ゲームチェンジャー   作:のなもちとちみ

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第6話 【聞きたくなかった】

 メディカルチェックが終わった後、【安定した「タイムズゲート」】とやらが確保できるまで待機になる予定だった。しかし、そのゲートは予定よりずいぶん早く用意できたとの事。

 

 通常は良くて予定通りか、ほとんどのケースで遅れるらしいから、今回は特に運がいいと説明を受けた。これはきっと、俺たち二人を戦国時代が手まねきしているからだろう。

 

 

 つーくんと出会って、俺は色々と吹っ切れた気がしている。そう、佐川優理の事だ。

 

 佐川優理と伊藤さんの関係がどうなっているのか、俺は知る由も無かったけど、知りたいとも思わなかった。むしろ知りたくなかった。

 

 伊藤さんは十分すぎるほど大人だ。

 佐川優理だって子供じゃない。

 

 二人の間が進展するとすれば、それは子供のようなプラトニックな関係ではないだろうと思うから。そんな状況になっているって事を、知らない方が幸せだと思う。

 

 

 

「まじっすか!? なんでっすか! もったいねぇ~」

 

 出発を告げられて集合している中で、金田さんがヘラヘラと笑いながら、伊藤さんに小言を言っているようだった。

 

 

「もったいねぇってなんだよ、戦国時代で出世したら一夫多妻だぞ?」

 

 伊藤さんも若干ニヤニヤしながら、金田さんとの会話を楽しんでいる。

 

 

「いやいやいや、そうは言ってもっすよ先輩、あのレベルの女はそうそういませんって!」

 

 

 佐川優理の事を言っているのだろうか。なんとなく、気になって聞き耳を立ててしまう自分が悔しかった。

 

 

「あーね、確かにいないね、それはわかるよ、うん」

 

(そう、いないと思う)

 

 まるでアニメの世界から出てきたような、リアル天使だ。

 

 

「だったらなんで、って、あ、もしかして隠してるだけでホントは……」

 

 金田さんの会話から推察するに、佐川優理が伊藤さんに告白でもしたのだろうか。何故か心臓がバクバクしている自分に気付く。

 

 

「無いってば……おじさんにはまぶし過ぎるんだよあの子、真っ白すぎて汚い手じゃ触れねぇよ」

 

 

 そう言う伊藤さんの表情は、どこか寂し気というか、哀愁が漂っている感じがした。

 

 

「くぅぅうぅう、たまんねぇっす! 先輩、出世したら絶対呼んでくださいよ? 自分なんでもしますから! 家来にしてください、絶対っすよ!」

 

 金田さんは伊藤さんの事が大好きらしい。通過1位と2位がこの調子なので、他の候補者もなかなか伊藤さんに近寄れずに数日が過ぎていた。

 

 

「金田くんが先に出世しても呼ばないでね? 毎日金田くんと話してたら疲れるから」

 

 

(うお、すげー事言うな)

 

 冗談だとは思うが、どこか本気とも取れる言い回しが伊藤さん独特で怖い。

 

「うお、すげー事言うっすね!」

 

 

(か、かぶった)

 

 言わなくてよかったと思った。伊藤さんと金田さんはその後も二人の世界で会話を続けている。

 

 

「よっ!」

 

 ぼんやりしていた俺を気遣ってくれたのか、笑顔のつーくんがやって来た。

 

 伊藤さんと金田さんのやり取りに雑念を抱かされていた俺は、つーくんの登場に救われた気がする。

 

「よーくん、いよいよだな!」

 

 

「つーくん、絶対やってやろうぜ!」

 

 隣に来てくれていたつーくんに気合を込めた言葉をかけた。

 

 

「おう、よーくん、絶対な!」

 

 そう言ったつーくんは、右手を前に出し。

 

 「歴史は~」と掛け声をかけた。俺は空かさず、その右手に自分の右手を重ね。

 

 「俺たちが~」と続ける。

 

 そして二人同時に、その右手を高く突き上げながら声を合わせた。

 

『つくる!』

 

 息もぴったり、掛け声もぴったり決まった。

 

(決まった)

 

 よーくんもそう思っているであろう、満足した表情を浮かべている。

 

 

「ふん、遊びじゃねーんだよガキが」

 

