>>CE71.01.25 本島@オーブ/ユウナ・ロマ・セイラン
調子に乗って<M1アストレイ>のOSに手を入れてしまったら、何故か黒服に連れて行かれて事情聴取を受けてしまった。どうやら俺の背後にいる誰かさんとやらを知りたいようだが、そんなものいるはずもないので無視を決め込んだ。
と、今度は爺様や父さんが出てきて、
──なぜ今まで黙っていた!
と叱られた。知るかボケ。
今日の今日まで孫を、息子を、グズ扱いしてきたのはどこのどいつだ。
前世思い出す前の俺だって俺なんだ。
文句あるならMS関連の資料を全部俺に寄越せ。いずれ起こる戦いでどうにかなる程度の知識はくれてやるから、あとは勝手に、理念を抱えて溺死しろ。
それより今、問題なのは……
「これ、どういうこと?」
「想像はついてんだろ?」
と言い返してきたのは純白の世界に片膝を立てて座っている純白のヒトガタ。その背後には、隙間無く微細な数式が彫り込まれた上にカバラの“生命の樹(セフィロト)”が浮かび上がるように装飾された象牙製っぽい巨大な扉がそびえ立っていた。
うん。どう考えても『鋼の錬金術師』の“真理の扉”だ。
俺、空いている時間をつかって【超叡智】で引き出せる魔法について考えていただけのつもりなんだが……
「まさか、魔法的な真理を探求しようとしたから、【超叡智】そのものが概念としてこういう状況を生み出した?」
「お前がそう思うんなら、そうなんじゃないか?」
ですよねー。答えなんて、誰にもわかんねーって。
「まぁ、いいや。帰ろうと思えば帰れるんだよな?」
「やってみればいいだろ」
じゃ、帰ろう。──うん、部屋で椅子に座ってるな。しかも時間経過はほぼゼロ。
よし、行こう。──うん、また真理の間だ。
「ただいま」
「おかえり」
さて、こうなると魔法について慎重に考えたほうがいいな。
いや、相談してみるか。
「ところで──」
その場であぐらをかきながら真理……いや、【超叡智】か? そいつに問いを投げかけてみると、意外なほど素直にいろいろなことを教えてくれた。
「おまえが認識している形で話を整理するなら、まず、魔法に限らず物理法則を逸脱した何かを為すには、世界に新しい法則を刻み込む必要がある」
「魔術基盤か」
「型月系の概念だな」
魔術基盤とは世界に刻まれた神秘法則のことだ。
元ネタの型月系世界では学問や宗教といった形をとりつつ、聖地等と呼ばれる場所を起点とした地脈等に溶け込ませた上で、個々人が持つ魔術回路を接続することで初めて神秘が為される、と解釈されている。
無論例外もあり、口伝や血統などの場合は地脈のバックアップが不要になるそうだ。同様に、特殊な魔術回路のみで神秘を為す“異能者”も存在するらしい。たとえば剣の属性を持つ錬鉄の英雄のような。
こうした考えは、この世界でも使えるようだ。
流派東方不敗やニュータイプ的感覚は地球という惑星そのものを聖地とすることで魔術基盤を形成している。ガンダムのシリーズ作品ごとにニュータイプに該当する能力が違っていたのは、どうやら魔術基盤の変異によって起きていたようだ。
はてさて。
それらを踏まえた上で考えてみよう。
他の作品世界の神秘技術は使えないのか?
