐるぐると纏まらない。

 

「石島洋太郎で御座います」

 

 

 俺は一礼し、頼綱さんの近くまで進んで湯に漬かった。

 

 

「伊藤殿より伺っておりますので、そう緊張なさらずに」

 

 優しい声をかけてくれた頼綱さんの顔は、割と面長で男前、年齢は俺とそんなに変わらないだろう。

 

 

「石島様は良きご家来をお持ちだ、正直羨ましいとさえ思いますよ」

 

(伊藤さんの事か)

 

 その点に関しては、自分事ながら完全に同意する。伊藤さんがいなければ、俺は石島の当主である事など出来ないだろう。

 

 

「伊藤さんあっての石島家です、あの人がいなければどうにもなりません」

 

 頼綱さんは俺の言葉にうんうんと頷いた。

 

「伊藤殿の申された通り、物腰柔らかく実に良き人相をお持ちですな」

 

 しきりに何かに納得した様子を見せると、少し俺に近づいてきた。

 

 

「お手間をかけても申し訳ないので、早速ではあるが本題に入ろう」

 

 そう言って少し後方へ首を向ける。俺も釣られてその方向を見ると、そこには靄に隠れた人影があった。

 

 

(誰かいる?)

 

 

 その人影に向い、自綱さんが声をかけた。

 

「陽(はる)よ、これへ」

 

 

「はい」

 

 

 靄の中から聞こえたのは、女性の声だった。

 

 

「はっはっは♪ 初対面がこのような場では少々手荒な気もしたがな、俺は確信したぞ、良きご当主じゃ、安堵致せ」

 

 頼綱さんは言いながら<サバッ>と音が立つほど勢いよく立ち上がると、俺を見下ろすようにしながら条件を述べた。

 

 

「【陽(はる)】と申します、少々ややこしい話になっておりましてな、聞いてやってくだされ」

 

 そこまで言うと「あとは本人から」と言い残し、そのまま脱衣所の方へ出て行ってしまった。

 

 

(えええええ! 二人きりですか!?)

 

 初対面の男女がいきなり温泉で、裸で、至近距離で二人きりだ。陽さんはもう目の前に来ている。手を伸ばせば届きそうな距離に、裸の女性がいるのだ。

 

 

(ヤバイ! やばいやばいやばい!)

 

 

 しかも良く見ると整った顔立ちで、結構な美人さんだ。その上、なかなかによいお胸をお持ちなのだ。

 

 

「陽と申します」

 

「い、石島洋太郎です!」

 

 

 湯はそれほど熱くない。少々温めなので、こんな短時間でのぼせる事もない。

 

(やばいっ……)

 

 湯のせいに出来ないほど、俺は完全に頭に血が上ってしまっている。

 

 

(お……っぱ……ヤバイって!)

 

 

 しおらしく胸を手で隠してはいるが、大きいその胸は隠しきれるわけもなく、余裕でチラ見せ状態だ。

 

 

(チラ見せは逆にエロい! アカーン)

 

 

 俺の不埒な精神状態を余所に、陽さんは自身の事について話始めた。

 

 陽さんのお母さんは飛騨の小豪族の娘さんだったそうで、人質として姉小路さんの所へ送られたそうだ。しかしその時、すでにお母様は身籠っており、姉小路さんの所で出産した。

 

 それが陽さんだそうだ。

 

 人質の子という立場ではあったが、頼綱さんに妹のように可愛がられて何不自由なく暮らしていたのだが、今年に入ってお母様がお亡くなりになると事態は急変。お母様のご実家であるその豪族と一気に疎遠になり、姉小路さんと敵対する勢力がその豪族に対して急接近。

 

 先月、ついに姉小路さんと敵対する関係に発展してしまったそうだ。

 

 こうなると、陽さんは立場がなくなる。

 

 自綱さんのお父様の計らいで、陽さんは頼綱さんの養女いう形を取ってどうにかその立場を保ってはいるものの、ご実家との関係は悪化していく一方なのだとか。

 

