木ノ葉の里の大食い少女   作:わたあめあめ

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鈴取り

「ナルトいつ受かったんだよ」

「えっへへーん! 俺ってば凄いだろ、ザマアミロー」

 

 何がざまあ見ろなのがわからないが、すげーすげーと手を叩いてやることにして、マナは苺大福――ではなく紅丸と共に適当な席に座った。今日は班分けの発表があり、担当上忍とご対面をするらしい。

 実力が均等になるようにという教師側のおせっかいによって成された班分けがイルカによって発表されていくのを聞き流しつつ、教室を眺めながら大体どいつと同じ班になるのかを推測してみる。

 ――つーことはつまり、アタシかナルトかが、もしくは両方が主席のサスケと同じ班か

 とは言えサスケと同じ班になるのはどちらか一人だろう。サスケが主席と言えどドベ二人を一気に補えるはずもない。

案の定、ナルトはサスケと同じ班だった。

 

「七班、うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ」

 

 ナルトはサクラと同じ班になれて、しかしサスケと同じ班になってしまい複雑なようだ。サクラにしてもサスケと同じ班になれて、ナルトと同じ班になってしまい複雑なようである。サスケは二人をどうでもいいと思っているような面持ちだ。

 じゃーアタシはこいつか、とマナは斜め前の席を見やる。あやめ色の髪をおかっぱに近い状態にした少年――サスケと一、二を争っていた次席、一文字はじめ。といってもヒナタのように毛先が切りそろえられているわけではなく、天然パーマでふわっとしている。感情が顔に出にくいのか、はたまた隠すのが得意なのか、紫を帯びた灰色の瞳には何の感情もない。

 

「八班、犬塚キバ、日向ヒナタ、油女シノ」

 

 この班は感知タイプ系で揃えてきたか。さらっとシノに視線を向けると、シノは素早く顔を逸らす。キバに視線を向けると、赤丸と共ににやっと笑いかけてきた。苺大福、ではなく紅丸がわん、と小さく鳴く。ヒナタは残念そうな面持ちでナルトの方を見つめていた。

 

「九班、いとめユヅル、狐者異マナ、一文字はじめ」

 

 やはり一文字はじめとか。で、もう一人はいとめユヅル――白い長髪に黄色いカチューシャをつけた少年だった。余り関わりがないから印象は薄いが、確かいじめられっ子で、先生が彼に対するいじめについて長ったらしい説教をしていたのを覚えている。因みにマナは三分くらい聞いたところで教室を抜け出した。

 

「十班、秋道チョウジ、山中いの、奈良シカマル」

 

 猪鹿蝶トリオ。この三人は一族絡みの付き合いであり、この三つの一族の跡取りは代々共にスリーマンセルを組んでいる。ちらりとそちらに視線をやれば、シカマルがめんどくさそうに溜息をつき、いのは嫉妬の視線をサクラに向け、チョウジはあいかわらずポテトチップスを食べていた。

 それからイルカに各自の担当上忍を待つよう言われて早二分、ずばーっと教室のドアが開いた。

 

「第九班は名乗りを上げろ!」

 

 しーん。

 青白い顔に黒い長髪の男性だった。黒いズボンに赤っぽいシャツを着ており、通った鼻筋やら細い手足やら妙に美丈夫である。背もかなりの高さだ。あまりのハイテンションにユヅルもはじめも反応が遅れた。彼が九班の担当上忍と知り、マナは眉根に皺を寄せる。この匂い――

 

「ミントの匂いだなあああ! ハッカ味の飴を持っているだろ、よこせ!」

 

 ばん! と机を叩いて立ち上がるマナに全員が驚いた顔をする。

 

「如何にも私がシソ・ハッカだがどうした! お前は九班の生徒だな!? さあ受け取れ――っ!」

 

 シソ・ハッカとやらはすっと飴玉をどこからか取り出し、そして全力で投げた。この飴玉なら人の脳天をぶち抜くことが出来るんじゃねえかというスピードである。紅丸が怯えて赤丸のところに避難したのに対し、マナはそれを口でキャッチした。ペッ、と包みを吐き出しごりごりと音を立てて飴玉を砕くその姿にハッカは感極まった様子で、

 

「こ、こんな素晴らしい力を持った生徒に恵まれるとは!」

 

 と言い放つ。別にすばらしい力でもなんでもないと思うけど、といのが呟き、シカマルはその傍でこんなのが担当上忍じゃなくてよかった、と溜息をついた。

 