答えは“使える”だ。
実はすでに【超叡智】そのものが必要最低限の魔術基盤として機能している。ただし、このままでは自己の内面に作用する神秘しか扱えない。本格的に何かをしたいなら、外界における基盤の基礎を作り、その上で別途、魔術基盤を組み上げる必要があるそうだ。
「あとは、わかるな?」
真理がニヤニヤと告げてきた。
「死ぬ気で魔術回路を作ればいいってことか」
魔術回路とは魔術師が体内に持つ擬似神経、幽体と物質を繋げる為の回路、魔力を精製する道具、マナを汲み上げて人間に使えるモノにする変換機、システムを動かすためのパイプラインのことだ。また、生命力を魔力に変換するための路(みち)であり、魔術基盤という大魔術式につながる路(パス)でもある。
すなわち、【超叡智】を元にして魔術回路を作り、魔術回路をベースに確固たる魔術基盤を別に作り上げないと、本格的に魔法は使えないってことだ。
「んっ? ってことは、オドとマナの違いはすでにあるってこと?」
「内在と外在の違いか」
「ちなみに聞くけど、先天的魔術回路って、もしかしてリンカーコア?」
「おまえがそう考えるんなら、そうなんだろうな」
なるほど。そういう使い方もできるってことか。
「仮に新しい魔術基盤を作り上げるとしたら、どういう方法がある?」
「一番簡単なのは魔導書だろ」
「へぇ……」
「魔導書はどの世界でも一般的かつ使用者を限定しやすい魔術基盤として利用されてる」
「作り方は?」
「知ってるだろ?」
……ああ、なるほど。言われて“わかった”。【超叡智】様々だ。
「じゃ、いろいろ試してみるわ」
「なんだ。扉(こいつ)の向こう側にいかないのか?」
「【超叡智】だけでおなかいっぱい」
「そりゃまた贅沢な話だな」
そんなこんなで真理の間から戻ってきた俺は、時間が本当に一切経過していないことを確かめ「やっぱ魔法ってすげー!」とかテンションをあげつつ、自分だけの魔導書造りを始めることにした。
方法は至って単純。【超叡智】から引っ張り出した神秘知識を再構成したものを新品の手帳に、自分の血をインクに混ぜたガラスペンでカリカリと気合いを入れながら書いていくというだけの話だ。
求めたのは『魔法先生ネギま!』の電子精霊。
基本を無視して応用を求めるなんて無茶も良いところだが、【超才能】でゴリ押しできる俺にとっては大きな問題にならない。実際、翌日には魔導書が完成した。
「おーし。こんなもんか……」
完成したところで、かなりドキドキものだが気合いと根性で魔術回路の生成に挑む。
「……くっ」
呪文は使わなかった。ただイメージは、こめかみに銃口を押し当てた拳銃の引き金を絞るというものを使わせてもらった。ぺるそなー。これによって幸いにも108本もの魔術回路が俺の中に生まれてくれた。
って、多すぎ! 『Fate』の遠坂凛でも40本だったのに……あー、でも『月姫』のカレーさん、もといシエル先生は3桁だったな。俺もギリギリで3桁だけど、シエル先生はもっとあるんだろうな……
「それよりも魔法だ、魔法」
早速、電子精霊の召喚・制御の呪文を唱える。起動詞は自然と思い浮かんだ。
「アブラ=カダ=ブラ……」
なんという安直で短い起動詞。手抜きにもほどがある。だが、これで使えるのだから仕方がない。ついでに、中二病的な“ぼくのかんがえたかっこいーじゅもん”を唱えずに済んだので安心したやら、少し残念やら……
いずれにせよ、こうして俺は電子精霊召喚術を出発点とし、神秘の世界にも土足で乗り込んでいくことになるのだった。
>>SIDE END
>>CE71.01.27 オーブ/OTHER
「重ねて尋ねさせていただく! ヘリオポリスという領土がプラントの侵略を受けた今、なぜ決断を下せないのか! 報復せずとも、謝罪と賠償を求めるのが筋ではないのか! それをせずしてなにが理念だ!!」
断固たる声がオーブ首長会議の場に響き渡った。
勢い込んでいるのは財務相クムト・ミラ・セイラン。五大氏族のひとつ、セイラン家の現首長にして“オーブの獅子”ウズミ・ナラ・アスハの影に隠されてこそいるが、オーブでは屈指の影響力を持つ政財界の巨人でもある。
そんな老人が勢い込んでいる。孫の存在が、彼をそうさせているのだ。
“哲学者”ユウナ・ロマ・セイラン。彼が、紙一重の天才だったことが明らかになったのはわずか2日前のこと。当初はなぜ黙っていたのかと息子ウナト・エマ・セイランと共に孫をなじったものだが、生まれて初めてブチ切れたユウナが、
──今日の今日まで孫を、息子を、グズ扱いしてきたのはどこのどいつだ。
──文句あるならMS関連の資料、全部俺に寄越せ。
──いずれ起こる戦いでどうにかなる程度の知識はくれてやる。
──あとは勝手に、理念を抱えて溺死しろ!
