真・恋姫†夢想~電光外史戦記~   作:ざるそば@きよし

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マイナーな格闘ゲーム作品である「アカツキ電光戦記」とのクロス作品になります。
探り探りでの執筆となると思いますが、よろしくお願いいたします。


00.転生

紀元二六六X年――チベット・ツァンポ峡谷

 

 零

 

 世界的な秘境と呼ばれるツァンポ峡谷――かつてよりその地の奥深くには幻の地底王国があると信じられ、多くの人間がそこを訪れては古代遺跡の発掘や地底文明発見の調査に乗り出していた。

 しかしそんな幻想は科学技術の進歩と共に徐々に忘れ去られ、現在では軍事的な事情により一般人が立ち入る事が不可能なだけの高山地帯に過ぎない。

 だが、この秘境の地下には一般人はおろか土地を管理している政府の人間ですら全く知らない施設が、とある組織によって密かに建造されている。

 秘密結社ゲゼルシャフト――第二次世界大戦時にナチス・ドイツが生み出した研究機関『アーネンエルベ』と、異端の宗教団体『ペルフェクティ教団』を母体として生まれた秘密武装組織である。

 武力による世界人口の調節と全人類の霊的救済を目的とする彼らは大戦当時からこのチベット高地に根を張り、地底に眠ると言われた古代アガルタ文明の遺跡を調査していたが、戦後は本国から独立。峡谷地下に巨大な秘密基地を建造し、さらに大規模な発掘探索を続けていた。

 約半世紀にも及ぶ発掘作業と研究調査の末、ついに彼らは古代アガルタ文明の遺産の一部を手に入れることに成功した。

 それが彼らの持つ秘密兵器『電光機関』である。

 一見小さな車輪にしか見えないそれは、装着した人間の体内に存在するATP(アデノシン三リン酸)をエネルギー源として超高効率の発電を行い、使用者に超人的な身体能力と電気を操る術を与えるだけでなく、電磁波によってレーダーを初めとした近代兵器の破壊・誤作動を誘発し、更に敵の装甲を無力化する能力さえも秘めていた。

 彼らはこの力を兵器に転用し、長年の悲願であった全人類の霊的救済と人口調節の為の世界戦争をいよいよ実行に移そうとしていた。

 だがしかし、その野望はたった一人の裏切り者によって、脆くも崩れ去る結果となった……

 

 壱

 

 ツァンポ峡谷地下――ゲゼルシャフト秘密基地/動力室

 

 その部屋は巨大な機械によって動かされていた。

 唸り声にも聞こえる重低音を響かせながらゆっくりと稼働するそれは、部屋中に張り巡らされたパイプと直結しており、そこから絶え間なく流し込まれる液体状の燃料によって実に効率的に発電を行っている。

 機械――超大型の電光機関によって生み出された莫大な電力は、毛細血管の如く基地中に張り巡らされた送電線を通じて各施設に送り込まれ、武装生産施設や研究施設といった各設備へと供給されていく。

