北方の白き少女 Heart of the admiral 作:ハルバーの懐刀
こういう展開がとっても大好きです。
絵にすると笑えそうな光景ですが、描けないのが残念。
執筆でも書くまでに時間が掛かりましたけどねw
ある晴れた昼のトラック鎮守府内にて。
「イヤ――――――ッ!!」
司令部の廊下に響き渡る幼い少女の悲鳴。
その声の主である白き少女が、何も被っていない真っ白な長髪を靡かせ、肌と同じ白い靴を履いて走っていく。
「待ちなさ―――い!!」
「どこへ逃げようというのかね?」
「響、何で直立したまま早足なの?」
「ホッポちゃ――ん! 待つので―――す!!」
白き少女の後方からは、第六駆逐隊の4姉妹が同じように走っていた。
彼女らは白き少女を捕まえようと躍起になって追い掛ける。
「コナイデッテ、イッテルノ―――!!」
逃げる白き少女は、広く長い廊下を真っ直ぐに突き進んでいた。
そこへ反対側から呑気に歩く天龍がやって来る。
彼女の存在に気付いた暁が呼び掛けた。
「天龍!!」
「あ? チビども、何を・・・」
「ホッポちゃんを捕まえて!!」
暁からの指示を理解した軽巡は、自分の方へ向かってくる白き少女を捕らえようと手を広げる。
「おし! 任せ・・・」
「トウッ!!」
「へっ? ぶっ!?」
白き少女が突然飛び上がり、捕縛しようとする天龍の頭部へ抱き付いた。
ジャンプの勢いで軽巡の身体が後方へ倒れ、少女の股に挟まれながら後頭部を強打する。
「ぐぶぅっ!?」
「イタッ!」
同じく両膝を打ち付けた少女は、すぐに立ち上がって逃走を続ける。
目を回して倒れる眼帯の女性の傍を素通りする駆逐艦たち。
「天龍の役立たず~!!」
「あぁぁ、右目が、右目が~・・・」
「また逃げたわ!」
「天龍さん! 後で助けるのです!」
「ぢ、ぢぎしょ~・・・」
走る白き少女はT字路に分かれた通路へ差し掛かる。
その手前辺りに、彼女から見て右側に蒼龍、その左側に飛龍が立ち、2人はその場で話をしていた。
「蒼龍さ~ん! 飛龍さ~ん! 捕まえて―――!!」
「えっ? 何っ?」
「捕まえるって? そういうことね!」
蒼龍は戸惑いを隠せず、声の有った方向へ目を向ける。
対する飛龍は暁の言葉を瞬時に理解し、両手を拡げて向かってくる白き少女を待ち構えた。
「それっ! あらっ?」
「ヒアッ!」
「えっ? きゃあっ!?」
橙色の二航戦が両手で挟み掴もうとするが、白き少女の素早いステップ&ジャンプで避けられてしまう。
ジャンプした少女の背中が隣に居た蒼龍の胸に当たり、その弾力で左右に分かれた通路の右側へと弾かれていった。
「ヒャア~!?」
走る白き少女が女性の豊満な胸の感触に顔を赤らめる。
同じように赤面する緑色の二航戦も、突然の出来事で触れられた胸を両手で押さえた。
「な、なんで甲板じゃなくて、こっちに・・・」
「多聞丸~・・・」
「なんて避け方なのよ!」
「その乳、後で揉ませたまえ」
「バネじゃないの!」
「羨ましいのです!」
曲がった先を更に走り続ける白き少女。
突如、その行く手に長身の女性が現れた。
「事情は分からんが、ホッポちゃんを捕まえればいいのだな!?」
トラック鎮守府の秘書艦である戦艦の長門。
その目は怪しい光を放ちながら、構えた両手をワキワキと動かしていた。
「さぁ、この長門に大人し・・・ぐぼぉっ!?」
「カエレッ!!!」
白き少女によって、投げ飛ばされた緑色のドラム缶が戦艦の頭に直撃した。
そのまま通路の端まで吹き飛び、彼女の身体が木造の壁にめり込む。
