やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。りていく!   作:AIthe

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リメイクはこれで最後です。


そして、比企谷八幡は再び引き金に指を掛ける。

「誰かがやるはずだった。私はその誰かになりたかった」

 

──────

 

夢を見た。昔の夢を。

俺が小学生‥‥小学何年生だっただろうか。その時は小町も小学生だったはずなので、最低でも小三だ。俺も幼かったのでその位の時期だったと思う。

あの日は確か、IS博覧会を見に行った。日本に世界各地のISが展示されると聞いて、家族総出で出かけたのだ。

よく覚えていないが、子供だった俺は無邪気な気持ちでISを見て、キャッキャと喜んでいたと両親が言っていた。小町もまた然りだ。

 

そして、最後に日本のコーナーに入った。やはり日本が主催しただけあって、コーナーは他コーナーの数倍の広さがあった。映像に残っていた白騎士を元にして作られたレプリカ人形や、日本の第一世代型ISが並べられ、他のコーナーとは格別の待遇だった。

 

その中に、一つのISを見つけた。それは日本の作った最新機だったそうだ。

俺は両親と離れ、何故か吸い寄せられるようにそれに近づいて、ペタペタと触ってみた。

 

すると、

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?」

 

声が聞こえた気がした。最初は空耳だと思ったのだが、確かに聞こえた気がしたのだ。

夢の中の俺は‥‥‥夢だからなのだろう。その声に当たり前のように応答をした。

 

「◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎。◼︎◼︎◼︎◼︎───」

 

法廷にて判決を告げる裁判のように、その声は断言する。

 

「───◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?」

 

子供には残酷な、答えの出しようがない問いがぶつけられる。

 

が、夢の中の幼い俺はその真意を汲み取ることもなく、単純な答えを導き出す。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎‥‥◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」

 

声が「◼︎◼︎◼︎」と小さく返事をする。

すると、小さな手に針で刺されたような痛みが走る。幼く、丸みのある指先からは血が出ていた。

 

もう、声は聞こえなくなっていた。

 

その後も、他のISをペタペタと触っていたのを警備員に見られてしまい、カンカンに怒られてしまった。

 

あれが夢の中で作られた架空の話なのか、現実だったのか、よく覚えていない。

まあ、そんな事は現実に起こる訳がない。おそらく前者であろう。

 

 

それでも、それが大事な記憶だった事は、今でも覚えている。

 

───2───

 

様々な色を重ねる世界。色で塗り潰され、真っ黒に染まった世界。

初めて見たはずなのに既視感を覚えてしまう。が、俺はこの景色に恐怖してしまう。

 

「ようこそ、僕の世界へ」

 

その声は全てを司っていた。

男、女、子供、大人、赤子、老人、罪人、聖人、愚者、賢人───そのどれにも該当し得るが、決して該当する事のない、全てを孕む声。

 

「いやぁ、大変だ。脇腹をブスッとやられちゃったね」

 

喜怒哀楽の全てを含む声。それは人間のものではないはずなのに、なによりも人間らしかった。

 

「君はまた守ろうとした。その手で誰かを」

 

声の主がクスクスと笑う。俺は守ろうとなんてしていない。ただ、やるべき事をやっただけだ。

 

「君も、あの子も、理由がないと動けない。感情での行動に理由をつけようとする。まさに欠陥品だよ。まあ、そこがいいところなんだけどね?」

 

女性のように高いが、落ち着いた声。聞き覚えのある声。

 

「でも、自分が傷つくんじゃ、本当に守りたいものなんて守れないんだよ?だってその人は、君の事が大事なんだからさ?」

 

分からない。分からない。俺に守りたいものなんてないはずなんだ。

人間は本質的に常に一人だ。守りたいもの、犠牲になるものなんて存在しない。誰かが誰かの為に犠牲になるなどあり得ない。ましてや俺が、他人の為に犠牲を払う事などあってはならない。そんな俺は存在しちゃいけない。

 

「君の願いは叶わない。自分を壊してまで、守るべきものなど存在する訳がないんだから」

 

声の主がニタニタと笑う。張り付くような、粘り気のある笑い方。だが、そこには悪意の欠片もない。

 

「それでも、僕は君を応援しているよ。誰よりも純粋で、本物を求めて、誰よりも優しい。不器用な君が、僕は大好きだ」

 