 わざと聞こえるように嫌味を言ってきたのは、4班の候補者で選考5位の大森さんだ。けっこう毎度の事なので、この人の相手はしない事に決めている。

 

 

『みなさん、お待たせして申し訳ありません』

 

 今日のサポートの女の子達はいつもと雰囲気が違う。ちょっと近未来っぽいお揃いのユニフォームを着て、インカムのような物を右耳に装着していた。そのインカムは拡声器にもなるようで、8名いるサポートの代表がこれからの説明を行う。

 

 彼女は8名の中で最も年長者である栗原美紀さんだ。

 年長者と言っても26歳、俺とそんなに変わらない。

 

 栗原美紀さんから色々と説明を受けたが、全てが一度聞いている物だった。タイムスリップの方式と、その性質上の留意点についてだ。

 

 この施設で使用できる方式は大きく2種類。

 

 一つは「タイムズゲート」と呼ばれる簡易式の物で、これが一般的に使われている物だそうだ。一度つなげば、一旦閉じる事ができ、再度開けば同じ世界につなぐ事ができる。

 

 しかし、一旦閉じるではなく、切り離してしまった場合。切り離した過去と同じ世界に再度つなぐ事は、理論上は可能であるにも関わらず、成功した事がなく、事実上は不可能に近いらしい。

 

 この方式で繋いだ過去をどんなに変更したところで、この時代には一切の影響を及ぼさない、いわゆるタイムパラドックスとやらが起こらない方式として採用され、タイムスリップの主力になっているそうだ。

 

 

 もうひとつの説明はココでは行われなかったが、佐川優理から受けた説明の中にはあった。

 

「タイムズトンネル」という方式で、「ゲート」よりも安定性があり、安全性については保障されているレベルなのだが、「ゲート」に比べて強い関連性が発生する方式だそうだ。

 

 この方式でも繋いだ過去においてもタイムパラドックスと言えるほどの事態は起きないが、過去の事象を変える事で、少なからずこの時代にも影響が出るらしい。

 多少の事ならばそれで良いが、大きな変革が起きてしまった場合の影響は想像がつかないとの事で、頻繁に使われる方式ではないという説明が付け加えられた。

 

 その「トンネル」は一度つないだらそう簡単に封鎖する事が出来ず、また影響力も強い事から、ゲームチェンジャーを送り込む際には使われないとの事。

 

 しかし、佐川優理が俺たちを誘いに来た時に使ったのは安全性を考慮された「タイムズトンネル」だそうで。ゲームチェンジャー候補者リストには、未来に極力影響を及ぼさない人間を徹底的に調査した上で掲載するそうだ。

 

 そうだとすれば、俺も、注目の的になっている伊藤さんも、あのまま普通に過ごしていとしたら、何一つ残さないで死んでいく運命だったって事になる。

 

 

『全員の用意が出来次第、タイムズゲートをオープンします。候補者は各担当サポートの指示に従ってゲートを抜けて下さい』

 

 

(どこにあるんだろ)

 

 ゲートらしき物を探してみたが、それっぽい物は見当たらない。

 

 

『それでは、各担当は候補者の所へ。候補者は担当の所へ集まってください、特に第6班は多いので速やかに行動をお願いします』

 

 

「んじゃ、よーくん、戦国時代で!」

 つーくんの挨拶がかっこよすぎるから、俺もマネした。

 

「おう、つーくん、戦国時代で!」

 言ってはみたものの、実感は全く沸かない。

 

「それでは、説明しますね」

 阿武唯が第2班に説明を開始している様子が見えた。

 

 

「おーい、石島ちゃん、こっちこっち!」

 金田さんが俺を呼んでいる。

 

「あ、すいません、今行きます!」

 急いで第6班が集まっている所へ向かった。

 

 伊藤さん、金田さん、佐川優理、そして俺。期間にしたら僅か8日間。この間、俺は人間としてずいぶん成長した気がする。いや、成長させてもらった気がしている。

 

「伊藤さん!」

 

 俺は真面目に伊藤さんに向き合った。

 

「この数日間、本当に有難うございました!」

 

 深々と頭を下げた。こんな風に人にお礼を言い、深々と頭を下げるなんて、生まれて初めての経験だ。

 

 

