頑種ですか。そうですか   作:匿名既望

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造形的な意味で一番好きなガンダム世界の艦艇は<アークエンジェル>です。次点は<リーンホースJr.>と<ネェル・アーガマ>。でもロマン的な意味では<マザー・バンガード>も大好きです。


第7話 来客ですか。そうですか

>>CE71.05.13 アメノミハシラ/ユウナ・ロマ・セイラン

 

「失礼します。<アークエンジェル>並びに第一戦隊、任務を終えて帰還しました」

「お疲れ。次の任務は再編成後になるから、それまで総員休暇ってことでよろしく」

「はっ、ありがとうございます!」

 

 オーブ宇宙軍第一戦隊司令に答礼した俺は、拡張されたドックを横目に、予定されている来客と会うべく歩き出した。

 

 あれから約一ヶ月。

 

 俺のテコ入れと魔改造、さらには地球連合軍艦艇の導入によって、アメノミハシラと宇宙軍は以前とは比べモノにならないほどしっかりとしたものに変貌している。

 

 まずアメノミハシラはドックを拡張、さらに“アルテミスの傘”の発展系であるモノフェーズ光波防御シールド──内側から攻撃可能という点が違う──が常時展開され、虹色の正十二面体に覆われた鉄壁の軌道ステーションに生まれ変わっている。

 

 宇宙軍はドレイク級4隻、ネルソン級1隻、アガメムノン級1隻をようやく受領。名目上は第一戦隊と名付けたイズモ級万能航宙艦一番艦<イズモ>と同二番艦<クサナギ>の訓練航海を兼ねて往復させたところだ。もちろん、受領した地球連合軍艦艇は、この1ヶ月で教導したオーブ宇宙軍の新米たちが動かしてきた。

 

 なお、当たり前のように往路の途中でZAFTの通商破壊部隊と遭遇している。

 

 だがムウ・ラ・フラガ一佐率いるMS二個中隊18機が出撃するだけで充分な威圧になったばかりか、<アークエンジェル>から出撃した<フリーダム>──色は元ネタのまま──による遠距離からのフルバーストで敵機全ての腕や足だけ吹き飛ばして見せたら早々に退散してしまった。

 

 搭乗者はシャア・アブナズル。というか俺の[変化偏在]。種割れの必要もなく、[マルチタスク]演算だけでハイマット・フルバースト、余裕でした。

 

 当然、そんなものを見せられたせいでアメノミハシラ帰還後、<アークエンジェル>専用ドックが関係者以外立ち入り禁止になっている関係で、そこにいるシャアが捕まえられないとわかったムウ・ラ・フラガ一佐は──

 

「閣下! お尋ねしたいことがあります!」

 

 移動中の俺の前に飛びだし、ビシッと敬礼してきた。

 その向こう側には、あちゃー、と額を手で押さえているマリュー・ラミアス技術一佐の姿がある。ああ、止めようとしたが無理だったのか。まぁ、そうだろう。

 

「なんだ、ムウ・ラ・フラガ一佐」

「はっ! 任務中、フロンティア社で改修した<ストライク>を拝見致しました! あれはオーブのパワーエキスパンダーだけでは説明できない出力があります! それを可能とする動力といえば──」

「核融合」

「核……はぁ?」

「だから、核融合。NJ(ニュートロンジャマー)は核分裂を阻害する。だが核融合は阻害しない。だからこそ、艦艇用の核融合炉は何事もないように動いている。そいつをMSサイズまで小型化した試験実証炉をアレにぶちこんである。もっとも、あれ一機でイズモ級十隻分の予算だ。フロンティア社の貯蓄が吹っ飛んだからな、実用化なんてまだまだ先の話だ」

 

 実は『スパロボOG』シリーズのPT(パーソナルトルーパー)用核融合ジェネレーターを再現しただけなので、コストはそれほど高くない。というより、<フリーダム>の本当のチートさはそれ以外の部分にある。

 

 まず装甲。試行錯誤してみたらガンダニュウム合金のVPS装甲化が可能になった。これにより総重量は80.09トンから驚きの9.50トンに激的ダイエットしてしまった。

 

 また、VPS装甲化によりステルス性は失われたものの、なんとVPSガンダニュウム合金装甲はエネルギー次第で物理のみならず熱光学作用も無効にする完全装甲に進化することがわかった。おまけに[固定化]をガッチリかけているので、その頑丈さは某マジンガーの領域だ。

 

 さらに推進機関は現時点ではオーバーテクノロジーのVL(ヴォワチュール・リュミエール)システムを採用。それこそ、どこのリンクスだと突っ込みたくなるような超音速戦闘が普通にできるレベルになっている。

 

 おまけに兵器類。魔法で水を生み、水を[錬金]して弾薬にする生成水錬金式無限弾薬供給装置が完成。【超叡智】という根源に繋がっている俺か、俺の[変化偏在]が搭乗していれば弾薬の心配がゼロになるという実にチートな仕様が再現されてしまった。

 

