真・恋姫†夢想~電光外史戦記~   作:ざるそば@きよし

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更新が随分遅れてしまい、申し訳ありません。
今後もゆっくりなペースにはなると思いますが、更新していくつもりですので、よろしくお願いします。


04.陳留

 零

 

 アドラーが華琳の客将となってから、瞬く間に半月が過ぎ去った。

 その間、彼は書庫に籠もり、文化、地理、歴史など、この世界の情報収集に明け暮れていた。

 最初こそ翡翠と共に作業を行っていたが、三日で文字の読み書きをマスターすると、それ以降は一人で作業を続けた。

 連日連夜にわたる情報収集と分析の結果、現在(いま)が約千八百年前の中国で、此処が現代の河南省に該当する場所だと言う事も明らかになった。

 自分の置かれた状況をおおよそ理解したアドラーが次に行った作業は、己の中に潜めていたあるひらめきについての調査だった。

 それは自分が過去の時代にいると考えた時から密かに胸の内にあり、同時に華琳に技術提供の取引を持ちかけた最大の理由でもあった。

 ――この時代ならば、「アガルタ」の古代文明がまだ生き残っているかもしれない。

 アドラーは書庫の資料からチベット地方――特にツァンポ峡谷がある西部方面を徹底的に調べ上げた。

 すると、この一帯は現在、“羌”と呼ばれる遊牧民族が支配している事が判明した。

 過去の記録から推測してもこの民族がアガルタの末裔、およびその関係者である可能性は非常に高く、接触出来れば何らかの情報が得られるに違いない。

 更に上手くいけば、完全な形でアガルタの技術と力を手に入れる事もまた、決して夢では無いだろう。

 新たな目標を見つけたアドラーの瞳には、ぎらついた野望の炎が宿っていた。

 

 壱

 

《アドラーという男は予想以上の切れ者です》

 闇の様に抑揚の無い声が部屋の中に響いた。

 声に耳を傾けているのは部屋の主である華琳だが、不思議な事に部屋の中には彼女一人しかおらず、他の人間の姿はどこにも見当たらない。

《奴はこの半月で文字の読み書きだけでなく、漢の歴史や地学など、軍師に勝るとも劣らない知識を身に付けております》

 再び部屋の何処かから声が聞こえた。一体どこからやって来るのか見当もつかないが、姿なき声ははっきりと華琳の元へ言葉を届ける。

「随分と勉強熱心という訳ね。それで?」

《その後についてですが、最近は“羌”について何やら嗅ぎ回っているようです》

「“羌”?」

 予想外の名に華琳は眉根を寄せた。

 “羌”と言えば烏丸、匈奴、鮮卑と並び、帝に楯突く辺境の敵民族だ。両者の戦いの歴史は裕に数百年を越し、幾度となく互いに侵略と防衛を繰り返している。

 だが、なぜそんな辺境の敵民族を未来から来た“天の御遣い”がわざわざ調べるのだろうか?

「……あの男が“羌”と手を結ぶと?」

 と、華琳は当てずっぽうな事を言った。それくらいしか理由が思いつかなかったからだ。

《分かりません。ですが、あの男が“羌”について何か知りたがっているのは確かです》

「…………」

《拷問して口を割らせましょうか?》

 考え込む彼女を察してか、闇がそう提案した。

 しばらく考えこむように間を置いた後、華琳は首を横に振った。

「まだ泳がせておきましょう。相手の目的がハッキリしない内から強引な手に出るのは得策じゃないわ。仁、あなたは引き続きアドラーを監視しなさい。何か情報を掴んだら真っ先に私に報告を」