意識が遠ざかってゆく。

 

「だから頑張ってね。僕はずっと、君の味方だよ?」

 

最後に、その声の“顔”少しだけ見えた。

それは少女。幼い蒼目の少女の顔をしていた。が───

 

───それはとっても、俺に似た瞳をしていた。

 

───3───

 

シュレーディンガーの猫と呼ばれる思考実験を知っているだろうか?世界的に知られる量子力学の未解決問題なのだが、名の割に内容はよく知られていない。

ノイマンやウィグナーの意見を皮肉って書かれた論文で、「二人の意見が本当なら、箱に猫と毒ガス発生装置、放射線検出装置を入れた時、箱を開けるまで猫の生死がわからないという結果になるが、それはおかしい」という事を書き記したものだ。

つまり、「二つの事象が同時に重なり合っているのはあり得ない。また、その結果が観測者によって変わる事もない」という事を示している。

 

さて、ここまで俺が長々と苦手な理系の話をしてきた訳だが、この実験で一つわかる事がある。

それは、「可能性などない。結果は常に一つ」という事だ。よって、この世界にIFはあり得ないし、それを考える事は無駄なのだ。

 

しかし、逆に考える事もできる。

猫と一緒に毒ガス発生装置を入れなければ、猫は死なない。

 

つまり、当たり前なのだが、世界とは個人の意思で動いている事になる。誰かの行動によって誰かの命運が決まる。あらかじめ決まった未来など存在しない。そして、そこに“可能性”などと言う甘い言葉も存在し得ない。

だから、行動には責任が生じる。過去の愚行をやり直す事はできず、悔やみ、苦しみ、不幸を嘆く。

 

だが、誰もがその“当たり前”を諦め、自分が手に入れられるもので満足しようとする。自分が傷つくのが怖くて、他人を傷つけるのが怖くて、距離をとって、その場所から手の届くものだけを掻き集める。

そんなものは偽物でしかない。受け身で手に入る幸せなど、俺はいらない。

 

ある本の人物、フィリップ・マーロウはこう言っていた。

 

「Take my tip—don't shoot it at people, unless you get to be a better shot. Remember?」

 

訳すと、「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」というものになる。

整備した銃を返し、それを撃てば次は自分が撃たれる立場になるぞと戒めているシーンだった。

確かにこれは深いセリフだ。元の意味はともかく、「撃つ」という、引き金を引くだけの行為にはそれだけの勇気と覚悟が要るのだし、撃たないならそれに越した事はない。まさに名言といえよう。

 

だが、誰かを守らねばならない時。その言葉は正しいと言えるのだろうか?自分が撃たれるという時に、人間は気高く生きていられるのか?

答えは否だ。俺はフィリップ・マーロウのようにタフでもなければ、ヘミングウェイの作品、「老人と海」の老人のように強くもない。

 

だから、俺は躊躇ってしまう。自分が銃を握る事によって、誰かの運命を変えてしまう事を。自分に撃たれる覚悟がない事を知っているから、臆病な俺は銃を握れない。人を殺せない。

それは普通の事なのだ。人を殺すことを正当化するのは、殺す行為を美化しているだけでしかない。正しい訳がない。

 

しかし、今現在。一体誰が正しいと言えるのか?

 

無人機を撃退しようとした織斑とデュノア?

 

怯えている相川?

 

相川を守ろうとした俺?

 

それとも、襲いかかってきた無人機?

 

答えは存在しない。誰もが自分の中では正しく、他人の中では間違っているのだ。

もしかしたら、この無人機はもの凄く正しい事をしようとしているのかもしれない。俺や織斑が世界の中の異分子で、殺さなければ世界が危機に陥るなどという壮大なストーリーが繰り広げられているのかもしれない。

 

だが、それが何だ?正しさなど所詮は主観だ。主観のぶつけ合いが平和で解決する訳がない。他人が納得するしかないのだ。

 

なら、正しさのベクトルを変えてしまえばいい。主観を変えろ。殺しを正せ。非常に成れ。己を守る為の殺しを容認しろ。

 

俺は何の為に何を殺す?そしてそれは正しい。俺は正しくあるのだ。いつも、いつまでも。

自分が自分でいる内は自分が正しさの基準であり、自分という世界の基準だ。

 

俺は何の為に生きている?今、この場で死ぬ事を容認してしまっていいのか?自分に美化したような事を言い聞かせ、逃げる事が本当に正しいと言えるのか?怖がって、怯えて、受け入れるだけの人間が嫌いなんじゃないのか?本当にそんな“偽物”が欲しいのか?

