やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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ええ、相川さんヒロイン回です。


それでも、比企谷八幡と相川清香は間違いながらも確実に近づく。

「力」

 

振るうもの。振るわれぬように注意が必要。

 

──────

 

画面の向こうの現状が私には理解しきれなかった。跪き、動かなくなったISが突如として眩い光を放ち始め、その容貌を変化させてゆく。

多分、あの光は一次移行のものだろう。だが、一次移行にしては機体のデザインや武装、そして纏わりつく空気があまりにも変わり過ぎていた。

 

黒漆に塗り潰された厚い装甲。しかし、黒色は艶消しされたかのように光沢を失い、上品な印象を持たせる。

重量感の増した脚部。左右非対称で、ゴツゴツと無骨な見た目を残しつつ、一部が流線型を描いていた。

安定した腰部。細過ぎず、太過ぎず、胴と腰を繋いでいる。

大きさをそのまま、更に尖鋭的になった胸部。一部が四角く変形し、流れるようなデザインは更に攻撃的なものに変化していた。

コードが繋がれた肩部。小さく機能的に纏められており、動きを阻害しないようにうまく作られている。

五角形の何かが取り付けられた左腕。まるでそれは花のようで、中心が白く、橋が青色に塗られている。

砲口のないカノンが取り付けられた右腕。見るからに、この機体のメインウェポンだ。

そして、胸部と完全に接合した機能的とはいえないデザインの頭部。その蒼いラインアイ───正確にはラインアイではなく複眼であり、それぞれが光っているのでそう見えるだけなのだが───それは、獲物を狩る直前の猛獣のように鋭く、淡く蒼い閃光を放っていた。

 

背部に浮く折れた翼のような非固定部位が痛みにもがき苦しむように動き始め、蒼炎を吹き出し、撒き散らす。

 

「な、なんですか‥‥‥あれは‥‥‥」

「あれが【源氏物語】が選び出した、比企谷くんの本質だよ」

 

ニヤニヤ、いや、ニタニタと笑う社長が、自慢気に解説を始める。

 

「あの子───正確にはあの子達、かな?まあ、あの子でいっか。あの子には全ての設計図のデータが含まれているって言ったっけ?まあいいや。だから、一次移行の時はその全データ内から比企谷くんに合ったものを組み合わせてできているんだよー。だからね、あの姿は比企谷くんを表してるってわけ」

「比企谷の本質‥‥‥‥」

 

もしこの胡散臭い、食えない社長の言う事が本当なら、比企谷の精神はどうなっているのか。この分厚い装甲こそが、比企谷の本当の姿だというのか?あの飢えた獣のような姿が、本当に私の知っている比企谷の姿なのか?もし仮にそうなのだとしたら───

 

比企谷、お前は‥‥‥お前は一体───

 

「でも僕もびっくりだよ。こんなピーキーな機体に仕上がるなんてねー」

 

その粘着質な声によって、私は現実に引き戻される。無意識のうちにこめかみを抑え、下唇を噛んでしまう。

 

「‥‥‥‥あ、そろそろ次の仕事があるから帰るねー」

「‥‥‥さっきの言葉、どういう意味ですか?」

 

踵を返した社長に問う。

あのコアが比企谷にしか反応しない。それはコアの選り好みレベルの問題ではなく、極めて例外的な事案となり得る。ここで聞かず、どこで聞くというのか。

 

「そのままの意味だよ。こっちとしてもよく分かってないからね。ま、比企谷くんに賭けてみて正解だったよ。あの機体は───やっばりなんでもないや。じゃあねー」

 

振り返らずに意味深な言葉を残し、社長は管制室を立ち去って行った。

私は一人取り残されこれからの事を思い、ふぅ、と溜息を吐くのであった。

 

───2───

 

視界に映る全てがとても色鮮やかだ。それぞれが煌き、己の存在を自己主張している。

手足の先まで鋭い、しゃんとした感覚がある。まるで空気に触れているようだ。

 

今までとはまるで違う、世界全体が俺と繋がったような、支配してしまったかのような感覚。

 

このIS───【浮舟】が、まるで自分自身になったかのような気分だ。不安や心配は全部吹き飛び、今は安心感と、妙な高揚感だけか俺の中を渦巻いている。

 

‥‥‥いける。

俺は上を見上げ、こちらにレーザーライフルを向けている少女を注視する。豆鉄砲を食らったという表現が正しい。まさに“今私驚いています”という顔をしていた。

 

「現在所有する全システムのロック解除を確認。【藤壷】、起動します」

 

右腕を侵食する程の大きさのカノン。その砲後部ジェネレータから蒼い光が漏れ出し、冷却装置がカパカパと動き始める。

 

「【藤壷】の起動を確認。続いて【若紫】、起動します」

 

背部の折翼型のユニットがガバッと動き始め、展開。八つのブースターが点火し、蒼く燃え盛る翼を取り戻す。

 

「【若紫】の起動を確認。続いて【六条】の起動、確認。【朝顔】の起動、確認。【葵】の起動、確認。全兵装の起動を確認しました。【浮舟】、システムを機動戦闘モードに移行」