《承知いたしました》

 答えを受け取った華琳はその後、『それと、これは報告とは関係ない事なのだけれど』と前置きしてから、

「翡翠は彼と上手くやっているかしら?」

 と再び闇に尋ねた。

《……何故、そのようなことを?》

 思いもよらぬ問いに、闇は少々面食らったようだった。姿こそこの場には見えないものの、聞こえてくる声の調子からもそれは間違いなかった。

「聞いているのは私の方なのだけれど?」

 戸惑う闇の言葉を切り伏せるように華琳はそう返す。

 少々の沈黙が間を包み込んだ後、やがて闇が口を開いた。

《……はい。自分が見る限りでは彼女は――翡翠は上手くやっているように思います》

「そう。何よりだわ」

《華琳様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?》

 満足げに肯く華琳に今度は闇の方が問いを投げかけた。

「なにかしら?」

《何故、翡翠をあのような男に? お言葉ですが、あのような男に彼女は到底合わないかと……》

 さもありなんと華琳は頷いた。

「そうね。確かに合わないと思うわ――でも、だからこそ良いのよ」

 彼女の答えには確かな含みがあった。が、それがどういう意味を持つのかについては、教えるつもりはないらしい。

《そう……ですか》

「今度気が向いたら教えてあげるわ。あなたも気になるでしょうから」

《は……》

「もう良いわ。下がって」

《では失礼いたします》

 その言葉を最後に部屋の中から闇の声が聞こえてくる事は無くなった。

 闇――曹仁からの報告を聞き終えた華琳は、どっと疲れたように椅子の背にもたれ掛かった。疲労の原因は言うまでもなくアドラーだ。

 “羌”という新たな情報を得る事は出来たものの、華琳にはその意味が全く理解できなかった。

 ――何ゆえ“羌”なのか? 一体“羌”に何があると言うのか?

 果たしてそれはアドラーが隠しているであろう秘密と、何の関係があるか?

 何もかもが分からないまま、情報の断片だけが自分の元へと手繰り寄せられる。

「アドラー、秘密の何か、そして“羌”。この三つの接点は一体……?」

 答えを求めるように華琳は虚空に問うたが、それを持つものは誰も居なかった。

 

 弐

 

 陳留の街は猥雑で力強い活気に満ち溢れている。

 悠久の時代より交通の要として存在するこの街は、帝都洛陽と辺境とを往復する商人や出稼ぎに向かう労働者達が渦のようにぶつかり合う場所であり、それに伴って多様な市や店が開かれるのも、また当然の事であった。

「あんちゃん、あんちゃん! コイツはここらじゃ滅多に手に入らない妙薬でサァ! どんなケガや病気も一粒飲めばけろりと治っちまう。医者いらずの万能薬だぜこいつァ! 今なら安くしとくからよ、一瓶どうでぇ?」

 毒々しい色合いの丸薬が詰まった小瓶が突然、アドラーの前に突きつけられた。

 あまりの怪しさに顔を顰めていると、後ろや横合いから人を突き飛ばしながら猛然と他の人間が道に割り込んでくる。

「邪魔だ邪魔だ! こっちは急いでんだよ!」

「どけどけ! 商売の邪魔すんな!」

 流れ込む人々の勢いに身を任せ、アドラーはそのまま通りを進んだ。

「いらっしゃい! いらっしゃい! 洛陽から仕入れたばっかりの老酒だよ!! よ! 買ってかないかい!」

「お兄さん、男前な顔してるねぇ。ウチの店には可愛い娘が色々と揃ってるんだけど、ちょっと遊んでおいきよ!」

「さぁさぁ張った張った! この中から一番早い鼠を当てられたら八百銭だ! いっちょ運試ししてみようって度胸のあるヤツは居ないか!?」

「こいつはこの街一番の職人が作った一流の武具だぜ! こいつを持って太守様の元へ行きゃ、今日からアンタも立派な孟徳軍の一員だ! 買わねえ手はないぜ!」

 酒に食べ物、女に博打に武器に薬。

 活気湧き立つ陳留の街では、大抵の物が揃っている。

 ならば当然、様々な情報も出回るだろう。

 そう思ったアドラーは“羌”とアガルタについての情報を得るべく屋敷を抜け出し、こうして街へと繰り出したという訳だ。

 人々が犇めき合う街路を縫うように歩いて行くと、呼び込みや売買の声に混じって罵声やら悲鳴が流れ込んでくる。どうやら街の規模に対して治安の方はいささか問題を抱えているらしい。

 それから小一時間ほどかけて市場や通りに居並ぶ書店、雑貨屋、酒家など、情報を持って居そうな人間がいる場所をいくらか当たってみたものの、生憎どの店にも目当ての情報を持っている人間は居なかった。

(やはりそう簡単にはいかんか……)

 半ば想定していたとは言え、芳しくない結果にアドラーは内心辟易としていた。

 仕方なく別の地区に移ろうとしたその時、

 ――泥棒だ! 誰か! そいつを捕まえてくれ!