 

手を伸ばせ。運命を変えろ。欲しいものがあるのなら、傷付き続けろ。可能性など存在しない。俺の欲しかったものはそこには存在しない。

 

手を伸ばせ、伸ばせ、伸ばせ!!

 

「お‥‥‥おおおおおおお!!!!」

 

吹っ飛んだ意識が再び手の中に舞い戻る。さあ、その名を言え。その名を口にしろ。思いの丈をありったけ叫べ。

 

「【浮舟】ぇぇぇぇ!!!!」

 

この手よ、今だけは震えないでくれ。

 

この足よ、ちゃんと俺を支えてくれ。

 

この心よ、恐怖に打ち勝ってくれ。

 

「らああぁぁぁぁ!!!ああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

脇腹に刺さった刀をヘシ折る。全身を駆け巡る真っ赤な痛みに耐え、叫び、引き抜く。全身を真っ黒な装甲が包み込み、血がドクドクと流れ出す。自分が今生きている。まだ手遅れじゃないと感じられる。

 

そして、身体の奥底から自分が浸食されてゆく感覚。あの冷たい、絶対零度の“何か”。自分が別の誰かに乗っ取られたかのように、身体が軽くなる。

不気味なまでに痛みが引いてゆき、血が止まる。だが、前とは違い、今自分がここにいる事。それだけは分かる。これは自分の意思なのだと、実感を持って確信できる。

 

「システム、戦闘モードを起動。損傷確認。シールドエネルギーの33%を使用し、止血、自然治癒促進に使用します」

何の為にとか、誰の為にとか、理由はどうでもいい。ただ俺の為に、俺自身の正しさの為に、こいつを殺す。殺しているんだ。殺されもするのは相手も承知しているだろう。

 

だから、躊躇無くやれる。遠慮はいらない。さあ───

 

「───死ね」

「Code:assault rifle」

 

打鉄を蹴り飛ばし、相川を避難させる。そのまま彼女を足場にして、身体を捻り、飛び出し、左腕でその頭を掴む。地面に叩きつけ、【藤壺】を連射する。相川が小さく声を出すが、まあ仕方ない。やむ終えない処置だ。

紅い───蒼い光が地面と装甲を焼き、砂塵が巻き起こる。ハイパーセンサーによって強化された嗅覚が焼けた砂の匂いをキャッチする。

 

無人機はグニョグニョとあり得ない方向に身体を曲げながら、必死に一本減った日本刀を突き出す。それは空を斬り裂き、俺は完全に回避したと思い込む。

 

「な───ちいっ!」

 

突如、日本刀を周りに白い光がポツリポツリと現れ、俺に向かって飛来する。地面を蹴り飛ばし、【若紫】で後方に、体勢を崩してまで吹き飛びながら、苦し紛れに回避する。

 

「デュノア!」

「わかってるよ!」

 

追撃を加えようと動き出した無人機に、実弾の雨が降り注ぐ。流石は専用機持ちと言ったところだ。言わなくてもわかってやがる。

地面を強く踏み、膝をついて着地する。足がピリピリと痺れるが、すぐさま【藤壺】をデタラメに撃って牽制する。勿論これは簡単に避けられてしまう。

だが、これは予想済みだ。

 

「織斑!切れ!」

「ああ!【零落白夜】!」

 

瞬時加速で流星の如く飛び降りてきた白式の一太刀を受け、距離を離す。

これで三対一だ。二対一で優勢だったのかもしれんが、流石に三体を同時に相手するのは厳しいだろう。

無人機と距離を取ると、白いISが俺に近づいてくる。

 

「比企谷、大丈夫か?」

「腹をやられたが問題ない」

 

‥‥‥今は、だがな。

 

「比企谷くん。い、痛いよー!」

「相川、すまん。後できっちり謝るから。取り敢えず今は目立たないでくれ」

「う、うん」

「二人共!話している場合じゃ───ああもう!」

 

俺への攻撃を諦めたのか、急速に高度を上げる無人機。日本刀を突き出し、橙色の装甲に向けて白いレーザーを放つ。

 