ドラム缶を回収した少女が左側へ去り、そのすぐ後に第六駆逐隊が通り過ぎた。
「戦艦ですら一撃なの!?」
「見て、戦艦がゴミのようだ」
「響、それはいくらなんでも言い過ぎよ!」
「長門さんは使えないのです!」
次に立ちはだかったのは、一航戦である赤城と加賀の2人。
すでに状況を把握していたらしく、赤城が先頭で待ち構え、その後ろに加賀が様子見で立っていた。
「赤城さん、それなりに期待はしてます」
「任せてください! 一航戦の誇り、今度こそ見せますよ!」
張り切る赤い一航戦と、それを後ろから見守る青い一航戦。
その姿を捕らえた白き少女が左ポケットから“あるもの”を取り出す。
それは何時の日だったか、ある出来事によって入手した大きな赤灰色の塊だった。
彼女はそれを右手に持ち、通路の右側にある開いた窓の方へ投げ飛ばした。
「トリニイッテ!」
「行ってきます!」
「・・・」
赤い一航戦は、投げ飛ばされた“アカギノエサ”を取りに窓の外へと向かう。
その光景を呆然と見つめる加賀が少女の方へ鋭い視線を飛ばした。
「頭にきました。私にアレは通用しませんよ?」
白き少女が青い空母の目の前で立ち止まると、資材の木箱を2つ積み重ねる。
「甘いですね。赤城さんと一緒にし・・・」
「コレモ♪」
少女が積み重なった木箱の上に、黄銅色の紙で包装された長方形の物体を置いた。
それの真上になる表紙には、『間宮羊羹』と黒文字で書かれている。
加賀の目がそれに釘付けとなり、口元からは一筋のよだれが垂れ始めた。
「マテ!」
「・・・」
「ソノママデイテ!」
青い一航戦はすぐ横を通る少女に目もくれず、置かれた和菓子を見つめ続ける。
少し疲れ気味でやって来た4姉妹すら無関心でいた。
「なんで“あんなもの”まで持ってるのよ!?」
「空母の食い気にはウンザリだ」
「あんた達は犬かぁ~!!」
「加賀さん、後で少し分けてくださいなのです!!」
「・・・」
走る白き少女の向かう先に、直進と左側に分かれた通路が見えてくる。
彼女はその左の通路へ曲がろうと考えた。
「私が一番なことを見せてやるのに・・・何処にいるのよ?」
ちょうどその時、その左の通路から愚痴を呟く島風が歩いてきた。
彼女は居候する白き少女の何かが気に食わず、勝負でもしようと鎮守府内を探し回っていたのだ。
その後ろからは、3体の連装砲ちゃん達が遅れて付いてくる。
「・・・おっ?」
「エッ!?」
島風が右の角を曲がった瞬間、目的の存在がすぐ目の前に現れた。
慌てた白き少女が右へ回避し、最速の艦娘の傍を横切ろうとする。
「アッ!」
咄嗟の行動だったためか、少女の身体がバランスを崩しそうになった。
そこで彼女は島風の腰辺りへ左手を伸ばす。
「ひゃっ!?」
白き少女が掴んだのは、島風の黒いパンツだった。
腰辺りからはみ出たヒモのようなパンツが引っ張られたことで伸び始める。
「ちょっ!? ぱっ!! パンッ!!」
「ワッ!? ワワッ!!」
白き少女はその伸びたパンツのおかげで、転ばずに左側の通路へ曲がり切れた。
彼女がすぐに左手で掴んだパンツを離すと、まるでゴムのように戻ったパンツが島風に襲い掛かる。
「お゛お゛お゛うっ!?」
「「「「えっ!?」」」」
その反動によって、最速の駆逐艦が吹き飛んでしまう。
しかも彼女が飛ばされた方向には、走ってくる暁型4姉妹の姿があった。
「「「「「みぎゃああああああ!?」」」」」
5隻の駆逐艦たちが衝突し、それぞれが立ち上がれない程の衝撃を受ける。
