「さあ皆さん、残された1年を有意義に過ごしましょう」
黄色いタコの殺せんせーが意気揚々と話を締めくくる。
じゃあ有意義に1年過ごすからボクに殺されてよ殺せんせー。
ボクはずっと握り締めていたリモコンのボタンを押した。
呼吸をするのと同じぐらい自然な動作で押した。
起爆スイッチだよ。
それと同時に炸裂するのは対タコ型超生物専用BB弾。
教卓の内側にこっそり仕込んだ指向性地雷を遠隔操作で起爆させたといったところか。殺せんせーの死角から放たれた何百発のBB弾が炸裂した。
兵器が炸裂する音、皆の悲鳴、BB弾が黒板を打ちつける音が入り乱れる。
「に゛ゅやっ!??」
殺せんせーの悲鳴が上がった。
完全に油断していたね、殺せんせー。
今さっき説明したばかりの殺しとは無縁の世界で過ごすボク達に殺されるはずがない。まだ武器も配布されていない中学生の素人に暗殺されるはずがない。
その油断が命取りだ。
マッハ20で動けても教壇の狭い場所で両隣を防衛省の人で固めて後方は黒板で油断していたこともあって動きは半減どころじゃないでしょ。
さらに黒板に当たって跳ね返るBB弾の、つまり跳弾の計算は頭に入れてあるかな。それでも全部あのタコは見切るかな。見切って躰しそうだね、この超生物なら。
でもね、殺せんせー……ボクは知っているよ。
殺せんせーは急激な変化に弱い。BB弾程度なら全部避けれるけどテンパってすぐに安全地帯に逃れようとするでしょ。
だからボクに殺される。
殺せんせーはボクの思った通りの所に逃げようとした。いや、一瞬だけ手をつこうとしたのかもしれない。手、というか触手だけども触れてついてその反動で別の場所に飛びのこうとしたのかもしれない。
でも、天井はダメだよ殺せんせー。
そこにはボクの本命のトラップを仕掛けたんだから。
だから殺せんせーは悲鳴を上げたんだ。
殺せんせーの落ちる姿があった。
ボクはズルをした。
100億円を独り占めするためにズルをした。
このことはクラスの皆には内緒で友達ごっこをしてこの機会をずっと待っていた。
さも平凡なる中学生を装っていた。
でも、世界を救うためには仕方が無かったかもしれない。
ボクだけ先に対せんせー専用の武器を烏間さんから用意してもらっていただなんて口が裂けても言えない。いや、事が済んだら暴露するつもりだけども。
この暗殺計画を持ちかけたのは烏間さん、じゃなくボクからなんだ。
ボクは黄色いタコ型生物の存在も知っていた。敢えて、唯一E組の中で、といっておこう。
だからボクはなんとかコンタクトを取って暗殺計画を提案した。もし、コンタクトが取れていなかったら今回の暗殺は諦めていたけどね。
ただちょっと烏間さんともう1人の黒服の人に火傷を負わせるかもしれないと言ってはあるけどね、烏間さんは少し考え「それで地球が救えるなら」と言ってボクが要求した兵器と本命の2つを用意してくれた。
というか兵器と本命を設置してくれた。いや、ボクが働きたくないって言ったワケじゃないよ。
烏間さんは良いヒトだ。男のボクでも抱かれてもいいと思った。本気で。
ボクが起爆スイッチを押して指向性地雷が炸裂した。標的は黄色いタコの殺せんせーだけども両隣を固めるために、烏間さんともう1人の黒服の男の人にも被害が及んだ。本来なら避けられるであろうその攻撃を受け止めた。
彼らはBB弾の嵐に耐え切れず尻餅を着いた。火傷していないか心配だね。
人間にとって無害のBB弾、でも絶対痛いよ。
よし、今度烏間さんにお礼をするために人肌脱ぎますか。勝負服は姉ちゃんから借りようと本気で思った。
あぁ、あと起爆した時に教卓が後方に倒れる程度で済んだのは幸いだろうか。前列の前原くんと岡野さん達をビックリさせてしまったけどクラスの皆には怪我がなくてよかったよ。
さて、本命の話しだけども。
といっても、本命と仰々しくいっているけど改造した指向性地雷に比べたらインパクトに欠けたトラップであるんだけども。
派手さはいらない。
ただ天井に対殺せんせーに効く素材で加工された板を貼り付けてただけだよ。
それだけでいい。
殺せんせーはBB弾を回避しようと天井に逃れようとするけど対せんせー用の天井に触れてしまってた。
殺せんせーは「に゛ゅや」とか悲鳴を出してどさりとその場に落ちる。
触手が破裂するのが見えた。
何本か破壊できた。
それだけでいい。
「ふはっ、ビンゴ♪」
ボクは席を立ち駆け寄った。
4月の半ばに席替えして一番後ろの席になってしまったけども、姉ちゃんと離れ離れになってしまったけども、教壇まで到着するのに僅かな差だ。
ボクの計画では天井に触れた時点で殺せんせーは瀕死な目になると思った。
床に散らばったBB弾のトラップ。
第一撃で辺り床一面に散らばったBB弾の上に殺せんせーが落ちる。触手も顔面も無事ではすまないでしょ。唯一服を着ている胴体は瀕死になって動けなくなったところを剥ぎ取って全裸にしてやるか対せんせー用ナイフで刺すだけだよ。
いや、その前に確認しておかなければならないことがあった。殺せんせーには奥の手がある。ボクはそれを知っている。もし、奥の手を使われたら暗殺は失敗したとみていい。
でも、見た感じ奥の手は使っていなかった。使う暇もなかった、そうボクは予想。
今の殺せんせーは黄色いタコでもなければ黄色い肉塊のようにしか見えなかった。
「ミソギッ! アンタは一体何してんのよ!??」
窓際の前列の席に座っていた姉ちゃんがボクの名を呼ぶけどそれどころじゃない。信じられないものを見ているような顔だったけど、チラ見してスルーだ。
あともう少しで100億円を手に入れれそうなんだから。
そう、もう少しなんだ……。
最早セオリーとか関係ないよ。
左手だけで衣服を剥ぎ取ってやる。右手だけでナイフを心臓に突き刺してやる。
「さよなら、殺せんせー」
ボクの両手が殺せんせーを襲う。
昔、服を剥ぎ取るという変態の師匠に教えてもらったワザ。
姉ちゃんを守るために身につけたがいいがもうそういう機会は訪れないであろうと持て余していた必殺技。
ほぼ犯罪方面でしか活躍しない『追剥』。
でも、いつか姉ちゃんや誰かのために絶対に役に立つ時がくると師匠は言っていた。
それが今だ!!
「にゅやり、ひっかりましたね片岡くん」
「ふぁっ!?」
ボクの左手が触手によって阻まれた。
くそっ、何が今だよ。阻止されたじゃん、かっこ悪すぎだよボク。
でも、まだだよ。
まだ右手が残っている。この右手を振り下ろすだけで、あと数センチで届く。
ただボクはこの超生物のスピードを甘くみていたのかもしれない。女子並みの身体能力しかないボクのナイフを振り下ろすスピードはせんせーにとって欠伸がでるほどのものだということを実感した。
「実はせんせー、君がトドメを差すまで瀕死のフリをして回復をしていたんです」
「ふぇぇ……」
右手まで阻まれた。
ヌルヌルと両手首をガッチリ拘束された。
暗殺失敗……
あぁ、100億円が遠のいていく。
ふう、次回で主人公の時間は一旦終了かな……