やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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やはり、こんなエンカウント率の高い買い物は間違っている。続

「人生の前半は親に台無しにされ、後半は子によって台無しにされる」

 

──────

 

そんなこんなでペットショップ。八幡は、由比ヶ浜へのプレゼントを買っていたのであった!

いや、隣に雪ノ下がいないのは別に置いてきた訳じゃないんですよ。別行動しようぜ!俺ペットショップな!って言っただけ。あれ、俺スタンド使い?氷とか吐いちゃうの?

 

グッズコーナーを抜けると、雪ノ下ゲージの、猫の前でしゃがんで意思疎通しているかのように見つめ合っている。

 

「にゃー‥‥‥」

 

うわぁ、猫に話しかけてるよこの子。猫好きなの?ちょっと可愛いと思ってしまった不覚!これがギャップ萌えってやつですね。

てか話しかけらんねえ。ちょっとグッズコーナーまで戻りますわ。

 

一旦グッズコーナーに戻り、大きな足音を立てながら近づくと、ひょこっと立ち上がり、そのブリザードな表情をこちらに向ける。周りから見たらすげえ滑稽なんだろうな。側から見たらグッズコーナーを徘徊する不審者だし。

 

「悪い、待たせた」

「あら、思ったより早かったのね」

 

会話が成り立ってねえ。会話仕事しろ。

 

「で、何を買ったの?まあさっき言ってたような気もするけど」

「まあそんなもんだ。お前の考えてる通りだと思うぞ」

「そう‥‥‥」

 

その返事は短かったが、顔はどこか満足気だった。正解したことが嬉しいのか?

 

「けれど、以外ね。あなたが由比ヶ浜さんのプレゼントを買うなんて」

「別に‥‥‥そういう気分なだけだ」

 

まあ、俺も由比ヶ浜との関係を清算しときたいと思っているしな。あの学校にはもう行く機会はほとんどないけど、それでも俺は清算しておくべきだ。二人のために、雪ノ下のために。

 

「用も済ませたし、帰るか」

「そうね」

 

出口に向かう途中、複数人向けのゲームコーナーがあった。メダルゲームからレーシングゲーム、プリクラ。なんともぼっちに優しくない設備だ。

一瞥をやり、そのまま進もうとすると、雪ノ下がその場て立ち止まる。まさか興味があるのか?

 

「なんかやりたいものでもあるのか?」

「いえ、ピコピコするゲームに興味がないわ」

 

じゃあ何に興味があるんだ‥‥‥それとピコピコってなんだよ。俺の母さんでもファミコンって言うぞ。

そう言う雪ノ下の視線は、一台のクレーンゲームに釘付けである。中にはパンダのパンさん。まあ釘付けになる理由もわからんでもない。ちょっと不気味だしな。

 

「‥‥‥やってみるか?」

「結構よ、別にゲームがしたいわけじゃないもの(ただあのぬいぐるみが欲しいだけだもの)」

 

そう言っていても、雪ノ下の視線が逸らされることはなかった。

はいはいツンデレツンデレ。いや、ツンデレとは違うな。じゃあ何デレなんだ?そもそもデレていない気がする。

そろそろデレって言葉がゲシュタルト崩壊してくるからやめよう。

 

「まぁ、欲しいならやればいいんじゃないか?取れないと思うけど」

「あら、比企谷くんの分際で挑戦的ね?私を見くびってるのかしら?」

 

なんか入れてはいけないスイッチを入れてしまった気がする。冷気を放出するのはやめてくれ。涼しいを通り越して凍る。エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ。

 

「いや、別に‥‥あぁ‥‥‥‥」

 

すでに投入口の横には百円玉が積んであった。全部吸われるのにな。こういうのって買った方が早いのに。ソースは小町。大金を溶かしている姿は痛々しいものがあったよ‥‥‥

 

「‥‥‥‥」

 

気迫だけで人を殺せるんじゃねえのこの子。そもそも操作方法はわかるのか?

 

「右のボタンで左に移動して、左のボタンで前方な。押してる間は動き続けるぞ」

「そ、そう。あ、ありがとう」

 

わぁ、素直だぁ。明日は雪かな?いや、ヤドクガエル‥‥ジョジョネタはもういいですか。そうですか。救いがたい変t‥‥‥この場合は救いがたい何さんになるんだ?