「さあ、九班は私についてきたまえ!」

 

 +

 

「先ずは自己紹介だ。私の名前はシソ・ハッカ。好きなものはミントの匂い、好きな言葉は“勤勉”で、嫌いなものは怠慢や百合の花粉。あれはどうも鼻がむずむずしてな……。趣味はハーブを育てること。特技はそうだな、潜水だろう。あまりしないが。幻術と水遁が得意なのだよ」

 

 自慢と自信たっぷりに告げるハッカだが、三人とも無反応だった。正確に言えばマナは飴により口をふさがれており、はじめは始終無表情で、ユヅルはどう接していいのかわからず戸惑っているようだ。いきなりハイテンションで教室に踊りこんできた男にどう接したらいいのかわからなくなるのは当たり前とかもしれない。

 

「でははじめ君、君から初めてくれたまえ」

「……承知した」

 

 無感動な声で言いつつ首をこっくんとかすかに上下させる。

 

「姓は一文字、名ははじめ。好んでいるものは特に無い。厭っているものは特に無い。好きな言葉は特に無い。趣味も特に無い。特技はあるが、好んでいるわけではない。夢も特に無い」

「お前の好きな言葉、“特に無い”でいいんじゃないのか? いや、これじゃあ口癖か」

「そうか……? 承知した。では、好きな言葉は“特に無い”だ」

「冗談なんすけど……真に受けんなよ特に無いはじめくん……」

 

 天然なのか単純なのか。飴玉を食べ終わったマナが溜息をついた。

 膝丈まである黒いズボンと、濃紺のパーカーをだぼっと羽織り、額当てを腰に巻いた姿の少年は、灰色の目をぱちくりとさせた。

 

「では次はユヅル君だ」

「え……っあ、はいっ! い、いとめユヅルです」

 

 どもりどもり喋る彼に、りらーっくすりーらっくす! とハッカが白い歯を見せる。だから緊張するんだろと突っ込みたくなった。

 

「嫌いなものも好きな言葉も特技も夢もなくて……正直何の取り得もないような奴だし、それにどうして卒業できたかわからないくらいなんだけど……よろしくお願いします」

 

 黒い長袖のTシャツの上に白無地の半そでのTシャツ、膝丈より少し下あたりの黒いズボンと、簡素な恰好だ。額当ては首に緩く巻いている。全く額宛てとして使われない物体だ。

 

「で、最後にマナくんだ」

「ほいほーい。マナでーす。名字は言うまでもねーかな? だってアタシの名字結構インパクトある読み方だっただろ? 好きなものは食べることだ。嫌いなことは食べれないこと。好きな言葉はもらう、いただく、恵んでもらう、いただきます、無銭飲食、拾い食い、棚からボタ餅。特技は早食い、趣味は食べること。夢は金持ちになって食いたい放題だ! ふっふふー」

 

 ニタつくマナにユヅルがずささささっと後ずさった。はじめが僅かに距離を置き、ハッカが溜息をつく。そんなマナの額宛てはやはり額宛てとして扱われず、ホルスターの上にまきつけられてある。

 

「あ、こいつ苺大福ね。赤丸の兄弟だってよ」

「わん!」

 

 ハッカはつい先日会ったばかりのツメの言葉を思い出した。ツメはマナに、紅丸という名の犬を贈ったといっていたが――苺大福とは。流石狐者異、思いつつ再び溜息をついて、ハッカは口を開いた。

 

「さて、まあ一通り自己紹介が終わったところで、二次試験の説明でもさせていただこうか――」

 

 +

 

「鈴取り合戦? ……なんだそれ。合戦つっても食べ物奪うんじゃないんならアタシやる気でねーぞ全く」

「いや、そんなことをしてしまったら百二十パーセントの確率でマナ、お前が勝ってしまう」

 

 移動した先は演習場だ。

 先ほどハッカが説明してくれた二次試験の内容は、アカデミーの卒業生を鈴取り合戦とやらで更に絞るという話だ。分身の術だけで卒業とは甘すぎると感じていたらしいはじめは納得し、ユヅルは顔を曇らせ、マナは奪うのが食べ物でなく鈴であるということに不満を抱きはじめる。

その試験の内容とは大体こんな感じだ。

音をならせないように綿をつめた鈴の入った三つの小箱に封印術を施して三人にわける。その中の箱で一つだけ、鈴が入っている。鈴なき者は鈴を奪い、鈴ある者は鈴を隠し、十二時までにその鈴を所有していた者を卒業させるということなのだ。