 

今頭の中に流れてきた情報によると、【浮舟】は飛べない。宇宙用に作られた筈のISの中では異質な存在であるし、飛べないとなればそれ相応に不利だ。

だが、こいつにはそれをカバーしうるほどの機体性能を持ち合わせているのだ。

 

「待たせて悪いな、続きをしようか。セシリア・オルコット」

「最初はどうなるかと思いましたが‥‥望むところですわ!」

 

先手必勝という言葉を知っているのか、彼女の持つレーザーライフルから光が放たれる。

同時に燃え盛る翼が大きく煌き、爆風を巻き起こしながら高速で回避する。その勢いのまま回転し、ブレーキをかける。

 

「は、早い!?」

 

【浮舟】は“空”を完全に捨てた代わりに、地上での移動速度がダンチだ。防御力も高く、単純な機体性能だったらどのISにも負けないだろう。動けるデブ‥‥デブではないか。つまりそういうことだ。

 

「1st code:Assault rifle!」

 

砲口に見えたカノンの先端が光を放ち、二対のレールが姿を見せる。右腕を上げ、レールから幾つもの青白い光を射出する。が、これは完全に腕の差で、全く当たらない。俺が弱いのもあるが、華麗に避けている。流石は代表候補生だ。

 

「そんな動きではっ!」

 

彼女の呼び声で二つに減ったビットが宙を舞い始め、合計三方向からの集中砲火を食らう。身体を逸らすも光が掠め、装甲が軽く焦げ、漆のような黒の中に別の黒が混じり込む。

追撃を加えようとレーザーライフルを構え直す彼女に向け、俺は声を振り絞って大きく叫ぶ。

 

「【朝顔】!」

 

いつも大きな声を出さないからか、喉がピリピリとする。

左腕に取り付けられた正五角形の一角一角が展開し、エネルギーシールドを生み出す。薙ぐ風にして腕を振り、レーザーを防ぎ、そして弾く。

 

「なっ!ブルー・ティアーズが!?」

 

光と鏡の関係のように、いとも簡単にレーザーが弾き飛ぶ。弾き飛んだそれはビットに直撃し、黒い煙を立てて撃沈する。残り一つとなったビットは退散し、アリーナの空を支配し続ける彼女の元へと戻る。

 

「2nd code:Sniper rifle!」

 

レールが青い粒子となり、霧散する。それに代わり長いレールが四本出現し、カノンに接続される。地面に接しそうな程に長いそれを構え直し、指を引く。

 

「trigger」

 

細い閃光が空を駆ける。淡い青が美しい直線を描く。

 

「くうっ!」

 

辛うじて避けられる。このスナイパーライフルはアサルトライフルに比べて威力が高く、弾速も早い。だが次弾装填が遅く、銃身が大きいので使いにくい。個人的には連写の効くアサルトライフルの方が調子いい。

俺は不敵に笑う。今なら負ける気がしない。勝利の道筋が確実に見える。

 

───さあ、仕上げだ。

 

「Final code:【桐壺】!」

「【桐壺】、スタンバイ開始。全特殊補助兵装を展開します」

 

その名を叫ぶと、砲身だけでは飽き足らず、右腕全体が目を覆いたくなる程の輝きを放つ。

 

「全システム統制を【浮舟】より【桐壺】に委託。システムを掃撃モードに移行します」

 

スナイパーの三倍はある巨大な砲身が、その姿を顕現させる。大量のコードが他パーツと接続し、右肩まですっぽりと覆い込む。両足裏のパイルドライバが地面へと突き刺さり、ジェネレータがガタガタと震え出す。

体制を保つように腰部から支脚が展開され、完全な射撃体制に入る。

 

「全エネルギーラインを直結。供給を開始」

 

ジェネレータより供給される過負荷なエネルギーがコードより漏れ始め、ノイズのように蒼い稲妻を発生させ、右半身を包み込む。それは視界にまで侵食している。

 

「ジェネレータの超過駆動を確認」

 

冷却装置が真っ赤に染まり、それを覆っていたカバーが吹き飛ばされる。

 

「ライフリング、回転開始」

 

とうとう砲口から光が溢れ始める。今か今かと待ちわびるように、光はどんどんと強くなってゆく。

 

「シークエンスを完了。発射可能です」

 

自身が砲台になったつもりで、右腕を空に向け掲げる。砲身が少女を捉え、圧縮した光が機体を包み込む。

 

「trigger!」

 

コールと共に、圧倒的な破壊が宿る“蒼”が放たれる。空が割れ、アリーナのシールドが紙屑のように吹き飛ぶ。空気が焼け、熱気がアリーナ内を包む。

空を引き裂いていた光はゆっくりと収束し、消える。

 

これぞこの【桐壺】の真髄。直線上の全てを消し去る、超長距離掃撃砲。

IS相手なら確実に絶対防御を発動させ、全エネルギーでは足りずに装甲までもを引き裂いてしまう一撃必殺の武装。

 

