>>CE71.03.28 本島@オーブ/ユウナ・ロマ・セイラン
3月28日の夕刻。<アークエンジェル>のオーブ到着から5日後、原作ではモルゲンレーテ社に協力するキラ・ヤマトと、ザラ隊を率いてオーブの潜入したアスラン・ザラが金網越しの再開を果たす時系列なのだが、この世界では諸々の前提条件がすでに根本から覆されている。
ラウ・ル・クルーゼの失脚によりザラ隊は本国に召還されているのだ。
処罰のためではない。
4月1日に予定されているプラント評議会議長選挙。そこで強硬派の首魁、パトリック・ザラが当選するためには、ラウ・ル・クルーゼに代わるZAFTのエースが必要だった。また、穏健派にも考慮する形で綱紀粛正に乗り出す必要性があった。
そのためにアスラン・ザラが必要となったのだ。
プラントの精神的支柱になりつつあるラクス・クラインの婚約者であり、さらにはクルーゼに準じる若手のホープとされたアスランを英雄に祭り上げることで、ZAFTの建て直しを計ろうとしたわけだが……
これにより、すでにアスラン・ザラとイザーク・ジュールのFAITH昇進が内定済みらしい。またニコル・アマルティはアスランの、ディアッカ・エルスマンはイザークの副官となることも決まっていた。
さらにさらに核動力機のうち<フリーダム>の開発を中止することで生産を急がせた<ジャスティス>2機と専用運用艦、エターナル級高速戦闘母艦一番艦<エターナル>がザラ隊に配備。ナスカ級高速戦艦<ヴェサリウス>を旗艦とする旧クルーゼ隊はイザーク隊として再編成して<イージス>と<ブリッツ>もこちらに配備。いずれも「オペレーション・スピットブレイク」での活躍が期待される形になっている……
そのためザラ隊は、原作で言うマラッカ海峡突破戦の前に本国へと戻っている。アスランとカガリの無人島イベントも起きなかったところは不幸中の幸いなのか、不幸なすれ違いの始まりなのか。
また、この関係から3月23日に起きた<アークエンジェル>のオーブ入りは、偽装の必要もなく、すんなりとオノゴロ島に招き入れる形になり、かつそこでアークエンジェル組には脱走兵扱いされているという衝撃の事実が突きつけられることにもなっている。
その際の乗組員たちの衝撃のほどは、察するにあまりあるところだ。
と言うかカガリ・ユラ・アスハが即座に爆発した。
──どういうことだ! 彼らは、彼らは……必死になって戦ってきたんだぞ!!
だからどうした。オーブに言われても困る。
閑話休題。
紆余曲折の末、オーブ政府はアークエンジェル組の処遇について、志願兵扱いだったオーブ市民の少年少女たちは保護という扱いで無罪放免に、元地球連合軍人たちは亡命するなら一定の配慮を、拒否するなら本国に送還、という方向性を定めることにする。
サイ・アーガイル、トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウ、カズイ・バスカークは家族の下に帰り、後に全員が本島の教育機関に復学。サイは政治の道を志し、トールはなおも軍属との天秤で揺れ、ミリアリアはそんなトールを見守り、カズイはこれという未来を定めないまま就学を決めた。
元地球連合軍人たちは、うち2名が本国への送還を希望。
正確には最後まで軍人であることを貫いたナタル・バジルール少尉が亡命を拒否。そんな彼女を見捨てられなかった操舵手アーノルド・ノイマン曹長もまた亡命を拒否。そろって3月25日、オーブ滞在中の大西洋連邦使節に身柄が引き渡されていた。