その隙に白き少女はその場から走り去っていった。
「おのれ・・・・・・ゆ、許さないんだから・・・」
「ふ、不死鳥は、滅びぬ・・・何度でも、よみがえるさ・・・」
「いったぁ~い・・・痛過ぎるわ・・・」
「また、衝突、したの、です・・・」
「は、速き・・・こと、しま・・・かぜの、ごと・・・・・・ガクッ」
4姉妹は小破程度で済んだが、島風は大破するぐらいの重症だった。
連装砲ちゃん達が心配そうな目をして、彼女らの傍へ近寄る。
約15分前。
鎮守府のある談話室では、ちょっとしたお茶会が開かれていた。
金剛と榛名が用意した紅茶セットやお菓子がテーブルに並べられ、第六駆逐隊の4人と戦艦大和、そして、北方棲姫ことホッポちゃんがティーパーティーを楽しんでいた。
全員が椅子に座り、テーブルの紅茶とお菓子を食している中で、ある艦娘が白き少女へあることを尋ねる。
「ホッポちゃんはお風呂に入らないのですか?」
電の何気ないその一言。
それを聞いた白き少女が口に含んだ紅茶を誰も居ない足元へ噴き出す。
他の戦艦3人や駆逐の姉妹たちも彼女の言葉に食い入る。
「そういえば、一度も見たことないわね? “あの日”から行水でもしてるの?」
「入渠は嫌いですか?」
「響、変な口調になってない?」
「どうなのですか?」
「ウッ・・・」
暁たちが若干引き気味の少女へ椅子ごと詰め寄っていく。
ちなみに暁の言った“あの日”とは、4日前にホッポを救出した日のことだった。
オロオロする白き少女を余所に、金剛があることを口にする。
「Oh! そういえば、ホッポが里子のバスルームへ行くのを見たデース!」
「えっ、金剛姉さま、ご存じで?」
「チョッ!?」
高速戦艦が呟いたバスルームとは、艦娘の大浴場とは別に造られた提督専用の個室露店風呂である。
彼女は偶然にも、提督の自室から右隣にある風呂部屋へ入る白き少女を目撃していたのだ。
「マッテ、コンゴ・・・」
「何時なのです!?」
「一昨日デース。里子に夜食を届けに行ったときネー」
「レディーじゃあるまいし、なんで1人なのよ?」
「私がいるじゃない!!」
「時間切れ、答えを訊こう」
「エエッ・・・デモ・・・」
その情報で更に白き少女へ詰め寄る4姉妹。
困り果てる少女の赤い目が様子を見ていた大和の方へ向けられる。
彼女も困った表情で駆逐艦たちを落ち着かせようとした。
「きっと、ホッポちゃんも1人で入りたいお年頃なのよ」
「レディーより大人な訳!?」
「戦艦は黙っていたまえ」
「響、さっきからおかしいわよ?」
そんな姉妹の中で電だけは強気な態度を示す。
「そんなことはないのです! ホッポちゃんも一緒に入りたがっているはずなのです!」
「電ちゃん? ほ、ほら・・・ちょっと、恥ずかしいとか・・・」
「電たちは恥ずかしくないのです!」
今度は姉妹たちが電を中心に大和へ視線を向ける。
電の気迫に押され気味な超弩級の戦艦が引いてしまう。
「そ、そうじゃなくて・・・」
「お風呂は皆で一緒に入るものなのです! ねぇ? ホッポ・・・ちゃ・・・?」
彼女が再び白き少女へ目を向けると、そこには誰も座っていない椅子が置かれていた。
その時、談話室の扉が開く音が鳴り、彼女ら全員がその方向へ視線を向ける。
その両扉の左側が開き、こっそり退室しようとする白き少女の姿があった。
「・・・アッ」
彼女らとの視線が合った少女は、すぐに扉を閉めて走り出す。
その数秒後、少女の後方からドアが乱暴に開かれる音がして、飛び出してきた暁姉妹が追い掛けてくる。