だが、この武装には致命的な弱点がある。

 

「危なかった‥‥‥ですわ」

「外れちゃったのかよ‥‥‥‥」

 

打った後、暫く動けないのだ。一分くらい。

 

‥‥‥‥あっ(察し)。

 

───3───

 

みんなの予想通り負けちまったよ小町。諦めたらそこで試合終了だけど諦めないで頑張っても終了しちゃいました、てへっ☆

あの金髪クロワッサンに無双され、ボロボロになったISを引き摺りおうち‥‥‥じゃなくて寮に帰ろうとしている俺の前に、鬼教官が立ちはだかった。

 

今からラスボス戦だそうです。SAN値ゴリゴリ減るわ。

 

「比企谷、あの最後に使ったやつは禁止だ」

「マジっすか?」

「危険過ぎる。理由は以上だ」

 

「お疲れ」とか「頑張ったな」とか、そういう労いの言葉はありませんでした。べっ別に、期待なんてしてないんだからね!

それにしても切り札を奪うなんてそりゃないぜ先生!まあ、あんなバカみたいな兵器は使わんけどな。使う機会もないだろうし。

 

「今回の戦い、余り評価されるものではない」

「‥‥‥‥‥」

 

全身を上から下まで見た後に、はっきりとした声で告げる。

そんなことは知っている。

他人の弱みに付け込むのは、教師の立場からすれば“正々堂々”とは言えないだろう。

 

「だが‥‥‥な、」

「?」

 

織斑先生は語気を強める。その目は力強く俺を捉える。

 

「‥‥‥その努力は認めてやろう。精進しろよ、比企谷」

「‥‥‥うっす」

 

俺の肩を叩き、織斑先生はアリーナ内にに消えて行った。

俺は頬を掻き、少しだけ俯く。

褒められる事自体、悪い気分はしない。ただ、それに裏があるのではないかと疑ってしまうだけだ。

今、言葉の真意を見極めている俺の肩を、また別の人が叩く。

 

「比企谷くんお疲れ!」

「お、おう。相‥‥‥まあいいや」

「相川だって!覚えてよー!」

 

ぷっぷくぷーっと頬を膨らませる。わー、あざといなぁ(棒)。

 

「あのでっかいの凄かったね!SF映画かと思ったよ!」

「俺もそう思ったよ。ははっ、ワロス」

 

手をパタパタと動かす相なんとかさん。

あー、あるあr‥‥‥ねーよ。実際打つと反動だけで死ねるから。パイルドライバー地面に打ち込んでるのに反動がヤバい。捨て身タックルとか比じゃない。がんじょう欲しいのおおおお!!

 

 

「その、この前は変なこと言ってごめんね?」

「いや‥‥‥別に気にすんな。大して気にしてない」

「えー?それって酷くない?」

 

これは本音だ。素直に、口から言葉が飛び出す。

‥‥‥少し照れ臭いが、言わなければ。

 

「‥‥‥相川」

「なに?」

「その、応援‥‥あ、ありがとな」

「いえいえー、どういたしまして」

 

相川は笑ってみせる。なんだか、緊張していた自分が馬鹿みたいだ。

 

すると、相川はごくんと唾を飲んで、今度は相手が緊張した顔でこちらを見上げてくる。

 

「‥‥‥ねえ、比企谷くん」

「お、おう?」

 

突然声色が真面目なものに変わる。夏にしては涼しげな風が、俺達を包み込む。

 

「私と、友達になってくれないかな?」

 

息が詰まる。今の一言は色々な意味で唐突すぎた。風が止んで、梅雨明けのジメジメとした不快感が込み上げてくる。もやもやとしたものが浮き出てきて、俺自身の何かを拒もうとする。

 

一度大きく深呼吸し、きっぱりと告げる。

 

「悪い、俺とお前の関係はそういうものじゃない」

「‥‥‥‥‥」

 

そう、俺とこいつはただのルームメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。それは、最初から変わらないのだ。残酷かもしれないが、それが事実なのだ。

 

「‥‥‥そっか」

 

彼女は小さく呟く。少しだけ陰が差したかと思えば、またいつもの顔に戻る。

 

「‥‥‥ならそれでもいいや。多分、比企谷くんの言ってる“友達”と私の“友達”は違うし。今はルームメイトで我慢してあげる」

 

裏のない屈託の笑顔に、思わず俺はたじろいでしまう。

そのまま彼女は、動揺する俺を置いて先に走って行ってしまう。石畳の音が軽快に鳴り響く。

 

「でも───」

 

そして、その場で立ち止まる。両手を後ろに隠して、こちらを覗き込むように見つめてくる。

 

「───いつかは、ね?」

 

夕日に照らされた彼女の顔は、どこか赤かった気がした。

俺も、不思議と悪い気はしなかった。

 

「夕日が綺麗だな」と、久しぶりに、素直に思えた気がした。

 




そういえば、そろそろ閑話の募集は終了してもいいのでしょうか?

次話もよろしくお願いします。

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