 

「くぅ‥‥‥」

 

クレーンゲームにここまで本気になれる人間って初めて見たわ。あと失敗するたびに「ふええ〜」って鳴るあの音やめようぜ。俺の中でクレーンゲーム=幼女の方程式が成立しそう。そもそも方程式ってなんだ?これ等式じゃね?

 

「や、やっ‥‥‥‥」

 

アームがガッチリとパンさんを掴む。ゆっくりと上昇して、そのまま穴(意味深)に向かって───

 

「くっ‥‥‥今のは絶対掴んでいたわ‥‥‥アームが弱いのね‥‥‥」

 

はい、無理でした。まあ仕方ないよね、初心者だし。俺もよく小町にねだられました。主にお金を。

まあ、俺だったらとれん事もないけど。

 

「まあ、俺だったらとれん事もないけど」

「‥‥‥言うじゃない?」

「ファッ!?今なんか言ってたか?」

「ええ、「まあ、俺だったらとれん事もないけど」って、ね?」

 

真空チルドばりに冷気的なあれを出すのやめて下さい腐った目の鮮度が保存されてしまいます。

心の声が出てたのか?それとも心を読まれたのか?どっちにしろ雪ノ下怖い。

(心の中の)小町が俺にもっと輝けと囁いている(財布的な意味で)。もうやるしかねえ!

ええい、ままよ!

百円を投入し、軽快な音楽と共にクレーンゲームにを始める。

こういうのは正攻法じゃ取れねえんだよ。アームで押すのが定石だってばっちゃが言ってた!

 

「ふっ‥‥‥掴めてすらいないじゃない」

「くうっ!」

 

全然動かねえ、漬物の重石かよ。こういうのって少し揺れて期待だけさせてくれるものじゃん?優しさが足りねえ。

 

「くそっ、もう一回だ」

「ふふっ、無理よ」

 

こいつは何者だよ、RPGのラスボスかよ。なんで取ろうとしてるのに無理とかいうの?扱いが辛辣すぎるよ‥‥‥仕方ねえ、次の作戦だ。

 

ミッションを説明しましょう。

依頼主は雪ノ下雪乃。目的はゲームセンター内の景品、「パンダのパンさん」の奪取となります。

敵の主戦力はアームの弱体化です。

そちらの実力次第ですが、まあ、比企谷八幡が手こずる相手ではないでしょう。

また、目標には景品のタグが繋がれています。

説明は以上です。

雪ノ下雪乃との繋がり(笑)を強化するいい機会です。

そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?

 

うわぁ、オーメル仲介人腹立つわ。ミッション即破棄したくなるもん。でも仕事はしっかりしてるんだよな‥‥‥

 

台に手をかける。

慎重にボタンを操作し、タグに引っ掛ける。そのまま持ち上げて───

 

「わけがわからないよ」

「‥‥‥‥そこまでのようね」

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

最後の手段、行くZE!俺はおもむろに右手を堂々と掲げる。◯◯さんを中心に、体操の体形に、ならえ!ってやつ。指先までピンってしないと怒られるよな。

 

「すみませーん、店員さーん、これ欲しいんすけど‥‥‥」

「はーい、こちらのパンダのパンさんでよろしいですか?行きますよー!」

 

クレーンゲームがふええ〜と泣き、ごとっとパンさんが落ちる。

 

「はい、どーぞ」

「あ、どーも」

 

爽やかな笑みとともに、ゲームセンターのお姉さんが景品を渡してくれる。これぞ、最近ありがちな「代わりにとってくれるサービス」である。お金の代わりにプライドを支払う必要があるけど。

そして俺にこの秘儀を使わせた雪ノ下は、不機嫌な、ドン引きした表情でこちらを見ている。

 

「比企谷くん。生きてて恥ずかしくないの?」

「ばっ‥‥失礼だな。生きてるってのは尊いんだよ。命を大事にしない奴なんて大嫌いだ、死ねばいいと思う」

「言ってる事が矛盾してるのだけれど‥‥‥」

 

髪を掻き上げ、ため息を吐かれる。ため息の数だけ幸せが逃げるぞ。涙の数だけ強くなるという話も聞いたことがあるな。

 