「なーに言ってんの、でも、男前になったなぁ、いい顔してるよ!」

 

 そう言って俺の肩をポンポンと叩く。

 

 

「男児三日あわざれば括目せよ! って言うっすからね!」

 

金田さんも俺の肩をポンポンと叩き始めた。

 

 

「俺、子どもじゃないですよ」

 

 金田さんとこんな風に冗談を言い合えるのが、あと何日続くのだろう。もしかしたら、最後かもしれない。

 

「金田さんも、ほんとお世話になりました! ありがとうございます!」

 

 一応、金田さんにも頭を下げてお礼を述べておいた。

 

(気持ちいいもんだな、お礼を言うって、めっちゃスッキリする)

 

 

「なんだよ、照れるじゃねーか」

 

 いつもの調子でニヤニヤしながら照れている金田さんの後ろから、佐川優理が顔を出し近づいてきた。そのままグイっと腕を引っ張られ、伊藤さんと金田さんから少しだけ離される。

 

 

 佐川優理に触れられたのは初めてだ。

 

 手の平の感覚が服越しに伝わってくる。自分の着ている服が恨めしかった。

 

 そして、顔を近づけてきた。

 

 

(え、まさかっ)

 と思ったが、全然まさかの事態にはならなかった。佐川優理は俺の耳元で「ねね、唯とはどうなの?」と、小声で尋ねてきたにすぎない。

 

(なんだよ、期待しちまったじゃねーか)

 

 

 よく考えると、いや、よく考えなくても、俺に期待する要素など無い。期待した俺がバカなんだと反省した。

 

「どうもこうも、こないだ来た日から話してねーし」

 俺はありのままの事実を伝えた。

 

「え? こないだ来た日って、私が連れて行った日?」

 佐川優理はそのまま俺の目をじっと見る。

 

「そうだけど……」

 

(いい香りだ……やばい)

 

 この距離で佐川優理に見つめられて、下心を抱かない男などいるはずがない。たとえ80歳でも、90歳でも、男ならちょっとくらいは抱くはずだ。もちろん、そんな俺は止めどなく下心が溢れてくる。

 

 俺への行動が、親友の恋路を邪魔している事に気付かないのだろうか。

 

 

「あの日、唯はゆっくりしていったの? 忙しくてあの後ちゃんと話出来てないんだよねぇ」

 頭をぽりぽりと掻く仕草をしながらぼやいている。

 

「佐川さんの後を追って出て行ったじゃん?」

 俺は記憶をたどりながらあの日の事を思い出してみた。佐川優理も、記憶をたどりながら話しているようだ。

 

「でもその後もどったでしょ?石島さんの部屋に」

 確認するように聞いてくる。

 

(戻ってきたところまでは知ってるのか)

 

「一瞬ね、閉まりかけてた扉の外からなんかしゃべってて、途中で閉まってそれっきり」

 これも事実だけを伝えた。

 

 

「はぁ? それっきり? 信じらんないっ!」

 

 佐川優理は、がっくりした様子を隠そうともしていない。

 

「石島さん、それじゃモテないわ、その顔もったいないから金田さんと交換したほうがいいよ」

 

(な、こいつ!)

 

 とんでもない悪態をついた癖に、クルッと伊藤さん金田さんのほうに向きなおる、もう笑顔満開だ。

 

 

(小悪魔め……)

 

 そんな小悪魔に夢中になってしまう前に、早く戦国時代に飛ばしてもらわないと危ない。

 

 

「ごめんなさい♪ お待たせ~♪」

 

 佐川優理は先に二人の所に戻ると、俺に早く来いという仕草をしている。

 

(自分で離したくせに)

 

 佐川優理は、阿武唯を俺の部屋に置き去りにして伊藤さんの部屋に向った。慌てた阿武唯は佐川優理を追いかけたものの、何かを言われ俺の部屋に戻ってきた。

 

 そう、そこで佐川優理と何かしらのやり取りをしているはずだ。じゃないと、一度出て行った阿武唯が再び戻ってきた事を、伊藤さんの部屋に向った佐川優理が知っているのは不自然になる。

 

(邪魔だから戻れとでも言われたのだろうか)

 

 あの時の阿武唯を思い返してみる。

 

(それと、さっきの金田さんと伊藤さんの会話も……)