 張り裂けんばかりの叫び声が突然、通り中に響き渡った。

 見れば通りの向こうから大きな包みを抱えた中年の男が、必死の形相で走って来ている。恐らく件の泥棒だろう。

 最初は無視を決め込んでいたアドラーだったが、間の悪い事に泥棒は彼の方へ向って真っ直ぐ走って来ていた。

「……チッ」

 面倒そうに舌打ちを一つすると、アドラーは足元にあった拳大の石を拾い上げ、走ってくる泥棒へ向かって投げつけた。

 それほど力を入れている様には見えなかったが、石は結構な速度で飛んでいくと、狙い違わず泥棒の顔面に直撃した。

 ――ぐぇ!?

 鼻っ柱に思い切り石を浴びる事となった泥棒は瞬く間に体制を崩し、盗んだ包みを地面にバラ撒きながら往来にぶっ倒れた。

 立ち上がろうと必死にもがく泥棒だったが、人垣の中を武装した兵士と共に見知った顔が二つ現れると、泥棒の身体をがっちり掴み、完全に身動きを封じてしまった。

「もう逃がさんぞ! 大人しくしろ!」

 そう言って泥棒を押さえ込んだのは、なんとあの秋蘭だった。

 彼女は手際よく泥棒に縄をかけると、部下に男の身柄を引き渡し、詰所へと連行するように命じる。

「秋蘭」

 近づいたアドラーがそう声をかけると、

驚きの表情を浮かべた。

「あ、アドラー!?」

「奇遇だな。まさかこんな所で出会うとはな」

「貴様ぁ、一体ここで何をしている!!」

 そう言って秋蘭の後ろからやってきたのは春蘭だ。流石に以前ほどの殺気は無いものの、依然として不快そうに顔を歪め、刺すような視線をアドラーへと投げかけてくる。

 自分へ向けられた刺々しい視線を意にも介さず、涼しい顔でアドラーは答えた。

「少し用があって街を見て回っていた。お前達こそ、こんな所で何をしている?」

「我々は街の警備だ。これも仕事の一つでな」

 と、秋蘭。

「だがおかげで助かった。この男はこの界隈で何度も窃盗を繰り返している常習犯でな。我々も手を焼いていたのだ」

「気にするな。俺は偶然通りかかっただけだ」

「フン! 私は礼など言わんぞ! こんな奴、我らだけで十分捕まえられたのだ!」

 春蘭が忌々しげに吐き捨てた。結果としてアドラーに貸しを作る形になってしまったのが癪なのだろう。

「姉者、もうアドラーは華琳様の客将なのだし、いい加減にへそを曲げるのはやめないか」

 たしなめる様に秋蘭がそう言うと、春蘭の怒りの矛先が今度は彼女へと変わった。

「秋蘭こそ、こんなやつのどこを信じろというのだ!」

「別に何から何まで全部を信じろと言っている訳じゃないが、そう全てを疑ってかかる事もないだろうと言っているのだ」

「不愉快だ! 私は詰め所に戻るぞ!」

 散々怒鳴り散らすと、春蘭は大股で二人の間を通り抜け、あっという間に通りの向こうに消えて行った。彼女の剣幕に圧倒されていた部下達も、やや遅れてその後ろに付いていく。