「レディーの前で逃げちゃ駄目でしょう!」
「待ちたまえ。いい娘だから、さぁ!」
「この雷様から逃げられるとでも思ってんのかしら!?」
「ホッポちゃん! この電とお風呂に入るのです!! 今すぐなのです!!」
「コッ、コッ!・・・コナイデ――――ッ!!!」
司令部の廊下から始まった鬼ごっこ。
暁型の4姉妹が気絶している間に、白き少女はトラック鎮守府内の屋外へと逃げてしまう。
ようやく動けるようになった彼女らは手分けして、逃げた白き少女の行方を探し始めた。
鎮守府内のある波止場にて。
「何処に逃げたのよ・・・」
暁型の長女が波止場の先へと足を進める。
彼女はそこにあるイカダで佇む次女の姿を見つけた。
「響、ホッポちゃんは・・・見つかってなさそうね」
「・・・」
イカダの端にいる白髪の少女が無言で右足を海面に付ける。
姉はそんな行動を気にせず、その場から離れようとした。
「響、あなたは倉庫の方へ行って、こっちは・・・」
「・・・」
「ちょっと! 響! 聞いてるの!?」
「・・・」
「響?」
「・・・」
何時までも動かない次女に、暁が不思議に思いながら近寄っていく。
彼女が2,3歩歩いた直後に、イカダに乗っていた少女が動き出した。
「見つけたよ」
「へ?」
白髪の少女が海面につけていた足を上げて、スカートの左ポケットへ左手を突っ込ませる。
ポケットの中から出てきたのは、薄い緑色に塗装された空き缶のような物。
それの側面には『試作』と書かれている。
「響、何よそれ?」
「明石さんの発明品」
「そんなもの出して、どうするのよ?」
「ウラッ」
白髪の駆逐艦は躊躇いもなく、それをイカダから5メートル離れた海面へ放り投げた。
投げ込まれたそれは海中へ沈み、2人はその様子をじっと見つめ続ける。
しばらくして、海中から規模の小さい爆音が響いてきた。
「・・・」
「・・・?」
「・・・よし」
「・・・えっ!?」
海中の爆発から数秒後、海面に白い物体が浮かび上がってくる。
それは4姉妹たちが捜索していた白き少女だった。
彼女はうつ伏せ状態のまま気絶していた。
「見たか。不死鳥のいかずちを・・・」
「雷じゃないでしょう! って、それより! “アレ”は一体何なのよ!?」
「対潜用の試作型爆雷。対象の聴覚を麻痺させるために考えたものらしい」
「なんでそんなものを・・・はっ! そんなことより! ホッポちゃんが!」
自慢げに説明する響と気絶した少女を助けようとする暁。
彼女らの上空を1羽のカモメが呑気に通り過ぎて行った。
「イヤ~! オフロイヤ~!!」
仰向け状態のまま涙目でジタバタする白き少女。
彼女は縦1列になった暁姉妹に持ち上げられて、入渠ドックのある施設へと運ばれていく。
「お子様の世話はレディーに任せなさい!」
「君も女の子なら、聞き分けたまえ」
「雷が上から下までちゃんと洗ってあげる!」
「ホッポちゃん、電と裸のお付き合いするのです!」
「ヤァァァァァ!!」
白き少女が他の娘たちと共に風呂へ入らないのには理由があった。
彼女が“元の身体”で生活していたとき、異性である女性と一緒にお風呂へ入る機会は殆ど無かった。
幼少期は流石に母親と入ることはあったが、成人した状態での混浴はまず有り得なかった。
また、道徳的な問題で幼子と入ることは犯罪であると認識済みである。
いくら身体が幼い娘子でも、その中身は羞恥心が一杯の健全な心。
(皆の裸を見たら捕まる! お巡りさんとかに捕まる!)