なお、彼らは即日、本国へと身柄が移され、そこで事情聴取を受け、今朝方、軍法会議を経て事実上の無罪放免が言い渡されている。脱走は当時、最も階級の高かったマリュー・ラミアス大尉ならびにムウ・ラ・フラガ大尉に責があり、少尉と曹長にすぎなかった両名には責はない、という扱いになったのだ。ついでに二人にはさらなる教育課程が命じられている。おそらく<ドミニオン>クルーに内定しているのだろう……
残る元地球連合軍人たちは、いずれも亡命を希望した。
原作と異なり、オーブ連合首長国本土防衛軍で一定期間、軍務に付くことが求められたが、内容がアークエンジェル級とMSの運用に関する研究が主とされたため、迷うことなく全員が同意したようだ。
こうして彼らはオーブ合首長国本土防衛軍に所属しつつ、モルゲンレーテ社に出向し、それぞれの新たな日常をスタートさせていくことになる。
さて。
残る2名、フレイ・アルスターとキラ・ヤマトに関してだが……
「邪魔をするな! ユウナ、話が──って、なんだこの部屋!!」
SPを足蹴にしながら俺の私室に乗り込んできたのはオーブの暴走姫、カガリ・ユラ・アスハその人だった。というか、人の私室に怒鳴り込んできて「なんだこの部屋」とはどういう了見だ。
「研究中。邪魔だ。出てけ」
部屋に持ち込んだ多種多様の工作機器やらパーツやら素材やら何やらかにやら。もはや室内はガラクタ倉庫も同然であり、さらには俺が向かう執務机は配線とパーツでゴチャゴチャどころではない電算装置がブォオオオンと音をたてながら動いているわけで。
いやね。デバイスであるリングロードの性能を誤魔化そうと電算装置を取り寄せて好き勝手にいじったのはいいんだが、ついそれが面白くなって魔改造しまくった結果がこれだったりするんだわ。
おかげで各種設計やデータの作成がはかどること、はかどること。
ちなみにこの世界の開発ペースは他のガンダムシリーズ同様、異常としか言いようがないレベルにある。原因は全自動加工技術の発達だ。おかげでこの世界ではベースとなるデータをどうにかできれば、けっこういろいろなものが作れてしまうのだから笑うしかない。
「カガリ様、ユウナ様の邪魔は……」
「邪魔はおまえたちだ! さっさと出ていけ! 内密の話だ!!」
はぁ……どうせ、このお姫様は何を言ってもきかないのだ。
目で退くようSPに告げると、渋々といった様子で彼らは下がった。
俺は溜息をつきつつ、作業画面を無難なものに切り替える。モニターは全て部屋の奥側を向いているので、入口側から近づいてくるカガリには見えていないのだ。
彼女が機材で埋まる机を迂回してきたところで椅子をそっちに向ける。
「それで、今度はなんだ」
「チカラを貸せ」
……なに、このバカ。
「1月の終わり頃だったな。前におまえが怒鳴り込んでいたのは」
「あれは! ──あれは…………」
ヘリオポリス崩壊事件後、キサカの機転で早々にオーブへと舞い戻ることができたカガリはウズミと親子喧嘩したあと、俺がMSのナチュラル用OSを開発したばかりか、さらなる技術を提供していると知ると共に我が家に怒鳴り込んできたのだ。
──貴様、どうしてそんな才能があることを隠していた!
──それでもオーブの氏族か!?
──いや、それよりも兵器を作ってどうするつもりだ!!
──あんなものがあるから戦争が起こるんじゃないか!!
支離滅裂だが、正義を自認するバカほど「それはそれ、これはこれ」と都合よく意見を切り替え、矛盾する言動をとりまくるのは古今東西の真理でもある。
だから俺は無視した。
が、それに怒ったカガリはローキックを放ってきた。
キレたね。マジギレしたね。
──思い通りにいかなけりゃ暴力か! すばらしい平和主義者だな!
──つーか、何様のつもりだ!
──人のこと今日まで馬鹿にしてきて、今になってなにつっかかってきやがる!
──アスハだから、女だからって、何でも許されるとでも思ってんのか!