 

「では、この三つだ。いくぞ!」

 

 “朱”、“藍”、“翠”――そうかかれた小箱が手渡される。朱がユヅル、藍がマナ、翠がはじめだ。

 

「では、開始!」

 

 +

 

 小箱の中身を知ることが出来るのは自分だけ。言動などから他二人に鈴があるかどうか、自分にあるかどうかを見極めねばならない。つまりこれは頭脳戦。そして隠すにあたっては隠蔽術、奪うにあたって必要なのは戦闘力だ。この三つをテストするものなのだろう。

 封印術の解き方はハッカに教わっている。ハッカ曰く三つの小箱全ての術が違うそうだから、自分のは開けられても他人には開けられない。なんとか奪えて十二時にハッカに持っていけたとして箱が空なら意味はない。

 

「解」

 

 箱が開いた。中から転がり出てきたのは……ミント味の飴玉? つまり外れということか。それを握り、再び封印をかけてジャージを引っ張り、無い胸に額当てでなんとか縛り付けてみた。ここなら奴らも迂闊には触れまい。たとえまな板だとしても。

 

「苺大福、一文字はじめといとめユヅルの臭いを嗅ぎ出せ」

「わん!」

 

 すんすんと地面に鼻をつけて歩き出した紅丸の後を追いつつ、ワイヤーを張り巡らし、クナイを吊り下げ起爆札を貼り付けてトラップをつくりあげていく。

 

「わん」

 

 紅丸に促されて頭をあげると、十五メートルほど前にはじめがいた。紅丸を抱え上げ、木を蹴り飛ばしてその中へ突っ込む。

 

「よしっ、苺大福、ここら一帯にマーキングしとけ。ここがアタシのテリトリーだ」

「わんっ」

 

 言って、紅丸とは逆方向に走り出す。木肌を蹴ってワイヤーを木の枝に固定すると、更に細い釣り糸を片手にたった今きた道を帰っていく。マーキングをしている紅丸が目に入った。

 ワイヤーの直ぐ近く、ワイヤーを避けた敵が着地するであろう場所に釣り糸を引っ張っていき、二重トラップへと仕立て上げる。因みにこれらを習得したのはまだ教室を抜けるのが余り得意でなかったころで、これに閃光玉や煙り玉などを加えていた。いくつかの地点に括り付けてみる。よし、これで完璧。

 恐らく内二つの箱の中に、鈴のかわりにダミーとして飴が入っているはずだ。その内一つのが自分の。はじめが持っているのがなんなのかは分からない。

 飴玉を食べる。すうっとするようなミントの味が口の中で広がった。それと同時に頭もすうっと涼しくなっていくような気がする。

 はじめから五メートルばかり離れた場所に起爆札をしかけ、紅丸を抱いてそこを離れる。数秒とたたず、爆音。ちらりと振り返ると、木の枝を蹴って飛んでくるはじめが目に入った。

 

「っうわ」

 

 頬をクナイが掠める。はじめとは案外攻撃型なのだろうか。

 まあどちらにせよ、マナのテリトリー内でそんなものを迂闊に放ってしまえば――

 

「危ないことになるぜ、はじめ――っえ?」

 

 仕掛けた丸太がぶうん、と唸りをあげてこちらへ飛んできた。どうやらはじめにはちゃんと見えていたらしい。飛んできたいくつかの手裏剣がマナの傍を素通りしてワイヤーを切り飛ばしていく。閃光、煙幕、丸太、手裏剣、クナイ、爆発――一斉に起こる自らのトラップ攻撃に怯んだマナの背に衝撃が走った。はじめの蹴りが命中したのだ。紅丸を抱えて地面へ墜落するマナの首にクナイを当てて、その背を押してその体を地面に押し付ける。紅丸が怒りを顕にして唸ったが、はじめがクナイでマナの首を引き裂くのが怖いのだろう、噛み付こうとはしない。

 

「鈴を。持っているか?」

「……言うわけねーだろ、この女顔っ、! かはっ」

 

 女顔といった途端、はじめはマナの体を引き起こすなり再び地面に叩きつけた。飴玉が口から飛び出て地面に転がる。はじめのクナイがそれを叩き割った。見上げると、はじめは怒りと悲しみの混じったような顔をしている。

 ――あ、こいつこんな顔も出来んのか

 