 

 気になっちゃって、佐川優理が進めている最終段階の説明をろくに聞いていなかった。

 

 

「って、石島さん聞いてます? 今度はしっかりと説明してますからね? 聞いてないとか無しですよ?」

 

 

「ん、あ、んん、大丈夫、大丈夫!」

 

 慌てて大丈夫と言ってしまったが、ホントはあまり大丈夫じゃない。

 

 

「石島くんは説明を聞かない主義なんだな」

 真顔でそんな事を言いながらウンウンと頷く伊藤さん。

 

 ニヤけ顔の金田さんも続く。

「そのほうがスリルありますもんね! 石島ちゃん実はドMなんっすね」

 

 

「あー、もう、ごめんなさい! ちゃんと聞きます!」

 

 これ以上いじめられたらたまらないので、素直に謝って説明をしっかり聞くことにした。

 

 別に難しい話しではなかった。佐川優理の目の前にいればいいだけだ。あとは佐川優理が転送してくれる。

 

 こっちへ来る時に使ったトンネルと違い、ゲートの方はあの嫌な感覚、ねじれ感とでもいうのか、あの感覚が少ないという説明を受け、少し安心した。

 

 

 ここにいる全員を転送するのには、かなりの時間がかかるらしいのだが、不思議なことに、現地に出現する時間はほぼ同時だそうだ。

 

(その間、転送中の人の存在はどこへ?)

 

 などと質問してみたら、佐川優理は真面目なのかわざわざ先輩である栗原美紀さんに聞きにいってくれた。

 

 しかし、帰ってきた答えはろくでもなかった。知りたいのであればまず、無事に帰ってくること、そして。

 

「ココの技術部門への就職をお勧めする」

 

 という内容だった。

 

 詳細を説明されても理解できる自信がなかったので、少しホッとする返事でもあったが、よく分からないものはよく分からないでそのまま使うのがこの時代の常識なのだろうか。

 

 

《ッッツツー ッッツツー》

 

 

「あ、この音!」

 

 思わず声を上げてしまったが、そこかしこに同じ反応をしている人がいた。

 

 栗原美紀さんが説明をしてくれた。

『この音は転送装置の起動準備を告げる警報です。安全性を考慮して付帯されている物なのでご安心ください』

 

 

(起動するってことは、転送が始まるって事だな)

 

 いよいよだ、第1班から転送が始まる。

 

『それでは、タイムズゲートを開きます! 皆様、700年前で再会致しましょう!』

 

 

《ィィィィィィィィリリリリリ》

 

 

(この音もだ)

 

 こっちに転送される直前に体に纏わりついてきた音。

 

 

「おおおおお~」

 

 誰かが声を上げた。

 

 渦巻き状の何かに吸い込まれるようにして、1人目が転送されたようだ。

 

 

『最後の高音は転送時に発生する物です、これでも改良に改良を重ねてだいぶ静かになったそうです』

 

 1人目が転送されると、それまでと打って変わって広間に緊張が走った。どうもついさっきまで実感が沸かず、どこか他人事のようにさえ感じていたタイムスリップ。

 目の前で一人が転送されると、これが修学旅行のような簡単な話じゃないって事を改めて実感させてくれる。

 

 

 一人転送するのに約10分を要する。

 

 今ここに残っている人達は、かれこれ1時間待機している。緊張の為か、候補者達も、サポートの女の子達も無口だった。

 

 

 俺の番までまだ少しかかりそうだ。

 

(転送される前に、さっきの仕返ししとくか)

 

 

 俺は佐川優理の隣に移動する。

 

 

《ッッツツー ッッツツー》

 

 幸い、辺りは警報音に包まれていて、ちょっと離れた所での話し声は聞こえない。

 

 

「ん? どうしたの?」

 ふとした瞬間、この不意打ちのような天使の笑顔は反則である。

 

「い、いやさ、さっき俺に阿武さんの事聞いてきたけどさ」

 仕返ししてやろうと思ってココに来たのに、いざ目の前に来ると、自分から言うのに数秒かかった。

 

 

「そ、そ、そっちはどうなんよ」

(言った!)