このように、彼女の頭の中は混乱しきっていた。
必死に暴れ回って、4姉妹との入浴を拒絶する。
「こ~ら~暴れないの!」
「もうすぐ着くのです!」
「ヒッ!?」
雷と電の言葉で少女の血の気が引く。
最早これまでと思われた瞬間、彼女の身体が何者かの両腕によって高く持ち上げられた。
「「「「えっ?」」」」
白き少女の身体が持ち上げた者の腰にまたがるように抱えられる。
彼女を抱えるのは、戦艦の“大和”だった。
「や、大和さん?」
驚いた暁が彼女の名で呼び掛けた。
呼ばれた彼女はニッコリと笑ってから、4姉妹たちへあることを告げる。
「暁ちゃん達には悪いけど、ホッポちゃんとの入浴は私に任せて欲しいの」
「エッ?」
「「「「えっ?」」」」
その言葉に一番驚いたのは、大和に抱えられる白き少女だった。
一方の暁たちは、納得できずに抗議の声を出す。
「で、でも、レディーに向いている仕事だし・・・」
「むぅぅ・・・そのむ、じゃなくて、砲弾で私と勝負するかね?」
「駄目よぉ! 私がやりたいのよぉ!!」
「電はホッポちゃんと入りたいのです!!」
大和がそんな彼女達に、自身の左手に持つ4枚の紙切れを見せ付けた。
「「「「そ、それは!?」」」」
「間宮アイスの無料引換券。のどかさんに渡せば、その場で貰えます」
「「「「う~」」」」
「今日のところはこれで勘弁してあげて。ホッポちゃんとは、また今度・・・ね?」
暁型の4人は、しばらく考え込んでから差し出されている引換券を手に取る。
「しょうがないわね。今回はアイスに免じて諦めるわ!」
「720秒間待ってやる」
「次こそは絶対によ!」
「・・・電は諦めないのです!」
彼女らは手にしたそれを大事に持って、食堂のある建物へ一目散に向かった。
残された2人は困難を回避できたことで胸を撫で下ろす。
「フゥ・・・ヤマト、アリガ・・・」
「じゃあ、行きましょうか」
「・・・ヘッ? ドコヘ?」
「何処って、お風呂ですよ?」
「・・・・・・エ゛ッ」
白き少女の危機だけは未だに回避できていなかった。
結局、彼女は入渠施設の脱衣所まで連れて行かれた。
逃げ出そうにも大和のしっかりとした抱擁により、その腕からの脱出は不可能だった。
しかし、降ろされた後の大和の行動で、少女は少し戸惑うことになる。
「服を脱いだら、このタオルを巻いて下さい」
「コ、コレ?」
「はい。私もタオルを巻きますから、安心してください」
「・・・ウン」
白き少女は履いていた靴を脱いで、手渡されたタオルを持ちながら棚の方へ歩いていった。
ワンピースの服と手袋、黒の下着を棚の籠へ入れていく。
彼女の後方にある反対側でも、戦艦の艦娘が脱衣を始めた。
お互い同じタイミングで素肌に白いタオルを巻き付ける。
何れ大多数の艦娘が利用すると予測され、大規模に建設された大浴場。
屋内として、右側の壁に20以上あるシャワー台が設置され、学校のプール並みに広い長方形の浴層が奥にあった。
左側には、入渠で修復するための艦娘専用の個室型浴槽が4つあり、すりガラスで仕切られた状態となっている。
本日は誰も居ないらしく、それのドア上部に設置されたタイマーが『00:00:00』のままだった。
「それじゃあ、そこに座って」
「ウ、ウン・・・」
大和が白き少女を1つのシャワー台の椅子に座らせ、石鹸のついた小さなタオルで彼女の小柄な背中を洗い始める。
「・・・」
初めて女性に背中を洗われたことで、少女の白い顔がみるみる赤くなっていった。
続けて雪のように白い長髪もシャンプーで揉み解すように洗われる。
「流しますよ」
「ニョワ!?・・・ン~!」
頭から掛けられたシャワーの温度に少女の身体がビックリしてしまう。
すぐに顔の水気を両手で拭い落とし、ブルッと全身を震わせた。
「次は私の背中も洗ってください♪」
「ウン・・・ウッ? セナ、カ・・・ッ!?」
白き少女は泡付きのタオルを手渡されて、まさかの交替に目を丸くする。
2人の場所が入れ替わり、立っている少女の目の前には、大きな艦娘の背中がそびえ立っているように見えた。
「エット・・・ンゥゥゥ・・・」
少女がくぐもった声を漏らし、上気した顔から湯気が出てくる。
彼女は手に持ったタオルを震わせながら、座っている大和の背中を擦り始めた。