【超叡智】から近接格闘術を引っ張りだし、【超才能】で己自身をフルブースト。
我ながらほれぼれする身のこなしでカガリにローキックのお返し。
──ボキッ
カガリの骨が折れました\(^o^)/
その後、大騒ぎになったわけだが、すでに次世代機動兵器開発の切り札扱いをうけていた俺と、問題行動ばかりのカガリとでは、どちらに分があるかわかろうというもの。おまけに事はカガリがセイラン家に怒鳴り込んだ上で起こっているのだ。
俺は無罪放免。カガリは緊急入院。単純骨折だったため、進歩している医学技術のおかげで翌日には骨もつながり、退院したそうだ。で、その足で再び海外に旅立ち、ゲリラに加わり、あとは原作通りの流れになった。という感じらしい。
で。
原作同様、カガリは<アークエンジェル>と共に帰国。オーブ内におけるアークエンジェル組が扱いが悪くないのは、カガリの件を黙ることに対する謝礼的な意味合いがゼロではない。
帰国時点で現役の代表首長の一人娘だったカガリが国外でゲリラ活動に従事していたなど、スキャンダルどころの話ではない。さすがの俺も、これの暴露は自重した。というか、すでにこの頃には、どの国もそれどころではない状況だったからスルーさせてもらった、というのが真実だ。
そんな問題児である彼女は、帰国から今日まで事実上の監禁生活を余儀なくされていた。それでも情報だけは何らかの手段で──というよりキサカだろう──手に入れていたらしく、外出が許可されるなりアークエンジェル組と再会、そしてどういうわけか、俺のところに再び怒鳴り込んできた、というわけだ。
「あ、あれは……私が悪かった。謝る。この通りだ」
カガリは男らしく頭を下げてきた。
なんでかなー。
黙っていれば美少女なのに、いちいちこういうところが妙に漢っぽいんだが。
「その上で頼みたいことがある。手を貸してくれ」
「なにを」
「アルスターだ」
「……はぁ?」
「フレイ・アルスター。<アークエンジェル>で一緒だった。助けてやってくれ」
ええっと……話が全然見えないんだが。
「助けろって、なにをさせる気だ」
「おまえがジョン・ドゥなんだろ」
おい待て。
「なんでそうなる……」
「お父様がそう言ってた。ユウナなら、ジョン・ドゥの真似事ができるかもしれないって」
ウズミぃいいいいい!
決めた。
潰す。
マジで潰す。
「できるんだろ。ジョン・ドゥの真似事」
「できるかボケ」
「嘘だ」
「ジョン・ドゥがどれだけ非常識なことやらかしてるのか、わかって言ってのか?」
「おまえだって非常識だろ」
ダメだこいつ。どうしようもない。
俺は机のインターフォンを押し、
「姫様がお帰りだ。誰かお迎えを」
と一方的に告げ、椅子を机上の幾つもあるモニターへと向けた。
「ユウナ!」
「ジョン・ドゥの真似事? 奴のせいで俺のことが暴露されてるのに? 暴露のせいで俺がなんて言われているがわかって言ってんのか? 自分可愛さに能力を隠していた臆病者、自分さえ良ければ庶民を犠牲にする卑怯者、自分勝手な男に氏族の資格なし、さっさとセイラン家から追い出せ……」
俺はオーブ国内のメディアコラムを画面に次々と表示させながら記事を読み上げていく。
「そ……そんな…………」
本当に知らなかったらしく、カガリの顔から一気に血の気がひいていった。
こういう正直なところは美点だ。
だが考えるよりも先に動いてしまうのは指導者層として不合格だ。
「失礼します」
ドアが開き、SPたちがぞろぞろと入ってくる。見ると廊下には完全武装した警備員や医師・看護士の姿もあった。以前の件もあるので、大急ぎで呼ばれたのだろう。
「連れてけ」
「はっ。カガリ様、こちらへ……」
カガリは抵抗することなく、促されるまま退室していった。これには集まった一同も少なからず驚いてはいるが、安堵している部分のほうが大きいらしい。
はてさて。
嵐とまでは行かないが、暴走姫が通り過ぎていった後の室内は妙に静かになった。しばらく黙り込んだ俺は、妙に気になったのでフレイ・アレスターについて電子精霊網であれこれと情報を集めてみることにする。
すると出てくること、出てくること。
「うわぁ……」
端的に言えば死んだ父親の遺産が全て、親戚たちに奪われていた。裁判を起こせば取り戻せるものも多いだろうが、北米のフロリダにある実家はすでに取り壊し工事が進んでおり、売却先の企業によって周辺の土地もろとも今年中にリゾート施設となることが決定している。これでは裁判で勝っても戻ってくるのは金だけだ。もはや思い出の家は跡形もなくなっている……