 あっ、機体の損傷や摩耗は修復術式で自動回復されるのは言うまでもない。

 核融合ジェネレーター用の燃料も生成水錬金式で常時補給状態。

 

 つまりこの世界の<フリーダム>はHP無限回復、弾薬消費ゼロ、エネルギー消費ゼロのユニットに仕上がったというわけだ。うん。それどこの改造コード使用機だって話だな。我ながら少しやりすぎたと思う。

 

 一方、<アークエンジェル>は対して手を加えていない。

 

 ただ、装甲を全部変えた。といっても<フリーダム>もそうだが、[錬金]で変形と素材変換をやっただけとも言える。今の俺ならアメノミハシラ丸ごとぐらいなら一発で素材変換が可能なので……って、俺のチート、どこまで底なしなんだか。

 

 装甲は<フリーダム>と同じVPSガンダニュウム合金装甲。カラーリングをわざと変えていないのでVPSであることは誰にもバレていない。ついでに総重量が十分の一になったので、機動力は以前の数倍だ。

 

 推進力はレーザー核融合パルス推進のまま。変えると目立つので手をつけていない。

 主動力も今までと同じレーザー核融合タービンのまま。

 

 大きな違いはオモイカネ型量子コンピューターを制御中枢とし、ニューロリンカーを入出力装置としたワンマンオペレーションを実現したところ。また、補助用にR2ドロイド1000体が船内に配置している。

 

 武装もそのまま。ただし、R2ドロイドと一体化した無限弾薬供給装置を組み込んである。積み込んだ弾薬は全て水に[錬金]してストックしてあるので帳簿上の問題もある程度は誤魔化せると思っている。

 

 ちなみに<フリーダム>にしろ<アークエンジェル>にしろ、改修に必要な予算等は全てフロンティア社が払っている。帳簿上の問題は、電子精霊網を駆使し、どうにかしておいた。機密上の欺瞞工作も行っているため、<フリーダム>が単機で戦艦十隻分の予算を投じられたとしても何も問題はない。

 

「戦艦十隻分……」

 

 ムウ・ラ・フラガ一佐は、そうつぶやきながら顔を引きつらせていた。

 

「そういうことだ。あー、核動力機じゃないが、オーブ軍のフラグシップとして<アカツキ>ってやつを開発中だ。フラガ一佐も乗ってみるか? つまらんと思うが」

「つまらない? というのは?」

 

「こうね、後ろからデュートリオンビームっていう充電ビームを常に受ける形で動く機体になる予定なんだ。可視光が透過する球状のモノフェーズ光波防御シールドを展開しつつ浮かび上がって、<フリーダム>みたいに中長距離からの砲撃を行う感じ。ついでに金色だから目立つし、不沈だしで、MSって言うより移動可能な固定砲台って感じの代物。パイロットとしてはつまらんだろ?」

 

「あー、確かにつまらん機体だなぁ」

「ムウ! ──閣下、お騒がせ致しました。ほら、もういいでしょ」

「えっ、あ、いててててて! 耳ひっぱるなって!」

 

「………………」

 

 リア充爆発しろ。おまえらは末永く爆発してろ。結婚式に祝電のひとつぐらい送ってやるから、ムウ・ラ・フラガはささっと人生の墓場に特攻すればいいと思う。

 

「あー、マリュー・ラミアス技術一佐!」

「は、はいッ!」

「艦艇の改修は明後日からだ。今日はフラガ一佐とゆっくりするといい」

「えっ……」

「あとフラガ一佐、入籍はさっさと済ませろ。さもないとアメノミハシラの家族用居住区が全部埋まるぞ」

「あー、ええっと……ご忠告、感謝いたしますッ!」

「え、あ、ちょ、ちょっと、ムウ……」

 

 そんな感じで二人をいじった上で待たせている来客の下へと向かった。

 

「お待たせしました──マルキオ導師」

「いえ、こちらこそお忙しい中、予定をさいて頂きありがとうございます」

 

 マルキオ導師──頑種世界で最も謎の多い人物だ。この世界では、かつて普遍的な教会の枢機卿をしていたそうだが、ジョージ・グレンの出現から始まった宗教闘争に失望して還俗。いつしか“SEEDを持つ者”の可能性を“遺伝子操作による優劣とは関係のないヒトと世界が融和しうる認識力の変革” であると説くようになり、SEED教とでも言うべき新たな一派を築くまでに至った人物でもある。

 

 さらにジャンク屋組合を国際組織として各国に認めさせたのも彼なら、『ASTRAY』でいろいろと暗躍(?)しまくったのも彼だ。特に『X ASTRAY』では、シーゲル・クラインによるNJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)漏洩に深く関与した人物として描かれている……

 

 あー、そうそう。

 

 5月1日には原作通り、このマルキオ導師が地球連合事務総長ジョアン・オルバーニに託された親書、通称「オルバーニの譲歩案」をプラントに持ち込んでいる。

 

 だが、パトリック・ザラ政権となったプラント評議会は相手にせず、5月5日にはオペレーション・スピットブレイクを発動、8日にアラスカを攻略したが、ラウ・ル・クルーゼが刑死していたにも関わらず大量破壊兵器“サイクロプス”による自爆を決行、侵攻してきたZAFT諸共アラスカ基地が吹き飛ぶ結果になった。