「たまには真面目に取るのかと思ったのだけれど‥‥‥‥」

「はいはい、ほらよ」

 

パンさんを渡そうとすると、雪ノ下は複雑な表情を浮かばせる。

 

「それはあなたのとったものよ。それは受け取れないわ」

 

真面目‥‥‥というより偏屈だな。ただの偏屈。雪ノ下って頑固だよな。

 

「いや、これはお前の金で取ったものだ、よってお前のものだ」

「そ、そう。なら仕方ないわね‥‥」

 

偏屈なら負けない。小町に言ったらゴミ扱いされそう。ゴミいちゃんはともかく、たまにゴミって言ってくるからな。「いちゃん」付けろよ。「いちゃん」をよ。

渋々受け取った雪ノ下は、何故かモジモジし始める。モジモジ系女子ってのはこの先生きのこれるかもしれない。でも俺にはトイレに行きたいようにしか見えない。

 

「こんなのが好きなんて‥‥おかしいかしら‥‥‥‥」

「おかしくなんざねえよ。好きなものは人それぞれだしな」

 

僕はプリキュア!二人はプリキュアとか二人じゃねえじゃん、映画版許さねえ。マックスハートしてんじゃねえ。

そして、雪ノ下は更にモジモジし始める。マジでトイレ行きたいんじゃないのかこいつ。それとも照れているのか。いや、ないな。そんな事言ったらどんな罵倒が飛んでくるかわからん。

 

「その‥‥‥」

「ん?」

「あ、ありが「あ、雪乃ちゃ〜ん!!」

 

無遠慮な軽い声が雪ノ下の声を遮る。

一瞬にして、雪ノ下の顔が苦虫を噛み潰したかのようなものへと変わる。肩を強張らせ、醸し出す空気は刺々しい攻撃的なものになる。

 

「やっぱり雪乃ちゃんだー!あ!デート?デートだな!このっ!」

「姉さん、やめてもらえるかしら」

「は?姉さん?は?」

 

目の前で雪ノ下を肘でうりうりとつつく女性は、とんでもなく美人だった。艶やかな黒髪、透き通るような肌。整った顔立ち。その露出の多い服装からは想像もできないような気品を漂わせていた。

言われてみれば、パーツは雪ノ下に似ている。あの無愛想な表情がコロコロと変わるようになればこうなるのだろうか。

だが、それは雪ノ下とは全く違う人種だった。あいつはここまで友好的な人間じゃないし、胸‥‥‥胸はいいとして、その雰囲気は百八十度違うものだった。

だが、それだけではない。この違和感は、それだけで説明のつくものではないのだ。

 

「ねぇねぇ、あれ雪乃ちゃんの彼氏?彼氏なんでしょー!」

「‥‥‥同級生よ」

「もー、照れちゃってぇー!あ、初めまして、雪乃のお姉ちゃんの雪ノ下陽乃でーす。太陽の陽に、雪乃ちゃんの乃でーす!」

「はぁ、えっと俺は───」

 

一瞬本名を言いかけたが、慌てて踏み止まる。ここで本名を晒していいのか?自慢じゃないが、俺の名前は世界的に有名だ。勿論、顔写真はお国の力で現在非公開となっているが。

ここで本名を晒せば、どうなるか?相手は雪ノ下の姉。雪ノ下の親は、どっかの議員をやっていると聞いた事がある。

それを考慮して考えるとする。雪ノ下の姉が俺の名前を知り、親に伝えたらどうなるか。下手を打てば上手く利用されかねない。雪ノ下にさえ被害が及ぶ可能性がある。

それに、この違和感。リア充特有のコミュ力とかそういうものじゃない。隙を見せれば、奈落の底に引き込まれてしまうような。蠱惑的な、ドス黒い何か。

 

「田中です」

「‥‥‥‥‥」

「あ、あなた「ふーん。そっかそっか〜!」

 

名字もっと他になかったのかよ。

そのニコニコとした表情が陰る。それも一瞬の事で、また先程のニコニコ顏に戻る。俺の耳元に潤った艶やかな唇を近づけ、甘く優しく囁く。

 

「じゃあ、雪乃ちゃんをよろしくね‥‥比企谷くん♪」

「っ!?」

 