 まさにここは基地の心臓部であると同時に、二人の男の運命を左右する決戦の地でもあった。

「グハァッ!……ハァッ…ハァッ…ハァッ……」

 一人の男が崩れるように膝をついた。苦しげに喘ぐその口からは鮮血が溢れ、唾液に混じって床や己の軍服を汚していく。

 男は手に持った刀を杖代わりに立ち上がろうとするが、途中でその力すら失ってしまったのか、そのまま自身の血と唾液で汚れた床へと倒れこんだ。

「フン、無様だな。ムラクモ」

 黒い軍服を着たもう一人の男は、自身がムラクモと呼んだ倒れた男に向かってゆっくりと近づいていく。その手には古い型の自動拳銃が握られていた。

「貴様の複製體(クローン)はここに来る前にすべて始末しておいた。転生の器はもう無い。大人しく死ね」

「それはどうかな……アドラー、今までの戦闘でお前もかなり“消耗”したはず。貴様ももはや生きてはいられまい……」

 ムラクモがそう告げた直後、アドラーと呼ばれた黒い軍服の男は突然、強烈な脱力感を全身に感じた。

 持っていた銃を取り落とし膝から崩れ落ちると、先ほどのムラクモと同じように口から大量の血を吐き出したのだ。

「バカな……この俺が、これほどまで“消耗”していたとは……」

 夥しい量の血を吐き出し、みるみるうちに顔を白くするアドラー。

 完全無欠と思われた電光機関の欠点――それは使用者自身と燃料となるATPにあった。

 ATPとは本来、種類を問わず全ての生命体が活動を行う為のエネルギー源として直接使用する物質であり、その重要性から『生体エネルギー通貨』とも呼ばれている。

 この物質を失った生物は自分の生命を維持する事が出来ず、たちどころに衰弱死してしまう。いわばATPとは、身体というエンジンを動かす為のガソリンに等しい。

 それを燃料として大量に“消耗”してしまう電光機関は、まさに必死の特攻兵器と言っても差支えなかった。

 その例に漏れず、ここまで電光機関を駆使し続けてきた彼の身体には、もう自分の生命を維持するだけのATPすら残っていなかったのだ。

 アドラーの変容を見届けたムラクモが満足げに嗤う。

「カカカ……貴様はもう終わりだ。だが私は死なん。例え複製體を全て失ったとしても、“転生の法”を会得し“完全者”となった我が魂は不滅……。死ぬのはアドラー、貴様だけだ……ククク、ハッハッハ……!!」

 勝ち誇ったように嘲笑するムラクモだったが、それは次のアドラーの言葉によって遮られる結果となった。

「――と言うとでも思ったか? ここまでは全て計算済みだ」

 そう言うとアドラーはゆっくりと立ち上がった。顔色は相変わらず蒼白ではあるものの、その表情は紛れもなく自身の勝利を確信していた。

「実はな、俺も手に入れたのさ。“完全者”の秘密、“転生の法”をな」

「な、なに……!?」

 呆然と彼の言葉を聞くムラクモの様子を、意趣返しのように今度はアドラーが嘲笑った。

「電光機関の知識を手に入れたこの俺が、何の手も打たずにここまでやって来ると思ったか? お前が電光機関の“消耗”から自分を守るために複製體の生産技術と“転生の法”に注目していたのは以前から分かっていた。だからここに来る前にあの女――ミュカレが持つ“転生の方”を奪わせてもらったのさ。

 幸い俺には替わりの身体が幾らでもあるからな。この身体がどうなろうと大した問題ではない。俺は“完全者”として新たな体へと転生し、残ったアガルタの遺産を全て継承する。残念だったなムラクモ。お前の負けだ」

「まさか……貴様が戦後も我らゲゼルシャフトに協力し続けていたのは……」

「そうだ。全てはお前たちが独占していた電光機関の知識と“転生の方”を奪い取る為だ」

「貴、様……よもや、そこ、まで……」

 最後まで言葉を紡ぐことなくムラクモは力尽き、やがて動かなくなった。

 ムラクモの最期を見届けると同時に、アドラーも再び強い脱力感を全身に感じた。

 自分の身体がついに電光機関の“消耗”に耐えられなくなり、朽ち果てようとしているのだ。

 だが勝利の栄光を得た彼にとっては、その脱力感すら今は心地良かった。

「ククク……俺は死なん。必ずやアガルタの遺産を継承し、この世の全てを手に入れてみせ……る……」

 再び床へと倒れこむと、アドラーは胸中に秘めた野望の達成を夢見ながらゆっくりと死の眠りについた。

 

 弐

 

 全てはアドラーの計画通りだった。

 ペルフェクティ教団の教祖ミュカレが持つ不死の奥義“転生の法”と、組織が保有する電光機関の技術の全てを簒奪し、自らがゲゼルシャフトの首魁となって世界を支配する――水面下で密かに練っていた組織乗っ取り計画は完璧なまでに進み、見事に“転生の法”と電光機関に関する技術を奪取し、ミュカレ・ムラクモを排除する事にも成功した。

 その過程で自らの肉体が電光機関のもたらす〝消耗〟に耐えきれずに朽ち果てる事は無論承知の上だったが、それも他者の身体を奪う事で不死となる〝転生の法〟と、ゲゼルシャフトが私兵として生み出した自分の複製體(クローン)であるエレクトロゾルダートを新たな肉体として使う事で簡単に解決することが出来た。

 何もかもが思惑通り、万事が自分の描いた通りに動き、運び、味方した。

 後は新たな身体へと転生し、遺跡に残されたアガルタ文明の超科学とゲゼルシャフトの全てを手に入れ、世界を支配するだけだった。

 しかし、完璧に思われたこの計画が思いもよらぬ方向へと向かう事になるとは、この時はまだ知る由も無かった……。

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