「これはへこむな……うぉっと」
ついでにオーブの情報当局による監視記録を調べてみると、偶然にも同棲状態のキラ・ヤマトとベッドでいたしている場面を見てしまった。
「んっ? なんで同棲してんだ?」
調べてみるとキラ・ヤマトはオーブに保護された後も家族とは一度面会しただけで、以後はフレイと共に被災者用集合住宅の一室に籠もり続ける日々を過ごしていた。
時系列順に経緯を調べてみる。
まずオーブ入国後、自分たちの状況を知ったところでフレイ・アレスターが情緒不安定になる。一時入院中にキラ・ヤマトは家族と面談。だがそこで、キラ・ヤマトもまた情緒不安定になっていることが発覚。ただ本人は、とにかくフレイと共にいることを希望する。
結果、数度のカウンセリングを経てフレイが被災者用集合住宅の無料提供を受けてそこに移住。キラがそこに押し掛ける形となり、時に暴力的になりつつも、別の時には彼の肉体を求めるなど、あきらかにおかしくなったフレイの傍らに居続けることになる……
で、カガリはそうした状況をようやく聞き知り、まずは親戚に奪われたものを取り返そうと考えた。その手段が、ジョン・ドゥの真似事ができるかもしれない俺に頼るというものだった。という次第だ。
「……って、もう大丈夫だろ。この二人」
記録によると一昨日、キラもまた無力感に苛まれるあまり感情を爆発。壁に頭を何度も叩きつける自傷行為を起こしている。これがフレイにとってのショック療法になったようだ。昨日や今日は一緒にTVを見てばかりいる。映像監視による精神科医の間接診断によると、共依存の傾向があるものの良い兆候を示しているんだとか。近々、カウンセリングを再び持ちかけ、PTSDの治療を通じて社会復帰を促してはどうかと報告書の私見に書かれていた。
「これからどうするのかねぇ、この二人」
原作だとフレイは、ラウ・ル・クルーゼによるNJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)の技術流出に利用されたばかりか、最後の最後に、キラの目の前で殺害されている。種死のキラがラクス教の熱心な信者と化してしまったのは、ある意味、そのせいだったのかもしれない。
だがこの世界では元凶たるラウ・ル・クルーゼが軍法会議の末に処刑されている。
キラも特段、SEEDとして注目されていない。
というか注目していた“一族”もない。
まあ、全て潰したつもりだが、“一族”の残党が残っている可能性も否定はしない。しかし、なにか行動を起こしたら、その時点で改めて潰すだけだ。他の件はともかく、陰謀と裏工作で世界と人類をどうこうしようという連中には、同じ次元で対応させてもらう。
「……まっ、それ以外は、俺がどうこうする立場でもないよな」
それよりもやるべきことがいろいろとある。
いやね、ロンド兄妹を排除したせいで、アメノミハシラの総督に俺が就任することになったんだわ。どうせだから<アークエンジェル>もアメノミハシラで改修しようと考えているわけだが……
ふむ。
今まで自重していたが、固有魔術化を計画している『ゼロの使い魔』の[錬金]と[固定化]と[偏在]で念願の次元航行船化も可能になるかもしれん。ついでにワンマンオペレーションを可能にして、[偏在]で魔改造したMSを搭乗させて……
って、どこまでボッチ思考だな、俺。
でもなぁ。チートだから、魔改造したものに他人を絡ませるわけにいかないからなぁ。
はぁ……さすがに仲間が欲しい今日この頃だわ。
>>SIDE END
誰もがネタにするバカガリのゲリラ参加。TV放送時、そもそも地球連合から見て他国民であるキラたちを従軍させていることに疑問を抱いていた筆者は、カガリがオーブの姫だと理解した瞬間に「あー、脚本家が左巻きなのか」と納得してしまったことを今でもよく覚えています。
なおUC系だとアムロも、カミーユも、ジュドーも、みんな地球連邦市民なので地球連邦軍に徴兵されても(年齢を度外視すれば)問題なかったりします。後に三隻同盟なんていうテロ組織化するに至っては、どこの連合赤軍だと突っ込んだのは懐かしい思い出です。
個人的には、そのあたりも再調整したものが『機動戦士ガンダム00』なのかなーと思っていたりします。また、そうした視点でファーストガンダム(というかTHE ORIGIN)を見ると、意外と考えられているんだなぁと感心させられました。でも中盤までのシャア、おまえはパイロットスーツを着れ。舐めプにもほどがあるだろ。