 形式上、陽さんは頼綱さんの娘という事になるが、どう見てもそこまで年は離れていない。

 

「陽さんはおいくつになられるのですか?」

 

 気になったので聞いてみた。

 

 

「17で御座います」

 

(優理と同じか)

 

 

 湯に漬かりながら陽さんの身の上話を聞いていた俺は、十分に体が温まった。

 

 頼綱さんが「ややこしい」と言ったのも分かる。なんだかややこしい身の上になってしまっているようだ。

 

 でもまだ聞いていない事がある。

 

 

(条件……)

 

 その条件も、陽さんの口から聞けるのであろうか。

 

 

 陽さんは少し俯いて、何かを躊躇っている様子だ。

 

 

「どうしました? どうぞ遠慮なさらずに」

 

 俺はその条件とやらが気になっていたし、そろそろ湯から上がりたい。

 

 陽さんがゆっくりと口を開く。

 

「あの……こんな事、お願いするのは筋違いな気もするのですが」

 

 陽ちゃんは俺の目をしっかりと見据えた。

 

 

「陽を……陽を貰うては頂けませぬか? どうか、どうかお願い致します!」

 

 

「えっ!? ちょ!?」

 

 

 あまりの事に気が動転した。

 

 動転した俺の意識をぶっ飛ばすように、裸の陽さんが俺にその肢体を預けてきたのだ。

 

 

「え!? あ……の……さ?」

 

 

 肌の触れ合う感覚。

 

 湯の中とはいえ、この感覚は他では絶対にない、心地の良い感覚だ。大きな胸が俺の脇腹辺りに押しつけられる。

 

 

 何かを言おうと思ったが、思いつかなかった。

 

 陽さんの手が俺の体を這うように包み込み、きつく巻きついてくる。体を密着させながら、潤んだ瞳で俺を見上げているのだ。

 

 もう、俺の貧弱な理性はロケットに乗って月面まで到達してしまった。

 

 俺は陽さんの可愛い唇を奪った。湯気や湯に湿った唇は、温かく、柔らかく、温もりを伝えてくる。

 

「……石島様……洋太郎様と御呼びしても宜しいですか?」

 

「ああ、いいよ、好きに呼んでいい」

 

 俺は手を陽さんの体に沿わせていく。

 

 

 再び唇を合わせ、今度は深くキスをした。

 

 

 陽さんの頬は、湯のせいか、俺のキスのせいか、赤くそまっていた。

 

 

 俺の理性は遥か遠く、月面にある。そんな理性の声は、どうあがいても俺には届かない。3年間、ひたすら自室に立て篭もり、こちらに飛んでからは満足に1人の時間を楽しめた事もない。

 

 

 俺の鬱屈してしまった性欲は、解放の機会に歯止めが効くわけがなかった。

 

 俺の両手は、陽さんの体を隅々まで堪能していく。陽さんは時折、身に緊張を走らせながらも、徐々にではあるが体が甘美な反応を見せ始めている。

 

 

(初めてなのかな?)

 

 

 俺は陽さんの反応を見ながら、手と舌でその麗らかな体を愛撫していった。頃合いを見計らい、湯の中で手を這わせ、陽さんの秘部に指をあてがう。

 

 

「ハァ……ん、洋太郎様……」

 

 

 その場所からは、湯とは違う感触の、柔らかいトロミを帯びた愛液が漏れだしていた。

 

 

 俺は陽さんを抱え、休憩が出来るように用意されたと思われる板で間仕切りされた空間に移動、その一角の畳敷きがされている場所に陽さんを寝かせた。

 

「洋太郎さま……」

 

「陽ちゃん……」

 

 

 再び唇を合わ、湯で温まった体を合わせると、熱い互いの舌を絡ませる。そして、俺と陽さんは体をぶつけ合うように、何度もお互いの存在を示しあった。

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