「飴玉……鈴を持っているのはユヅルか」

「え? ――お前もミントの飴玉?」

 

 はじめは静かに頷いて、立ち上がる。懐から取り出した小箱の中から出てきたのは、やはりミント味の飴だった。

 

「――え?」

 

 前方から聞えた声に頭を上げると、ユヅルが呆然とした顔で突っ立っている。そんな彼が小箱の中から取り出したのも、ミント味の飴玉だった。

 

「……ハッカ先生――嘘、ついたのか」

 

 ユヅルは眉根に皺を寄せた。

 

「じゃあ――鈴は?」

「……若しかしたら、本当はハッカ先生のところにあるのかもしれないな。もしくは最初からないか。どちらにせよ――」

 

 そちらへ行く必要があるようだ。静かに言うはじめに、ユヅルとマナは無言で頷いた。

 

 +

 

「わん」

「おっ。苺大福がミント野郎を見つけたようだぜ」

「……ミント野郎?」

 

 ご丁寧に、六メートルほど向こうに分身があるが、それで紅丸の鼻は誤魔化せないし、マナの鼻も誤魔化せない。曰く、「あっちのミント野郎にはミント飴の匂いがしない!」だそうだ。

 

「流石に上忍ににそれはないだろう。……まあいい。作戦通り、いくぞ」

「了解!」

 

 クナイを取り出して、既に彼の付近に張り巡らしてあったワイヤーを切る。すぱっと小気味のよい音と共に、クナイが一斉に飛んだ。不規則な軌道でやってくるクナイを自らのクナイで弾いていくハッカ。それを弾くハッカの目は閉じられている。音でその軌道を読んでいたというのか。改めて驚かされるが、本番はここからだ。二本目のワイヤーを弾くようにして切る。手裏剣の束が飛んでいった。それを弾こうとハッカがクナイを構えるが――

 

「水遁・水車輪!」

 

 はじめの術にかかっていた手裏剣は一斉に反応を示し、水を纏い出だす。水を纏った手裏剣は急速に回転しだし、青白い光を放ちながら突進した。

 すっと目を開けたハッカは、飛び上がってそれを回避した。しかし十枚の手裏剣は彼を追って上へと飛び上がる。その手裏剣からは、ユヅルの指先から伸びるチャクラ糸があった。

 弾いても無駄だと判断したのだろうか。木の枝をもぎ取ってチャクラを纏わせ、水を纏った手裏剣の真ん中のその空洞にそれを挿し入れ、一気に十枚全てをからめとる。いまだ水をまとって回転するそれを、木の枝ごと引っ張った。糸につられたユヅルが宙に投げ出され、地を削る。その指先からチャクラ糸が離れた。

 

「そんなことが出来るとは予想外だったな。だが――」

 

 木の枝を振る。水を纏った手裏剣が術者であるはじめを襲った。慌てて術を解くも、手裏剣を避けきれず、いくつかが体を掠り、腕や脚に突き刺さる。ぐ、とはじめが呻いた。

 

「余所見してんじゃねーよっ、ミント野郎!」

 

 後ろすら見ずにマナの回転蹴りを片腕で止める。元々体術が得意なわけではないマナの蹴りはかなり軽い。

 

「ミント野郎とはなかなかナイスな綽名だな」

 

 嫌味か何かのように笑顔で言い放って、マナの足を掴み上げるなり五メートルほど向こうにぶっ飛ばした。怒った紅丸の突進をものともせず、まるでうるさい虫か何かを払うかのように手を一閃させて紅丸を叩き飛ばす。苺大福、とマナが叫んだ。

 

「……くっ、ぅ」

「大丈夫か? はじめ」

 

 足や腕に突き刺さった手裏剣を引っこ抜いていると、マナが両手を腰に当ててこちらを見下ろしていた。

 

「ああ……大差ない」

「嘘つけ」

 

 マナに引き起こされて立ち上がったはじめは、ミント野郎! という叫びに驚いて振り返った。自分の前にいるのはマナ。後ろでミント野郎と怒鳴っているのも、マナ。

 

「なっ!」

「うっわー、流石上忍、すっげークリソツ……」

 

 ユヅルの呟きが聞えるのと同時に、腕に痺れるような感覚が走った。見るとミント野郎――もといハッカが、チャクラで傷痕の治療をしてくれているのだった。

 

「すまんな、痛かっただろう?」

 