「・・・んっ」
「ヒッ!・・・ダ、ダイジョウブ?」
「少し、くすぐったいです。もう少し強くしてもいいですよ?」
「コ、コウ?」
「そうです。いい感じですよ」
少し怯える白き少女が戦艦の背中をせっせと洗っていく。
「少しずつで、いいです」
「エッ?」
「ホッポちゃんが、元は人間だったことはある方に教えられました。だから、ですよね? 私達“艦娘”と、こんな風に触れ合うのが苦手なのは・・・」
「ウッ、ウン・・・」
「大丈夫です。皆、貴方を嫌がったり、蔑んだりしません」
「デ、デモ・・・ワタシ、カラダガ“シンカイセイカン”ダシ・・・ソレニ・・・モトハ、オ・・・」
「落ち着いて、ゆっくり慣れていってください。でないと、今日みたいなことがずっと続きますよ?」
「ウ゛ッ・・・ソレハ、イヤ・・・」
大和に助言されたことで、少女は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
彼女自身もこの先ずっと艦娘との触れ合いはあるだろうと確信していた。
そのため、覚悟は必要だと思い、少し残っていた勇気を奮い立たせる。
「ソレジャア、シャワーヲ・・・」
白き少女がシャワーに手を掛けようとしたその瞬間、脱衣所のある方向の引き戸が勢いよく開いた。
「さぁ、暁たち、水雷戦隊の出番よ!」
「時間だ。その身体を洗わせろ!」
「は―い! 雷、行っきますよ―!」
「電の本当の本気を見るのです!」
「エッ、エエッ!?」
やって来たのはアイスを食べに行ったはずの4姉妹。
しかも彼女らはタオルを身体に巻かずに、左手で持っているだけの状態である。
まともに見てしまった少女の顔が再び真っ赤になってしまう。
「大和さん! あのアイスだけでは満足できない!」
「最初は脇腹。次はうなじだ。ひざまづけ。命乞いはさせない。私にその柔肌を晒せ」
「も―っと私に頼っていいのよ?」
「もう電は我慢できないのです!!」
「ヒッ、ヒィィィ!!」
彼女たちのまるで飢えた獣のような視線。
それを目にした少女が持っていたタオルを落とし、そこから浴槽に向かって走り出した。
「あっ、駄目よ! ホッポちゃん!」
大和が静止の声を掛けるも、白き少女は大ジャンプして、浴槽の底へと潜り込む。
その数秒後、身体を赤くした少女が飛び上がるように浮き出た。
「アッツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
風呂の温度は高めに設定されているため、普段は慣らした後でないと入りにくいと言われている。
しかも、“深海棲艦”である彼女にとって、深海の冷たさは平気だが、その逆である熱湯の耐性は低かった。
まるで飛び魚のように、彼女は風呂の水面を飛び跳ねていく。
夕方、日が落ち始めた頃。
司令部の廊下でずっと立ったまま佇む空母の姿があった。
「・・・」
彼女は口元の涎を垂らしながら、木箱の上に置かれた羊羹の包みを見続けていた。
「・・・」
「加賀さん、ただいま♪」
そこへ口元に餡子を付けた赤城がやってくる。
彼女は立ち尽くす加賀の姿を不思議そうに見つめた。
「加賀さん? どうし・・・」
「・・・」
「そ、それはっ!?」
そこで赤い一航戦もその羊羹の存在に目を光らせる。
「まさか、こんなところに! いただき・・・へっ?」
「ふんっ!!!」
青い空母は、右手を伸ばす赤城の腕を掴み取り、そのまま右腕だけで彼女の身体を左側の壁へ投げ飛ばした。
赤い空母は頭から突っ込んでいき、建物の外壁に腰まで深々と突き刺さってしまう。
ピクピクと痙攣する彼女を気にせず、青い一航戦は羊羹から視線を離さない状態を維持する。
「・・・これは譲れません」
数時間後、通り掛かった山岸提督が彼女の事態に気付き、呼び出された白き少女の指示で加賀は解放された。
その時の加賀は羊羹を食しながら、『やりました』と言って、目を輝かせていたらしい。
今回はお風呂回。
TSもので主人公が必ずぶち当たる試練の一つ。
けれども、弄りやすいので回避させるつもりはありませんw
響のキャラを崩壊させすぎたかな・・・ちょっと心配です。
次回は2本立てを予定しています。
そして・・・ホッポ暴走?