刹那、背中を撫で回すような寒気を全身に覚える。

今思う。俺は純粋にこの人が怖い。不確定要素が多すぎる。この人は、雪ノ下陽乃は、害となり得る存在だ。

 

「あー、雪乃ちゃんパンダのパンさん持ってるー!私これ好きなんだよねー!」

 

コロコロとその表情を変え、元のニコニコスマイルでパンダのパンさんに手を伸ばす。だが、

 

「触らないで」

 

空気さえも凍らせるような、拒絶の声。それは由比ヶ浜のそれに似ていて、その二人の間には大きな溝があるように思えた。

その反応が予想外だったのか、雪ノ下姉はその笑顔を凍りつかせる。

 

「ご、ごめんね雪乃ちゃん、お姉ちゃんちょっと無神経だったね」

「いや、彼氏じゃないんで」

「き、君もムキになるのはよくないぞ〜?」

「あーそうっすね。雪ノ下、行くぞ」

「え、ええ。そうね。じゃあ、姉さん、さようなら」

 

一刻も早くあの場を立ち去りたかった。だが、最後に雪ノ下姉、通称魔王は爆弾を投下する。

 

「お母さん、一人暮らしのことまだ怒ってるんだよ。その辺のこと、忘れないでよー?」

 

雪ノ下が「お母さん」という単語に大きく反応し、強張る。

 

「とっとと行くぞ」

 

その弱々しい手を引き、俺はその場から立ち去った。魔王が追いかけてくることはなく、安堵の息を吐く。

 

「は、放してちょうだい」

「あ、悪い」

 

「比企谷くんに手を握られるなんて屈辱だわ」とか言われるかと身構えていたが、そんな余裕もないらしい。

数秒の気まずい沈黙が場を支配する。それを振り切るように、罪を白状するように、雪ノ下は語り出す。

 

「あれが私の姉さんよ。容姿端麗、成績優秀、文武両道、多芸多才‥‥‥そして温厚篤実。あそこまで完璧な存在もいないでしょう。誰もがあの人を褒めそやすわ‥‥‥」

「はぁ?自慢乙。それブーメランだから」

 

雪ノ下がポカーンとした顔をする。ネットスラングは難しかったか。

 

「ブーメランってのは自分に返ってくるって意味のネットスラングだ」

「そ、それくらいは知っているわ。で、でも‥‥‥‥」

 

知ってるのかよ。なら反応おかしいだろ。

 

「なら分かるだろ。俺から見ればお前がそう見えるってことだ。温厚篤実ではないけどな」

 

表面上の話だ。一見、雪ノ下陽乃はいつもニコニコしていて、楽しそうに見える。だが、先程の表情、声色を見るに、それは完全に偽物だ。いくら繕おうと、華やかに見せようと、“偽物”には意味がない。それは幻想ですらない、醜い嘘以外の何者でもない。

 

「お前の姉のそれはなんつーか、追加装甲?ISを装備してるみたいな‥‥‥強化外骨格ってやつだな。あんな偽物の笑顔なんざ誰得だよ」

「‥‥腐った目でも見通せることがあるのね‥‥」

 

大丈夫!雪ノ下の真空チルドなら鮮度も抜群!

いや、すでに腐ってるけどね?腐りかけのレディオとか替え歌作っちゃうレベル。だからすでに腐っているとあれほど(ry

 

「ほら、俺の目って空気清浄機のフィルターみたいになってるから嘘は通らねえんだよ」

「だから腐っているのね、納得だわ」

 

だれが‥‥‥だれが上手い事言えと!?新品のフィルターって可能性だってあるじゃないですか!

 

そろそろご帰宅の時間なのか、雪ノ下は時計をチラリと確認する。

 

「‥‥そろそろ帰るわ」

「おう」

 

出口に向かって、雪ノ下が歩き出す。

そして、振り返らずに言葉を紡ぐ。

 

「でも、その、今日は楽しかったわ」

「‥‥‥は?」

 

今度はこっちがポカーンとしてしまった。雪ノ下が「楽しかった」なんて言うのか?耳がイかれたのか?

 

「ありがとう、また、明日ね」

 

それは聞き違いなんかじゃなかった。

 

別れの言葉は深く俺の耳元に響き、染み込んだ。

 


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