と言い放ったことで老人の魂に灯がともってしまった。
再構築戦争後、独立と自立のために奮闘していた父親の後ろ姿。二代目として悪縁が断ち切れない東アジア共和国のありとあらゆる攻め手にあがないながら、必死になって国内経済のために奮闘した日々。そしてマスドライバー“カグヤ”と資源コロニー“ヘリオポリス”によってオーブの立場が確立し、あとは後の世代に託そうと一歩退くことを決めてからの穏やかだが何か物足りない日々……
それまでの人生を走馬燈のように思い出した老人は、孫を見誤っていた後ろめたさも手伝い、かつての姿、すなわち“
だからこそクムトは憤(いきどお)った。
ヘリオポリス崩壊事件。原作において、オーブはこれに関する政治的な対応を行った形跡がない。オーブの理念に照らせば、領土たるヘリオポリスを破壊されたのだから、プラントに強い抗議や実力行使を行ってしかるべきだというのに、なんらそれらしい行動を見せなかったのだ。
さもありあん。
この世界では特にそうだが、オーブは今、ウズミの中立宣言によって自縄自縛の状態にある。モルゲンレーテ社と大西洋連邦軍の次世代機動兵器共同開発事業、通称“G計画”は、国内的には辞任した前機械相の独断専行という形になっているものの、理念を自ら破ったと認識している部分が少なからず存在している。
そこに来てのヘリオポリス崩壊。理念を破った上で攻められたのだから自業自得だ。そんな考えが脳裏をよぎらないオーブ国民はひとりとしていない。
さらに、仮にその件がなかったとしても、ウズミの中立宣言は、今次大戦中にどちらか一方の勢力に攻められた際、オーブがどのように対応するべきかという選択肢そのものを狭める要素をはらんでいた。
単純な話だ。
理念では、他者の争いに関わらないことを良しとしている。だが仮に、今回の件でプラントと敵対した場合、それは地球連合とプラントの争いに自ら関わってしまう形になる。仮に地球連合に加盟しない場合であっても、敵の敵は味方だ。オーブはその時点から、事実上、地球連合側としてプラントと戦うことになってしまう……
それは中立宣言に反するのでは?
理念を否定するのでは?
そんなことを言われてしまえば、黙り込むしかないのが今のオーブだ。
だからこそ、この世界のオーブは原作と同じように、ヘリオポリスの惨劇が判明しても“本土の守りを固める”以上の対応ができなかった。
これをセイラン家首長クムトは真正面から否定したのだ。
すなわち、侵略者には必ず報復するのがオーブの理念である、と。
宣戦布告するべきだと。
実際に軍を動かすべきだと。
それがダメなら謝罪と賠償を強くプラントに要求するべきだと。
G計画? それがどうした。
必要なら全て情報公開すればいい。間違っているのなら、それは何らかの形で正せばいい。責任者の辞任程度で済ませられることではない。そんな甘い考えで再構築戦争を乗り越えられたのか? 戦後の混迷期はどうだ? そもそもウズミが“オーブの獅子”と称えられた理由は、大国に対しても屹然とした態度を示し続けたからではないのか?
「それなのに今度ばかりは沈黙を守るとはどういうつもりだ、ウズミ・ナラ・アスハ!」
無役となったはずなのに、“アスハ家首長顧問”などという名目で首長会議に参加しているウズミを睨み付けたクムトは、さらに激しく、言葉を重ねた。
「ヘリオポリスはオーブの領土ではないとでも言うつもりか!?
本土でなければ侵略されても黙っていると言うつもりか!?
重ねて尋ねる!
オーブの理念はなんだ!
侵略せず、侵略を許さず、他国の争いに関わらない──違うか!?
我らは侵略されたのだ!
もうすでに連合とプラントの戦いは他国の争いではない! 我々の争いだ!!
それなのに! それなのになぜ、プラントに対抗しない!!」
ウズミは何も言わない。いや、もともと代表首長の座を弟に譲っている上に大臣職にも付いていない彼には、本来、この会議で発言する資格がない。アスハ家の首長座すらも弟に移譲している。
ゆえに今のウズミが黙り込んでいるのは、当然の結果だ。
だがこうなるまで、ウズミは常に首長会議で発言を繰り返してきた。原作においては、まるで代表首長の座を継続しているかのような位置づけで、当たり前のように許可すらなく発言を繰り返し、あまつさえ、その決断が容認されていたわけだが……
「黙り込むならこの場から去れ!
さぁ、ホムラ代表首長。
アスハ家首長としてお答えいただきたい。アスハ家はオーブの理念を否定し、侵略されても黙り込むのか。それともアスハ家はオーブの理念を尊重し、侵略を許されないものとして行動するのか。どちらを選ばれるのか! さぁ、お答えいただこう!!」
こうしたクムトの燃え上がる魂が、オーブの未来を原作から大きく逸脱させていくことへとつながっていくのだった。
>>SIDE END
本話のクムト爺さんの主張は筆者の疑念でもあります。オーブの理念に照らせば、ヘリオポリス崩壊は「侵略を許さず」に抵触することは必定。それなのに「ナチュラルとコーディネーターの争いは(ry」とか言って。プラントに対してウズミが強く出ていないように思えるわけです。
それとも「侵略を許さず」とは、侵略されないように守るという意味で、侵略されてしまったら「仕方ない」で済ませる考えだったり? 後のオーブ解放作戦でウズミたちが自爆してしまうことも考えると、一概に「それはないだろ」と言えない部分もあったり……
そのあたり、架空の政治理念&時代倫理を考察するのも楽しいと思える筆者は、頑種が好きなんだなぁと痛感せずにいられません。