 変化の術であるマナがにたりと笑う。ユヅルとマナ、紅丸がそれぞれ違う方向からハッカに迫っていた。

 

「これでよし、と」

 

 風塵を巻き上げながら跳び上がるハッカ。ハッカを蹴り飛ばすはずだったマナの足ははじめを蹴り飛ばし、ハッカを捉える筈だったチャクラ糸ははじめを捉えた。そしてハッカに噛み付くはずだった紅丸は、はじめの腕に噛み付いた。

 

「……!」

「っうっわ、すまんな!」

「あうん!?」

「えっ、ご、ごめんっ」

 

 噛み付かれた腕は痛いが、我慢できるレベルだ。マナの蹴りにしても軽いからまだまだどうにかできる。はー、と溜息をついて呼吸を整える。激しくムカついたが、怒ったって何にもならない。マナの体術スキルがゼロだったのと、噛み付かれて血が出なかったのが救いだろう。傷口を確認し終えた彼はユヅルに向き直った。

 

「クリソツ、とはどういう意味だ」

「クリソツっていうのは……」

「クリソツの術って言うのは変化の術の異名だ。最先端の流行語なんだからちゃんと覚えろよ」

「……しょ、承知した。クリソツの術、か」

 

 説明しようとしたユヅルを遮り、マナは大真面目な顔で変な知識をはじめに注入した。冷静沈着で考えが読めない割には天然なところにつけこむのはやめた方がいいんじゃない、っていうかはじめも真顔で頷かないでよ、という突っ込みを溜息にして吐き出す。

 

「じゃー、最後の仕上げと行きますかっ行くぜはじめ、ユヅル、苺大福!」

「承知した!」

「任せて!」

「わんっ」

 

「じゃあ、行くぞ――食遁!」

 

 十二支の印のそのどれにも属さない、特殊で奇妙な印を結ぶ。はじめは水遁の印を結び、ユヅルは指先からチャクラ糸を迸らせた。

 

「水遁・水球(すいきゅう)!」

 

 はじめの両手のひらの間に生まれた水の球がゆらゆらと揺らめく。

 

「チャクラ弾の術!」

 

 マナの両目が見開かれて、蛇や猛禽類か何かのようなものへと変じる。口は大きく開いて、犬歯がずらりと覗いた。地面を蹴って跳ね上がった彼女は水の球をすっぽりと食べ、そしてそれからそれを吐き出した。

 吐き出された水の球が一直線にハッカを襲うも、そう簡単に倒されるハッカではない。地面を蹴って飛び上がったハッカは、不意に異変に気付いた。

 上空一帯がチャクラ糸で出来た網で覆われているのだ。

 

「なっ」

 

 ユヅルの指先から伸びるチャクラ糸が、上空でハッカを絡める。先ほどはマナとはじめの技に気を取られていて気付かなかったが――なるほど、上空へ避けるのは予想済みだったということか。

 

「水車輪の術!」

 

 水を纏った手裏剣が飛んで、ハッカのホルスターを切り落とした。ホルスターのファスナーも同時に切られ、中から忍具が飛び散る。

 その中でしゃりんと、鈴の音がした。 

 

 +

 

「合格だ」

 

 ハッカが手を叩いた。ゆったりと微笑みが口元に浮んでいる。

 

「大方は、箱の中身を見た後に三人でカマをかけあい、誰が持っているのか見当をつけて殴りあいをしていたが……いやはや、貴様らが例え“偶然”であるとはいえ仲間を信じて私へ向かってくるとは感動だ。一つだけ言わせて貰おう」

 

 偶然? ――え、この人知ってたの?

 ぽかんとするマナ達を見据えて、ハッカが言った。

 

「お前たち三人は少し判断を早まったな」

「「「え?」」」

「普通、狐者異の人間が食べ物を持っていたら、それは自分のか、拾ったものか、盗んだものかだ。それが小箱から出てきたと判断するにはまだ証拠が足りなさ過ぎたと思うぞ。まあそれが結果的にはお前たちを成功へと導いたわけだがな」

 

 私も修行が足りないな、とはじめが溜息をつき、だよねーとユヅルが同調した。なるほど確かにその可能性がないわけではない。盗まれたと言われてマナは少しばかりムッとした顔で「巧妙な手口で手にしたって言ってくださいっす」と抗議する。

 

「では、明日から各々の家に向かうぞ。下忍になると何かと危険が付きまとう。それを覚悟してもらった上でサインしてもらわないといけない書類があるのでな」

 

 

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