「……すまない。姉者には私からよく言っておく」

 秋蘭が申し訳なさそうに頭を下げた。普段は冷静沈着な彼女だが、姉の事となるとどうも勝手が異なるらしい。

「気にするな。それよりもお前に一つ頼みがあるんだが」

「頼み? なんだ?」

 アドラーの意外な言葉に何事かと秋蘭が首をかしげる。

「実はな、街の案内を頼みたい」

「街の?」

「ああ。自分でも少し回ってみたが、この街は予想以上に広くてな。出来ればよく知っている人間に案内してもらいたいんだが、どうだ?」

「分かった。その程度の頼みなら喜んで引き受けよう」

 秋蘭は頷いて踵を返し、アドラーもその後に付いて行った。

 

 参

 

 通りでのひと悶着の後、市場や城門など街の中を一通り見て回った二人は遅めの昼食を取るべく、一軒の酒家に腰を落ち着けていた。

 そこは秋蘭行きつけの店で、構えは小さいが酒と料理の味には自信があるという。

 運ばれてきた酒と料理を口にしてみると、確かに彼女の言う通りその味は称賛に値するものだった。華琳の屋敷で出される食事も決して悪くないが、ここの料理はそれよりも一段上をいっていた。

 腹ごしらえも済んで満足げに寛いでいると、思い出したようにアドラーが言った。

「それにしても、随分と活気付いているな。この街は」

 彼にしては珍しく率直で正直な感想だった。

 それを聞いた秋蘭が誇らしげに言う。

「ああ。ここは洛陽と辺境を結ぶ補給地のような場所だからな。当然他の街よりは活気も人の往来もある。だがここまで街が大きくなったのは、ひとえに街の発展に尽力してきた華琳様のおかげだ」

「なるほど――だが、その代償は存外大きかったのではないか?」

「? 何のことだ?」

 訳が分からないと言わんばかりの秋蘭が片眉を上げた。

「お前と出会う前、一人で街を見て回っている間でも幾つかの揉め事を見た。しかも、そのどれもが突発的なものではなく、恐らく日常的に起こっている類のものだ。街の発展に力を入れたはいいが、内部の治安維持に問題が起こっている。違うか?」

「!」

 秋蘭の顔色が疑問のそれから驚愕のそれへと変わっていく。

「俺が泥棒に石をくれてやった時も、お前達は明らかに遅れて駆けつけた。もし俺が居なければ、あの泥棒はあのまま逃げ遂せていただろう。原因は今ある憲兵の詰め所があの区画から遠い事と市に配置できる警備の人数が少ないせいだ。そうだろう?」

 彼女は困った様に顔を曇らせた。アドラーが指摘した問題点は、認識や原因も含めて全てが完璧なものだったからだ。

「……その通りだ。拡大した街の規模に対してそれを警備する人間の数が圧倒的に追いついていないのが現状だ。この問題には華琳様や我々もずっと頭を痛めていてな。何かいい案は無いものかと考えている所だ」

「フムン」

 するとアドラーは少し唸ってから、

「その問題、一度俺に預けてみる気はないか?」

 と切り出した。

「……と言うと?」

「軍に居た頃、少しばかり街の治安維持をしていた時期があってな。ひょっとしたら何か力になれるかもしれん。そちらで問題なければ、俺に手伝わせてくれないか?」

 その申し出は秋蘭にとって予想外のものだった。

 取引を経て客将となったものの、働く訳でも無くただただ書庫に籠ってばかりだった男が、急に自分達の為に働きたいと言い出したのだ。驚くのも無理は無い。

「そう言ってくれるのは助かるが……いいのか?」

 どこか探る様に秋蘭がアドラーに視線を差し向ける。恐らくはアドラーが何を考えているのか、腹の内でいろいろ考えているのだろう。

「俺が構わんと言っているんだ。それにいくら客将とはいえ、仕事もせず毎日書庫に籠もっていては、何かと問題だろう」

 そこまで言われてしまっては、拒否することも無碍にあしらう事も出来ない。

「……分かった。この事は私から華琳様にお伝えしておく。近いうちに何かしらの返事を出そう」

 この男は一体どういうつもりなのかと考えながら、秋蘭は曖昧に首を縦に振った。

 