 けど、大分省略してしまった。仕返しどころか、核心部分を聞くのが怖い俺は、やっぱり未だに小心者である。

 

「あれ? わたし石島さんに話したっけ?」

 なんとも不思議そうな顔をして聞き返してくる佐川優理。

 

(ちぎしょー、可愛いぜ)

 

「いや、でも見てたらわかるって」

 ここらへんで「私の事見てくれてるんだぁ~」とか言い出したらチャンス!なんて思っていたけど。

 

 

「だよね? やっぱりそう思うでしょ? 怪しいんだよね~」

 

(あれ?)

 会話が完全に噛みあっていない事に気が付いたが、時既に遅しって感じである。

 

「だからさ、ちょいちょい伊藤さんの部屋に行ってガードしてるんだけどね? わたしがいる時は来ないんだ〜」

 

(あらら? なんか話が?)

 

「ま、それも今日までの心配だけどね」

 

 

(よくわからないけど、その点だけは同意だ)

 

「んだね、ちょっと寂しい気もするよ」

 その俺の台詞が、佐川優理に突き刺さるのが見えるような気がした。佐川優理は露骨に寂しそうな顔を見せたのだ。

 

 

(お? なんだ? 読めない……困った)

 

「るいちゃんさ、見た感じお淑やかだし、実際ホントに純粋でさ、あんだけ可愛くて」

 

(え、るいちゃんて誰?え?)

 

「その上スタイル抜群で、おまけに本人がかなり積極的な性格してるんだよね、ほんと羨ましいよ」

 

(お淑やかで積極的って、両立するのかそれ)

 

 

「でも、ひとまず今日までは守り切れたと思う、たぶん」

 

 そう言ってガッツポーズを作って見せた。

 

 天使のガッツポーズは最高だったが、自制心を保ちどうにか耐えきった。

 

「おう、よかったな!」

(話が全然わかんないけど、ここは同意しとこ)

 

「でも転送終わったら、るいちゃん泣いちゃうだろうなぁ」

 今度はその子の心配をし始めた。

 

「だってね?「私の初めての人は伊藤さんにする!」とか宣言しちゃったもんだからさ、サポートの中では応援する派の人と、候補者と恋してもろくな事がないぞって反対する派の人と、大騒ぎだったんだよ」

 

(初めての人って……アレですよね)

 こんな話聞いてしまっていいのだろうかと、不安になってきた。

 

 

「るいちゃんの気持ち、分からなくもないんだけどさ」

 

(わかっちゃう……のか)

 

「なんたって美紀姉ぇが反対派筆頭だからね、第6班担当として責任を持って阻止しろ~! なんて言われたらやるしかないよ」

 

 美紀姉ぇというのは、栗原美紀さんの事だろう。凛としてスマートな、まさに「美女」って感じのお姉さまだ。佐川優理も阿武唯も、その栗原美紀さんにだいぶお世話になっているらしい。

 

(そうか、それで伊藤さんの部屋にちょいちょい行ってたのか)

 

 なんだかほっとした。安心しすぎて言葉に詰まってしまった。

 

「佐川さん個人としては……どっち派なの?」

 会話が続かないのを恐れただけだった。

 

 

「えっ? 私……?」

 

 別に踏み込むつもりなんて、これっぽっちも無かった。なのに、俺程度の話術レベルでどうにかこうにか話を続けようとした結果、こうなってしまっただけだ。我ながら情けない。

 

 

「私はね、えっと……」

 

 ちょっと考え込んでから、何故か少しだけ潤んだ瞳を、此方に向けた。

 

「内緒だよ?」

 

 

(ぐお!)

 やられた。

 

(必殺【天使の「内緒だよ?」】は完全に反則だ、レッドカードだ! 鼻血出そうだよ!)

 

 

「るいちゃんホント良い子だし、相手が伊藤さんじゃなかったら応援してたと思う、だって実際に唯の事は応援してたじゃん?」

 

 潤んだ瞳との合体必殺技【天使の「内緒だよ?」】で、完全に舞い上がった次の瞬間、一気に叩き落された。

 

(伊藤さんはダメでも、俺なら問題ないって事ね……)

 

 

 自分でこっちの方向に話を持って行っておいて、なんだけれども。そもそもこの話を聞きに隣に来ておいて、アレなんだけれども。

 

 

聞きたく……

 

 

なかった……

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