「織斑、俺があいつの動きを止める。やれるか?」

「ああ、でもどうやって?」

「説明する時間が惜しい。その時までお前は相川に気を配っといてくれ。いいな?」

 

「分かった」と業務的な返事を受ける。顔を上げ、回避に専念するデュノアではなく、それを追いかけ回す無人機を注視する。

相手は何故か日本刀からレーザーを出すというとんでもない攻撃ができるが、あの動きを見るに、基本的には近接機だ。誰か一人がヘイトを取って、織斑が一撃必殺すりゃあいい。

 

「Code:sniper rifle」

「システム、精密射撃モードに変更。照準、表示します」

 

視界に緑色の十字が現れ、引き金に指を掛ける。チャージによりジェネレータが強く光を放つ。

すぐにチャージが完了し、その砲身を無人機に向ける。

 

待て。まだだ。もう少し待て。

 

手に冷や汗を掻き、じっとりと粘つく。焦るように指を遊ばせながらも、その照準を外さない。

 

そして、無人機がデュノアに斬りかかる。デュノアもブレードを高速切替で展開し、迎え撃つ。

 

───今だ!

 

「【六条】!」

 

初めて呼ぶその名。六条御息所の“自分以外を見て欲しくない”という呪いの意味を持つ、彼女の嫉妬を体現したかのような第三世代型武装。

 

使い時がない武装だと思った。使う事もないと思っていた。だが、今なら、この瞬間だけなら役に立てる。

 

その名を叫んだ刹那、一瞬にして全ての視線が俺に集まる。この世界の全ての人間に見つめられているような、後ずさりしたくなる感覚。

 

「trigger」

 

こちらを振り向いてしまった無人機の左肩を、蒼い閃光が貫く。標的が俺に変わったのか、白い鷹のような双眼が俺を射抜く。

 

【若紫】が大きく火を噴き、距離を取る。すでに無人機の視線は俺に夢中のようで、デュノアに目もくれずに一直線に突っ込んでくる。

 

「パイルドライバを起動しろ」

「【葵】、パイルドライバ射出完了」

 

多機能型脚部武装【葵】が起動し、地面に鉄杭が突き刺さる。両手を前に広げ、長い砲身を構える。

敵は日本刀を縦に構え、真上から振り下ろす。

 

「比企谷くん!屈んで!」

 

が、それはフェイントだったらしく、反応できないほどの速度で横一文字の一閃を放つ。相川の声に反射的に反応した俺は、すんででその一撃を避ける。

上半身をガバッと起こし、両腕も纏めて抱き締める。金属と金属が削り合い、不協和音が響き渡る。

 

「織───斑ァ!」

「おおおお!!!」

 

その瞬間だけを待ちわびていた白い騎士が、最高速度で突っ込んでくる。そのまま一文字。全てのエネルギーを消し去る最強の一撃を繰り出し、無人機の胴を真っ二つにする。

剣先が俺の機体を掠め、それだけで大きくシールドエネルギーが持っていかれる。絶対防御が発動し、【浮舟】のシールドエネルギーも空になる。

 

「‥‥‥終わったな」

「ああ、無茶苦茶な野郎だったな‥‥‥」

 

【浮舟】が自動で解除される。

乱入してくるなんてとんでもないやつだ。全く死ぬかと思った。

 

「二人共大丈夫?特に比企谷くん!お腹は大丈夫なの?」

 

視界の端にヘナヘナと倒れこんだ相川を発見する。なぜあの時、あれがフェイントだと分かったのか?

まあ、そんな事は後で考えるとしよう。

 

「‥‥腰抜かしてるやつがいるから頼むわ。俺は保健室行ってくる」

 

それよりもなんか段々痛くなってきたんだけど。保健室行かないとヤバイわ。

 

「おう、肩貸すぜ」

「悪いな」

 

織斑の肩を借り、ISを展開したまま保健室へ向かった。

 

今回も助かった。本当に誰も死ななくて良かった。

 

ふと、未だに日の沈んでいない夏の空を見上げる。

透き通った、果てのない明るい空に見えた。

 




皆様お忘れなのかと思いますが、間話を書こうと思っています。

今のところルミルミと由比ヶ浜&雪ノ下が同票です。次点でいろはすと陽乃さん。最後に簪、モブ×モブ、一夏といったところです。

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