 

 これによりZAFTは攻撃部隊の8割を失った。また地球連合軍はユーラシア連邦軍、東アジア連邦軍のみならず大西洋連邦軍にもかなりの被害が生じている。

 

 どうやら地球連合軍は最初からアラスカが狙われることを想定し、サイクロプスの配備を行っていた形跡がある。原作では情報リークを受けて、さらにブルーコスモス派が保身に走っただけ、というのが真相なのだろう。

 

 ちなみにこの世界では<フリーダム>強奪事件も、さらには<ドレッドノート>盗難事件も発生していないので、クライン派の粛正そのものが起きていない。

 

 キラはオーブ本土でフレイと共に復学しているし、

 <フリーダム>そのものが製造されていないし、

 こっちが<フリーダム>を出したせいで<ドレッドノート>を盗み出せる機会がゼロになってしまったわけで。

 

 いやね、開発計画が漏洩したんじゃないかって大騒動になったらしいんだわ。ただ、プラントのインテリジェンスは、さすがにこっちがこっそり流しておいた“NJCを使った核動力機ではなく実験的なMS用核融合炉使用機”だという情報を掴んだことと、<フリーダム>の設計すら始まっていなかったことから、コンセプトが同じだったがゆえの偶然の一致という線でおさまるようだ。

 

 <フリーダム>の外観が<ストライク>や<アストレイア>と同系統だったことも偶然を納得する一要素だったらしいが。

 

 で。

 

 そんな中、プラントから戻ってくる途中のマルキオ導師が、どういうわけかアメノミハシラへの寄港を望み、しかも俺との面会を求めてきた。相手が相手なので断るわけにもいかず、こうして会っているわけだが……

 

「早速本題に入っても良いかな?」

「ええ。私にもいろいろとあるので」

 

 切り出してきたマルキオ導師の言葉に、俺は応接間のソファーに座ることを促すことで応えた。向かい合うソファーに腰を下ろしあった俺とマルキオ導師だが、盲目の思想指導者は真剣な面立ちで、突然、こんなことを尋ねてきた。

 

「君はこの状況を知ってなお、他人事だと切り捨てるのかね?」

「……質問の意味がわかないのですが」

「ヒトは生まれながらにして平等ではない。それは、能力に応じた責任があるためだ」

「……はぁ」

「君の能力に応じた責任を果たすべきでは?」

 

 おいおい。まさかこの坊さん……

 

「──俺が“SEEDを持つ者”だとでも言うつもりか?」

 

 対外的な仮面を被る必要性を感じなくなったので、素で応対してみる。

 

「そこが問題なのだよ」

 

 それが当然とばかりに、盲目の爺さんは光を失った目で俺をしっかりと見据えてきた。

 

「“優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子(Superior Evolutionary Element Destined-factor)”……SEEDとは宗教的観念でもなければ、荒唐無稽な願望でもない。遺伝子操作では生み出せない、特別な遺伝的因子であることは確定している。すなわち、検査によってSEEDホルダーか否かを客観的に調べられるということでもある」

「へぇ。それで?」

「君にSEEDはない。それは確かだ」

「だろうね」

 

 ユウナ・ロマ・セイランがSEEDホルダーであるはずがない。俺の異能は神様(?)謹製のチートによるもの。むしろ荒唐無稽の領域でなければ理解しようもない代物だ。

 

「だが君には特別なチカラがある。その類い希なる頭脳が、まさにそれだ」

「で?」

「協力を求めたい。キラ・ヤマト。彼は特別な人間だ。そしてもうひとりの特別な人間、ラクス・クライン。君には、キラ・ヤマト君と共に彼女を助けて欲しい。そして、その類い希なる頭脳でSEEDホルダーを支えて欲しい」

 

 ………………はい?

 

「君の頭脳は危険なのだ。正しい導き手がいなければ、君の叡智は世界を滅ぼす可能性すらある。だがSEEDの導きに従えば、君も人類の明るい未来に──」

「そういう話は間に合ってるんで」

 

 俺は席を立ち、帰ることにした。

 

「逃げるのか、ユウナ・ロマ・セイラン」

 

 鋭い声が俺の世に投げかけられる。一瞬、立ち止まりそうになったのは、さすがは世界的思想家の本領発揮といったところだろう。だが魔法研究の中で自己鍛錬も積み重ねてきた俺を圧倒できるほどのものではない。

 

「救世主に逃げてるあんたにだけは言われたくないね」

 

 俺は手をひらひらさせながら退場させてもらった。

 やれやれ。

 本物の宗教家だったわけか。

 キラ・ヤマトも狙われてるみたいだな……裏から手のひとつぐらい回しとくか?

 

>>SIDE END

 




ムウとマリューは末永く爆発してほしい。

残り数話なので、明日で一気に掲載します。できるだけ誤字脱字を確認してから投稿していますが、もし見つけたら感想によろしくお願いします。

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