 肆

 

 その夜、秋蘭から報告を受けた華琳はアドラーの件について最終的な決定を下すべく、自身の両腕とも言える二人――秋蘭と春蘭を自室に呼び寄せた。

「アドラーの件についてどう思うか、二人とも率直な意見を言って頂戴」

 華琳がそう告げると、まず秋蘭が心の内を明かした。

「……警戒が必要とはいえ、あの男も今では我らの客将。屋敷で遊ばせておくよりも、何か有効に活用する方法を模索するのが得策かと。あの男、たった一日様子を見ただけでこの街が抱える治安や警備の問題点にあっさりと気が付きました。観察能力については疑いの余地がありません」

「自分は反対です! あの様な得体の知れない男に街の治安問題など、到底任せられるはずがありません!」

 横から異を唱えたのはもちろん春蘭だ。アドラーを敵と言って憚らない彼女が、アドラーに街の治安任務を任せるなど到底受け入れる訳が無かった。

 真っ向から対立する二人の意見に華琳は唸る。

 どちらの考えにも一理ある。が、彼女の心情的には秋蘭に一票を投じていた。

 と言うのも、元から多少の危険を承知の上であの男を客将に引き入れたのだ。手駒として抱え込んだ以上、有効的に動かさなければ意味が無い。

 しかし、それをわざわざ街の治安問題という機密性の高い任務で行う必要があるのだろうか? というのも、またもっともな意見であった。

 どちらを取るべきだろうか……。

 華琳の心は揺れ動いていたが、やがて腹を決めたのか、自らに言い聞かせるようにこう言った。

「アドラーには試験的に一月か二月ほど仕事を任せ、その成果や過程を考慮した上で今後の方針を決めることにするわ」

 その答えは有り体に言えば折衷案と言ってもいいものだった。が、何処か別の仕事にわざわざ当てるよりもその方が角が立たないだろうと判断したのだ。

「なるほど。試練を課すという訳ね」

 秋蘭も納得したように頷く。

「ええ。万が一問題が起きないように、監視役として貴女たちのどちらか一人が必ず付くようにする。それなら春蘭も問題ないでしょう?」

「は、はい……」

 頷く春蘭だったが、その顔は納得と言うにはほど遠いものだった。

 不満を抱える彼女の心情を察した華琳が言葉を付け加えた。

「もし奴が少しでも怪しい動きをしたら、即座に首を撥ねなさい。遠慮は無用よ」

「秋蘭、今すぐアドラーにこの事を伝えて。期限は明日から二月、それまでに然るべき結果を残せと」

「御意」

「二人とも、もう下がっていいわ。夜遅くにごめんなさいね」

「いえ。では、自分達はこれで失礼します」

「……失礼します」

 秋蘭と春蘭の二人が部屋を出ていき、完全に気配も消え去ったのを見計らうと華琳は、

「仁、居るかしら?」

 と呟いた。

《お呼びでしょうか。華琳様》

 すると、いつぞやと同じくどこからか闇の如き声が聞こえてきた。曹仁だ。

「言わなくても分かっているとは思うけど、あの二人と一緒にアドラーの行動を監視して頂戴。何かあればすぐに知らせて」

《承知しております》

「それと――春蘭にも一応目を付けておいて」

《元譲様も……ですか?》

 仁は華琳の言葉の意味を測りかねているようだった。

「あの子の事だから、どこかで先走り過ぎないか少し心配なのよ。気にかける程度で良いから、見ておいて頂戴」

《了解いたしました》

 合点がいったように仁はそう答えると、現れた時と同じようにすっと気配を消してしまった。

「さて……これでどう出るか。文字通り試させてもらうわよ。アドラー」

 華琳はそう言い、にやりと笑みを浮かべた。

 




田畑を耕し、実りを得るのが民の役割ならば、
民を見張ることこそが、兵士の役割。
その役割を全うすべく、死神は再び兵士へと回帰する。
次回「衛兵」

時に見張りを見張るのは誰の役割なのだろうか?

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